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第五章 王都でもこいつらは・・・

第99話 第二ラウンドも頑張ったよ、タロウ

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 お客さんをかき分けて姿を現したのは、絵に描いたような冒険者ならずものの五人組だった。
 五人が五人とも、タロウがパンチと呼んで怯える髪型をしてるの、何でこいつ等巻き毛率が高いんだろう。

「おっちゃん、おっちゃん、みんな並んでるんだから。
 割り込んだらダメだよ。
 ちゃんと順番は守ってくれないと他のお客さんに迷惑だよ。
 安心して、商品はまだまだ沢山あるから品切れは起こさないよ。」

 おいらは、並んでいるお客さんの順番を無視して前に出て来た五人組に注意したんだ。
 ホント、いい歳してマナーがなっていないよね。

「おお、悪かったな。…じゃねえよ!
 こら、ガキ、俺をおちょくってるんか!
 てめえら、こんなに大ぴらに甘味を売りやがって。
 俺達に喧嘩を売ってんのか!」

 ちょっとおちょくったら烈火のごとく怒ってやんの、沸点低いね。

「うん? 別におっちゃん達に、喧嘩なんか売ってないよ。
 ここ自由市場フリーマーケットだから、誰が、何を売っても良いんだよね。
 おいら達、辺境の町から用事があって王都に出て来たんだけど。
 途中でトレントを沢山狩ったから、旅費の足しにしようと思って売ってるんだ。」

「そんな建て前を聞いてるんじゃねえよ。
 このシマの甘味は俺達『スイーツ団』が一手に握ってるんだよ。
 こんな風に大ぴらに売られた日には、顔に泥を塗られたようなもんだぜ。」

「そんな勝手なことを言われても困るよ。
 昨日も、そんなイチャモン付けて来た兄ちゃんがいたけど。
 そんな決まり、町の人は誰も知らなかったよ。」

「昨日もって…。
 うちのわけえモンを酷え目に遭わせたのもてめえらか!
 そこまで、コケにされちゃ、赦しちゃおけねえぞ!」

 そう言えば、昨日この広場に放置した三人組。
 見当たらないと思ったら、ちゃんと『スイーツ団』の連中が回収してくれたんだね。

「『若えモン』てのは昨日商売の邪魔しに来た兄ちゃん達のこと?
 乱暴なことをして来たから、とっ捕まえてお仕置きしただけだよ。
 口ほどにもない連中だったね。すぐ壊れちゃったよ。」

「言わせておけば、ふざけたことぬかしやがって!
 ガキだからといって、赦さねえぞ!」

 おっちゃん、いきなり剣を抜きやんの。
 おいら、何も悪いことは言ってないよね、こう言うの逆ギレって言うのかな。

「「「きゃ!」」」

 いきなりおっちゃんが剣を抜いたものだから、お客さんがビックリして周りから退いたよ。

      ********

 すると。

「ほら、あんたの出番よ!
 ぼさっとしてないで、何とかしなさい!」

 アルトの声がしたかと思うと、よたよたとおいらを庇う位置にタロウが出て来てたんだ。
 どうやら、不意打ち的にアルトに背を押されたみたい。

「アルト姉さん、いきなり突き飛ばさないでくださいよ…。
 また、俺がやるんですか?
 ホント、ヤーさんの相手は勘弁して欲しいのに。」

 しょっぱなから泣き言を漏らしているタロウ。
 そんなタロウをみておっちゃんは。

「何だ、用心棒かと思ったら、また情けねえガキが出て来たもんだ。
 こんなガキ二人に、うちの若えモンが遅れを取る訳がねえよな。
 ふざけてないで、うちの若えモンをやった奴を出した方が良いぜ。
 このガキ共が痛てえ目を見ないうちによ。」

 タロウを完全に見くびったセリフを吐いたよ。
 おっちゃんの矢面に立っているのが、おいらとタロウの二人だからおちょくられたと思ったみたい。
 
「ふん、あんたみたいな雑魚が相手なら、その子達で十分よ。
 やれるものなら、やってみなさい。」

 アルトったら、そんな火に油を注ぐような事を…。

「もう、赦さねえ!
 じゃあ、てめえから血祭りにあげてやるよ!」

 おちょくられて堪忍袋の緒が切れたおっちゃんは、タロウに向かって袈裟懸けに剣を振り下ろしたんだ。
 殺る気満々、モロに受ければ必殺の剣筋だね。

 でも、

「ひっ!
 何で、こっちの奴ら平気で殺しに来れるんだよ!
 人殺しがやっちゃいけねえことだと思ってねえのか。」

 そんな泣き言を漏らしながらも、タロウは巧く剣を弾いたんだ。
 剣は全く素人のタロウだけど、身体能力で数段勝っているみたい。

「何だい、一思いに楽にしてやろうかと思ったら、抵抗する気か。
 なら、俺に逆らったのを後悔しながら死んできな!」

 おっちゃんはタロウに向かってさっきより鋭く剣を振り抜いたよ。

「ひっ!怖えよ!
 もういい加減にしてくれ!」
 
 泣き言交じりにおっちゃんの剣をギリギリで避けたタロウは、すかさず自分の剣を振り下ろしたんだ。
 振り下ろされた剣を握るおっちゃんのこぶしを狙って、剣の腹で叩くように。

 ボキッ!

