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第五章 王都でもこいつらは・・・

第96話 タロウ、男になる!…えっ?

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「冒険者ギルド三つ相手取って蹂躙だと!
 舐めたことほざきやがって!
 俺達をこんな目に遭わせたこと、絶対に後悔させてやるからな!」

 美人局の兄ちゃん、あの怖い顔で恫喝すればこっちが怯むと思ってまだ吠えている。
 アルトはそんなタマじゃないのにね。
 
 すると、アルトが。

「マロン、ちょっと、『メイプルトレント』を一本狩って見せてあげなさい。
 このおバカさんに、格の違いと言うのを教えてあげて。」

 そんな事を言って来たんだ。
 おいらはアルトの指示に従い、錆びた包丁を持ってメイプルトレントに向かったの。

「バカなことを言ってんじゃねえや。
 メイプルトレントがそんなガキの手に負える訳ねえだろうが。
 俺達をおちょくるのも大概にしとけよ。」

 おいらは、吠えてる兄ちゃんを無視してメイプルトレントに近づくと。

 ヒュン!

 という風切り音と共に、槍のように先の尖った枝が凄い速さで襲って来た。その数、八本。

「よっと!」

 相変わらずいい仕事をするスキル『回避』、八本とも寸でのところで躱してくれたよ。
 しかも、回避した場所は枝の攻撃を受け難い、メイプルトレントにぴったりくっついた位置だし。
 ホント、至れり尽くせりのお役立ちスキルだね。

 おいらは、その場で錆びた包丁をメイプルトレントの幹に当てたんだ。
 今度は、『クリティカル』のスキル二つがキッチリ働いてくれて…。

 バキ!バキッ!

 メイプルトレントは音を立てて倒れていったんだ。
 その光景を美人局の兄ちゃんは呆然と見てたのだけど、我に返ったみたいで。

「いったい何なんだ!そのガキは!
 メイプルトレントをそんな錆び錆の包丁で一撃なんて有り得ないだろうが!」

 また大きな声を…、有り得ないも何も実際にその目で見ているでしょうが。

「メイプルトレントくらいこの子にかかれば、大したことないわ。
 そっちの腰抜けそうにみえる少年、さっきあんたを倒した彼ね。
 彼だって、臆病なだけで、やらせればメイプルトレントくらい一人で倒せるわよ。
 あんた達、冒険者ギルドの連中はこれ倒すのに何人掛かりでやってるんだっけ。
 手に負えないから、新米冒険者を餌に使ったりしているんでしょう。
 情けないわね。」

 そんな兄ちゃんを見て、アルトは冒険者ギルドの連中を蔑むように言ったんだ。

「ふん、トレントを倒したくらいで粋がるんじゃねえよ。
 悔しいことに、俺ら下っ端じゃ、たしかにトレントは狩れねえがよ。
 ギルドの幹部の方々なら、トレントくらい鼻歌交じりに狩れるぜ。
 冒険者ギルドに喧嘩を売ったからには、幹部がお出ましになるからな。
 その時になって吠え面かけばいいぜ。」

 この兄ちゃん、まだ、冒険者ギルドの後ろ盾を信じて疑わないみたい。
 そうやって脅せば、おいら達が怯むと思ってるんだろうね。

「ふ、ふ、ふ、そんなおバカさんが出て来るのが楽しみだわ。
 少しは、遊ばせてもらえるかしら。
 この間の番外騎士団は、一撃で消滅しちゃったから拍子抜けだったの。
 やっぱり、少しは歯応えが無いとね。」

 サディスティックな笑みを湛えてアルトが言うと、流石のおバカでも気付いたようで。

「番外騎士団って、一瞬で騎士団全員が灰になったってやつか。
 おい、まさか、おめえがあれをやったというのか、羽虫。」

 美人局の兄ちゃん、泡を食って言ったんだ。

「そうよ、あれは私がやったの。
 あいつら、おイタが過ぎてね、ちょっと見過ごせなかったのよ。
 因みにね、今まで私を『羽虫』と呼んで無事に済まされた人はいないのよ。
 覚悟はできているかしら?」

 あっ、アルト、さっきからずっと怒ってたんだね。

     ********

 美人局の兄ちゃん、アルトの言葉にやっと虎の尾を踏んだことに気付いたみたいだよ。

「やめろ、俺が悪かった。
 金なら俺の全財産をくれてやる。
 だから、命ばかりは勘弁してくれ。
 もう、『スイーツ団』からは足を洗う、金輪際カタギには迷惑かけねえから。
 この通りだ。」

