ゴミスキルだって、育てりゃ、けっこうお役立ちです!

アイイロモンペ

文字の大きさ
上 下
28 / 848
第二章 ゴミスキルとおいらの平穏な日常

第28話 真の『勇者』かも知れないよ…、フッ(ため息)

しおりを挟む
 タロウを連れて早々にお風呂から退散したんだけど…。

「おい、マロン、おまえ、また俺の事を病気扱いしやがって。
 風呂にいた連中、みんな、おまえの言う事を信じちまったじゃねえか。
 特に、最初のババア、あのタイプは近所中に言い触らすぜ。
 どうすんだよ、俺は心を病んだ残念な男として知れ渡っちまうじゃないか。」

 見当違いの文句を付けてるタロウ、元はと言えばこいつが奇声を上げたせいじゃないか。
 おかげで、おいらもゆっくりお湯に浸かれなかったじゃない。
 文句を言いたいのはおいらの方だよ。

 だいたい、女の人をジロジロ見たらルール違反だってあれほど言ったのに。
 近くに来た美人に姉ちゃんに目が釘付けになってたよ。
 あげく、姉ちゃんの透けた裸に興奮して、奇声を上げるんだもの。
 おいらがかばってあげなきゃ、お風呂の立ち入りを禁止されてたよ。
 むしろ、おいらに感謝して欲しいくらいだ。

 でも、タロウの心配通り、次の日にはタロウのことがご近所中に知れ渡っていたの。
 心を病んだ可哀想な人として。

 タロウの故郷でも、ご近所にいたんだってあんな感じのおばさん。
 他人に知られたくない事情でも、その人に知られると翌日にはご近所中に広まっちゃうって。
 人間拡散器って呼ばれてたらしいよ。

 でも、それは悪い事じゃなかったみたい。
 ご近所に住む人は気の良い人ばかりだから、タロウのことを温かい目で見てくれているようなの。

 タロウが道を歩いてると、近所のお婆ちゃんに声を掛けられたんだって。

「あんた、心を患ってるんだって。
 若いのに大変だね。
 病なんかに負けずに、頑張って生きるんだよ。
 生きてりゃ、そのうち良いこともあるから。」

 そんな風に励ましてもらったみたい。

 見知らぬ人に声を掛けられてビックリしたって、タロウが言ってた。
 タロウは恥ずかしくて道を歩けないって言ってたけど。
 アブない人として、ご近所から爪弾きにされるよりはずっとましだと思うよ。
 多少のおかしな言動は、『病気なんだから仕方がないね』で見逃してもらえそうだしね。

 ただ、あれからお風呂に行っても、若い女の人は気味悪がって近寄らなくなったよ。
 タロウは「若い女と知り合う機会が確実に減った。」って嘆いてたけど。
 それ、自業自得だから。
 それが嫌なら、まずは変な言動を改めないと。

     ********

 それからは、あまりタロウに煩わされることも無くなったの。
 タロウが困っていると色々と近所の人が教えてくれるようになったから。

 心を病んだ可哀想な子供と言うことで、近所の人が労わってくれるの。
 人情溢れるこの町の人に感謝しなきゃね。 

 その日、おいらがシューティング・ビーンズを狩っていると。
 森の中から、スライムを詰めた布袋をしょったタロウが出て来たんだ。

 まだ、日はかなり高い時間で、仕事を終えるには早いんだけど。

「タロウ、今日はスライム捕りお終いなの?
 まだ昼過ぎだよ、もうひと稼ぎした方が良いじゃない。」

 おいらが尋ねるとタロウは。

「おう、マロンのおかげで、順調に金が貯まってるからな。
 この辺で、一つ、知識チートを披露しようかと思ってよ。
 今日は早めに切り上げて来たんだ。
 今日だって千匹近く捕まえたから十分だと思ってな。」

 『知識チート』が何だかは知らないけど。
 千匹も捕まえたなら十分な稼ぎだ、おいらが口を出すこともないね。

「あ、そう。余計なことを言ってゴメンね。」

「そうだ、マロン、鳥の卵が欲しいんだけど。
 この辺で、卵が捕れる鳥の棲み処をしってるか?」

 また、おかしなことを…。

「鳥の卵なら、市場の露天に幾らでも売ってるよ。
 取るのはけっこう大変だから買った方がお得だよ。」

「俺も市場は探したぜ。
 茹で卵とか、卵焼きとかは見つけたんだ。
 でもよ、生卵が何処を探してもねえんだよ。
 塩と酢と油はあったんで、後必要なのは生卵だけなんだ。」

