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第四章 魔物暴走(スタンピード)顛末記
第78話 のっけからこんな展開って…
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町を発った翌日の夕方、眼下に大きな町が見えてきたんだ。
「凄い大きな町! おいらが住んでいる町が幾つ入るだろう?」
「あれが王都ですわ。
王様から平民まで合わせて十万人くらい住んでいると言われてますの。」
十万人って言われても想像できないや、おいらが住んでいる町ってどのくらいの人が住んでいるんだろう?
クッころさんに王都のことを色々と教えてもらっている間にも、アルトは軽快に飛んでいき…。
「えっ、妖精の長殿、いったい何処まで飛んで行かれるおつもりなのでしょうか?」
王都の中に入ってもいっこうに高度を落とす様子が無いアルトに、クッころさんは戸惑いの声を上げてたよ。
町の中心を貫く大通りの上を通り過ぎ、掘りと石垣で囲われた一画の中に入った時、クッころさんの顔色が変わったの。
「ダメですわ、ここは拙いですわ!」
外の様子をみて泡を食ったような表情になったクッころさん。
そんなクッころさんの声が外を飛ぶアルトに届くはずも無く…。
そこで、徐々に高度を落としたアルトは、いつもおいらと話すくらいの高さで止まったの。
そして、
「さあ、着いたわよ。長旅で疲れたでしょう、マロン。
ここが王都よ。」
そう言って、おいらとクッころさん、それにタロウを『積載庫』から外に出したの。
「ここって、何処かの裏庭かな?」
おいら、思わずアルトに尋ねたよ。
王都へ行くと言うから、もっと賑やかなところで降りるのかと思っていたんだ。
でも、ここは三方が大きな建物で囲まれ、一方は石に壁になっているどん詰まりみたいな場所なの。
「妖精の長殿、王都へ落とし前を付けに行くとおっしゃられましたが。
番外騎士団の駐屯地に行くのではなかったのですか。
ここは、いささか、拙いのではないかと思うのですが。」
アルトがおいらの問い掛けに答えるより早く、クッころさんが凄い焦った様子でアルトに言ったの。
「誰が、番外騎士団なんて下っ端に落とし前を付けさせるなんて言ったの。
落とし前を付けさせる相手なんて決まってるでしょう。
ちょっと待ちなさい、今呼び出すから。」
そう言ったアルトは、目の前に青白い光の玉を浮かべたの。
おいらのこぶしくらいの大きさで、眩く光って、バチバチと火花を上げている光の玉を。
これが出て来る時って、大概、物事が穏便に済まないんだよね…。
「さっさと出て来なさい!」
そう叫ぶとアルトは建物の立派な扉に向けて、光の玉を放ったんだ。
バリバリッ!ダーーーン!
扉に当たった光の玉は、重厚そうな扉を一撃のもとに破砕したよ。相変わらず、凄まじい破壊力…。
それを見たクッころさん、顔面蒼白になってたよ。
********
やがて、壊れた扉の周囲に人が集まって来て騒然としたきたの。
でも、おいら達を指差して、ひそひそと話している人ばかりなの。
不思議なことに、誰一人としてここに入ってこようとしないんだ。
「こら、貴様ら、誰の許しを得て裏庭に立ち入っておる。
裏庭は禁足地、国王陛下以外の立ち入りは一切許されておらんのだぞ。
極刑は覚悟の上だろうな!」
人混みをかき分けて出てきた数人の騎士達、その中で一番偉そうな人がおいら達にそう怒鳴りつけたんだ。
本当に王様以外は何があっても立ち入れないようで、騎士達も扉があった場所から怒鳴ってるよ。
禁足地…、どうりでクッころさんの表情が青褪めていたはずだよ。
「うるさいわね、あなた達みたいな下っ端に用はないわ。
さっさと、その王を呼んで来なさい!」
アルトはそう言い放って、今怒鳴った騎士に一撃ビリビリを放ったんだ。
バリ、バリ、バリ!
