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第三章 女騎士(クッころさん)奮闘記
第33話 やっぱり、ロクでもない話だった…
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その晩、泥酔して寝てしまったクッころさん。
小さなおいらには、酔い潰れたクッころさんをベッドまで運ぶのは大変だった。
でも、おいらの災難はそれで終わりじゃなかったよ。
一つしかないベッドで一緒に寝たんだけど…。
抱き枕の代わりにされて、もがき苦しむはめになったよ。
クッころさんのたわわな胸に顔が埋もれて、マジで窒息するかと思った。
もう二度とクッころさんにはお酒を飲ませないと心に誓ったんだ、おいら。
で、翌朝、クッころさんってばケロっとしてるの。
あれだけ愚痴って気分が晴れたのか、爽やかな顔してたよ。
クッころさん、酔って自分が愚痴ったこと覚えてるかな。
おいら、レベルの話を聞かせて欲しいんだけど…。
おいらの方から尋ねると、藪蛇になりそうだしどうしようか。
レベルの話を持ち出して良いものか、悩んでいると。
「マロン、わたくし、今日から町の外の見回りをしますの。
ワイバーンが近くに潜んでないか、探しますので帰りは夕方になりますわ。
帰ったら、またお風呂と夕食のお世話をお願いしますわね。」
昨日の晩ごはんの残りのパンを摘まみながらクッころさんが言ったの。
「はい、それは了解ですが…。
クッころさん、何を着て町の外に行かれるのですか?」
「わたくしは、騎士ですのよ。
騎士と言えば、騎士甲冑を身に纏っているのが常識ではないですか。
他に何を装備しろと?」
自称騎士のクッころさんが、何を堂々と言ってるんですか。
お父さんに騎士になるのを反対されて、騎士の叙任もされてないでしょうに。
昨日、酔って愚痴ってたこと覚えてないんですか…。
それは、ともかくとして、あの騎士甲冑はダメです。
馬を降りたら立っている事すらできないんだもん。
いや、たぶん、出来るのは馬の鞍に腰掛けている事だけだよ。
クッころさんのひ弱な腕じゃ、腰に下げた剣すら抜くことが出来ないよ。
精々できるとしても、腰に付けた水筒から水を飲むことくらいかな。
「クッころさん、あの騎士甲冑は止めませんか。
馬上の騎士同士でぶつかり合う訳じゃないんですから。
町の外じゃワイバーン以外の魔物にも遭遇するかも知れないですよ。
魔物に対処するなら、身軽に動ける装備の方が断然良いです。」
どんな魔物に遭遇してもレベルゼロのクッころさんに勝ち目はないものね。
素早く逃げるためには、身軽な装備の方が良いに決まってるよ。
拙いのは、クッころさんが動き難くなるだけじゃないよ。
あの重い騎士甲冑は馬の負担になっちゃう。走る速さが落ちるし、バテ易くなる。
魔物から逃げきれなくなっちゃうじゃない。
「たしかに、戦に向かう訳でもないのに騎士甲冑は動き難いですわね。
マロンの言うことは一理ありますわ。
でも、わたくし、あの甲冑以外は普段着しか持ち合わせていませんのよ。」
「この町にも武具屋さんがありますよ。
そこで、動き易い鎧を買えば良いと思う。
おいら、鎧とか無縁なんで、どんなのが良いかわからないけど。
武具屋のおっちゃんが相談に乗ってくれると思うよ。
ついでに、もう少し軽くて振り回し易い剣も買った方が良いと思う。」
騎士甲冑を諦めてくれたクッころさんに武具屋の場所を教えたよ。
剣を買うのも勧めといた、クッころさんが持っている剣、無茶苦茶重いんだもん。
振り回せない剣なんて邪魔物以外の何でもないよ。
********
おいらの助言を受け入れたクッころさんは武具屋に出かけてった。
おいらにも付いて来いと言ってたけど、丁重にお断りさせてもらったよ。
武具屋の場所はちゃんと教えたし、素人のおいらが付いて行っても何の役にも立たないからね。
第一、そうでもしないと、おいらが一人きりになるチャンスが無いよ。
おいらは、クッころさんが家から離れたのを見計らって、『ゴミスキルの実』を食べることにしたんだ。
昨日の晩に食べる予定だった分も含めて二食分食べたら、お腹がはちきれそうになった。
食べないで腐らしたら勿体ないからね、頑張って食べたよ。
何とか『ゴミスキルの実』を食べ終わって、日課のシューティング・ビーンズに出かけたんだ。
町を出て森へ向かって歩いていると。
「おーい!マロン。
あれ、クッころさんは一緒じゃないのか?」
後ろから声を掛けてきたタロウ、クッころさんが見当たらずに残念そうな顔をしてた。
わるかったね、おいら一人で、全く失礼な奴だな。
「ねえ、タロウ、その『クッころさん』って本当はどういう意味。
昨日の説明、あれ嘘でしょう。」
おいらが問い掛けると、一瞬『ギクッ』と図星を刺されたような表情をしたタロウ。
「イヤだな、マロン、俺を疑ってたんか。
俺の故郷では金髪の女騎士のことを、『クッころさん』と呼ぶのは常識だぜ。」
ポリポリと指で頬を掻きながら言い返してきたタロウだけど、視線は明後日の方向を向いてたよ。
こいつ、絶対ウソ言ってる。でも、何で金髪限定なの?
