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第五章 王都でもこいつらは・・・
第105話 まさか、再登場するとは…
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シュガートレントの実『シュガーポット』を最初に買い取ってあげた三人組。
あの兄ちゃん達が広めてくれたのか、その日から買い取りを依頼して来る冒険者が増えたよ。
そのおかげで、売り物の補充のためにトレントを狩りに行く必要が無くなって助かってるの。
ただ、何時までも家を留守にする訳にもいかないし。
ここで露店を続けていたら、普通に商売をしているお店の迷惑にもなっちゃう。
そう思って、以前話したことがある食料品のお店に行ってみたんだ。
「『スイーツ団』も大人しくしているようだし、冒険者からの買い取りを元の値段に戻しても大丈夫じゃないの。
おいら達が何時までも露店を広げていると、砂糖なんかが全然売れなくて迷惑でしょう。
前みたいに、一つ銅貨五十枚で買い取って、銀貨一枚で売っても平気じゃないかな。」
おいらが、ご主人にそう持ち掛けると。
「いえいえ。
あいつらがなりを潜めているのは、あんたらには敵わないと分かっているからです。
あいつら、蛇のようにしぶといですから、あんたらが王都を去るのを待ってるんですよ。
今、あいつらに、逆らって御覧なせえ、あんたらが帰った途端倍返しで報復を受けますよ。
私のところは、ご覧の通り甘味料が無くても、他の品で商売が成り立っているので。
どうか、『スイーツ団』が干上がるまで、あそこで露店を続けえてくんなせえ。」
そんな風に言われちゃった。このご主人は、まだ『スイーツ団』の報復を恐れているみたい。
他にも何件か、食べ物を扱っている店に聞いたのだけど、何処も似たようなモノだったよ。
「私達にとっては、『スイーツ団』の連中なんて唯の雑魚だけど。
やっぱり、カタギの人達にはまだまだ恐怖の対象なのね。
タロウのパンチ恐怖症と同じで、中々克服できないわね。」
アルトがそんな事を零すと。
「アルト姉さん、無茶言わないでくださいよ。
どんなに雑魚だといっても、相手は剣を持ってるんですぜ。
普通の人は剣なんか持ち歩いていないんだから怖いに決まってるじゃないですか。
あいつら、ところかまわず剣を抜いて振り回すんですから。
マロンみたいに、剣を振りまわす連中に丸腰で向かっていく方が異常ですって。」
失礼な、おいらを異常だなんて…。
おいらだって、剣を振り回す連中に素手で向かっていきたいとは思わなないよ。
仕方ないじゃん、迂闊に武器を持ったら殺しちゃうんだもの。
父ちゃんから言われてるんだよ、何があっても人殺しだけはしちゃダメって。
まあ、でもタロウの言う通りだね。
どんなにショボい腕でも、躊躇なく剣を振り回せる神経の持ち主はそれだけで脅威だよ。
********
そんな訳で、おいら達、まだ王都で露店を広げているんだ。
もう、露店を始めて二十日になるよ…トホホ。
「あっ、やっと見つけた! こんなところで店を広げてたんだ!」
何処かで聞き覚えのある声がしたので、顔を上げると。
金髪で胸の大きなお姉ちゃんがおいら達を指差していた。
あれは、タロウを男にしたというお姉ちゃんだね。
タロウになんか変な病気をうつしたって言ってたっけ。
お姉ちゃんはおいら達を指さしたと思うと、小走りに走って来てタロウの腕に抱き付いたよ。
「ねえ、カモ君、ちょっと助けてよ。
カモ君くらいしか頼りになる人が思い当たらないの。」
大きな胸の谷間にタロウの腕を挟み込むようにしながら、お姉ちゃんはそう懇願したの。
