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第三章 女騎士(クッころさん)奮闘記
第29話 『クッころさん』? また意味不明な事を…
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その日、おいらがシューティング・ビーンズを狩って町を戻る帰り道。
おいらの横を、キレイな白馬が通り過ぎて行ったんだ。
乗っているのは、白銀の甲冑に身を固めた人。
初めて見たけど、全身を覆う金属製の甲冑は騎士甲冑と言うものだと思う。
父ちゃんから、そんなモノがあると聞いたことがあるよ。
ということは、白馬に乗っているのは騎士さんだね。
おいらの横を通り過ぎた白馬の騎士さんは、ゆっくりと町の方へ消えて行ったよ。
おいら、騎士さんなんて初めて見た。
こんな辺境に何の用だろうね、まっ、おいらには関係ないだろうけど。
何時ものように、おいらは市場でシューティング・ビーンズの幼生を買い取ってもらったの。
その銅貨を手にして、晩ごはんを買おうと広場へ向かうと…。
「少し良いでしょうか、そこの幼子よ。
この町の領主の館は何処にあるのでしょうか、教えてもらえませんか。
一通り町の中を見たのですが、見当たらないのです。」
広場の一角に佇んでいた白馬に乗った騎士さんが、おいらに問い掛けてきたんだ。
驚いたことに、女の人の声だったよ。
でも、何で、おいらのような子供に聞くかな…。
その辺の大人を捕まえて聞けば良いのに。
もちろん、そんなことは言わないよ。
父ちゃんから、お貴族様に歯向かったら斬り捨てられるって聞いてるから。
辺境に住んでいると縁がないけど、この国は身分制度が厳しいんだって。
「はい、騎士様。
申し訳ございませんが、この町にご領主様はおられません。
私も子供ゆえ、詳しい事は存じませんが。
馬車で一日ほど東に行った隣の町のご領主様が、この町も持っているそうです。」
うーん、普段使い慣れない言葉は難しいよ、『私』なんて舌を噛みそう。
「何と、では代官屋敷は何処にあるのでしょう。」
代官屋敷?
この町にはそんなたいそうなモノは無いよ。
おいら達が住んでいる家の分譲用に小さな事務所があるだけ。
住宅街の一角に、この家と同じ間取りの家を利用した事務所が。
「代官屋敷ですか?
この町にお代官様はいらっしゃいませんが。」
「なんと、では、この町はどうやって治めていると。
税の徴収すらできないでしょうが。」
そんなことを子供のおいらに言われても知らないよ。
そもそも、この町、鉱山が閉山されてから無法地帯だもの。
あんなヤバい冒険者ギルドが、大手を振ってまかり通ってるんだから。
流石に、騎士さんも、おいらのような幼子に政に関する返答は期待していないみたい。
答えなくても、怒っている様子はないよ。
「では、どこか泊まれるような宿屋に案内してはくれませんか?」
また、難儀なことを…。
「恐れながら、申し上げます。
この町は、見ての通り寂れた辺境の町でございます。
現在は宿屋の一軒もございません。」
「何と、では、わたくしに何処へ泊れと?」
それこそ、そんなの知らないよ。
おいら、父ちゃんから貴族様の泊まれるような場所は教えてもらってないもん。
それこそ、その辺を歩いている大人の人に聞いて。
********
宿屋がないと聞いて、途方に暮れてしまった騎士さん。
もう用は済んだみたいなので、ごはんを買いに行こうと一歩足を踏み出すと。
「幼子よ、あなた、先程、町の外を一人で歩いていましたね。
見れば、まだ十歳にもならないように見受けられますわ。
町の外は魔物や人攫いがいて物騒でしょう。
親御さんは何も言わないのですか?」
どうやら、騎士さん、町の外ですれ違ったおいらに気付いていたらしい。
それで、おいらに声を掛けて来たのかな。
「おいら、三年前に父ちゃんがいなくなってから一人暮らしなんだ。
おいらが自分で稼がないと生きてけないから、危ないんて言ってられないよ。」
あっ、ついいつもの口調になっちゃったよ。
「あら、普段はそんな風な話し方ですのね。
礼儀正しい子供だと思っていましたが。
どうやら、幼子に無理な話し方をさせてしまったようですね。
ですが、思った通りでしたわ。
あなた、身なりを見るに家無しということはないですわね。