「ギャーーーーー!」
やかましい悲鳴を上げて、その場に沈む騎士…。
「隊長が一撃…。こりゃヤバイ!
早く陛下にお知らせするんだ。
隊長が一撃でやられるような相手、騎士団長でなければ歯がたたんぞ!」
倒れた隊長を抱き起こした騎士が、王様への伝令を指示してる。王様、素直に出て来るかな?
すると、しばらくして、一際煌びやかな服装のおっちゃんが、これまた豪華な騎士服をきたおっちゃんに護られてやって来たよ。
「余が勅をもって立ち入りを禁じている裏庭に押し入ったあげく。
余を呼出すなどと言う不逞の輩はいったい何者であるか。
本来は取り合わぬのであるが、あまりの珍事故、こうして顔を見せてやったぞ。
有り難いと思って冥途へ行くが良い。」
煌びやかな服装のおっちゃんが、偉そうなことを言ってる。この人が王様かな。
なんか、クッころさんとタロウの方を睨みつけて話しかけてるの。
距離が離れているせいか、おいらの横に浮いているアルトとノイエの事は目に入っていないみたい。
すると、アルトがノイエを伴なって王様の方へ近づくと…。
「あんた、誰を見て話してんのよ。
あんたに用があるのはこの私よ!
それで、あんたがこの国の王で良いのかしら?」
アルトが王様の注意を引くと…。
「なんだ、この羽虫は?
羽虫が、なにやら、不遜な言葉を話したような気がするが…。」
あっ、ダメだ、この王様も再起不能確定だね。
おいらが、王様の失言を聞きご愁傷様と思っていたら…。
「陛下、なんて失礼なことを申されます!」
慌てて王様に苦言を呈した護衛と思しき騎士は、続けてアルトに向かって言ったの。
「妖精様、どうかお気を鎮めてくださいませ。
王は妖精様の事を存じてないようでして。
王には後ほど良く進講しておきますので、ここはどうか穏便にお願い致します。」
どうやら、護衛の騎士は妖精の怖さを知っているらしく、平身低頭アルトを宥めていたよ。
「おい、モカよ、そなた、そんな羽虫を相手に何を臆しておるのだ。
それでは、余に落ち度があるようではないか。」
折角、護衛の騎士が取り成しているのに…。どうして、この王様、空気を読めないんだろう。
「陛下、王家で禁忌とされていることをお忘れですか。
絶対に妖精様のご機嫌を損ねてはいけない、妖精様に逆らってはいけないとあったでしょう。
王家に伝わる禁忌のいの一番に記されているはずですが。
我が国は二百年前、愚王と歴史に残る七代前の王が妖精の森に攻め入り返り討ちに遭いました。
その時の王と王子は、必死に命乞いをした末の王子を除いて、妖精の長一人に殺害されたのです。
まだ年若かった末の王子のみが妖精様の情けで生き残り、その子孫が今の王家なのです。
二百年前、本来我が国は滅んでいたのでございます。
陛下が、今玉座に座していられるのは妖精様のお目こぼしがあったからだと努々お忘れなきよう。」
モカと呼ばれた護衛の騎士は、必死に王様へ説明するのだけど…。
「ああ、あの与太話か、王が率いた二万の軍勢をたった一匹の妖精に皆殺しにされたと言うのであろう。
誰が、そんな非常識な事を信じると言うのだ、馬鹿馬鹿しい。
余は、今日改めてあの禁忌が世迷言だと確信したぞ。
こんな、羽虫一匹に万の軍勢を皆殺しに出来る訳が無かろう。
当時の王はレベル七十はあったと言われているのだぞ、こんな羽虫に後れを取る訳がないわ。」
なんてことを、王様は口走っちゃったんだ。
この王様、一旦口から出た言葉は戻すことが出来ないって分かってんのかな?