あざといよ、スケベなタロウが断れないような仕種でモノを頼むなんて。
「ちょ、いったい何なんだ、急に。」
突然現れて抱き付いてきたお姉ちゃんに、戸惑うタロウ。
「今朝、いきなり、冒険者ギルドの連中が家にやって来て。
ギルドが経営する風呂屋で客を取れって凄むのよ。
相棒があんた達にやられちゃって、美人局の上りが無くちゃったでしょう。
ノルマが達成できないんだったら、風呂屋で働けって。
アタシ、別にギルドの構成員になったつもりは無いし。
そんなノルマなんて聞いたこと無かったのよ。」
このお姉ちゃん、『スイーツ団』のゴロツキと組んで美人局をしてたんだ。
迂闊なタロウが、このお姉ちゃんにまんまと引っ掛かって、有り金巻き上げられたんだけど。
別件で相棒のゴロツキが因縁をつけて来たから、おいら達は返り討ちにしたんだ。
アルトは、その兄ちゃんがタロウから金をせしめた美人局の片割れだと知ると。
ついでに、タロウを使ってこのお姉ちゃんにもお仕置きをしたんだよ。
で、このお姉ちゃんだけど、美人局はほんの小遣い稼ぎの気分でやっていて。
自分自身は、冒険者ギルドに入った気は無かったみたい。
相棒のゴロツキから仕事だと言われて、街に繰り出してカモに声を掛けていたんだって。
「おバカさんね。
冒険者ギルドから回された相棒と組んだ時点で、収入源に組み込まれたのよ。
あんたには知らされてなかっただけで、相棒のゴロツキはノルマに縛られてたはずよ。
だから、あんな連中と関わりになっちゃダメなの。
あんた、あいつらに骨の髄まで吸い尽くされるわよ。
まあ、一時良い目も見たようだし、自業自得だと諦めなさい。」
そんなお姉ちゃんをアルトは冷たく突き放したんだ。だけど…。
「イヤよ、アタシは絶対にウリはやらないって決めてるの。
お願いだから、助けてよ。」
「嘘おっしゃい! どの口がそんな大嘘を叩くの!
あんた、うちのタロウに厄介な病気をうつしておいて、なにしらばっくれてるの。
あんな病気、素人娘がそうそう持っている訳ないじゃない。」
いつもは淡々とした口調で話すアルトが珍しく大きな声で叫んだよ。
どうやら、お姉ちゃんのセリフがツッコミどころ満載だったみたい。
「ええ? アタシ、なんか病気持ってた? 全然気付かなかった。
でも、アタシ、今までウリなんかしたこと無いよ。
美人局をしてない時は、適当に繁華街をフラついているの。
それで、イケメンのおじさまがいたら、声を掛けて楽しくお話して…。
ごはんをご馳走になったり、お酒をご馳走になっていただけだもん。
それは、イケメンだから、気分が乗ったらいたすこともあったし。
お小遣いも貰ったことはあるけど…。」
そんなセリフを聞いて、お姉ちゃんに抱き付かれたままのタロウが…。
「この世界に来た初日に、にっぽん爺が言ってたけど…。
ホントにこの世界にも『パパ活』娘がいたんだ。
しかも、『ただし、イケメンに限る』ってのは、何処の世界でも共通だってか!」
感心したようなことを呟いて、何故か最後には憤慨していたよ。
そんなお姉ちゃんの言い分を聞いていたアルトは、呆気にとられてた表情で…。
「呆れた…。
それじゃ、やってることは何も変わらないじゃない。
同情の余地なしだわ、風呂屋でも何処へでも行きなさい。
平気よ、することは普段している事と変わらないから。」
処置無しと言った感じで、再度冷たく突き放したんだ。
********
「ええええぇ! そんな冷たいこと言わないでよ!
全然同じじゃないよ!
脂ぎったおっさんやガラの悪い冒険者の相手をするなんて死んでもイヤよ。
イケメン以外は相手したくないのよ!