一人暮らしなら、しばらくわたくしを泊めてくださらないこと。」
しまった、これカマかけだったんだ…。
おいらが、子供の一人暮らしだと当たりを付けてたんだね。
既に、周りの人に声を掛けて泊まる場所がないのを知ってたに違いない。
人畜無害そうな、おいらの家に最初から転がり込むつもりだったんだよ、きっと。
お貴族様の言うことは、例え理不尽だとしても逆らったらいけない。
父ちゃんが口を酸っぱくして言ってたし、にっぽん爺も似たような事言ってたもんね。
何でおいらがと思ったけど、おいらは騎士様のご要望にお応えする事にしたよ。トホホ…。
おいらが、トボトボと騎士様を家に案内して来ると。
隣の家の前庭でタロウが洗濯物を取り込んでいた。
「おっ、なんだ、マロン、珍しいもん連れてんじゃねえか。」
タロウ、口の利き方に気を付けた方が良いよ。
騎士様を『珍しいもん』扱いして…、気の荒い騎士だったら斬り捨てられるよ。
おいらは、タロウの軽口は無視して、騎士様を狭い前庭に招き入れたの。
馬一頭がなんとか止められる前庭、その隅っこの木においらが手綱を縛り付けると。
ゆっくりと馬を降りる騎士様、地面に足をつけて…。
そのまま、崩れ落ちたよ。
「おい、幼子、甲冑を外してくれないか。
この甲冑、重すぎて立っていられないのだ。」
おいらに助けを求める騎士様。
意外とポンコツだ、この騎士様。そんなもの着て来ないでよ…。
「おい、どうした!」
崩れ落ちた騎士様を見て、何事かと駆け付けるタロウ。
それをしり目においらは騎士様の甲冑を外すのに悪戦苦闘してたんだ。
なんで、こんなに外し難いんだよ。
そして、何とかフルフェイスの兜を脱がせると…。
兜の中から、ふわりと零れ落ちる長い金髪。
とってもサラサラで、キラキラ輝いてる。
そして、露わになったのは、…。
卵型の輪郭に、すうっと通った鼻筋、垂れ目がちの大きな目と控えめな唇。
年の頃は十七、八のとってもきれいなお姫様だった。左目の下の泣きぼくろが素敵だね。
私が騎士様に見とれていると。
何時の間にか隣居たタロウが、俯いて拳をフルフルさせてたの。
「クッ…。」
「クッ?」
何か呟きをもらすタロウ、よく聞き取れず問い返すと…。
「クッころさん、キターーーーーー!」
だから、耳元で奇声を発するのは止めってって言ってるでしょうが。
ほら、騎士様だって引いちゃったよ。
おいらの横を、キレイな白馬が通り過ぎて行ったんだ。
乗っているのは、白銀の甲冑に身を固めた人。
初めて見たけど、全身を覆う金属製の甲冑は騎士甲冑と言うものだと思う。
父ちゃんから、そんなモノがあると聞いたことがあるよ。
ということは、白馬に乗っているのは騎士さんだね。
おいらの横を通り過ぎた白馬の騎士さんは、ゆっくりと町の方へ消えて行ったよ。
おいら、騎士さんなんて初めて見た。
こんな辺境に何の用だろうね、まっ、おいらには関係ないだろうけど。
何時ものように、おいらは市場でシューティング・ビーンズの幼生を買い取ってもらったの。
その銅貨を手にして、晩ごはんを買おうと広場へ向かうと…。
「少し良いでしょうか、そこの幼子よ。
この町の領主の館は何処にあるのでしょうか、教えてもらえませんか。
一通り町の中を見たのですが、見当たらないのです。」
広場の一角に佇んでいた白馬に乗った騎士さんが、おいらに問い掛けてきたんだ。
驚いたことに、女の人の声だったよ。
でも、何で、おいらのような子供に聞くかな…。
その辺の大人を捕まえて聞けば良いのに。
もちろん、そんなことは言わないよ。
父ちゃんから、お貴族様に歯向かったら斬り捨てられるって聞いてるから。
辺境に住んでいると縁がないけど、この国は身分制度が厳しいんだって。
「はい、騎士様。
申し訳ございませんが、この町にご領主様はおられません。
私も子供ゆえ、詳しい事は存じませんが。
馬車で一日ほど東に行った隣の町のご領主様が、この町も持っているそうです。」
うーん、普段使い慣れない言葉は難しいよ、『私』なんて舌を噛みそう。
「何と、では代官屋敷は何処にあるのでしょう。」
代官屋敷?
この町にはそんなたいそうなモノは無いよ。
おいら達が住んでいる家の分譲用に小さな事務所があるだけ。
住宅街の一角に、この家と同じ間取りの家を利用した事務所が。
「代官屋敷ですか?
