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第五章 王都でもこいつらは・・・

第107話 タロウが男を見せたよ

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 おいらの背後に身を隠していたアルトが前へ出て。

「さっきから聞いていれば、好き勝手なこと言ってくれるわね。
 うちのタロウの女を風呂屋に沈める?
 良い度胸しているじゃない、やれるものならやってみなさい。」

 …ウツケーのおっちゃんを挑発してんの。

「なんだ、この羽虫は? 
 虫けらの癖に生意気な口を利きやがって。
 握りつぶしてやろうか。」

 本当に握ろ潰すつもりか、手のひらをアルトに向かって動かしたウツケー。
 アルトはそれをヒョイと躱すと。

「タロウ、男を見せる時よ!
 自分の女だったら、その手で守ってみなさい!」

 タロウを叱咤したんだ。
 何時もなら、問答無用でビリビリをくらわすところなんだけど。
 それをやるとウツケーを壊しちゃうかも知れないしね。
 『羽虫』呼ばわりされて、加減が利かないくらい怒ってるだろうから。

 それに、シフォン姉ちゃんに良いところを見せるチャンスをタロウにあげる事も出来るし。

「はい、はい、そう言われるだろうと思ってましたよ。
 そうそう、上手い話がある訳ねぇよな…。
 まったく、ヤーさんは苦手だと言ってるのに。」

 タロウは胸の谷間に抱きしめられた腕を、シフォン姉ちゃんに解放してもらうと。
 そんな愚痴を零しながら、ウツケーの前に出て来たの。

「なんだ、このひ弱そうなガキは?
 おめえが、シフォンの男だって?
 笑わせてくれるわ。
 大方、あのアバズレ、苦し紛れにおめえに泣きついたんだろう。
 女になるから助けてくれって、その場凌ぎに調子の良いこと言って。
 まあ良いわ、あのアバズレに俺達に逆らったらどうなるか見せてやる。
 見せしめにするには良いカモだ。
 おいガキ、運が悪かったと思って大人しく死んどけや!」

 ウツケーは恫喝するように声を上げると、剣を抜いてる気満々でタロウに斬りかかったよ。

「全く、なんで、こっちの奴らはすぐに殺しにくるかな。
 人殺しはダメだって、親から習わなかったかよ。」

 この期に及んでもまだ愚痴を零しているタロウ。
 修羅場慣れしてきたのか、情けない言葉とは裏腹に余裕でウツケーの剣を躱したよ。

 そして、ウツケーが振り下ろした剣を引き戻すタイミングで。

「ちょっと、痛いだろうけど、我慢してくれ。
 俺も、死にたくないんでな。」

 と言うと、スパッと剣を持つ利き腕の手首を斬り落としたんだ。
 その瞬間、ドバッと血飛沫が上がって…。

「ウギャアアアアア!」

 絶叫を上げて剣を取り落としたウツケーは、手首から先が無くなった右腕を抱えてその場に蹲ったよ。

「うええ、やっぱり、血がいっぱい出た。
 二度と剣を持てないようにと思ったけど、手首チョンパはやり過ぎか。
 でも、俺、トレントのように腱を狙った攻撃なんて器用な事は出来ねえもんな。」

 目の前にできた血溜りに、やった張本人のタロウが引いてたよ。

「ウツケーのアニキがやられちまった。
 おい、野郎ども、ウツケーのアニキの敵討ちだ!
 あのガキをっちまえ!」

 今度は、残り九人が束になって掛かって来たけど…。
 『STD四十八』みたいに連携をとるでもなく、てんでバラバラに斬り付けてくるだけ。
 ホントの雑魚みたいで、タロウは余裕で捌いてた。
 振り下ろされる剣を躱すと…。

「手首はやり過ぎだから、じゃあ、ここか…。」

 なんて、呟きながら剣を素早く剣を振ったんだ。
 狙ったのは、剣を握る手の親指。

「ウギャアアアアア!」

 またしても絶叫が響いて、冒険者ギルトのゴロツキが蹲ったよ。
 今度はさっきほどの血は出ててないね。

「たしか、親指が無いと剣が握れないって…。
 マンガかなんかで読んだ覚えがあるから、これで良いか。
 『キ〇ガイに刃物』って言うもんな。
 こんな連中に剣なんか持たしちゃダメだぜ。」

 ゴロツキ九人の利き腕の親指を全てきり落とし終わって、タロウがそう呟いていたよ。

「タロウ、よくやったわ。
 ゴロツキから剣を取り上げるのは良い考えよ。
 それに、これなら意識もはっきりしているし。 
 幾らでも口を割らすことが出来るものね。」

 アルトはタロウを褒めると、ダラダラと血を流すゴロツキの傷口に『妖精の泉』の水をかけていったんだ。
 すると、あら不思議、傷口の肉が盛り上がって血が止まり、すっかり傷口が塞がったよ。
 『妖精の泉』の水って、病気だけではなく、ケガも治せるんだね。

 でも、アルトって残酷。
 おいら、聞いたことあるよ、キレイに斬り落とした指はすぐに押し付ければくっつくって。
 少し動きがぎこちなくなるようだけど、ちゃんと動かせるようにもなるって。
 あんな風に傷口を塞いじゃったら、もう一生、手首から先や親指が無いままじゃない。

「ふふふ、大して強くもないくせに。
 強面で恫喝して、剣を振り回して、カタギの人から金を巻き上げたんだものね。
 剣を握ることが出来なくなったら、カタギの人からどんな報復を受けるか思い知れば良いわ。」

