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第18章 冬、繫栄する島国で遭遇したのは

第543話 あれからもう一年です

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 そして、今年で三回目となる『スノーフェスティバル』は始まります。

「ねえ、まま、はやく、はやく。」

 私の手を引いて急かすサリーと共に『クリスタルゲート』に向かう私達主催者。
 なし崩し的に何の準備も無く始まった一昨年はもとより、ちゃんと準備を整えて告知を打った昨年も開会式はしませんでした。
 元々、子供達が楽しむために始めたお祭りですから、今年も固いことは抜きです。

 閉じていたゲートを開き、主催者一同が並んでお客さんを迎え入れたらお祭りの始まりです。
 昨年、スラムの子供達と王都の町の人に邪険にされて、入場を阻まれていたサリーやエリー達ですが。
 今年は、私と一緒に並んでお客さんをお迎えする側になりました。

「「いらっしゃいませ!」」

 無垢な笑顔でお客さんに歓迎の言葉を掛けるサリーとエリー。

「まあまあ、可愛らしいお嬢ちゃんだこと。
 大公様のご令嬢ですか?」

 サリーとエリーに声を掛けられたご婦人が目を細めて、私に尋ねてきました。
 ご婦人の目には、私達が本当の母娘おやこに映ったようですね。
 このとても愛らしく、礼儀正しいこの二人が、昨年入場を阻まれていたスラムの子供だとは思いもしないでしょう。

 実際問題、私の年齢では、サリーやエリーの歳の子供がいる訳ないですが。
 本当の母娘に見えるくらい自然な関係になれたのであれば喜ばしいことです。

「はい、私の可愛い娘、私の宝物ですのよ。」

 私がそう返すと、ご婦人は二人に向かって言います。

「あら、宝物ですって。優しいママで良いわね。」

「「うん、まま、だーいすき!」」

 二人の無邪気な返事に、ご婦人は更に目を細めていました。

     **********

 そんな感じで、メリハリなく開催した『スノーフェスティバル』ですが。
 今年は、出店を募った結果屋台の数が増えたり、昨年好評だった『雪像作り』も参加希望者が増えたりで、会場を大分広げる事になりました。

「はーい!雪像づくりの会場はこちらです!
 予めお渡しした番号札と同じ番号の区画で制作を始めてください。
 与えられた区画に収まれば大きさは自由ですが。
 区画からはみ出したら失格です。」

 『雪像づくり』担当のノノちゃんが、大きな声で参加者に呼びかけていました。

「よう、嬢ちゃん、一年振りだな! 今年も世話になるぜ!
 ガハハハッ!」

 笑いながらノノちゃんに声を掛けているのは、昨年ノノちゃんの制作を手伝ってくれた方のようです。
 昨年は先着にもれて、グループとして参加できずノノちゃんの手伝いに回ったのですが。
 どうやら、今年は無事に参加枠を手に入れた様子です。

 見ていると、昨年に引き続き参加している方が多いようで、さっそくノノちゃんは取り囲まれてしまいました。
 ノノちゃん、とても人気者のようです。

 そんなノノちゃんは、『雪像作り』会場の運営はしますが、今年は出品はしません。
 今年は、来場した子供達を相手に『雪像作り』を楽しんでもらう事にしたのです。
 この会場には、雪ウサギなど、ノノちゃんが作った小さな雪像があちこちに置いてあります。
 昨年、それを目にして、来場した子供達から自分達でも作ってみたいという声が上がっていました。
 そのため、今年はノノちゃんが指導する雪像作りの体験コーナーを設けてみたのです。

「はーい!
 こんな、可愛い雪の像を作ってみたい子はいないかなー?
 お姉ちゃんと一緒に作ってみませんか。
 作り終わったら、冷えた体を温める屋台の食券をプレゼントしますよ!」

 大人たちが雪像を造り始めるのを見届けると、今度は会場の子供達にノノちゃんは呼びかけます。
 両手の手のひらを併せて、その上に自作の雪ウサギを乗せてPRしていました。
 ホント、小さな体なのに、良く通る大きな声が出せるものだと感心してしまいます。

 雪像作りは、そこそこの時間、雪の中にしゃがんで制作するので子供が体を冷やしてしまいます。
 風邪を引くといけないので、『雪合戦』同様、屋台の食券を配布することにしました。