「あっそう、じゃあなんでお風呂でエクレア様に尋ねられた時に狼狽えてたの?
もし、シラを切るんだったら、帰ってからにっぽん爺に聞いてみようっと。」
「ちくしょう、何でこいつこんなに鋭いんだ…。
分かったよ、正直に言うから、あの女騎士には言うんじゃないぞ。
ごく一部の日本人が、金髪の女騎士を『クッころさん』って呼んでいるのは噓じゃないぞ。
そもそも、日本じゃ騎士と言う仕事は無いんだ。
日本じゃ、『女騎士』というモノ自体が、物語の中の架空の存在なんだ。
それで、日本に『薄い本』という、一部に熱狂的ファンがいる娯楽分野があるんだけど。
その中の定番のネタが、オークと言う魔物に捕まった金髪の女騎士が食われるってやつでよ。
食われた金髪の女騎士が口にするお約束のセリフが『クッ、殺せ』なんだ。
それが縮まって『クッころ』で、そのセリフを吐く金髪の女騎士が『クッころさん』。」
ほら、やっぱり、ロクでもない話だった。
オークってのは人の体躯に豚面の魔物で、人間の女性が大好物なんだって。なにその偏食。
物語の中で捕まった金髪の女騎士が、寄って集って食われた後に言うんだって、『クッ、殺せ』って。
生きて恥を晒すくらいなら、いっそ殺して欲しいという思いらしいよ。
ツッコミどころ満載で何処からツッコんで良いか分かんないよ。
普通、『寄って集って食われた』ら、その時点で生きてないよね。
『クッ、殺せ』なんて、セリフを吐くまでもなく死んでると思うけど。
おいらが、それを指摘すると…。
タロウはバツの悪そうな顔をして、「あと、十年したらマロンにも分かるよ」って言ったんだ。
うん、その顔を見ればおいらにも分かるよ。どうせロクでもない話だね。
これじゃ、エクレア様に本当のことは話せないね。
まあ、タロウの故郷からこの国に来る人は少ないみたいだから問題ないかな。
『クッころさん』と呼び続けても。
エクレア様、ご本人がお気に召しているようだしね。
小さなおいらには、酔い潰れたクッころさんをベッドまで運ぶのは大変だった。
でも、おいらの災難はそれで終わりじゃなかったよ。
一つしかないベッドで一緒に寝たんだけど…。
抱き枕の代わりにされて、もがき苦しむはめになったよ。
クッころさんのたわわな胸に顔が埋もれて、マジで窒息するかと思った。
もう二度とクッころさんにはお酒を飲ませないと心に誓ったんだ、おいら。
で、翌朝、クッころさんってばケロっとしてるの。
あれだけ愚痴って気分が晴れたのか、爽やかな顔してたよ。
クッころさん、酔って自分が愚痴ったこと覚えてるかな。
おいら、レベルの話を聞かせて欲しいんだけど…。
おいらの方から尋ねると、藪蛇になりそうだしどうしようか。
レベルの話を持ち出して良いものか、悩んでいると。
「マロン、わたくし、今日から町の外の見回りをしますの。
ワイバーンが近くに潜んでないか、探しますので帰りは夕方になりますわ。
帰ったら、またお風呂と夕食のお世話をお願いしますわね。」
昨日の晩ごはんの残りのパンを摘まみながらクッころさんが言ったの。
「はい、それは了解ですが…。
クッころさん、何を着て町の外に行かれるのですか?」
「わたくしは、騎士ですのよ。
騎士と言えば、騎士甲冑を身に纏っているのが常識ではないですか。
他に何を装備しろと?」
自称騎士のクッころさんが、何を堂々と言ってるんですか。
お父さんに騎士になるのを反対されて、騎士の叙任もされてないでしょうに。
昨日、酔って愚痴ってたこと覚えてないんですか…。
それは、ともかくとして、あの騎士甲冑はダメです。
馬を降りたら立っている事すらできないんだもん。
いや、たぶん、出来るのは馬の鞍に腰掛けている事だけだよ。
クッころさんのひ弱な腕じゃ、腰に下げた剣すら抜くことが出来ないよ。
精々できるとしても、腰に付けた水筒から水を飲むことくらいかな。
「クッころさん、あの騎士甲冑は止めませんか。
馬上の騎士同士でぶつかり合う訳じゃないんですから。
町の外じゃワイバーン以外の魔物にも遭遇するかも知れないですよ。
魔物に対処するなら、身軽に動ける装備の方が断然良いです。」
どんな魔物に遭遇してもレベルゼロのクッころさんに勝ち目はないものね。
素早く逃げるためには、身軽な装備の方が良いに決まってるよ。
拙いのは、クッころさんが動き難くなるだけじゃないよ。
あの重い騎士甲冑は馬の負担になっちゃう。走る速さが落ちるし、バテ易くなる。