 蹲っている冒険者ギルトのゴロツキ十人を冷ややかな目で見て、アルトはそんな事を言ってたよ。

「タロウ君、護ってくれてアリガトー!
 お姉ちゃん、タロウ君がカッコいいからときちゃった。
 もう、夜が待ち切れないくらいよ。
 今晩は寝かさないから、覚悟しておいてね。」

 シフォン姉ちゃんがタロウに駆け寄ると、その胸の谷間にタロウの頭を抱え込んでそう言ったんだ。
 胸が『キュン』と来るでなくて、『ジュン』とくるの? おいらの利き間違いかな…。

「おや、おや、お熱いね。
 今夜は寝かさない宣言なんて、若い子は良いね。
 元気で羨ましいよ。」

「そうよね、自分の男が身を挺して悪漢から護ってくれたんだもん。
 ジュンときちゃうわよね、その気持ちわかるわ。
 そのお兄ちゃんも、ひ弱そうな見た目に反してえらい強かったし。
 夜の方もさぞかし強いんだろうね。
 兄ちゃん、そっちも頑張るんだよ、男を見せるんだよ。」

 それまで、黙って成り行きを見守っていたお客さんの中からそんな声が上がってた。

    ********

「しっかし、見下げたクズ共だね。
 素人娘に美人局を持ち掛けた上に、風呂屋で働かそうなんて。」

 さっそく、おばさんが一人、ゴロツキを蹴とばしてたよ。

「それより、聞いてました?
 『スイーツ団』なんていきなり現れて変だと思ってたら。
 何の事はない、冒険者ギルドの隠れ蓑だったみたいよ。
 ギルドの連中が結託して甘味料の値を吊り上げてたんですって。」

「ええ、聞きましたよ。
 ホント、ギルドの連中って、ロクでもない事ばっかり考えて嫌ですわ。
 それに、こいつ、若い女の子を監禁しているみたいな事も言ってましたよ。」

 そう言って、今度は別のおばちゃんがウツケーを蹴とばしてた。

「ちょっと、みんな、待ってくれる。
 私達、こいつらを連れてこれから『アッチ会』の事務所にカチコミするの。
 こいつらに色々と口を割らせたいから、今はこいつらに乱暴するのはやめといて。
 ご覧の通り、こいつらもう剣は握れないから仕返しならいつでもできるわ。」

 ゴロツキ連中が袋叩きにされそうな雰囲気になっちゃったんで、アルトは慌てて止めたよ。
 それから、アルトはサッサとゴロツキ十人を『積載庫』の中に放り込んだの。
 前みたいに、晒し者にしておくと殴る蹴るされそうだから。

 そして、何事も無かったように露店の営業を続け、お客さんが掃けたところで。

「じゃあ、今日の営業はここまでにして、ギルドにカチコミに行きましょうか。」

 声を高からかに上げたアルトはとっても楽しそうな顔をしてたよ。

 そして、やって広域指定冒険者ギルド『アッチ会』の本部前。
 『アッチ会』の本部は、王都の繁華街の東の隅にある石造四階建の一際立派な建物だったよ。
 正面の重厚な扉には、周囲を威圧するように竜の彫刻が施されてるの。
 更に扉の上には、光沢のある黒地に金色で竜の紋章が描かれてたひし形のエンブレムがデーンと掲げられてた。

「げっ、こっちの世界でもスジもんの本部は菱型の紋章だってか。
 何処に行っても、スジもんの考えることは変わらないのか。」

 また、タロウが変なことに感心してたよ。
 その『アッチ会』の本部前では、ちょっとした騒ぎが起こっていて。
 なんだか、取り込み中みたい。

     ********

「おい、お前たち、貴族の儂をたばかってタダで済むと思っていうのか。
 冒険者ギルドが大きな顔をしていられるのも、儂ら貴族がお目こぼしをしているからだと分かっているのだろうな。
 前金で渡した銀貨千五百枚、そっちの不始末だから約束通り倍返しで銀貨三千枚返してもらおうか。」

 自分を貴族だという身形の良い中年のおじさんが、冒険者ギルドの構成員らしきオッチャンに噛み付いていた。
 何か、金銭トラブルみたい。

「いえ、もう少しお待ちください。
 少々、身支度に手間取っているだけでございまして。
 何分、初見世ですので、念入りに磨き上げているものですから。
 飛び切りの状態でご案内させて頂きますので、貴賓室の方でお待ちください。」

 冒険者ギルドの強面のオッチャンが、いつもとは打って変わって低姿勢で貴族のおじさんを宥めてた。

「ふざけるな!
 さっきから、もう少々、もう少々と、どれだけ待たせれば気が済むのだ。
 約束の時間は昼過ぎだったのだぞ、もう日が暮れるではないか。
 儂だって暇では無いのだ、サッサと前金を倍返しで返してもらおうじゃないか。」

 でも、貴族のおじさんは怒りが収まらないようで、お金を返せと噛み付いている。
 いったい、何の騒ぎだろう? 冒険者ギルドが貴族とトラブルを起こすなんて…。

 おいらが不思議に思っている横で。

「ははぁん、あの貴族が大金注ぎ込んだスケベじじいね。
 これは、良い時に来たわ。」

 アルトはそう呟きながら、楽しそうに揉めている人達の方へ飛んで行ったんだ。

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