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第三章 女騎士(クッころさん)奮闘記

第56話 崖っぷちの冒険者ギルド

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*本日、お昼に1話投稿しています。
 まだ読み出ない方は、お手数をおかけしますが一話戻ってお読みください。
 よろしくお願いいたします。

     ********

 カタギに手を出すなということに等しいアルトの命令。
 それでは、ギルド本部に納める上納金が払えないと、抵抗を見せるギルドの幹部連中だったけど。

 生ける屍状態になっている組長達の十八人の指を差し出して、十五年間上納金を免除してもらえって。
 そんな容赦のない言葉を、アルトはギルドの幹部連中に投げつけたの。

 ギルドの幹部連中は、ドン引きして言葉を失ってるよ。

「十五年あれば、真っ当な実力を持つ冒険者の十人や二十人育てられるんでしょう。
 毎日のように近くの村から、はぐれ者が冒険者になりに来ているようだし。
 トレントの餌なんて無駄なことに使わないで、地道に育てなさいよ。
 冒険者になりに来た女の子なんか、あんたらが監禁してオモチャにしてるそうじゃない。
 腕の立つ冒険者がいないって言うけど、当たり前じゃないの。
 育てもしないで、自分達の道具として使い捨てにしてるんだから。」

 アルトは、ギルドの幹部連中に真面目に冒険者の育成をしろと言うけど。
 ちゃっかり、それに混ぜて、またまた、ギルドの悪事を声高々に周囲に言い触らしたよ。
 女の子を監禁してオモチャにしていると聞いて、周囲のやじ馬の中にどよめきが起こってる。

「ひっ! 何で、それを!」

「組長の命令で、マロンの客人を拉致しにきた三人組が言ってたわよ。
 最近、村から出てくる女の子が減って、『監禁部屋』が空いてるんだってね。
 三人組、マロンの客人を捕まえようとした時に喜んでたわ。
 組長が飽きたら、久々に『監禁部屋』に回って来そうだって。
 みんなで、寄って集ってオモチャにするからすぐに壊れちゃうそうじゃない。
 壊れたら、トレントの餌にしちゃうって言ってたわよ。」

 おいらから聞いたことを、さも自分が聞き出したように言うアルト。
 何で、そんなに詳しく聞くのかと思ったら、こうして暴露するつもりだったんだ。

「やめてくれ!町のモンがみんな聞いてるじゃねえか!
 あんた、鬼か!
 こんな恥をかかされた上に、知られたくないことを暴露しやがって。
 今日からどうやって、俺たちにシノギをしろって言うんだ。」

 幹部の一人が逆切れして、怒鳴って来たよ。
 暴露されて怒るんだったら、そんな後ろ暗いことしなきゃいいのに。

 悪事を暴露されて周囲の白い目に晒されるギルドの幹部たち。
 ただでさえ鼻つまみ者の集まりなのに、村から出て来た世間知らずの若者を殺してたんだものね。
 今日からは、さぞかし肩身が狭いよね。
 
 しかも、今までブイブイ言わせてたのに、今は全員土下座だもの。
 冒険者ギルドみたいな商売は、カタギからナメられちゃダメなんだってにっぽん爺が言ってたけど。
 これじゃあ、形無しだね。

 たしかに、今日からは商売がし難くなりそうだね。

「つべこべ言ってるんじゃないわよ。
 今後、マロンとマロンの知り合いに一切迷惑を掛けないというのは守ってくれるわね。
 いやなら、今ここでこの建物を潰すわよ。
 それとも、あんたらも、ここで転がっている連中のようになりたいの?
 なんなら、ギルドの連中全員を魔物の領域に捨ててあげようか?」

 不平を言うギルドの幹部に向かって、アルトは再度凄んで見せたの。
 これ、最後通告だよね。

「ひえっ! どうか、それだけはご勘弁を。
 もう、そちらのお嬢様の関係者、いえ、この町のカタギには手を出しません。
 みかじめ料を取るのもやめます、ですから、命だけは勘弁を。」

 そう答えた時の、ギルドの幹部連中、もう半泣きだったよ。
 アルトは、そんなギルドの幹部連中にトドメを刺すように言ったの。

「そう、それじゃあ、それを証文に残しておいてもらおうかしら。
 もちろん、全員の血判を入れてね。
 イヤとは、言わせないわよ。」

 アルト、それじゃ、本当に鬼だよ。

      ********

 結局、アルトは、おいらとおいらの知り合いに一切迷惑をかけないという証文を書かせたよ。
 アルトったら、わざわざ建物の中から机を持って来させて、公衆の面前で記入させたの。
 
 ギルドの連中、衆目に晒されるのを凄く渋ってたけど、アルトに脅されて渋々従ってたよ。
 証文の中で、おいらが迷惑だと感じることは全て禁止と書かれたんだ。
 これも無茶苦茶、些細な事でもおいらが迷惑だと言ったら、アルトが出てくることになってるんだもん。
 正直、おいらが言い掛かりを付ければ、冒険者ギルドを潰せる状態だよ。

 他にも、連中の方から言い出したことだからと、おいらとは関係なく『みかじめ料』を取ることも禁止されたの。
 ギルドに取られるみかじめ料はとても迷惑だったようで、決まった時歓声が沸いてたよ。
 
 証文の文言が書き終わると、アルトはそれを集まった町の人達の前で読み上げさせたの。
 副組長という、ギルド幹部の生き残りで一番偉い人に大声で宣誓するように読ませたんだ。
 副組長という人、凄く悔しそうな顔をして証文を読み上げていたよ。

 そして、最期に生き残り幹部全員に、名前を書かせて、血判を押させたの。
 全員の血判が押し終わった時、周りにいた町の人から拍手があがったよ。
 冒険者ギルド、やっぱり、町のみんなから嫌われていたんだね。

 全部終わったら、アルトは証文をクルクルと丸めて、自分の『積載庫』に仕舞っちゃった。
 そして、土下座するギルドの幹部連中に向かって言ったの。

「良いこと。
 この証文に書いたことは絶対に忘れるんじゃないわよ。
 そこに転がっている愚か者は、二十年前、こともあろうに妖精の森に手を出そうとしたの。
 その時は、キツイお灸を据えたつもりだったのに、性懲りもなく私の機嫌を損ねたわ。
 全く、高々二十年で誓いを忘れちゃうなんてなんて無能なのかしら。
 あんた達もこうなりたくなかったら、絶対に忘れない事ね。」

 二十年前の誓いって、アルトに迷惑かけないってやつだよね。
 まさか、クッころさんがアルトに繋がっているなんて誰も想像できないと思うよ。

 おいらがアルトにそうツッコミを入れたら…。

「そうよ、マロン。
 人の関係なんて、どこで繋がっているか分からないの。
 何処でしっぺ返しを食らうか分からないから、迂闊に他人に恨まれるようなことをしてはダメよ。
 人間、カタギに生きていれば、滅多なことは無いからね。
 私、二十年前もあの組長に同じことを言ったのにね。
 カタギに生きてないと、何処で、誓いを破ること、私に迷惑をかけることになるか分からないって。」

 おいらにそう返してきたアルト。
 その言葉はとても通る声で目の前でまだ土下座している連中にも聞かせているみたいだった。

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