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第二章 ゴミスキルとおいらの平穏な日常

第27話 ヒトじゃないとは言ってたけど…

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*本日、お昼に1話投稿しています。
 まだ読み出ない方は、お手数をおかけしますが一話戻ってお読みください。
 よろしくお願いいたします。

     ********

 タロウが立ち直ったので、おいらはルールの説明を続けることにしたの。

「それから、お湯に浸かる前に必ず体を洗うこと。
 みんなで使うお風呂だから、汚れた体でお湯に浸かったらダメだよ。
 あとは…。
 そうそう、お風呂の中でお酒を飲むのは絶対ダメ。
 喧嘩をしたり、女の人に不埒を働いたり、酔っぱらいは迷惑ばっかり。
 だから、これには厳しいの。
 これを破ったら、出入り禁止になるよ。」

 本当はこっちを先に説明しないといけないのに。
 タロウが前も隠してなかったんで、あっちの話が先になっちゃった。

 一通りこの共同浴場のルールを説明して、やっとおいらもお風呂に入れるよ。

 おいら、いつも湯船の近くにしゃがみ込んで体を洗うんだ。
 まずは髪の毛からだね。
 湯船から桶にお湯を汲んで、『泡泡の実』を適当に放り込むの。
 お湯の中でそれを良く磨り潰して泡立てたら、タップリと髪の毛に付けるの。
 泡立ったお湯で髪全体が十分に湿ったら、揉み解すように髪を丹念に洗っていく。
 癖のないおいらの茶髪はスッと指が通り、洗い易くはあるんだけど。
 やっぱり、肩下まで伸ばしていると、洗うのに手間だね。

 この辺に住んでいる女の人の髪は、ほとんどが肩下までの長さなんだ。
 一部のお金持ちの女の人や娼婦のお姉さんには、腰丈まで長く伸ばした髪の人もいるけど。
 逆に、髪を短くした女の人は見かけないの。
 父ちゃんが言ってた、女の人が短い髪の毛にするのは、はしたないんだって。
 おいら、本当は、動き易くて手入れも簡単な短い髪にしたいんだけど。
 父ちゃんの教えに従って、肩下まで伸ばしているんだ。
 でも、これ、手入れが大変だよ。

 髪が洗い終わったら、今度は体。
 野っぱらを移動して、シューティング・ビーンズを狩っているから埃塗れだよ。
 野外で露出している腕やひざから下の足は特に丁寧に洗っておかないとね。

 体を洗っていると目に留まるのが。

「あれ、また出ている…。」

 つい、独り言をもらしちゃったけど、おヘソの下に浮き出たピンク色の痣のようなもの。
 普段は見えないのに、お風呂に入って体が温まると浮き出てくるの。
 いつも、体を洗っていると出てくるんだ。

 物知りだった父ちゃんにもどうして分からないらしくって、不思議がってたよ。

 体を洗い終わったら、ようやく湯船に浸かれる。
 そうそう、もう一つルールがあった。
 この湯船、無茶苦茶広いけど、泳ぐのは禁止ね。
 ちゃんと言っておかないと、タロウあたりは泳ぎそう。

    ********

 広い湯船の中、タロウと肩を並べてお湯に浸かっていると。

「異世界物のラノベだと風呂に入らない世界ってのが多くて。
 主人公が風呂を広めてチヤホヤされるってのが結構あるんだけどな。
 この世界じゃあ、こうやって風呂に入る習慣があるんか。
 これでまた、知識チートのタネが一つなくなっちまったぜ。
 まあ、俺としてはこんな広い温泉にゆったりと入れるんなら文句はないけどな。」

 なんて、タロウは勝手なことを言ってたよ。
 普通、お風呂くらい入ると思うよ。
 おいらだって、一日シューティング・ビーンズを狩ってると汚れるし、汗もかくから。
 昨日なんかお風呂に入らないで寝たら、体がベタベタしているようで気持ち悪かったよ。

 のんびり、お湯に浸かっていると。
 そろそろ、仕事を終えた人が多いのか、人が増えて来たの。
 タロウが期待してた、二十歳前後の若いお姉さんもちらほらと見えるよ。

「マロンの言う通りだな。
 若い姉ちゃんは、みんな、薄い服を着てるわ。
 たしかに、これなら興奮しそうもねえや。」

 うん、そう思ってくれていれば良いよ。
 だからといって、あんまりジロジロ見たらダメだよ。
 見られた人を不快な気分にさせちゃうから。

 それに、じっくり見てたら気付いちゃうよ。
 タロウって、スケベそうだから…。

 そんな、おいらの心配にはお構いもなく、それは起こったの。
 おいらとタロウが並んで浸かっている、そのすぐ近くの湯船の縁。
 そこにしゃがんで体を洗い始める人がいたの。
 タロウとより少し年上に見える若いお姉さん、十五、六かな。
 きれいな金髪の美人さんで、胸がとっても大きいの。

 好みのタイプみたいで、タロウの視線が釘付けになってる。
 おいら、これはヤバいと思ったね。

 おいら達の目の前にしゃがんで掛け湯をしたんだけど…。
 浴衣はとても薄い一枚布で、生成りの色をしているから。
 濡れて、体に張り付くと当然…。

「濡れ裸ワイシャツキターーーーーー!」

 またもや大声で叫んだタロウ、今度は周りにそこそこ人がいるのに。
 もうヤダー、何とかして、この男…。

 タロウの奇声に、周囲の人の視線が集まっちゃった。
 目の前で叫ばれたお姉さんなんか、ビックリして固まっちゃったよ。
 おいら、とっさにタロウの口を塞いだね。

「ごめんなさい。
 このお兄ちゃん、少し心を病んでいて。
 時々、こんな風に奇声を上げることがあるんです。
 変な事を口する以外は害はありませんので見逃してください。
 お願いします。」

 おいらは、使い慣れない丁寧な言葉を使って周りの人に謝ったよ。
 タロウの口を塞いだままで。

「おや、マロンじゃないか。
 その男はマロンの知り合いかい?
 頭のネジが緩んじまってるようだけど、本当に大丈夫なのかい?」

 そう尋ねて来たのは近所のおばさん。日頃、とっても親切にしてくれるの。

「昨日から、にっぽん爺の所に居候してるんだけど。
 にっぽん爺の故郷だと、割と普通の病気らしいよ。
 早い人だと数か月、長い人でも二年もあれば治るらしいの。
 人に乱暴を働いたりはしないから、あまり警戒しないであげて。
 このまま、お風呂も使わせてもらえると嬉しいな。」

「そうかい、まあ、マロンがそう言うんなら信じるとしようか。
 なあ、みんな、良いかい?」

 おいらの話を聞いたおばさんは、そう言って周りの人に問い掛けたんだ。

「まあ、病気じゃ、仕方ないね。」

「良いんじゃない。
 騒動を起こしたら、そん時摘まみ出せば良いんだから。」

「そうだよな、奇声を上げたくらいで出入り禁止は可哀想だしな。」

 周りの人のおおらかさに感謝だね。
 タロウが出入り禁止になる事態は避けられたよ。

 目の前で叫ばれた美人のお姉さんは、気味悪がって離れちゃったけど。
 それはそれで助かった。
 お姉さんが目の前にいるとタロウが鎮まらないから。

 アルトが、タロウはヒトじゃないって言ってたけど。
 まさか、馬やサルと同じだったなんて…。

 おいらは、タロウが鎮まるのを待って、そそくさとお風呂を後にしたんだ。
 おいら、タロウと一緒にお風呂に行くことは二度としないと心に誓ったよ。

 湯船に浸かっている時も気が休まらないんだもの。
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