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第三章 女騎士(クッころさん)奮闘記

第53話 ホント、容赦なしですね

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 一際ガラの悪い中年男が、アルトに腫れ物に触るような表情で話しかけてきたんだ。
 大の大人が、小っちゃなアルトに恐る恐る話しかける姿は凄く滑稽だったよ。

「ここに転がっている連中?
 私、組長さん、あんたに用があって来たのですけどね。
 見ての通り、この小さな体でしょう。
 ギルドの建物の大きな扉はとても開けられなかったのよ。
 だから、ちょっとだけ手荒に扉を開けさせてもらったのですけど。」

 さっき、『先手必勝』なんて叫んで、やる気満々でぶち壊してたよね。
 それを『ちょっとだけ』だなんてどの口が言いますか、アルトさん…。
 その言葉を耳にして、組長はやっと粉みじんに破砕された扉に気付いたみたい。
 顔を青くしながら、尋ねてきたんだ。

「はぁ、それで何故このような有様になったのございましょう。」

「こいつら、ぞろぞろとギルドから出て来て口喧しく喚いたのよ。
 しかも、私の可愛いマロンを脅すようなことを言ったの。
 あげく、妖精族の族長であるこの私を売り飛ばすなんて戯けたこと言ってね。
 汚い手で私に触れようとした無礼者までいたわ。
 だから、ちょっとだけ、お灸を据えてあげたのよ。
 安心なさい、死んではいないから。…たぶん。」
 
 いや、『たぶん』って、なに、小さな声で付け加えてんの…。
 その程度のことで半殺しの目にあわせるなんて、確かに『厄災』だよ。
 何が、勘気に触れるか分からないんだもん。 

「あんた、鬼か!
 その程度のことで、こんな目にあわせるなんて!
 こいつら、もう使いモンにならねえじゃないか。
 二十年前、同じ目に遭った連中は、確かにその場じゃ死にゃあしなかったが。
 寝たきりになって、大半が、一年もしないでおっちんじまったぜ!」

 あっ、組長、キレやんの。本性が出てるよ。
 二十年前って、アルトが前回町に出て来たと言ってた時だよね。
 その時も、冒険者ギルドがアルトの気に触ることをしたんだ…。

 でも、アルトは、組長の言葉を気にした様子もなく、冷たく言い放ったの。

「そんなことは知らないわ。
 子供の頃の言い付けに従わなかったのがいけないのでしょう。
 誰もが、幼い頃にお婆ちゃんやお母さんから聞かされるはずよ。
 『妖精の祟りは怖いから絶対に手を出すな』って。
 いい勉強になったわね、身をもって知ったんだから。
 そんな事より組長、私、あんたに用事があって来たのですけど。」

 今、怒りで顔を赤らめた組長だけど、自分に用があると聞いてまた青ざめちゃった。
 赤くなったり、青くなったり、忙しい人だね。

      ********

「ええと、アルトローゼン様、私奴に御用とはどのような事でございましょか?」

 顔を青くした組長は、アルトのご機嫌を窺うように低姿勢で尋ねてきたよ。
 それに対してアルトは…。

「あんた、今幾つになったのよ。」

 唐突に組長の年齢を尋ねたんだ。
 ギルド長はそれに怪訝な顔をしたけど、これ以上アルトの機嫌を損ねると拙いと思ったらしい。

「私奴でございますか? 
 今年で五十二になりましたが、それが何か。」

 するとアルトは、

「あんた、五十二にもなって、自分の孫のような歳の娘を手籠めにしようとしたの。
 あっきれた、サルじゃないんだから、少しは自制しなさいよ。
 それとも、去勢して欲しいのかしら。」

 おいら達を遠巻きに見ているやじ馬に聞こえるように、わざと大きな声で言ったの。
 ギルド長はあからさまに狼狽してたよ。

「アルトローゼン様、何を人聞きの悪いことを大きな声でおっしゃります。」

「あんた、最近この町に来た貴族の娘を拉致って来いって下っ端に命じたでしょう。
 あんたの、その薄汚いナニを満足させるためにね。
 しらばっくれてもダメよ、あの三人組からハッキリ聞いたからね。」

 またしても、組長の悪事を、やじ馬に聞かせるように大きな声で言い放つアルト。
 何気に、アルトがあの三人組を直接問い質したような言いぶりになってるし…。

「やめてください、そんな大声で。
 たとえ、それが事実だとして、それがなんでこんなことになるのですか。
 妖精は、人間同士のやる事には口を挟まないのでしょが。」

「そうね、あんたらが、駆け出しの若造をトレントの餌にしようが知った事ではないわ。
 でもね、あの貴族の娘は、私が保護しているこの子、マロンの客人なの。
 あんただって、自分の所に身を寄せている客人に危害を加えられたら怒るでしょう。
 自分の顔に泥を塗られたとか言って。
 私も、可愛いマロンの客人に手を出されて怒っているのよ。
 それに、何の弾みで、マロンに危害が及ぶかも分からないしね。」

 そう言って、アルトはおいらを組長に指し示したんだ。

「ひっ!
 ご勘弁ください、あの娘がそのお嬢様の客人だとは知らなかったんです。
 それに、そのお嬢様がアルトローゼン様の舎弟だとも存じ上げませんでしたし。
 もう金輪際、あの娘には手を出しませんから、どうかご勘弁を!」

 これでもかってくらいに、顔を青ざめさせた組長。
 アルトの勘気に触れた理由を知り、マジにヤバいと思ったらしい。
 今度は、土下座をして詫びを入れてるよ。 

「知らなかったで済むと思っているの。
 二十年前、あんたが、私に何て誓ったか忘れたとは言わせないわよ。
 わたしの前に土下座して、泣きながら詫びた言葉を言ってみなさい。」

 アルトは再び、その小さな体の何処から出てくるのかという大きな声で言ったんだ。
 遠巻きにこちらを見ているやじ馬たちに聞かせるように。
 殊更に、『土下座して、泣きながら詫びた』という部分を声高にね。

 アルトに問い詰められた組長は、蚊の泣くような声で言ったの。
 二十年に、アルトの前で誓ったと思われる言葉を。

「もう二度と、アルトローゼン様にご迷惑おかけするような事は致しません。
 誓いを破った時は、いかようにもなさってください。」

 それを、聞いたアルトはと言うと。

「えっ、何ですって。
 聞こえないわ、もう一度大きな声で言ってもらえないかしら?」

 それ、絶対に意地悪だよね、ホントは聞こえているでしょう。

「もう二度と、アルトローゼン様にご迷惑おかけするような事は致しません。
 誓いを破った時は、いかようにもなさってください。」

 今度は、普通の声で言ったんだけど、アルトは。

「えっ、何ですって。
 聞こえないって言ってるでしょう。
 大の大人が、そんな女々しい声を出していないで。
 もっと大きな声で言ってみなさいよ。」

 結局、アルトは五回も同じことを言わせたんだ。
 周囲にいるやじ馬全員に聞こえるような大きな声を組長が上げるまでね。
 これ、絶対に組長の顔に泥を塗るのが目的だよね。

 そのあげく、アルトは、組長に向かって冷酷な笑みを浮かべて告げたよ。

「なんだ、ちゃんと覚えているじゃない。
 じゃあ、どんなお仕置きをされても文句ないわね。」

 死刑判決にも等しい言葉を…。
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