 土下座で地面に頭を擦り付けながら、命乞いを始めたよ。
 アルトは、いつもの如く決まり文句を言うんだけどね。

「安心しなさい。命までは取らないわ。
 妖精族の間じゃ、殺しはご法度なのよ。」

 そこまで聞いて、兄ちゃんはホッとした表情になるけど…。

「因果応報って言うでしょう。
 あんた達、冒険者ギルドのクズ共って、新米冒険者をトレント狩りの餌に使っているのでしょう。
 餌にされた新米冒険者の苦痛を、その身で味わってもらおうと思ってね。
 安心して良いわよ、生命を全て吸い取られる前にトレントを倒して助けてあげるから。」

「バカ言ってんじゃねえよ!
 それじゃ、命はあったって廃人同様になっちまうじゃねえか。
 頼むから勘弁してくれよ。」

 ホッとしたのも束の間、死ぬより厳しい仕打ちを聞いて、兄ちゃんは必死に抗議してたよ。
 でも、…。

「ほら、四の五の言ってないで、潔くってらっしゃい!」

 アルトは問答無用で、兄ちゃんをメイプルトレントの前に放ったんだ。

「うぎゃあああ!」

 あえなくシュガートレントの餌食になる美人局の兄ちゃん、助けた時には…。

「ウヒッ、ウヒヒヒヒ。」

 目が虚ろになって、変な笑い声を上げてたよ。
 こうなっちゃう人が多いみたいだね。
 今までトレントの餌食になって正気を保ってたのってキャラメルだけだ。

 ご自慢のパンチパーマも真っ白になってカールが緩んでるよ。

「ア、アニキがあんなになっちまった!
 やべえ、俺達、とんでもない奴らに手を出しちまった。」

「ひぃぃ!お助けを!」

 美人局の兄ちゃんをみて、下っ端二人が命乞いをするけど。
 まっ、手遅れだよね。

    ********

 と言うことで、おいら達の前には粗大ゴミと化した下っ端三人が転がっている。
 おいら達、こいつらを助けるついでにメイプルトレントを結構間引いたよ。

「メイプルシロップも明日から、手広く売りたいから少し多めに狩っておきましょう。
 ほら、この剣をあげるから、タロウも狩るのよ。
 売り上げの分け前はちゃんとあげるから、サボるんじゃないわよ。」

 アルトがそう言うもんだから、おいら一人で五体も倒しちゃったよ。
 タロウも下っ端が持っていた安物の剣を渡されて。

「ひぃぃ!、これ、怖えぇよ!
 槍みたいのが、容赦なしで襲ってくるじゃん。」
 
 なんて、泣き言をもらしながら必死になって狩ってたよ。
 『完全回避』を持っているおいらと違って、自力で躱さないといけないから涙目だったよ。
 とは言え、さすがレベル十だけあって、レベル四のメイプルトレントには後れを取らなかったよ。
 いつもの剣が刃こぼれすると拙いからって、安物の剣を使って三体倒していた。

「全部で、一万くらいは『メイプルシロップ』が集まったわね。
 これだけあれば、数日は持つでしょう。
 これで、『スイーツ団』を干上がらせてあげるわ。」

 自分でも三体のメイプルトレントを倒したアルトは、タロウが倒した分も『積載庫』にしまいながら言ってた。

「ねえ、アルト、こいつらどうするの。
 ここに放っておく訳にもいかないよね。」

 おいらが尋ねると、アルトはニヤリと笑って言ったんだ。

「こいつらは、広場で晒し物にするわ。
 でも、その前に…。
 タロウへのご褒美も兼ねて、もう一つ落とし前をつけに行くわよ。」

 その時のアルトの顔、とっても楽しそうだったよ。

 そして、戻って来た王都、繁華街に面した住宅密集地。
 おいら達は、タロウの案内で貸家と思しき小さな家の前に立っている。

「なあ、美人局のヤーさんの家なんか案内させてどうする気なんだ?」

 道案内をさせられたタロウが怪訝な顔でアルトに問い掛けると。

「ごちゃごちゃ言わなくていいから、ほら、家の扉をノックしなさい。」

 タロウの疑問に答えずアルトは、タロウに扉を叩くように指示したんだ。
 一方的なアルトの指示に首を傾げつつも従うタロウ。扉をノックすると。

「誰だい、って、この間の間抜けなカモじゃないかい。
 また、金を巻き上げられに来たんかい。」

 扉を開けて出て来たのは、タロウより少し年上のキレイなお姉さんだった。
 タロウ好みで、金髪で胸が大きいの。
 タロウの顔を見て間抜けなカモだなんて言ってるし。

 ドシン!

