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第三章 女騎士(クッころさん)奮闘記

第35話 それで、うさぎに追われてたんだ。…ふうっ(ため息)

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「ふうっ…、汗をかいた後のお風呂は格別ですわ。」

 お湯に浸かると、ホッとした表情でそう呟いたクッころさん。 
 うさぎに追いかけ回されて、必死に逃げたので汗だくになったって愚痴ってる。
 早々に汗を流したいとのご要望で、少し早い時間にお風呂にきたんだ。

「しかし、冷や汗をかきましたわ。
 うさぎがあんな獰猛な魔物だとは知りませんでした。
 最弱の魔物と聞いていましたので、…。
 小動物のくらいの大きさかと思っていましたわ。
 しかも幾ら逃げてもしつこく追いかけて来るのですもの。
 もうダメかと思いましたわ。」

 レベルゼロのうさぎを相手にもうダメかもって…、いったいどんな騎士よ。 
 ワイバーンを一人で倒すって豪語してたのは誰ですかって。

 おいらが、クッころさんのセリフに呆れていると。

「なに、お貴族様、うさぎに追い回されたのかい。
 それは、災難だったね。
 でも、うさぎってそんなにしつこく追いかけて来るもんかい。
 あれは、獰猛だけど、用心深いところがあってね。
 普通なら、巣穴からあんまり離れないと聞くんだけどね。
 お貴族様、なんか、怒らせるようなことをしたかい。」

 おいら達の話を近くで聞いていたオバチャンが会話に加わってきたんだ。
 例の噂好きのオバチャン。
 オバチャンの疑問はもっともだよ。おいらも、さっきそう思ったもん。

「いえ、草原でお花摘みをしてたら、急に襲われたのです。」

「お花摘み?
 また、草原なんて物騒なところで悠長なことしているね。」

 あっ、オバチャン、意味が解ってない。それじゃあ、話がかみ合わないよ。

「ええ、草原の見回りをしていたら、急にお花が摘みたくなりましたの。
 それで、人目に付かない所を探していましたら…。
 草丈が高い草原の中にそこだけ草が生えていない所を見つけまして。
 都合の良い事にその真ん中に大きな穴がありましたの。
 ちょうど良いので、その穴に花を摘ませて頂いたのですが。
 花を摘み終えて、身支度をしていたら穴から突然うさぎが現れたのですわ。
 その時には既に目が血走っていて、とても怒っているようでしたの。」

「『穴に』花を摘む? 『穴の周りで』花を摘むじゃなくて?
 なんだい、それは?」

 ほら解ってない…。
 おいら、誤解しているオバチャンにそっと『お花摘み』の意味を耳打ちをしたんだ。
 えっ、なんでそっとだって?
 そりゃあ、おいらだって一応女の子だもん、大きな声で口にするのははばかるよ。

 でも、納得、そんなことをしたらうさぎも怒るに決まってるよ。

「アッハッハッハ!
 お貴族様ったら、そんなことをしなさったんかい。
 それは、怒りもしますわ。
 大事なねぐら、しかも、この時期、子育ての時期だよ。
 生まれたばかりの大事な子供にションベンをかけられようもんなら。
 うさぎじゃなくったって、誰でも怒りはするだろうよ。」

 ストレートな言葉を使って大笑いするオバチャン。
 この近所のオバチャン達には『お花摘み』なんて上品な言葉は分からないよね。
 オバチャン、とっても愉快そうな顔をしてるし…。
 明日にはこの話しもご近所中に知れ渡っちゃうよね。

 巣穴に向かって用を足して、怒ったうさぎに追いかけ回された残念な人って。

 でも、クッころさんのポンコツぶりがご近所に知れ渡れば、その方が良いかもね。
 ご近所さんに、親しみをもって受け入れてもらえそう。

 巷では貴族って怖いモノだと思われてるから、警戒されるよりは良いかもしれない。

      ********

 お風呂上り、おいら達は市場を回って夕食の総菜を見繕うことにしたんだ。
 でも、今日の晩ごはんのメインはもう決まってる。

 町の外から戻った時、いつも通りシューティング・ビーンズの若芽を売りに市場に寄ったんだ。
 そのついでに、肉屋さんにも寄って、うさぎ肉の調理を頼んだの。
 肉屋さんは、肉を売るだけじゃなくて、肉料理も売ってるんだけど。
 料金を払えば、持ち込みのお肉の調理もしてくれるんだ。

 魔物狩りの冒険者が、狩ったうさぎ肉の一部を良く調理してもらうんだって。
 おいら、うさぎを『積載庫』に仕舞ったあと、解体されるのを待ってお肉の一部を取り出したんだ。
 『積載庫』って解体してくれるだけじゃなく、欲しい分だけ切り分けて出せるみたいなの。
 とっても便利だね。
 おいらは、一抱えほどのウサギ肉を布袋に入れて町までぶら下げてきたんだよ。

 『積載庫』のことを他人に知られたら困るし、おいらがうさぎを狩れるのも不自然だから。
 少しづつ肉屋さんに持ち込んで調理してもらう事にしたの。
 近所の知り合いからうさぎ肉を分けてもらったふりをして。

 その時、持ち込んだお肉で、ハーブや香辛料を効かせたうさぎ肉のローストをお願いしておいたの。
 おいらじゃ一抱えもあるようなうさぎ肉を、オーブンで丸々ローストしてもらうんだけど。
 調理済みのモノを買ったら、銀貨十枚じゃとても買えない高級料理なんだよ。
 お肉を持ち込めば、銀貨一枚で調理してくれるからお得なの。

「おっちゃん、さっき頼んだの出来てる?」

「おっ、マロン、今焼き上がったところだ。
 ほれ見てみろ、美味そうだろう。
 おっちゃんが丹精込めて焼き上げたぜ。
 今、包んでやるからまってな。」

 肉屋に行くと、おっちゃんは焼き上がったばかりのうさぎ肉のローストを見せたくれたんだ。
 表面がきつね色に焼けてとっても美味しそう、ハーブの良い匂いが食欲をそそる。
 おっちゃんは、それをキレイな布に包んで渡してくれたんだ。

「おっちゃん、ありがとう!」

「まいどあり!
 持って来いよ。
 幾らでも、料理してやるかんな!」

 頼んだ料理を受け取ってお礼を言うと、おっちゃんは笑って返事をしてくれたんだ。
 おいらは、おっちゃんの返事に何も思わなかったんだけど…。

 家に帰る道すがら、クッころさんが尋ねてきたの。

「ねえ、マロン。
 今晩はたいそうなご馳走のようですけど。
 そのお肉、どこで手に入れましたの?
 なんのお肉かしら?」

 ギクッ!

 クッころさん、意外と細かいことに気付いたよ。
 おいらが、うさぎを狩ったことは知らないのだから。
 よくよく考えたら、肉がどこから出て来たのか不思議に思うよね。

 さて、どう誤魔そうかな。
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