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第五章 王都でもこいつらは・・・

第115話 最後は、いともあっさりと

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 『ソッチ会』の総長さんが、物わかりの良い人であっという間に片付いちゃった。
 なんで、おいら達は続けて三大ギルドの最後『コッチ会』にハシゴしたんだ。

 『コッチ会』の扉を潜った先のホールの奥、カウンターに行ったんだけど…。
 そこには、カウンターの上に足を突き出して、寝そべるように椅子に座っているニイチャンが一人。
 『ソッチ会』のカウンターにいたニイチャンもやる気なさそうだったけど、輪をかけて態度悪いな。

「ねえ、あんた、今すぐこのギルドの一番偉い奴に会いたいんだけど。
 ちょっと、取り次いでくれる。」

 ニイチャンの酷い態度を然して気にする様子も無く、アルトは声を掛けたんだ。

「うん? 何だって?
 羽虫風情が、うちの会長に遭いてえって?
 何を寝ぼけたこと言ってんだ。
 うちの会長が約束も無しに会う訳ねえだろうが。
 しかも、相手が訳の分かんねえ羽虫ときてる。
 ダメ、ダメ、帰えった、帰えった。」

 気怠そうに言ったニイチャンは、全くアルトに取り合わなかったんだ。
 これは、また、おいらの番かなと思い、カウンターを小突こうかとした時。
 カウンターの奥にいたオッチャンが走って来たかと思うと。

「この大馬鹿野郎!
 おめえ、この『コッチ会』を潰すつもりか!」

 そんな怒声と共に、カウンターにいたニイチャンを思い切り殴り飛ばしたんだ。
 オッチャン、凄い力持ちみたいで、ニイチャンは文字通り殴り飛ばされて転がってたよ。 

「うちの若けえモンが大変失礼しやした。
 てめえはこのギルドで舎弟頭を務めているメーキキと申しやす。
 失礼ですが、そちらさんは。」

 メーキキと名乗るオッチャンは丁重に頭を下げ、おいら達が何者かを尋ねてきたんだ。

「私は辺境にある妖精の森の長、アルトローゼンよ。
 今日は、『スイーツ団』の件でここの会長に話があるんだけど。」

「そうでございやしたか。
 では、すぐに取り次いで参りやすので、少々お待ちくだせえ。
 ここは、荒くれモンばかりですんで。
 わっしが取り次ぎに行って間にチャチャを入れる跳ねっ返りがいるかも知れやせん。
 仕置きしてもかまいやせんが、命だけは勘弁してやってくだせえ。」

 メーキキはそう言い残すと足早に去っていったんだ。
 あのオッチャン、おいら達が『アッチ会』を潰したって知ってるのかな。
 凄い、丁重な対応だったけど。

     *******

 で、跳ねっ返りがちょっかい出してくる間もなくメーキキは戻って来たんだ。
 メーキキの案内で、会長室へ行くとそこに待っていたのは初老のジイチャンが一人。
 『アッチ会』みたいに不意打ちを狙っている訳でもなく、『ソッチ会』みたいに幹部が居並ぶ訳でもなかったよ。

 おいら達は、テーブルの席を勧められたんだ。
 カチコミに来て、こんな丁重に対応されるとは思わなかった。

「儂は、このギルドの会長をしているヨージンって者だ、以後お見知りおきを。
 しかし、うちのメーキキが泡くってやってきて、やべえのが来たと言うもんだから。
 どんな猛者かと思えば、可愛い妖精さんとお嬢ちゃんじゃねえか。
 なんか、ひねた坊主も一緒にいるようだが、生意気にいい女をくっつけて…。
 って、おめえ、『アッチ会』で美人局の稼ぎ頭だったろう。
 なんで、そんな坊主とつるんでるんだ。」

 『コッチ会』の会長ヨージンは穏やかな表情でそんな事を言ってたよ。
 明確な敵対意思は感じられなかった。
 でも、シフォン姉ちゃんって、敵対ギルドに顔が知られるくらい有名人だったんだね。
 『アッチ会』の美人局の中で稼ぎ頭だとか言われてるし。

「あら、可愛いなんて言ってもらえて、お世辞でも嬉しいわ。
 そっちのシフォンは、からうちのタロウの女になったから。
 手出ししたら赦さないわよ。」

 タルトが笑いながらが言うと。

「このギルド一の腕利、メーキキがヤバい奴だと泡くってるような連中の女に手なんか出さねえよ。
 それで、今日はどんなようで来なすった。
 正直なところ、こんなはぐれもんの集まる場所に用がある人達には見えねえんだが。
 って、ちょっと待った、その娘、昨日からその坊主の女になったって。
 まさか、あんたら…。」

