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第四章 魔物暴走(スタンピード)顛末記

第77話 王都へ向けて出発!

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 剣を与えられてホクホク顔なタロウを横目に、アルトは地面に座らせられている騎士に向かって問い掛けたの。

「あなた達に、選択肢をあげるわ。
 一つは、これから、『シュガートレント』の餌になること。
 もう一つは、私が話せと命じたら、今回の『ハエの王』討伐からスタンピードに至るまでのあなた達の企みを洗い浚い白状すること。
 この場合、私の命令に逆らって証言を拒んだり、嘘を言う事があれば、私が一思いに殺してあげるわ。
 さあ、選択の時間よ、選びなさい。」

 有無を言わさず、選択を迫るアルト。
 アルトったら、誰の前で証言させるか言ってないよね。
 それって、証言を聞かせる人によっては、トレントの餌になるより酷い目に遭うんじゃないの。

「ひぃぃぃ! お願いするでやんす。トレントの餌だけは勘弁してくれでやんす。
 何でも包み隠さず白状するでやんすから、トレントの餌だけはご勘弁を。」

 アルトに凄まれて、迂闊そうな騎士が一人、そう答えると他の騎士も次々に同調したんだ。
 さすが、落ちこぼれ騎士、考えが足りないね。
 何の躊躇もなく、悪だくみを暴露する方を選んだよ。
 どっちを取っても、地獄を見ることには変わりないと思うのに…。

「そう、その言葉、絶対に忘れるんじゃないわよ。
 誓いを破ったら、本当に一思いにっちゃうからね。」

 騎士たちの返答に満足そうに頷いたアルトは、ニヤッと悪い笑みを浮かべていたよ。

「さて、じゃあ、出発することにしましょうか。
 そこの貴族の娘、あなたも一緒に行くわよ。
 身内が仕出かした不始末ですもの、どんな風に落とし前を着けるかは見届けなさい。」

 アルトがクッころさんに同行するように言うと。

「もちろんですわ、同行させて頂ければ有り難いです。
 ですが、王都へ出向くとなれば、支度が要りますので少しだけお時間を頂けますか。
 すぐに支度を整えますので、半時ほどお時間をください。」

 クッころさんは、そう言ってアルトの許可を取ると急いで家に戻ったよ。

「えっ、お前ら、これから王都に行くのか?
 いいなー、俺も行ってみてえぜ、王都。
 王都って言ったらでっけえ町なんだろう。
 こんな辺鄙な片田舎より面白そうだぜ。
 なあ、なあ、俺も連れてってくれよー!」

 タロウってば、また図々しくアルトにせがんで…。

「うん? タロウも行きたいの、王都?
 別に良いわよ、『』で良ければ連れて行ってあげるわ。」

「えっ、良いのか?
 ラッキー、言ってみるもんだなー、よし俺も支度して来るわ。」

 アルトが、あっさりと頼みを聞き入れると、タロウは喜び勇んで家に戻って行ったよ。
 アルトがイタズラな微笑みを浮かべていることに気付きもしないでね。

「マロン、これから出発するとなると今日中には王都へ着かないから。
 今のうちに屋台で何か食べ物でも買っておきなさい。
 二日分くらいの食べ物を用意しておけばよいわ。」

 おいらは、アルトに指示に従って、クッころさんと二人分の食べ物を買いこんだよ。
 なんか、王都へ着くまで時間がかかりそうだったので、奮発して甘い焼き菓子も買ったんだ。

     ********

 そして、半時ほど経って。

「それで、妖精の長殿、これからどうやって王都まで行くのでしょうか?
 ここに転がしている騎士たちの馬は逃げ去ってしまいましたし。
 荷車でも借りて、この者どもを乗せていくのですか?」

 白馬を引いて戻って来たクッころさんが、アルトに尋ねたんだ。
 ちなみにクッころさん、流石に王都へ帰ったら、もう戻ってくる気は無いようで荷物一式を白馬にぶら下げている。
 ご自慢の騎士甲冑も布袋に入れて馬に括り付けてあるよ。

「えっ、どうやってって、もちろん私が飛んでいくのよ。
 あなた達は、『妖精の不思議空間』に入れて連れて行くから、何も心配いらないわ。
 もちろん、ここに転がっている連中もね。」

 便利な言葉だよね、『妖精の不思議○○』。
 ツッコミどころ満載なのに、『妖精の』と付くだけで何となく納得させられちゃうの。
 「妖精なら仕方がねえや」って。
 妖精って、それだけ不条理な存在って思われているんだね。
 まあ、『積載庫』の秘密を明かさないで済むから助かるけど。

