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第一章 異世界人?何それ?

第2話 変な兄ちゃんが寄ってきた

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 おいらは頭のおかしい兄ちゃんを放って、お目当ての草原にやって来たよ。
 この草むらにおいらのメシのタネが沢山生えてるの。
 ここに来れば、どんな貧乏人でも食いっぱぐれることが無い有り難い場所なんだ。

 おいらがお目当ての群生地を見つけ、慎重に近づいて行くと…。

「おい、ちょっと待てったら!
 まだ、聞きたいことがあるんだ!」

「あっ、バカ!」

 おいらに大きな声で話しかけてきたのは、例の兄ちゃん。
 その声に、おいらのお目当てのモノが反応したんだ。

『ピュン、ピュン、ピュン』

 小さな風切り音を立てて、そいつは兄ちゃんに飛んでいく。

「なんだ、これ、痛て、痛て…。
 なんだこれ、鬱陶しいな!」

 そんな兄ちゃん怒鳴り声に反応して、更に。

『ピュン、ピュン、ピュン』

「痛てえって言ってるだろう!
 何なんだこれは、全く。
 お、おや、なんか、足に力が入んねえぞ…。」

 拙い、拙い、放っておくとあの兄ちゃん動けなくなっちゃう。
 私は静かに後ろに回り込むと、

「えいっ!」

 持っていた包丁でそいつらを根元から刈り取った。

「あー、いてえ、いったい今のは何だったんだ?
 急になんか飛んできて、あたっても大して痛い訳じゃないけど。
 微妙に鬱陶しい痛さだったぜ。
 ずっと撃たれていたら、体が痺れて来るし、ホント、何なんだ、あれは。」

「にいちゃん、何も知らないんだね。
 これは、シューティング・ビーンズ。
 近寄る敵に豆粒を飛ばしてくる植物型の魔物だよ。
 豆粒に軽い毒があって、あたると痺れるの。
 物音に敏感に反応するから、近寄る時に声を出しちゃダメだよ。」

 ホント、変なに兄ちゃんだ、そんなの子供でも知っている事なのに…。
 頭がおかしい兄ちゃんだと思っていたけど、頭が足りないんだね。

 このシューティング・ビーンズ、もっぱらネズミとか、リスとかを捕まえて食べるんだ。
 人間にはちょっと痺れるだけだけど、ネズミやリスなんかだと痺れて動けなくなる。
 そこを根っこで絡め捕って、養分を吸うんだって。
 時々、干からびたネズミやリスが落ちていることがあるの。

 人にとっては、あたっても鬱陶しいだけで、大したことないんだけど。
 さっきの兄ちゃんみたいに、無防備にあたりっ放しだと痺れて動けくなることがあるんだ。
 流石に、人の養分を吸い尽くすって事はないと思うけど、もしもの事があるからね。

「シューティング・ビーンズって、あれこれ大豆か?
 なんだよ、まんま豆鉄砲だってか。」

 兄ちゃんが豆粒を素手で拾ってぼやいてる。
 知らないよ、指先が痺れて、しばらく動かなくなっても。

 案の定、指先が痺れたようで、豆を落としてるし…。

「それで、おまえ、こんな物騒な草が生えているとこで何してるんだ。」

「おいら?
 おいらは、シューティング・ビーンズの幼生を取りに来たの。
 ほら、これ、市場に持って行くとそこそこの値段で売れるんだ。
 塩茹でにして食べると美味しいんだって。」

 シューティング・ビーンズは成熟するまで、豆粒を飛ばす事が出来ないんだ。
 そのサヤに収まった未熟な豆粒を塩茹でにすると、お酒の摘みに良いんだって。
 未熟な間は、毒もないらしいよ。

「おっ、枝豆じゃん。
 うん、確かに塩茹でにすれば美味いな。
 でも、おまえ、食ったこと無いのか?
 自分で、取っているのに?」

「だって、これ全部売り物だもの。
 これを売って、パンやお肉を買うんだ。
 屋台で肉串を買えば、すぐ食べられるのに。
 なんで、塩茹でしないといけない物を食べる必要あるのさ。
 子供の一人暮らしじゃ、火を熾すんだって大変なんだからね。」

 全く、塩茹でなんて簡単にできる訳ないじゃない。
 おいらには火を熾すのだって一苦労なのに。

「おまえ、何言ってんだ?
 火なんて、ライターがあれば、簡単に点くだろう。
 それに、ここは異世界なんだし、火の魔法とか無いのか?  
 ファイアーとかって。」

「ライター?魔法?何それ?
 火って言えば、火打石で点けるに決まってるでしょう。
 なかなか火が点かなくて疲れちゃうんだ。」

 ライターとか、魔法とか、どんなものだか知らないけど。
 簡単に火を点けられるモノがあったら便利で良いよね。
 この兄ちゃんが、何処からきたのかは知らないけど。
 兄ちゃんの住んでいたとこには、そんな便利なものがあったんだ。

「げっ、マジかよ…。
 なんて、無理ゲーの世界。
 いやまてよ、そんな遅れた世界なら…。
 ラノベみたいに、知識チートができるかも。」

 また、ブツクサ言い始めたよこの兄ちゃん。独り言多いな…。
 しかし、この兄ちゃん、助けてもらったのに「ありがとう」も言えないんか。
 人の事は、「おまえ」呼ばわりだし、良い歳して礼儀を知らん奴だな。
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