「タロウ、生卵を食べるの?」

「そのまま、食う訳じゃないぞ。
 そりゃ、炊き立ての米の飯があれば、卵かけご飯をやるけどな。
 こっちで、米は見かけねえからな。 
 マヨネーズって言う、生卵から作るとっておきの調味料を作るんだ。
 うめぇんだぞ、マヨネーズ。
 俺も大好物だし、売りに出せばウケること間違いなしだ。
 マヨネーズで一儲けしようと思ってな。」

 おいらの問い掛けに、何時になく饒舌に答えるタロウ。
 どうやら、『マヨネーズ』とやらは、タロウの大好物らしい。

「ねえ、確認するけど。
 マヨネーズってのは、作る途中、さもなきゃ食べる時に火を通す?」

「うん?
 肉や魚のマヨネーズ焼きとか、マヨピザとか、トーストなんかも火を通すか。
 料理を作る時の調味料として使う時は火を通すけど。
 俺、料理男子じゃねえし、たいてい生野菜やパンにつけてそのまま食べるかな。」

 ここに『勇者』がいたよ…。
 それをやったら、肉屋のおっちゃん以上の笑い者になること間違いなしだよ。

「タロウが物知らずなのは知ってたけど。
 卵は生じゃ食べられないよ、…」

「ふ、ふ、ふ、マロン、物知らずなのどっちだ。
 おまえ、俺のことを物知らずだといつもバカにするけどな。
 どうせ、卵を生で食うと腹を壊すって言うんだろう。
 だから、未開の世界の知恵ってのはたかが知れてるんだ。
 いいか、よく聞け、生卵を食うと腹を壊すと言うのはな。
 卵の殻にサルモネラ菌という菌が繁殖しるからなんだ。
 そんなもの、『泡泡の実』を使って良く洗えば除菌できるぜ。
 良く洗ってから、使えば良いんだよ。」

 おいらの話を途中で遮って、タロウは自慢気に言ったんだ。
 なんか、凄く偉そうに言って、イヤな感じ…。

「いやだな、生卵を食べても、お腹なんか壊さないよ。
 生卵を食べると一時間くらいで指先が痙攣して…。
 その痙攣の範囲が指先から徐々に広がっていくんだよ。
 三日くらいで、心臓まで止まっちゃうの。
 『マヒ毒』って言うらしいよ、父ちゃんが言ってた。」

 生卵は絶対に食べちゃダメってのは、それこそ子供でも知ってることだよ。
 この『マヒ毒』は高熱に弱くて、じっくり火を通すと分解して旨味に変わるんだって。
 それには熱の通し加減が大事で、中途半端に熱を通しても毒は分解し切れないって。
 だから、素人料理は危ないってことで、生卵は市場で売ってないんだ。
 
「なに、それ、怖い。」

 おいらの話を聞いて顔を青くするタロウ。

「おいらには難しくて、父ちゃんの話が良く分かんなかったけど。
 なんでも、『しんかろん』ってのあって。
 その中で、環境に適応したものが生き残るって言われてるんだって。
 そんでもって、生き物が一番無防備なのが卵の時。
 当たり前だけど、卵って抵抗できないでしょう。
 だから、進化の流れの中で、捕食されないように毒を持つ卵が広まったらしいよ。」

 まあ、父ちゃんの受け売りだから、おいらの説明が正しいかは分からないけど。
 とにかく、鳥の卵に限らず、卵は毒持ちなのは物心つくとすぐに教えられる常識だ。
 うっかり口にすると命に関わるからね。

「ちくしょう、妙なところで合理的だなこの世界。
 こんなガキんちょから進化論なんて言葉が出るとは思わんかったぜ。
 それじゃあ、異世界チートの定番、マヨネーズが作れねえぞ。
 マヨネーズで一儲けして、ハーレムを作るという夢が…。」

 あれれ、さっきは鼻高々だってのに、急に萎んじゃったよ。
 タロウは『マヨネーズ』とやらを作るのを諦めたみたい。

 『勇者』の称号はお預けだね。
しおりを挟む
感想 128

あなたにおすすめの小説

我が家に子犬がやって来た!