 そう言ってアルトは、落ちこぼれ騎士十人とクッころさんの白馬を『積載庫』に積み込んだの。

「あら、消えましたわ。
 これで、妖精の長殿がお持ちの『妖精の不思議空間』へ送られたのですか?」

「そうよ、馬とあの十人はまとめて『獣舎』に放り込んでおいたわ。
 『獣舎』なら、色々垂れ流しても平気な仕様になっているから。
 あなた達は『特別』に入れてあげるから安心しなさい。
 快適な旅を約束するわ。」

 アルトは、落ちこぼれ騎士には食べ物を与えるつもりも、トイレに行かせるつもりも無いんだね。
 王都へ着くまで『獣舎』に入れっ放しのつもりなんだ。

「おお、悪い、悪い、待たせたな!」

 タロウが戻って来ると、アルトはタロウに何の説明もせず。

「じゃ、出発するわよ!」

 そういって、おいら達三人を『積載庫』へ放り込んだんだ。

 それから、しばらく時間が経過して…。
 
「ここは、王都へ向かう途中にある同胞たちの森なの。
 今晩は、ここで休ませてもらうわ。」

 夜、おいら達が『積載庫』から外へ出たのは、アルトが支配する森とは別の妖精の森だったの。

「うおおお、ションベン、ションベン!」

 タロウが下品な叫び声を上げながら茂みの中に駆け込んで行ったよ。

「いったい、何なんだよ。
 いきなり、足元の地面が消えるような感じがしたと思ったら狭い部屋にいて。
 硬い木のベンチが向かいあってあるだけ、しかも横になるだけの幅もねえときている。
 部屋の中が昼間みたいに明るいだけましだけど、窓もなけりゃ、トイレも無いんだぜ。
 この歳になって、漏らすかと思ったぜ。」

 戻って来たタロウはブツクサと不満を漏らしていたよ。

「あら、そうでしたの。
 こちらは、広い窓があって、それから眺める地上の景色がとても新鮮でしたわ。
 今日は、夕焼けがとてもきれいで感動してしまいました。
 部屋も凄くゆったりしていて、ベッドの他にソファーもありましたわよ。」

「うん、フカフカのベッドに寝転がって、外の景色が見られるのが良かったよね。
 それに、水で流せるトイレなんて、おいら初めて使ったよ。
 あれなら、狭い部屋にあっても臭わなくて良いよね。」

 クッころさんは、空から眺めた地上の景色がすっかり気に入ったようで、『積載庫』の部屋にご満悦だったよ。
 アルトから快適だと聞かされていたけど、『特等』は想像以上に快適だったんだ。

「なに、その格差。
 おい、妖精の姉ちゃん、この差別はあんまりじゃないか。
 アルトたち二人はホテルの部屋みたい場所で優雅に景色を眺めているってのに。
 俺は、鉄道博物館で見た大昔の汽車の二等席みたいな空間かよ!」

「うるさいわね、つべこべ言うとここに置いてくわよ。
 ここは、もうあんたの住んでいる町と王都との間の三分の一くらい進んだ場所にあるの。
 何なら、ここから歩いて帰ってみる。人の足で歩いたら、三日はかかる距離よ。
 言っとくけど、途中に泊まれるような町はないわよ。」

 不満たらたらで苦情を言うタロウを冷たく突き放したアルト。

「歩いたら三日って、いったいさっきの空間は何なんだ。
 俺達はどうやってここまでやってきたんだよ。」

「ああ、あんたには説明してなかったわね。
 あれは、私だけが持っている『妖精の不思議空間』。
 あんた達をそこに放り込んで、私が空を飛んで来たのよ。」

 あくまで『妖精の不思議空間』で通すんだ…。

「なんで、俺だけ牢獄みたいな部屋に押し込まれてるんだ。
 俺にもアルトと同じ部屋を用意してくれたって良いじゃねえか。」

「あの部屋は一つしかないのよ。
 私の翅で飛んでも、王都までは一日じゃ着かないの。
 年頃の男女を同じ部屋に出来る訳ないでしょう。
 あんた、下半身に節操なさそうだし、間違いがあったら困るわ。
 第一、最初に断ったじゃない、『二等』で良ければ連れて行ってあげるって。
 あんた、それで良いって言ってたでしょう。」

「ああ、きったねー!『二等』ってそういう意味だったんか!」

 だから、あの時気付こうよ、アルトのイタズラな微笑みに。
 タロウってばすぐ調子に乗るもんだから、とっちめてやろうと思ったんだよ、きっと。

 タロウがいくら不満を口にしたところで、アルトに勝てるはずもなく。
 トイレ休憩を取る事だけは何とかアルトに頼み込んで、渋々引き下がってたよ。

 「エコノミークラス症候群になる」とか言ってボヤいてた。

 そんで、町をでた翌日の夕方、おいら達は王都へ着いたんだ。
 馬で十日の場所にあるって言ってたよね王都、アルトの飛ぶ速さって…。
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