この町にお代官様はいらっしゃいませんが。」
「なんと、では、この町はどうやって治めていると。
税の徴収すらできないでしょうが。」
そんなことを子供のおいらに言われても知らないよ。
そもそも、この町、鉱山が閉山されてから無法地帯だもの。
あんなヤバい冒険者ギルドが、大手を振ってまかり通ってるんだから。
流石に、騎士さんも、おいらのような幼子に政に関する返答は期待していないみたい。
答えなくても、怒っている様子はないよ。
「では、どこか泊まれるような宿屋に案内してはくれませんか?」
また、難儀なことを…。
「恐れながら、申し上げます。
この町は、見ての通り寂れた辺境の町でございます。
現在は宿屋の一軒もございません。」
「何と、では、わたくしに何処へ泊れと?」
それこそ、そんなの知らないよ。
おいら、父ちゃんから貴族様の泊まれるような場所は教えてもらってないもん。
それこそ、その辺を歩いている大人の人に聞いて。
********
宿屋がないと聞いて、途方に暮れてしまった騎士さん。
もう用は済んだみたいなので、ごはんを買いに行こうと一歩足を踏み出すと。
「幼子よ、あなた、先程、町の外を一人で歩いていましたね。
見れば、まだ十歳にもならないように見受けられますわ。
町の外は魔物や人攫いがいて物騒でしょう。
親御さんは何も言わないのですか?」
どうやら、騎士さん、町の外ですれ違ったおいらに気付いていたらしい。
それで、おいらに声を掛けて来たのかな。
「おいら、三年前に父ちゃんがいなくなってから一人暮らしなんだ。
おいらが自分で稼がないと生きてけないから、危ないんて言ってられないよ。」
あっ、ついいつもの口調になっちゃったよ。
「あら、普段はそんな風な話し方ですのね。
礼儀正しい子供だと思っていましたが。
どうやら、幼子に無理な話し方をさせてしまったようですね。
ですが、思った通りでしたわ。
あなた、身なりを見るに家無しということはないですわね。
一人暮らしなら、しばらくわたくしを泊めてくださらないこと。」
しまった、これカマかけだったんだ…。
おいらが、子供の一人暮らしだと当たりを付けてたんだね。
既に、周りの人に声を掛けて泊まる場所がないのを知ってたに違いない。
人畜無害そうな、おいらの家に最初から転がり込むつもりだったんだよ、きっと。
お貴族様の言うことは、例え理不尽だとしても逆らったらいけない。
父ちゃんが口を酸っぱくして言ってたし、にっぽん爺も似たような事言ってたもんね。
何でおいらがと思ったけど、おいらは騎士様のご要望にお応えする事にしたよ。トホホ…。
おいらが、トボトボと騎士様を家に案内して来ると。
隣の家の前庭でタロウが洗濯物を取り込んでいた。
「おっ、なんだ、マロン、珍しいもん連れてんじゃねえか。」
タロウ、口の利き方に気を付けた方が良いよ。
騎士様を『珍しいもん』扱いして…、気の荒い騎士だったら斬り捨てられるよ。
おいらは、タロウの軽口は無視して、騎士様を狭い前庭に招き入れたの。
馬一頭がなんとか止められる前庭、その隅っこの木においらが手綱を縛り付けると。
ゆっくりと馬を降りる騎士様、地面に足をつけて…。
そのまま、崩れ落ちたよ。
「おい、幼子、甲冑を外してくれないか。
この甲冑、重すぎて立っていられないのだ。」
おいらに助けを求める騎士様。
意外とポンコツだ、この騎士様。そんなもの着て来ないでよ…。
「おい、どうした!」
崩れ落ちた騎士様を見て、何事かと駆け付けるタロウ。
それをしり目においらは騎士様の甲冑を外すのに悪戦苦闘してたんだ。
なんで、こんなに外し難いんだよ。
そして、何とかフルフェイスの兜を脱がせると…。
兜の中から、ふわりと零れ落ちる長い金髪。
とってもサラサラで、キラキラ輝いてる。
そして、露わになったのは、…。
卵型の輪郭に、すうっと通った鼻筋、垂れ目がちの大きな目と控えめな唇。
年の頃は十七、八のとってもきれいなお姫様だった。左目の下の泣きぼくろが素敵だね。
私が騎士様に見とれていると。
何時の間にか隣居たタロウが、俯いて拳をフルフルさせてたの。
「クッ…。」
「クッ?」
何か呟きをもらすタロウ、よく聞き取れず問い返すと…。
「クッころさん、キターーーーーー!」
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