ねえ、カモ君はそんな冷たいこと言わないよね。
お姉さん、助けてくれたら、なんでも言うことを聞いてあげる。
カモ君みたいなフツメンは好みじゃないけど…。
助けてくれたら、カモ君の彼女になっても良いわよ。
この間のような事、毎晩してあげるから助けてよ!」
なんか、とんでもなく酷いこと言ってるよ、このお姉ちゃん。
助けてくれって言ってるのに、何気にタロウをディスってる。
でも、タロウ、お姉ちゃんのセリフを聞いて、鼻の下を伸ばしただらしない顔になったんだ。
どうやら、タロウは『彼女になっても良い』というお姉ちゃんの言葉を真に受けたみたい。
タロウは金髪で胸の大きい、少し年上のお姉さんが好みのようだからね。
「まあ、まあ、アルト姉さん。
この人もこんなに頼んでいるんですから。
力になって上げても良いんじゃないですか。」
鼻の下を伸ばしたまま、お姉ちゃんの力になりたいって、アルトに言ったよ。
「あんたね…。
自分のことを『カモ』だなんて見下した呼び方する女を助けようだなんて…。
よくそんなことが思えるわね。
あの晩は、そんなに良かったのかしら。
あんた、そんなに脇の甘い行動をしてたら、いつか痛い目に遭うわよ。」
アルトの助言はもっともだね。
タロウってこれまでも迂闊な行動で酷い目に遭ってるんだけど、全然凝りてないんだもん。
「えっ、カモ君? だって、アタシ、カモ君の名前知らなかったもん。
カモ君の名前、タロウって言うの? 珍しい名前ね。
そういえば、アタシも名乗ってなかったわね。
アタシはシフォン、よろしくね。」
シフォン姉ちゃんは、タロウの腕をその胸の谷間に挟んだまま、媚びた笑顔で名乗ったの。
あっ、ダメだ、タロウってば完全に手玉にとられてる…。
「まあ、良いわ。
シフォンがどうしてもって言うのであれば助けてあげても良いわ。
ただし、私の条件を飲んでくれるのならね。
あんたの相棒を見たでしょう。
妖精の私に対する誓いを破ったら、あんな目に遭わせるからね。」
アルトがニヤニヤとイタズラな笑みを湛えて言ったんだ。
また、ロクでもない条件を出すつもりみたい。
「ええ、どんな条件でも飲むから助けて、お願いよ!」
でも、藁にも縋る気持ちなんだろう、シフォン姉ちゃんはあっさりと受け入れたんだ。
シフォン姉ちゃん、気付いていないんだね。
アルトと約束するって言うのは、悪魔と取引するのに等しいことなのに…。
もし、アルトが冒険者ギルドの風呂屋で働けと言ったら、どうする気なんだろう。
「じゃあ、シフォンには私達と一緒に辺境の町に来てもらうわ。
タロウ、男やもめの一人暮らしで色々と不自由しているのよ。
シフォンにはタロウと一緒に住んで、世話をしてもらうわね。
安心しなさい、タロウって頼りなさそうだけど意外と稼いでるのよ。」
アルトったら、シフォン姉ちゃんにタロウの世話を押し付けてんの。
シフォン姉ちゃん、タロウのことあんまり好みじゃないて言ってたし。
なんか、チャラチャラしてて田舎暮らしは向いてなさそうだし。
相当嫌がるんじゃないかな。そう思っていたら…。
「なんだ、もっと、酷いこと言われると思ったけど。
そんな事で良いんだ、ホッとした。
冒険者ギルドの連中に目を付けられたらヤバいもん。
今回の事がやり過ごせても、王都にはいられないと思ってたの。
住むところがあるなら助かるよ。
それに、タロウ君が養ってくれるんでしょう。
今の生活もそろそろ潮時かと思っていたから、ラッキーだよ!」
意外とノリノリだった。
「もう少し渋ると思ったけど、拍子抜けだわ…。
じゃあ、取り敢えず、これ飲んでおきなさい。
万病に効く薬よ。