「この粗大ゴミ、あんたの男でしょう。
 壊れちゃったから、返しに来たわよ。」

 美人局のお姉さんの目の前に、相棒のお兄ちゃんを放りだしたの。

「えっ!」

「このおバカ、私達にちょっかいを掛けて来たのよ。
 だからちょっとお仕置きしてあげたわ。
 そしたら、とんだ見掛け倒しの根性なしで、すぐに壊れちゃってね。
 邪魔だから、引き取ってもらおうと思って持って来たのよ。」

 いきなり廃人となった相棒を放り出されて目を丸くしたお姉さんにアルトは言ったの。
 すると。

「私にこんなものを押し付けられても困る!
 こいつ、私の男でも何でもないもの。
 私は、で、こいつと組んで美人局をしていただけだもん。」

 あっ、美人局も冒険者ギルドのシノギの一つなんだ。
 目の前の粗大ゴミが自分の男ではないと言ったお姉さん。
 そんなお姉さんにアルトは冷ややかに口にした言葉は…。

「そ、それじゃあ、仕方がないわね、持って帰るとしましょうか。
 ところで、あなた、私の身内のこの子に酷いことしたそうね。
 今も、『間抜けなカモ』とか言っていたしね。
 あなたにもお仕置きが必要そうね。
 この男みたいになって見る?」

「ひっ!
 勘弁して、そのカモから巻き上げた金は全部返すから。
 イロを付けても良いから、ね、勘弁して。
 私、まだまだ、楽しいことして遊びたいのに。
 この若さで、そんな廃人にされたら困る。」

 小さなアルトに底知れない残虐さを感じたんだと思うよ。
 お姉さん、必死に命乞いをしていた。

「そう、じゃあ、この子から巻き上げたお金は返してもらうとして。
 イロの部分、私の言う通りにしたら赦してあげても良いわよ。
 大丈夫、あんまり無茶なことは言わないから。」

「本当ですか?
 こんなになるほど酷いことされるんじゃなければ。
 何でも言うこと聞きます。」

 あーあ、このお姉さん、アルトには絶対に言っちゃいけない言葉を口にしちゃった。
 『何でも言うこと聞きます』は禁句だよ、ほら、アルトってば、悪い笑みを浮かべている。

     ********

 それから、三時間ほど後のこと。

「そろそろ、戻ってくる頃かしら?」

 おいら達はタロウと別れて、広場で粗大ゴミを解放したの。
 首からは、例の看板をぶら下げておいたよ。

「ねえ、アルト、なんでタロウだけ美人局のお姉ちゃんのところに残してきたの?
 あのお姉ちゃんに対するお仕置きってなあに?」

 下っ端三人を解放した後、タロウを待つ間、おいら達は暇に任せて自由市場を見て回ったんだ。
 屋台で買った肉串をかじりながら、アルトに尋ねると。

「うーん、マロンにはまだ早いかしら。
 あの場にいると、マロンの教育に良くないからね。
 あのハスッパ娘に対するお仕置きはタロウに任せたわ。
 タロウへのご褒美も兼ねてね。
 大して酷いことにはなっていないはずよ。
 数日前タロウを誘った時に、あの娘の方から、してあげると言っていたこと。
 それを実際にしてもらうだけだから。
 手を抜いたら赦さないわよと言っておいたから、入念なご奉仕をしているはずよ。」

 なんて言って、詳しいことは教えてくれなかったんだ。
 んで、アルトが予想した通り、間も無くタロウは戻って来たよ。
 顔をテカテカさせて、すごく満ち足りた顔をしてね。

「どうだった、あの娘は?」

「おお、凄かった!
 アルト姉さん、有り難う!
 俺、こんなスゲーご褒美もらえるとは思わなかったぜ!
 アルト姉さんについて来て良かったー!
 本で読んだことはあったけど…。
 十八禁の風呂屋のサービスを全部してもらえるとは思わなかったぜ!
 全部、搾り取られたって言うか、ホント、凄かった!
 今日からは俺は男になったぞ。」

 タロウは少し興奮した感じでアルトに感謝してたよ。凄いアゲアゲな感じ…。

 でも、タロウって、今日までは男じゃなかったの?  
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