もも野はち助(旧ハチ助)
ファンタジー
【あらすじ】ラテール伯爵家の令嬢フィリアナは、仕事で帰宅できない父の状況に不満を抱きながら、自身の6歳の誕生日を迎えていた。すると、遅くに帰宅した父が白黒でフワフワな毛をした足の太い子犬を連れ帰る。子犬の飼い主はある高貴な人物らしいが、訳あってラテール家で面倒を見る事になったそうだ。その子犬を自身の誕生日プレゼントだと勘違いしたフィリアナは、兄ロアルドと取り合いながら、可愛がり始める。子犬はすでに名前が決まっており『アルス』といった。 アルスは当初かなり周囲の人間を警戒していたのだが、フィリアナとロアルドが甲斐甲斐しく世話をする事で、すぐに二人と打ち解ける。 だがそんな子犬のアルスには、ある重大な秘密があって……。 この話は、子犬と戯れながら巻き込まれ成長をしていく兄妹の物語。 ※全102話で完結済。 ★『小説家になろう』でも読めます★

孤児院の愛娘に会いに来る国王陛下

akechi
ファンタジー
ルル8歳 赤子の時にはもう孤児院にいた。 孤児院の院長はじめ皆がいい人ばかりなので寂しくなかった。それにいつも孤児院にやってくる男性がいる。何故か私を溺愛していて少々うざい。 それに貴方…国王陛下ですよね? *コメディ寄りです。 不定期更新です!

悪役令嬢、資産運用で学園を掌握する 〜王太子?興味ない、私は経済で無双する〜

言諮 アイ
ファンタジー
異世界貴族社会の名門・ローデリア学園。そこに通う公爵令嬢リリアーナは、婚約者である王太子エドワルドから一方的に婚約破棄を宣言される。理由は「平民の聖女をいじめた悪役だから」?——はっ、笑わせないで。 しかし、リリアーナには王太子も知らない"切り札"があった。 それは、前世の知識を活かした「資産運用」。株式、事業投資、不動産売買……全てを駆使し、わずか数日で貴族社会の経済を掌握する。 「王太子?聖女?その程度の茶番に構っている暇はないわ。私は"資産"でこの学園を支配するのだから。」 破滅フラグ?なら経済で粉砕するだけ。 気づけば、学園も貴族もすべてが彼女の手中に——。 「お前は……一体何者だ?」と動揺する王太子に、リリアーナは微笑む。 「私はただの投資家よ。負けたくないなら……資本主義のルールを学びなさい。」 学園を舞台に繰り広げられる異世界経済バトルロマンス! "悪役令嬢"、ここに爆誕!

【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?

みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。 ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる 色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く

(完結)もふもふと幼女の異世界まったり旅

あかる
ファンタジー
死ぬ予定ではなかったのに、死神さんにうっかり魂を狩られてしまった!しかも証拠隠滅の為に捨てられて…捨てる神あれば拾う神あり? 異世界に飛ばされた魂を拾ってもらい、便利なスキルも貰えました! 完結しました。ところで、何位だったのでしょう?途中覗いた時は150~160位くらいでした。応援、ありがとうございました。そのうち新しい物も出す予定です。その時はよろしくお願いします。

はぁ?とりあえず寝てていい?

夕凪
ファンタジー
嫌いな両親と同級生から逃げて、アメリカ留学をした帰り道。帰国中の飛行機が事故を起こし、日本の女子高生だった私は墜落死した。特に未練もなかったが、強いて言えば、大好きなもふもふと一緒に暮らしたかった。しかし何故か、剣と魔法の異世界で、貴族の子として転生していた。しかも男の子で。今世の両親はとてもやさしくいい人たちで、さらには前世にはいなかった兄弟がいた。せっかくだから思いっきり、もふもふと戯れたい!惰眠を貪りたい!のんびり自由に生きたい!そう思っていたが、5歳の時に行われる判定の儀という、魔法属性を調べた日を境に、幸せな日常が崩れ去っていった・・・。その後、名を変え別の人物として、相棒のもふもふと共に旅に出る。相棒のもふもふであるズィーリオスの為の旅が、次第に自分自身の未来に深く関わっていき、仲間と共に逃れられない運命の荒波に飲み込まれていく。 ※第二章は全体的に説明回が多いです。 <<<小説家になろうにて先行投稿しています>>>

転生貴族のスローライフ

マツユキ
ファンタジー
現代の日本で、病気により若くして死んでしまった主人公。気づいたら異世界で貴族の三男として転生していた しかし、生まれた家は力主義を掲げる辺境伯家。自分の力を上手く使えない主人公は、追放されてしまう事に。しかも、追放先は誰も足を踏み入れようとはしない場所だった これは、転生者である主人公が最凶の地で、国よりも最強の街を起こす物語である *基本は1日空けて更新したいと思っています。連日更新をする場合もありますので、よろしくお願いします

美少女に転生して料理して生きてくことになりました。

ゆーぞー
ファンタジー
田中真理子32歳、独身、失業中。 飲めないお酒を飲んでぶったおれた。 気がついたらマリアンヌという12歳の美少女になっていた。 その世界は加護を受けた人間しか料理をすることができない世界だった

処理中です...