タロウにまたうつされたら堪らないからね。」
アルトは、イタズラが思い通りにならなくて、残念だったみたい。
つまらなそうな表情で、万病に効く『妖精の泉』の水を手渡していたよ。
でも、アルト、すぐに気を取り直して。
「じゃあ、シフォンを餌に冒険者ギルドのおバカさんを釣り出しましょうか。」
って、張り切っていたんだ。
あの兄ちゃん達が広めてくれたのか、その日から買い取りを依頼して来る冒険者が増えたよ。
そのおかげで、売り物の補充のためにトレントを狩りに行く必要が無くなって助かってるの。
ただ、何時までも家を留守にする訳にもいかないし。
ここで露店を続けていたら、普通に商売をしているお店の迷惑にもなっちゃう。
そう思って、以前話したことがある食料品のお店に行ってみたんだ。
「『スイーツ団』も大人しくしているようだし、冒険者からの買い取りを元の値段に戻しても大丈夫じゃないの。
おいら達が何時までも露店を広げていると、砂糖なんかが全然売れなくて迷惑でしょう。
前みたいに、一つ銅貨五十枚で買い取って、銀貨一枚で売っても平気じゃないかな。」
おいらが、ご主人にそう持ち掛けると。
「いえいえ。
あいつらがなりを潜めているのは、あんたらには敵わないと分かっているからです。
あいつら、蛇のようにしぶといですから、あんたらが王都を去るのを待ってるんですよ。
今、あいつらに、逆らって御覧なせえ、あんたらが帰った途端倍返しで報復を受けますよ。
私のところは、ご覧の通り甘味料が無くても、他の品で商売が成り立っているので。
どうか、『スイーツ団』が干上がるまで、あそこで露店を続けえてくんなせえ。」
そんな風に言われちゃった。このご主人は、まだ『スイーツ団』の報復を恐れているみたい。
他にも何件か、食べ物を扱っている店に聞いたのだけど、何処も似たようなモノだったよ。
「私達にとっては、『スイーツ団』の連中なんて唯の雑魚だけど。
やっぱり、カタギの人達にはまだまだ恐怖の対象なのね。
タロウのパンチ恐怖症と同じで、中々克服できないわね。」
アルトがそんな事を零すと。
「アルト姉さん、無茶言わないでくださいよ。
どんなに雑魚だといっても、相手は剣を持ってるんですぜ。
普通の人は剣なんか持ち歩いていないんだから怖いに決まってるじゃないですか。
あいつら、ところかまわず剣を抜いて振り回すんですから。
マロンみたいに、剣を振りまわす連中に丸腰で向かっていく方が異常ですって。」
失礼な、おいらを異常だなんて…。
おいらだって、剣を振り回す連中に素手で向かっていきたいとは思わなないよ。
仕方ないじゃん、迂闊に武器を持ったら殺しちゃうんだもの。
父ちゃんから言われてるんだよ、何があっても人殺しだけはしちゃダメって。
まあ、でもタロウの言う通りだね。
どんなにショボい腕でも、躊躇なく剣を振り回せる神経の持ち主はそれだけで脅威だよ。
********
そんな訳で、おいら達、まだ王都で露店を広げているんだ。
もう、露店を始めて二十日になるよ…トホホ。
「あっ、やっと見つけた! こんなところで店を広げてたんだ!」
何処かで聞き覚えのある声がしたので、顔を上げると。
金髪で胸の大きなお姉ちゃんがおいら達を指差していた。
あれは、タロウを男にしたというお姉ちゃんだね。
タロウになんか変な病気をうつしたって言ってたっけ。
お姉ちゃんはおいら達を指さしたと思うと、小走りに走って来てタロウの腕に抱き付いたよ。
「ねえ、カモ君、ちょっと助けてよ。
カモ君くらいしか頼りになる人が思い当たらないの。」
大きな胸の谷間にタロウの腕を挟み込むようにしながら、お姉ちゃんはそう懇願したの。