 おいら達のようなカタギの女子供が訪ねてきたことに、怪訝な顔を顔をしつつ用件を尋ねて来たんだけど。
 『アッチ会』のメンバーだと思われていたシフォン姉ちゃんが『昨日』からタロウの彼女になったと聞いてピンときたみたい。

「そう、そのまさかよ。
 『アッチ会』を締めたのは私達、今日は『スイーツ団』の処理についてお願いに来たの。」

 アルトはそう告げると、これが証拠だと言わんばかり、『積載庫』から床に放り出したんだ。
 『アッチ会』の総長と『スイーツ団』のゴーヨクを。

「うっ…。」

 唐突に現れた二人を見て息をのんだヨージン。
 二人共に未だにピクピク痙攣したままだったし、衝撃的だったと思うよ。

「おい、メーキキ、この方達をどう思う。」

 ヨージンに問われたメーキキは。

「ハッキリ言って。てめえが勝てると言えるのはその坊主だけでさあ。
 そっちの嬢ちゃんには、どうあがいても勝てねえし。
 妖精の姉さんに至っては、底知れねえ恐怖を感じやす。
 この方達は、絶対に敵に回したらいけねえ相手でさあ。」

 そう言われたヨージンは、その場で両手を上げて…。

「分かりました、どのような用件かはこれから伺いますが。
 全て、そちらさんの要求を飲むことにします。」

 用件を聞く前から、完全降伏したんだ。
 そんな、ヨージンを見て、笑顔を見せたアルトは。

「あら、良いの?
 どんな無茶なことを言われるか分からないのにそんな安請け合いしちゃって。」

「だって、こうして完全服従しておけば、儂らを皆殺しにするとまでは言わないでしょう。
 ですが、下手に逆らえば、皆殺しになりそうですからね。
 儂はね、自慢じゃねえが、他人様に後ろ指差される人生を送って来て。
 随分と恨みもかっているんでさあ。
 命を狙われるのなんてしょっちゅうだ。
 だから、外を歩く時はいつでも、このメーキキを連れてるんでさあ。
 こいつは腕が立つだけでなく、アブねえこと察知するのに長けてましてね。
 それで、何度、命を救われたか。
 そのメーキキが、絶対に逆らっちゃいけねえって言うんですから。
 そんな、アブないもんに逆らいはしやせんぜ。」

 このメーキキてニイチャン、剣の腕が立つこともさることながら。
 周囲にいる人の敵意や殺意を敏感に感じ取るんだって。
 人ごみに混じってヨージンに殺意を持つ一団が待ち構えていたの感じ取ったこともあるって。
 こちらも人混みを利用して、上手く囲まれないような位置に動いて、メーキキが返り討ちにしたって言ってた。
 もちろん、さっきのメーキキの言葉じゃないけど相手の技量を推し量るのにも長けてるみたいだよ。
 ヨージンはメーキキの言葉には絶対的な信頼を置いてるみたい。

    *******

 ヨージンがそんな風に下手に出たんで、話は簡単に済んだよ。
 アルトが、『砂糖』とかのこれからの扱いと監禁されているお姉ちゃん達の処遇に関する要求を伝えると。
 自分で言った言葉通り、異議を唱えることなくアルトの要求を丸呑みしたんだ。
 
 そして、『ソッチ会』と交わした証文と一字一句変わらない証文を交わしたヨージンは。

「いやあ、正直、この程度の要求でホッとしましたわ。
 廃人みてえになっちまった『アッチ会』の総長を見せられたもんだから。
 儂の首を差し出せとかもっと、えげつない要求されるかと冷や冷やしやしたぜ。」

 なんて言って、本当にホッとした顔をしてた。
 廃人同様の『アッチ会』の総長を見せられた時、明日の我が身かと心配したって言ってたよ。 

 そんな訳で、アルトの思惑通り、『アッチ会』を見せしめにする事で、他二つのギルドには要求を飲ませたんだ。

「何か、呆気なかったわね。
 『アッチ会』がおバカで一番面白かったわ。
 まあ良いわ、冒険者ギルド三つとも潰しちゃうと収拾がつかなくなるものね。」

 アルトは少し物足りなさそうに、そんなこと呟いてた。
 
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