魔物から逃げきれなくなっちゃうじゃない。
「たしかに、戦に向かう訳でもないのに騎士甲冑は動き難いですわね。
マロンの言うことは一理ありますわ。
でも、わたくし、あの甲冑以外は普段着しか持ち合わせていませんのよ。」
「この町にも武具屋さんがありますよ。
そこで、動き易い鎧を買えば良いと思う。
おいら、鎧とか無縁なんで、どんなのが良いかわからないけど。
武具屋のおっちゃんが相談に乗ってくれると思うよ。
ついでに、もう少し軽くて振り回し易い剣も買った方が良いと思う。」
騎士甲冑を諦めてくれたクッころさんに武具屋の場所を教えたよ。
剣を買うのも勧めといた、クッころさんが持っている剣、無茶苦茶重いんだもん。
振り回せない剣なんて邪魔物以外の何でもないよ。
********
おいらの助言を受け入れたクッころさんは武具屋に出かけてった。
おいらにも付いて来いと言ってたけど、丁重にお断りさせてもらったよ。
武具屋の場所はちゃんと教えたし、素人のおいらが付いて行っても何の役にも立たないからね。
第一、そうでもしないと、おいらが一人きりになるチャンスが無いよ。
おいらは、クッころさんが家から離れたのを見計らって、『ゴミスキルの実』を食べることにしたんだ。
昨日の晩に食べる予定だった分も含めて二食分食べたら、お腹がはちきれそうになった。
食べないで腐らしたら勿体ないからね、頑張って食べたよ。
何とか『ゴミスキルの実』を食べ終わって、日課のシューティング・ビーンズに出かけたんだ。
町を出て森へ向かって歩いていると。
「おーい!マロン。
あれ、クッころさんは一緒じゃないのか?」
後ろから声を掛けてきたタロウ、クッころさんが見当たらずに残念そうな顔をしてた。
わるかったね、おいら一人で、全く失礼な奴だな。
「ねえ、タロウ、その『クッころさん』って本当はどういう意味。
昨日の説明、あれ嘘でしょう。」
おいらが問い掛けると、一瞬『ギクッ』と図星を刺されたような表情をしたタロウ。
「イヤだな、マロン、俺を疑ってたんか。
俺の故郷では金髪の女騎士のことを、『クッころさん』と呼ぶのは常識だぜ。」
ポリポリと指で頬を掻きながら言い返してきたタロウだけど、視線は明後日の方向を向いてたよ。
こいつ、絶対ウソ言ってる。でも、何で金髪限定なの?
「あっそう、じゃあなんでお風呂でエクレア様に尋ねられた時に狼狽えてたの?
もし、シラを切るんだったら、帰ってからにっぽん爺に聞いてみようっと。」
「ちくしょう、何でこいつこんなに鋭いんだ…。
分かったよ、正直に言うから、あの女騎士には言うんじゃないぞ。
ごく一部の日本人が、金髪の女騎士を『クッころさん』って呼んでいるのは噓じゃないぞ。
そもそも、日本じゃ騎士と言う仕事は無いんだ。
日本じゃ、『女騎士』というモノ自体が、物語の中の架空の存在なんだ。
それで、日本に『薄い本』という、一部に熱狂的ファンがいる娯楽分野があるんだけど。
その中の定番のネタが、オークと言う魔物に捕まった金髪の女騎士が食われるってやつでよ。
食われた金髪の女騎士が口にするお約束のセリフが『クッ、殺せ』なんだ。
それが縮まって『クッころ』で、そのセリフを吐く金髪の女騎士が『クッころさん』。」
ほら、やっぱり、ロクでもない話だった。
オークってのは人の体躯に豚面の魔物で、人間の女性が大好物なんだって。なにその偏食。
物語の中で捕まった金髪の女騎士が、寄って集って食われた後に言うんだって、『クッ、殺せ』って。
生きて恥を晒すくらいなら、いっそ殺して欲しいという思いらしいよ。
ツッコミどころ満載で何処からツッコんで良いか分かんないよ。
普通、『寄って集って食われた』ら、その時点で生きてないよね。
『クッ、殺せ』なんて、セリフを吐くまでもなく死んでると思うけど。
おいらが、それを指摘すると…。
タロウはバツの悪そうな顔をして、「あと、十年したらマロンにも分かるよ」って言ったんだ。
うん、その顔を見ればおいらにも分かるよ。どうせロクでもない話だね。
これじゃ、エクレア様に本当のことは話せないね。
まあ、タロウの故郷からこの国に来る人は少ないみたいだから問題ないかな。
『クッころさん』と呼び続けても。
エクレア様、ご本人がお気に召しているようだしね。
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