あざといよ、スケベなタロウが断れないような仕種でモノを頼むなんて。
「ちょ、いったい何なんだ、急に。」
突然現れて抱き付いてきたお姉ちゃんに、戸惑うタロウ。
「今朝、いきなり、冒険者ギルドの連中が家にやって来て。
ギルドが経営する風呂屋で客を取れって凄むのよ。
相棒があんた達にやられちゃって、美人局の上りが無くちゃったでしょう。
ノルマが達成できないんだったら、風呂屋で働けって。
アタシ、別にギルドの構成員になったつもりは無いし。
そんなノルマなんて聞いたこと無かったのよ。」
このお姉ちゃん、『スイーツ団』のゴロツキと組んで美人局をしてたんだ。
迂闊なタロウが、このお姉ちゃんにまんまと引っ掛かって、有り金巻き上げられたんだけど。
別件で相棒のゴロツキが因縁をつけて来たから、おいら達は返り討ちにしたんだ。
アルトは、その兄ちゃんがタロウから金をせしめた美人局の片割れだと知ると。
ついでに、タロウを使ってこのお姉ちゃんにもお仕置きをしたんだよ。
で、このお姉ちゃんだけど、美人局はほんの小遣い稼ぎの気分でやっていて。
自分自身は、冒険者ギルドに入った気は無かったみたい。
相棒のゴロツキから仕事だと言われて、街に繰り出してカモに声を掛けていたんだって。
「おバカさんね。
冒険者ギルドから回された相棒と組んだ時点で、収入源に組み込まれたのよ。
あんたには知らされてなかっただけで、相棒のゴロツキはノルマに縛られてたはずよ。
だから、あんな連中と関わりになっちゃダメなの。
あんた、あいつらに骨の髄まで吸い尽くされるわよ。
まあ、一時良い目も見たようだし、自業自得だと諦めなさい。」
そんなお姉ちゃんをアルトは冷たく突き放したんだ。だけど…。
「イヤよ、アタシは絶対にウリはやらないって決めてるの。
お願いだから、助けてよ。」
「嘘おっしゃい! どの口がそんな大嘘を叩くの!
あんた、うちのタロウに厄介な病気をうつしておいて、なにしらばっくれてるの。
あんな病気、素人娘がそうそう持っている訳ないじゃない。」
いつもは淡々とした口調で話すアルトが珍しく大きな声で叫んだよ。
どうやら、お姉ちゃんのセリフがツッコミどころ満載だったみたい。
「ええ? アタシ、なんか病気持ってた? 全然気付かなかった。
でも、アタシ、今までウリなんかしたこと無いよ。
美人局をしてない時は、適当に繁華街をフラついているの。
それで、イケメンのおじさまがいたら、声を掛けて楽しくお話して…。
ごはんをご馳走になったり、お酒をご馳走になっていただけだもん。
それは、イケメンだから、気分が乗ったらいたすこともあったし。
お小遣いも貰ったことはあるけど…。」
そんなセリフを聞いて、お姉ちゃんに抱き付かれたままのタロウが…。
「この世界に来た初日に、にっぽん爺が言ってたけど…。
ホントにこの世界にも『パパ活』娘がいたんだ。
しかも、『ただし、イケメンに限る』ってのは、何処の世界でも共通だってか!」
感心したようなことを呟いて、何故か最後には憤慨していたよ。
そんなお姉ちゃんの言い分を聞いていたアルトは、呆気にとられてた表情で…。
「呆れた…。
それじゃ、やってることは何も変わらないじゃない。
同情の余地なしだわ、風呂屋でも何処へでも行きなさい。
平気よ、することは普段している事と変わらないから。」
処置無しと言った感じで、再度冷たく突き放したんだ。
********
「ええええぇ! そんな冷たいこと言わないでよ!
全然同じじゃないよ!
脂ぎったおっさんやガラの悪い冒険者の相手をするなんて死んでもイヤよ。
イケメン以外は相手したくないのよ!
