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第18章 冬、繫栄する島国で遭遇したのは
第530話 この子も忘れてはいけません
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精霊と言えば、メイちゃんを見つけてくれた風の精霊がいました。
あのドラゴン(もどき)と違って忘れていた訳ではありませんが。
ごく自然に付いてきて、細々と手伝いをしてくれるものですから。
つい前々からの知り合いのように接していました。
彼女からは聞きたいことがあったので、付いて来てもらいました。
なのに、飢饉対策に奔走してしまったので全然話ができていませんでした。
ちょうどその時、風の精霊は、私の可愛い契約精霊達に混ざってお茶をしていました。
ごく自然に、昔からのその輪の中にいたように。
「うん、私?」
ショコラーデを一粒抱えて、風の精霊が私の方を見上げました。
「そう、前々から気になっていたのだけど。
あなた、以前誰か人間と契約していたことはないかしら。
名前があるとか?」
私が尋ねると風の精霊はキョトンとした顔を見せます。
それは、何故そんな事を問われるのか見当がつかないと言った表情でした。
「私は自由気ままにその辺を飛び回っているから。
ここにいるみんなの様に、特定の人と契約して一ヶ所に留まったことはないわ。
でも、何故、私が人と契約していたと思うの?」
「あなた、メイちゃんが倒れていることを知らせてくれたでしょう。
他の精霊は人が倒れていてもあまり気にしないわ。
それに、両親を亡くしたメイちゃんに対する気遣い。
ご両親が天に召されたように演出して、メイちゃんの心を慰めてくれたでしょう。
メイちゃんの村でお亡くなりになった方を弔った時もそうだわ。
人間臭いと言うか、人の感情の機微を良く知っていると言うか。
人と一緒に生活していたのかと思わせる行動が多かったから。」
私が気になっていたことを話すと、風の精霊は頷いて。
「昔はね、この島のあちこちに沢山の精霊がいて。
人と精霊は近しい存在だったのよ。
特定の人と契約しなくても、ごく普通に親交を持っていたの。
長いこと、人と接していればわかるようになるわよ。
人がどんなことを悲しみ、どうすれば心が安らかになるかをね。
私は、そのくらい長い時間、人と接してきたの。」
この風の精霊は、とてもとても長い時間を過ごしてきたようです。
おそらく、ドラゴン(もどき)同様に、この島に聖教が伝わるよりずっと前から。
精霊は人と違い永劫に近い時間を生きます。
そのため、死の概念が良く分からないそうです。
この場合の分らないと言うのは、知識としてではなく、実感としてですね。
ですが、長い時間、人と接することにより、理解できるようになったそうです。
死者を悼む気持ちや大切な人を亡くした人への接し方が。
「私達を見ようとする人達が居なくなり、人と接することは無くなったけど。
私はこの大地の人の営みを見て来たわ。
時に、人の町や村に入って、どんな暮らしぶりをしているのかもね。
それで、人の習わしの変遷なんかも見てきたのよ。」
風の精霊は、この島の人の営みに関心を持ち続けていたようです。
聖教徒が、精霊を信仰する民を迫害してしまった後も。
どうりで、色々な風習に詳しいはずです。
「人はね、どんどん変わっていくの。
私は、それを見ているのが楽しいのよ。
確かに、私達が親しくしていた人達を迫害した小憎らしい者達も居るわよ。
でも、それも含めて人の営みなのよ。
色々な考えの人がいて、時に対立し、時に手を取り合って世の中を変えてきたの。
そんな人の営みって、見ていて飽きないわ。」
今まで見て来たことを思い出しながら話しているのでしょうか。
その時の風の精霊は、とても愛しいものを見ているような眼差しをしていました。
**********
「ねえ、風の精霊さん、もし良かったら私のところに住まない。
ここなら、精霊は沢山いるし、風の精霊に限ってもいつも二人、多い時は四人いるわ。
それに、精霊が大好きな子供も沢山いるわよ。」
エリーではないですが、この風の精霊もどことなく寂しそうに見えたので誘ってみました。
「それは、私と契約したいというのかしら?」
「いいえ、別に契約など要らないわ。
ただ、私と一緒にいれば、ここにいる精霊の他にも沢山の精霊がいるし。
あなたも寂しくないんじゃないかなと思って。
契約なんかに縛られずに、あちこちを飛び回っていて構わないわよ。
他の精霊や人が恋しくなった時に私のもとに帰って来れば良いわ。
帰れる場所があるってきっと素敵な事よ。」
私は、今ここにいる私とアリィシャちゃん以外にも精霊と一緒に行動している人がいる事を伝えます。
リーナとアガサさんですね。
それと、私の持っている森が一つ精霊達の憩いの場になっている事も。
「あら、精霊の森、良いわね、それ。
でも、やめておくわ、私、この島を離れるつもりないもの。
ずっと、この島で人の営みを見て来て。
そして、これからも、この島の人の営みを見続けていくの。」
風の精霊は、そう言って私の誘いを断ってきました。
この子は、このアルビオンの地に深い愛着があるようです。
その上で、こう続けます。
「でも、冬場は人がいなくなるのよね。
寒風が吹きすさむ季節になると、人は皆家に引き籠ってしまうわ。
そうなると、私も面白くないわね。
シャルロッテは、冬の間、この館にいるのでしょう。
なら、冬の間はここに居座ろうかしら。