 剣の腹が当たったおっちゃんのこぶしから何かが砕けるような音がしたかと思うと。

っでえええ!」

 おっちゃんが悲鳴を上げて蹲ったよ、剣を握っていたこぶしを押さえて。

  ********

「げっ!アニキがやられた!
 この野郎!なんてことしやがる!
 おい、やっちまえ!」

 今度は、三人束になってかかって来たんだけど。

「もういい加減にしてくれって。
 三人掛かりなんて、卑怯だろうが…。」

 そう言いながら、タロウは三人の攻撃を何とか躱して、躱しざまにさっきと同じように剣を握るこぶしを潰していったの。

「ほほう、昨日、メイプルトレントの相手をさせておいてよかったわ。
 八本の枝が同時に襲ってくるのに比べたら、あの三人の攻撃を躱すのなんて楽なモノね。」

 アルトがおいらの耳元でそんな事を囁いていたよ。
 泣き言を言いながらも、何とか撃退したタロウ。
 その前にはゴロツキが四人、砕かれたこぶしを押さえて蹲っている。

「全く、おまえらは何をやっているんだ。
 ガキだと思って舐めてかかるから返り討ちになるんだ。
 そんなガキを相手に、簡単にやられちまって恥ずかしいと思わねえのか。」

 それまで黙って様子を見ていたおっちゃんが、タロウにやられたゴロツキ連中をみて頭を抱えていたよ。
 どうやら、このおっちゃんが五人の中では一番の腕利きらしいね。
 何となく貫禄があって、もしかしたら組織の幹部かも。

 そして。

「おう、若いの、その歳で中々やるじゃないか。
 剣は素人のようだが、修羅場を経験してきたようだな。
 そこそこレベルも上がっているようだし。
 ここで俺に会わなければ、大成できたかも知れんが。
 俺達に逆らっちまったの運の尽きだと思って諦めるんだな。
 俺も、前途洋々な若いのを手に掛けるのは気が引けるが。
 組織の面子と言うものがあるんでな。
 悪く思うなよ。」

 そう言いながら、タロウの前に進み出てきたんだ。

「マロン、出番よ。
 タロウじゃ、あれには敵わないわ。
 あいつ、レベル三十、いえ、三十五はいってるかもしれない。」

 不意にアルトから耳打ちされて、おいら、慌ててタロウとおっちゃんの間に割り込んだよ。
 もうその時には、おっちゃん、剣を振り上げているところで。
 おいらが、割り込んでもストップは利かなかったみたい。

 おいらを間合いの懐に抱え込んだまま、おいら越しにタロウに振り下ろされる剣。
 当然、おいらを攻撃する訳では無いので、『回避』は働かないけど…。
 目の前にはおっちゃんの膝が無防備に晒されている。

「えいっ!」

 これ幸いと、おいらは、デコピンの要領でおっちゃんの膝を弾いたんだ。

 グシャ!

 さっき、タロウがこぶしを砕いた音と少し違う、もっと破滅的な音がして…。

「ギャアアアア!」

 おっちゃん、振り抜いている剣を取り落として、悲鳴を上げたよ。
 そして、その場に倒れ込んじゃった。

「おっと、あぶねえー!」

 タロウってば、手放されて勢い良く降ってくる剣を慌てて避けてた。

    ********

 おいら達の前に転がる『スイーツ団』の五人。
 おいらが、膝を粉砕したおっちゃんなんか、相当痛むみたいで膝を押さえたまま身動き取れない状態だよ。

 そんな五人をどうしたかというと…。

「無粋な連中のせいで、露店が中断しちゃってごめんなさいね。
 商売を再開するから、こいつらの事は放っておいて、買っていってちょうだい。」

 アルトは、転がっている五人を放置したまま露店を再開したんだ。
 もちろん、剣や隠し持っていた懐剣は取り上げたけど、縄で縛りもしないで放置。

 五人が痛みで身動き取れないのをいいことに、晒し者にするみたい。

「良いのかい、こいつら衛兵の詰め所に突き出した方が良いんじゃない。
 子供を相手に剣を抜いたんだよ。
 あたし達なら、露店の再開をもう少し待っていても良いんだよ。」

 とか言ってくれるお客さんもいたけど。

「良いのよ、お客さんをあんまり待たすものではないわ。
 商売の基本はお客さん、第一よ。
 それに、こうして転がしておけば、みんな、こいつらが何者か気にかかるでしょう。
 そしたら、こいつらが『砂糖』とかの値を吊り上げている元凶だと教えてあげるの。
 こいつらをネタにして、王都中に、『スイーツ団』のしている悪事を広めてあげるわ。」

 アルトはそう答えて、ケラケラと笑ってたよ。
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