ねえ、カモ君はそんな冷たいこと言わないよね。
お姉さん、助けてくれたら、なんでも言うことを聞いてあげる。
カモ君みたいなフツメンは好みじゃないけど…。
助けてくれたら、カモ君の彼女になっても良いわよ。
この間のような事、毎晩してあげるから助けてよ!」
なんか、とんでもなく酷いこと言ってるよ、このお姉ちゃん。
助けてくれって言ってるのに、何気にタロウをディスってる。
でも、タロウ、お姉ちゃんのセリフを聞いて、鼻の下を伸ばしただらしない顔になったんだ。
どうやら、タロウは『彼女になっても良い』というお姉ちゃんの言葉を真に受けたみたい。
タロウは金髪で胸の大きい、少し年上のお姉さんが好みのようだからね。
「まあ、まあ、アルト姉さん。
この人もこんなに頼んでいるんですから。
力になって上げても良いんじゃないですか。」
鼻の下を伸ばしたまま、お姉ちゃんの力になりたいって、アルトに言ったよ。
「あんたね…。
自分のことを『カモ』だなんて見下した呼び方する女を助けようだなんて…。
よくそんなことが思えるわね。
あの晩は、そんなに良かったのかしら。
あんた、そんなに脇の甘い行動をしてたら、いつか痛い目に遭うわよ。」
アルトの助言はもっともだね。
タロウってこれまでも迂闊な行動で酷い目に遭ってるんだけど、全然凝りてないんだもん。
「えっ、カモ君? だって、アタシ、カモ君の名前知らなかったもん。
カモ君の名前、タロウって言うの? 珍しい名前ね。
そういえば、アタシも名乗ってなかったわね。
アタシはシフォン、よろしくね。」
シフォン姉ちゃんは、タロウの腕をその胸の谷間に挟んだまま、媚びた笑顔で名乗ったの。
あっ、ダメだ、タロウってば完全に手玉にとられてる…。
「まあ、良いわ。
シフォンがどうしてもって言うのであれば助けてあげても良いわ。
ただし、私の条件を飲んでくれるのならね。
あんたの相棒を見たでしょう。
妖精の私に対する誓いを破ったら、あんな目に遭わせるからね。」
アルトがニヤニヤとイタズラな笑みを湛えて言ったんだ。
また、ロクでもない条件を出すつもりみたい。
「ええ、どんな条件でも飲むから助けて、お願いよ!」
でも、藁にも縋る気持ちなんだろう、シフォン姉ちゃんはあっさりと受け入れたんだ。
シフォン姉ちゃん、気付いていないんだね。
アルトと約束するって言うのは、悪魔と取引するのに等しいことなのに…。
もし、アルトが冒険者ギルドの風呂屋で働けと言ったら、どうする気なんだろう。
「じゃあ、シフォンには私達と一緒に辺境の町に来てもらうわ。
タロウ、男やもめの一人暮らしで色々と不自由しているのよ。
シフォンにはタロウと一緒に住んで、世話をしてもらうわね。
安心しなさい、タロウって頼りなさそうだけど意外と稼いでるのよ。」
アルトったら、シフォン姉ちゃんにタロウの世話を押し付けてんの。
シフォン姉ちゃん、タロウのことあんまり好みじゃないて言ってたし。
なんか、チャラチャラしてて田舎暮らしは向いてなさそうだし。
相当嫌がるんじゃないかな。そう思っていたら…。
「なんだ、もっと、酷いこと言われると思ったけど。
そんな事で良いんだ、ホッとした。
冒険者ギルドの連中に目を付けられたらヤバいもん。
今回の事がやり過ごせても、王都にはいられないと思ってたの。
住むところがあるなら助かるよ。
それに、タロウ君が養ってくれるんでしょう。
今の生活もそろそろ潮時かと思っていたから、ラッキーだよ!」
意外とノリノリだった。
「もう少し渋ると思ったけど、拍子抜けだわ…。
じゃあ、取り敢えず、これ飲んでおきなさい。
万病に効く薬よ。
タロウにまたうつされたら堪らないからね。」
アルトは、イタズラが思い通りにならなくて、残念だったみたい。
つまらなそうな表情で、万病に効く『妖精の泉』の水を手渡していたよ。
でも、アルト、すぐに気を取り直して。
「じゃあ、シフォンを餌に冒険者ギルドのおバカさんを釣り出しましょうか。」
って、張り切っていたんだ。
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