「おねえちゃん、あたしも、うさぎさん、つくれる?」

 ノノちゃんの呼びかけにさっそく応えるチビッ子がいます。
 もちろん、ノノちゃんは快くその子を迎えて一緒に雪ウサギを作り始めました。

 そして…。

「できたー!」

 自作の雪ウサギを嬉しそうに掲げる女の子。
 子供というのは不思議なモノで、その子が嬉しそうに雪ウサギを掲げたのを見て集まってきました。
 今までは尻込みしていたのでしょうか、誰か一人が作ったのを見て自分もと思った様子です。

 いつの間にかノノちゃんの周りは小さな子供でいっぱいになっていました。

      **********

「まま、そりにのりたい!」

 子供用の小さなソリがお気に入りのようで、エリーが私の袖を引いてせがんできます。
 昨年、子供だけでもソリ遊びができるように造った小山のスロープです。

 サクラソウの丘を滑り降りる本格的なコースを小さな子供だけで滑らすのは危ないですから。
 昨年、ノノちゃんから指摘されて、アルムの農村で子供達がソリ遊びをする程度のコースを作ったのです。

 本当に緩やかで、小山の高さも三ヤード程と転んでもケガをしないように造ったのですが。
 そこはそれ、滑り降りるのは小さな子供です。
 途中でコケて雪塗れになる子が続出しました。
 誰一人として怪我をする子供はいませんでしたし、コケて雪塗れになったのを喜ぶ子供も多かったのですが。
 それでも、何かあるといけませんので、監視役はちゃんとおいています。

 昨年は、スラムでサリーとエリーの世話をしてくれたケリー君をバイトに使いましたが。
 小さな子に対する面倒見の良いケリー君は、子供とそのお母さんに大人気でした。

 そのケリー君は今では王宮の小姓をしていますので、手伝ってもらう訳にはいきません。
 そこで…。

「こら、こら、順番を守らないとダメだぞ。
 なんだ、そっちはコケちまったか。
 待ってろ、今行ってやるからな。
 あっ、そこのお前、そんなところで立ションするな!」

 ロコちゃんのお母さん、リンダさんを係に当ててみましたが、元気な子供達に振り回されているようです。
 係が一人では負担が重かったかもしれませんが。
 ロコちゃんは幼少の頃から聞き分けの良い、大人しい子供だったようですから。
 腕白な子供達に手を焼いているようです。

「おーい、大丈夫か?
 何処か痛いところは無いか?
 泣くんじゃないぞ。」

 やっと、スロープに駆け付けたリンダさんがコケた子供を抱え起こして、雪を掃ってあげました。

「おばちゃん、ありがとう。
 どこもいたくないよ、アハハ、こけちゃった。」

 助け起こされた子供も斜面でコケたのが楽しかったようです。
 起き上がれなかったのは、ケガをしたのではなく、慣れない雪に足を取られたためのようでした。

 コケた子供の手を引いて、子供用のソリを引き摺って戻って来たリンダさん。

「シャルロッテ様、見回りですか? お疲れさまです。」

「ええ、お疲れさまです。
 子供達が元気すぎて大変そうですね。
 私は、この二人をソリで遊ばせようと思って来たのですが。」

「いやあ、うちのロコももう大きくなっちまって。
 こんな小さい子供の相手をしたのは久しぶりなんで、勝手が違って…。」

 たぶん、ロコちゃんはそんなに手が掛からなかったのだと思いますよ。

 そして、…。

「ままー!」

 サリーが私の前で手を振って斜面を滑り降りて行きます。
 昨年もここがお気に入りで、何度も滑っていたようですがホントに楽しそうです。

「あやっ!」

 今度は目の前でエリーがコケました。
 サリーと同じように、私に向かって手を振ろうとしたようですが…。
 持ち手になっている綱から手を放したら、ソリが不安定になったようです。

 転んで雪塗れになったエリーを助け起こしに行くと。

「えへへ、こけちゃった。
 まま、ありがとう。」

 転倒したことを恥ずかしそうに笑うエリーの雪を掃ってあげると、とても嬉しそうな笑顔に変わります。

「そうしていると、本当の母娘おやこみたいだね。
 とても仲の良い母娘に見えるよ。」

 私の後について来たリンダさんが、私達を見て感心していました。

 サリーとエリーに出会ってから、一年が過ぎました。
 この間に、周囲の人々から本当の母娘に見られるくらい打ち解けてくれました。  

 今の二人の無垢な笑顔を見ていて、あの日出会えて本当に良かったと今更ながらに思ったのです。

 
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