「そう、わかったわ。
そっちの騎士は、道理を理解しているようだから穏便に済ませてあげようかと思っていたけど。
少し、キツイお灸を据えないといけないみたいね。
ノイエ、ちょっとの時間だけ、こいつらが私の邪魔しないように見張っておいて。」
そう言うとアルトが裏庭の更に奥の方、フェンスで囲ってある辺りに飛んで行ったの。
どうやら、フェンスは中に生えている木々を保護するために造られているみたい。
そしてアルトは、
「全て灰燼に帰しなさい!」
と叫び声を上げたかと思うと、今まで見たことがない威力のビリビリを放ったんだ。
バリ、バリ、バリ!
強烈な閃光と耳をつんざくような雷鳴が鳴り響き、…。
フェンスの中にあった木々が一本残らずへし折れて燃え始めたの。
「こ、この羽虫! なんてことをしてくれる!
それは余の、いや、我が王家の家宝、『エルダートレント』の若木だぞ!
そこまで、増やすのにいったいどれだけの年月がかかったと思っているのだ!」
王様が激昂して、アルトに怒鳴り付けたの。
また、羽虫なんて言って、余計怒らすだけなのに。
でも、厳重に護られているので何かと思ったら『エルダートレント』の若木だったんだ。
「ほお、まだ、そんな口を利くのね。
じゃあ、これも燃やしちゃおう。」
そう言ったアルトは、裏庭の最奥、一本だけ厳重な石壁に守られた大木に近付いて行ったんだ。
「何を馬鹿な事を、それは我が国に一本しかない『エルダートレント』の古木。
レベル百はゆうに超えていると言われておるのだ、羽虫ごときにやられる訳があるまい。
精々、『エルダートレント』の返り討ちに遭うが良い。」
この王様、懲りないね、早く謝っちゃえばいいのに…。
アルトの力をナメ過ぎだよ。
隣にいるモカさんは妖精の恐ろしさがわかってるみたいで、顔面蒼白にして言葉を失っているよ。
こんな王様だから、番外騎士団みたいなゴロツキを野放しにいているんだね。
「ふーん、やっちゃって良いのね。」
そう言うと、アルトは再びビリビリを放ったんだ。さっきより、威力マシマシで…。
バリ、バリ、バリ!
今度は、一筋の稲光が大木のてっぺん辺りに走ったかと思ったら…。
ビシ、ビシ、ビシッ!
『エルダートレント』の大木が縦真っ二つに切り裂かれ、火を上げ始めたの。
「ヒエエエエェーーー!」
それを見た王様が悲鳴を上げて、その場にへたり込んじゃった。
「二百年前、妖精の長にレベルを奪われ、ただでさえ我が国の王族はレベルが低いのですよ。
それでも他者に対して有利を保てたのは、『高速連撃』の実を付ける『エルダートレント』があったからです。
陛下の不用意なお言葉で、それが灰燼に帰してしまいました。
これでは高レベルの貴族や冒険者に反乱を起こされたら鎮圧できなくなりますぞ。
いわんや、他国から攻められたら抗し切れなくなるのが目に見えるようです。
これから国の統治が難しくなりますぞ陛下、お覚悟をしておいてくださいませ。」
へたり込んだ王様に、モカさんはそんな声をかけてたよ。
こうして見た感じだとモカさんって、とっても常識人に見えるんだ。
それで、人の話を聞かない王様に日頃から振り回されているんじゃないかな…。
でも、レベルを奪われて王家のレベルが低いってどういう意味なんだろう?
「結構、ドロップしたわね『高速連撃』の実。
さすがレベル百オーバーの古木だけあって、一体で十万個以上ドロップしたわ。
あとでマロンにも分けてあげるね。
もちろん、ノエルにも上げるわよ。」
「わぁ!ノエル、嬉しいです!
