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第一章 異世界人?何それ?
第12話 何か、妙なビョーキがあるらしい
しおりを挟む「今度は、君のことについて聞かせてはくれまいか。
竜泉院とは由緒あり気な苗字だが、良家の生まれなのかな。
大洋と書いてオーシャンと読むのも、個性的な名前だね。
キラキラネームというやつかな。」
ギルドの話が大体終わると、今度はにっぽん爺が尋ねたの。
どうやら、おっしゃんの事をもっとよく知りたいみたい。
由緒? 良家? にっぽん爺の言葉は時々難しくて良く分からないよ。
個性的ってのは分かったよ。
おっしゃんって言う名前はあんり無いんだ、どうりで変な名前だと思った。
「……だよ。」
にっぽん爺の問い掛けに、バツの悪い顔で答えるおっしゃん。
声が小さ過ぎて聞こえないよ。
「うん?何かな?
悪いね、私ももう良い歳なんで、耳が少し遠いみたいなんだ。
もう少し、大きな声で言ってもらえたら有り難いのだが。」
「だから、これは俺がネトゲで使っているキャラネームだよ!
せっかく、異世界に来たんだ。
カッコいい名前を名乗ったって良いだろうが!
日本へ帰れないんだったら、元の名前なんか関係ないだろう。」
おっしゃんは、少しヤケ気味に声を大きくして叫んだの。
それから一転、恥ずかしそうに顔を真っ赤にして俯いちゃった。
ネトゲ? キャラネーム? なんじゃそりゃ。
おっしゃんの言うことは、意味不明な事ばかりだけど。
おいらにも一つだけ分かったよ。
こいつ、初対面のおいらに、堂々と偽名を名乗ったんだね。
ますます、胡散臭くなったよ。
「聞いたらいけない事を聞いたみたいだな、悪かったよ。
てっきり私は、親御さんが中二病を患ったまま大人になった口かと思ったが。
君自体が、現在進行形で中二病だったんだね、中学二年生だけに。」
「ほっといてくれ!
大人は、すぐに中二病ってバカにするけど。
誰だって自分は特別だと思いたいもんじゃないのか。
佐藤太郎なんて、人ごみに石を投げれば当たりそうな名前はずっと嫌だったんだ。
自分だけは特別なんだって名前にしたかったんだよ。」
また何か、訳のわからない会話を始める二人のにっぽん人(?)。
中二病って何って、口を挟んだら。
中二病というのは、軽度の精神疾患だって。
おっしゃんくらいの年頃の兄ちゃん、姉ちゃんが患うんだってさ。
軽度の精神疾患? あんまり難しい言葉を使われても…。
おいらが首を傾げていると。
「自分は特別な存在なのだという誇大妄想と、過剰な自己顕示欲が相まって。
傍から見て不可解な言動をとるようになる心の病なんだ。
まあ、大概、ほんの一時の事で、然して害のある病気でもない。
精々が、傍から見ていて、鬱陶しい事と。
何年かした後に、黒歴史として当人にトラウマを残すくらいだよ。
彼のカッコいい名前を名乗るというのも、その一症状なんだ。
マロンを騙そうとか、悪気があった訳では無いから許しておくれ。」
理解していないおいらに、にっぽん爺は嚙み砕いて教えてくれたの。
中二病に罹ると、稀に本当の名前とは違う名前を名乗りたがる人が出るんだって。
真名だとか、魂の名前だとか言って。
発熱してうなされているようなモノだから、笑って許してやれって。
それに、異名を名乗るなんて症状としては可愛い方なんだって。
中には、突然右手で自分の左腕を押さえて。
「俺の左腕に潜んだ闇の力が疼くぜ」
などということを急に叫ぶ症状もあるらしいよ。
それって、単に腕が痺れているだけじゃないの?
中二病って、そんな風に人によって症状が違うらしいの。
一年から数年でケロっと治る人が殆どなので、みんな然して気にしていないって。
でも、近くにそんな人がいたら、確かに鬱陶しいね。
にっぽん爺の話を聞いて、病気なら仕方がないと思ったの。
おいらは、おっしゃんが名前を偽ったことを笑ってゆるすことにしたよ。
でも、おっしゃんは本当の名前の何処が気に入らないのだろう?
おっしゃんよりもタロウの方が発音し易くて良いのにね。
おいらは、これからタロウって呼ぶことにしよう。
********
「それで、佐藤太郎君、君は今十四歳だと言ったが。
君が生きている時代は、どんな時代なのだい。
五十年後の日本がどうなっているのか。
私は、とても興味があるのだが。」
おっしゃん改め、タロウに故郷の今の様子を訪ねたにっぽん爺。
故郷を後にして五十年も経っていたら、大分変っているんだろうね。
「どんな時代かと言われても…。
俺、ニュースなんて見ねえもんな。
俺的に一番のニュースと言ったら公園前の交番のマンガが終ったことかな。
あれスゲーな、俺の親父が子供の頃から続いてたんだってな。
他には、何だっけまた、なんたら四六とかいうアイドルがデビューしてたぜ。
俺、あんま、リアルのアイドルは興味ないけど、あのシリーズ良く続くよな。
他には…、そうそう春に新幹線が函館までつながったわ。」
にっぽん爺に尋ねられて、元いた場所の事を話し始めたタロウ。
マンガとかラノベとかゲームとかに夢中で、世の中のことはあんまり知らないって。
タロウは記憶を辿るように、途切れ途切れに世の中の出来事を話していたんだけど。
「おいちょっと、待っておくれ。
君はいったい、いつの時代からやって来たのだ?」
「うん? いきなりなんだ?
ついさっきまで、俺がいたのは平成二十八年の十月だぞ。
十月一日が誕生日で十四になったばっかりだ。」
「何と言うことだ…。
この世界は、どこまで私に意地悪をすれば気が済むのだ…。」
タロウの返答を聞いて、声を震わせて呟いたにっぽん爺。
その表情からはいつもの穏やか微笑みが消え、頬を伝わって涙が零れ落ちたの。
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