アルトお姉さま、大好き!」
おいらの許に戻って来たアルトが、周りに聞こえないように、こそッと言ってたよ。
悲壮な雰囲気を漂われせている王様とは対照的に、アルトとノイエはとても嬉しそうだったの。
「凄い大きな町! おいらが住んでいる町が幾つ入るだろう?」
「あれが王都ですわ。
王様から平民まで合わせて十万人くらい住んでいると言われてますの。」
十万人って言われても想像できないや、おいらが住んでいる町ってどのくらいの人が住んでいるんだろう?
クッころさんに王都のことを色々と教えてもらっている間にも、アルトは軽快に飛んでいき…。
「えっ、妖精の長殿、いったい何処まで飛んで行かれるおつもりなのでしょうか?」
王都の中に入ってもいっこうに高度を落とす様子が無いアルトに、クッころさんは戸惑いの声を上げてたよ。
町の中心を貫く大通りの上を通り過ぎ、掘りと石垣で囲われた一画の中に入った時、クッころさんの顔色が変わったの。
「ダメですわ、ここは拙いですわ!」
外の様子をみて泡を食ったような表情になったクッころさん。
そんなクッころさんの声が外を飛ぶアルトに届くはずも無く…。
そこで、徐々に高度を落としたアルトは、いつもおいらと話すくらいの高さで止まったの。
そして、
「さあ、着いたわよ。長旅で疲れたでしょう、マロン。
ここが王都よ。」
そう言って、おいらとクッころさん、それにタロウを『積載庫』から外に出したの。
「ここって、何処かの裏庭かな?」
おいら、思わずアルトに尋ねたよ。
王都へ行くと言うから、もっと賑やかなところで降りるのかと思っていたんだ。
でも、ここは三方が大きな建物で囲まれ、一方は石に壁になっているどん詰まりみたいな場所なの。
「妖精の長殿、王都へ落とし前を付けに行くとおっしゃられましたが。
番外騎士団の駐屯地に行くのではなかったのですか。
ここは、いささか、拙いのではないかと思うのですが。」
アルトがおいらの問い掛けに答えるより早く、クッころさんが凄い焦った様子でアルトに言ったの。
「誰が、番外騎士団なんて下っ端に落とし前を付けさせるなんて言ったの。
落とし前を付けさせる相手なんて決まってるでしょう。
ちょっと待ちなさい、今呼び出すから。」
そう言ったアルトは、目の前に青白い光の玉を浮かべたの。
おいらのこぶしくらいの大きさで、眩く光って、バチバチと火花を上げている光の玉を。
これが出て来る時って、大概、物事が穏便に済まないんだよね…。
「さっさと出て来なさい!」
そう叫ぶとアルトは建物の立派な扉に向けて、光の玉を放ったんだ。
バリバリッ!ダーーーン!
扉に当たった光の玉は、重厚そうな扉を一撃のもとに破砕したよ。相変わらず、凄まじい破壊力…。
それを見たクッころさん、顔面蒼白になってたよ。
********
やがて、壊れた扉の周囲に人が集まって来て騒然としたきたの。
でも、おいら達を指差して、ひそひそと話している人ばかりなの。
不思議なことに、誰一人としてここに入ってこようとしないんだ。
「こら、貴様ら、誰の許しを得て裏庭に立ち入っておる。
裏庭は禁足地、国王陛下以外の立ち入りは一切許されておらんのだぞ。
極刑は覚悟の上だろうな!」
人混みをかき分けて出てきた数人の騎士達、その中で一番偉そうな人がおいら達にそう怒鳴りつけたんだ。
本当に王様以外は何があっても立ち入れないようで、騎士達も扉があった場所から怒鳴ってるよ。
禁足地…、どうりでクッころさんの表情が青褪めていたはずだよ。
「うるさいわね、あなた達みたいな下っ端に用はないわ。
さっさと、その王を呼んで来なさい!」
アルトはそう言い放って、今怒鳴った騎士に一撃ビリビリを放ったんだ。
バリ、バリ、バリ!
「ギャーーーーー!」
やかましい悲鳴を上げて、その場に沈む騎士…。
「隊長が一撃…。こりゃヤバイ!
早く陛下にお知らせするんだ。
隊長が一撃でやられるような相手、騎士団長でなければ歯がたたんぞ!」
倒れた隊長を抱き起こした騎士が、王様への伝令を指示してる。王様、素直に出て来るかな?
すると、しばらくして、一際煌びやかな服装のおっちゃんが、これまた豪華な騎士服をきたおっちゃんに護られてやって来たよ。
「余が勅をもって立ち入りを禁じている裏庭に押し入ったあげく。
余を呼出すなどと言う不逞の輩はいったい何者であるか。
本来は取り合わぬのであるが、あまりの珍事故、こうして顔を見せてやったぞ。
有り難いと思って冥途へ行くが良い。」
煌びやかな服装のおっちゃんが、偉そうなことを言ってる。この人が王様かな。
なんか、クッころさんとタロウの方を睨みつけて話しかけてるの。
距離が離れているせいか、おいらの横に浮いているアルトとノイエの事は目に入っていないみたい。
すると、アルトがノイエを伴なって王様の方へ近づくと…。
「あんた、誰を見て話してんのよ。
あんたに用があるのはこの私よ!
それで、あんたがこの国の王で良いのかしら?」
アルトが王様の注意を引くと…。
「なんだ、この羽虫は?
羽虫が、なにやら、不遜な言葉を話したような気がするが…。」
あっ、ダメだ、この王様も再起不能確定だね。
おいらが、王様の失言を聞きご愁傷様と思っていたら…。
「陛下、なんて失礼なことを申されます!」
慌てて王様に苦言を呈した護衛と思しき騎士は、続けてアルトに向かって言ったの。
「妖精様、どうかお気を鎮めてくださいませ。
王は妖精様の事を存じてないようでして。
王には後ほど良く進講しておきますので、ここはどうか穏便にお願い致します。」
どうやら、護衛の騎士は妖精の怖さを知っているらしく、平身低頭アルトを宥めていたよ。
「おい、モカよ、そなた、そんな羽虫を相手に何を臆しておるのだ。
それでは、余に落ち度があるようではないか。」
折角、護衛の騎士が取り成しているのに…。どうして、この王様、空気を読めないんだろう。
「陛下、王家で禁忌とされていることをお忘れですか。
絶対に妖精様のご機嫌を損ねてはいけない、妖精様に逆らってはいけないとあったでしょう。
王家に伝わる禁忌のいの一番に記されているはずですが。
我が国は二百年前、愚王と歴史に残る七代前の王が妖精の森に攻め入り返り討ちに遭いました。
その時の王と王子は、必死に命乞いをした末の王子を除いて、妖精の長一人に殺害されたのです。
まだ年若かった末の王子のみが妖精様の情けで生き残り、その子孫が今の王家なのです。
二百年前、本来我が国は滅んでいたのでございます。
陛下が、今玉座に座していられるのは妖精様のお目こぼしがあったからだと努々お忘れなきよう。」
モカと呼ばれた護衛の騎士は、必死に王様へ説明するのだけど…。
「ああ、あの与太話か、王が率いた二万の軍勢をたった一匹の妖精に皆殺しにされたと言うのであろう。
誰が、そんな非常識な事を信じると言うのだ、馬鹿馬鹿しい。
余は、今日改めてあの禁忌が世迷言だと確信したぞ。
こんな、羽虫一匹に万の軍勢を皆殺しに出来る訳が無かろう。
当時の王はレベル七十はあったと言われているのだぞ、こんな羽虫に後れを取る訳がないわ。」
なんてことを、王様は口走っちゃったんだ。
この王様、一旦口から出た言葉は戻すことが出来ないって分かってんのかな?
「そう、わかったわ。
そっちの騎士は、道理を理解しているようだから穏便に済ませてあげようかと思っていたけど。
少し、キツイお灸を据えないといけないみたいね。
ノイエ、ちょっとの時間だけ、こいつらが私の邪魔しないように見張っておいて。」
そう言うとアルトが裏庭の更に奥の方、フェンスで囲ってある辺りに飛んで行ったの。
どうやら、フェンスは中に生えている木々を保護するために造られているみたい。
そしてアルトは、
「全て灰燼に帰しなさい!」
と叫び声を上げたかと思うと、今まで見たことがない威力のビリビリを放ったんだ。
バリ、バリ、バリ!
強烈な閃光と耳をつんざくような雷鳴が鳴り響き、…。
フェンスの中にあった木々が一本残らずへし折れて燃え始めたの。
「こ、この羽虫! なんてことをしてくれる!
それは余の、いや、我が王家の家宝、『エルダートレント』の若木だぞ!
そこまで、増やすのにいったいどれだけの年月がかかったと思っているのだ!」
王様が激昂して、アルトに怒鳴り付けたの。
また、羽虫なんて言って、余計怒らすだけなのに。
でも、厳重に護られているので何かと思ったら『エルダートレント』の若木だったんだ。
「ほお、まだ、そんな口を利くのね。
じゃあ、これも燃やしちゃおう。」
そう言ったアルトは、裏庭の最奥、一本だけ厳重な石壁に守られた大木に近付いて行ったんだ。
「何を馬鹿な事を、それは我が国に一本しかない『エルダートレント』の古木。
レベル百はゆうに超えていると言われておるのだ、羽虫ごときにやられる訳があるまい。
精々、『エルダートレント』の返り討ちに遭うが良い。」
この王様、懲りないね、早く謝っちゃえばいいのに…。
アルトの力をナメ過ぎだよ。
隣にいるモカさんは妖精の恐ろしさがわかってるみたいで、顔面蒼白にして言葉を失っているよ。
こんな王様だから、番外騎士団みたいなゴロツキを野放しにいているんだね。
「ふーん、やっちゃって良いのね。」
そう言うと、アルトは再びビリビリを放ったんだ。さっきより、威力マシマシで…。
バリ、バリ、バリ!
今度は、一筋の稲光が大木のてっぺん辺りに走ったかと思ったら…。
ビシ、ビシ、ビシッ!
『エルダートレント』の大木が縦真っ二つに切り裂かれ、火を上げ始めたの。
「ヒエエエエェーーー!」
それを見た王様が悲鳴を上げて、その場にへたり込んじゃった。
「二百年前、妖精の長にレベルを奪われ、ただでさえ我が国の王族はレベルが低いのですよ。
それでも他者に対して有利を保てたのは、『高速連撃』の実を付ける『エルダートレント』があったからです。
陛下の不用意なお言葉で、それが灰燼に帰してしまいました。
これでは高レベルの貴族や冒険者に反乱を起こされたら鎮圧できなくなりますぞ。
いわんや、他国から攻められたら抗し切れなくなるのが目に見えるようです。
これから国の統治が難しくなりますぞ陛下、お覚悟をしておいてくださいませ。」
へたり込んだ王様に、モカさんはそんな声をかけてたよ。
こうして見た感じだとモカさんって、とっても常識人に見えるんだ。
それで、人の話を聞かない王様に日頃から振り回されているんじゃないかな…。
でも、レベルを奪われて王家のレベルが低いってどういう意味なんだろう?
「結構、ドロップしたわね『高速連撃』の実。
さすがレベル百オーバーの古木だけあって、一体で十万個以上ドロップしたわ。
あとでマロンにも分けてあげるね。
もちろん、ノエルにも上げるわよ。」
「わぁ!ノエル、嬉しいです!
アルトお姉さま、大好き!」
おいらの許に戻って来たアルトが、周りに聞こえないように、こそッと言ってたよ。
悲壮な雰囲気を漂われせている王様とは対照的に、アルトとノイエはとても嬉しそうだったの。
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