ここは賑やかで良いわ、お仲間も、子供達も沢山いるからね。
春までお世話になることにするわ、よろしくね。」
きっと、この心優しい風の精霊は、冷たい風を吹かせることはないのでしょう。
冬の間はこの屋敷に留まりたいと言ってくれました。
もちろん、私は大歓迎です。
「そう、子供達も喜ぶわ。
春まで、ゆっくりしていってね。
そうね、風の精霊さんだと、他にもいるし。
何と呼べばいいかしら。」
契約するのでなければ、私が名前を付けてしまう訳にはいきません。
風の精霊さんに、自分で呼び方を決めてもらう方が良いでしょう。
すると風の精霊は、
「そうね、この国の言葉で風はウインドだから…。
ウインディなんてどうかしら。
仮初めの名前だから、分かり易い方が良いわ。」
などと言って、安易に決めてしまいました。
そんな訳で、心優しい風の精霊ウィンディが春まで我が家に留まることになりました。
きっとここから、この島の各地に春風を届けに出て行くのでしょうね。
あのドラゴン(もどき)と違って忘れていた訳ではありませんが。
ごく自然に付いてきて、細々と手伝いをしてくれるものですから。
つい前々からの知り合いのように接していました。
彼女からは聞きたいことがあったので、付いて来てもらいました。
なのに、飢饉対策に奔走してしまったので全然話ができていませんでした。
ちょうどその時、風の精霊は、私の可愛い契約精霊達に混ざってお茶をしていました。
ごく自然に、昔からのその輪の中にいたように。
「うん、私?」
ショコラーデを一粒抱えて、風の精霊が私の方を見上げました。
「そう、前々から気になっていたのだけど。
あなた、以前誰か人間と契約していたことはないかしら。
名前があるとか?」
私が尋ねると風の精霊はキョトンとした顔を見せます。
それは、何故そんな事を問われるのか見当がつかないと言った表情でした。
「私は自由気ままにその辺を飛び回っているから。
ここにいるみんなの様に、特定の人と契約して一ヶ所に留まったことはないわ。
でも、何故、私が人と契約していたと思うの?」
「あなた、メイちゃんが倒れていることを知らせてくれたでしょう。
他の精霊は人が倒れていてもあまり気にしないわ。
それに、両親を亡くしたメイちゃんに対する気遣い。
ご両親が天に召されたように演出して、メイちゃんの心を慰めてくれたでしょう。
メイちゃんの村でお亡くなりになった方を弔った時もそうだわ。
人間臭いと言うか、人の感情の機微を良く知っていると言うか。
人と一緒に生活していたのかと思わせる行動が多かったから。」
私が気になっていたことを話すと、風の精霊は頷いて。
「昔はね、この島のあちこちに沢山の精霊がいて。
人と精霊は近しい存在だったのよ。
特定の人と契約しなくても、ごく普通に親交を持っていたの。
長いこと、人と接していればわかるようになるわよ。
人がどんなことを悲しみ、どうすれば心が安らかになるかをね。
私は、そのくらい長い時間、人と接してきたの。」
この風の精霊は、とてもとても長い時間を過ごしてきたようです。
おそらく、ドラゴン(もどき)同様に、この島に聖教が伝わるよりずっと前から。
精霊は人と違い永劫に近い時間を生きます。
そのため、死の概念が良く分からないそうです。
この場合の分らないと言うのは、知識としてではなく、実感としてですね。
ですが、長い時間、人と接することにより、理解できるようになったそうです。
死者を悼む気持ちや大切な人を亡くした人への接し方が。
「私達を見ようとする人達が居なくなり、人と接することは無くなったけど。
私はこの大地の人の営みを見て来たわ。
時に、人の町や村に入って、どんな暮らしぶりをしているのかもね。
それで、人の習わしの変遷なんかも見てきたのよ。」
風の精霊は、この島の人の営みに関心を持ち続けていたようです。
聖教徒が、精霊を信仰する民を迫害してしまった後も。
どうりで、色々な風習に詳しいはずです。
「人はね、どんどん変わっていくの。
私は、それを見ているのが楽しいのよ。
確かに、私達が親しくしていた人達を迫害した小憎らしい者達も居るわよ。
でも、それも含めて人の営みなのよ。
色々な考えの人がいて、時に対立し、時に手を取り合って世の中を変えてきたの。
そんな人の営みって、見ていて飽きないわ。」
今まで見て来たことを思い出しながら話しているのでしょうか。
その時の風の精霊は、とても愛しいものを見ているような眼差しをしていました。
**********
「ねえ、風の精霊さん、もし良かったら私のところに住まない。
ここなら、精霊は沢山いるし、風の精霊に限ってもいつも二人、多い時は四人いるわ。
それに、精霊が大好きな子供も沢山いるわよ。」
エリーではないですが、この風の精霊もどことなく寂しそうに見えたので誘ってみました。
「それは、私と契約したいというのかしら?」
「いいえ、別に契約など要らないわ。
ただ、私と一緒にいれば、ここにいる精霊の他にも沢山の精霊がいるし。
あなたも寂しくないんじゃないかなと思って。
契約なんかに縛られずに、あちこちを飛び回っていて構わないわよ。
他の精霊や人が恋しくなった時に私のもとに帰って来れば良いわ。
帰れる場所があるってきっと素敵な事よ。」
私は、今ここにいる私とアリィシャちゃん以外にも精霊と一緒に行動している人がいる事を伝えます。
リーナとアガサさんですね。
それと、私の持っている森が一つ精霊達の憩いの場になっている事も。
「あら、精霊の森、良いわね、それ。
でも、やめておくわ、私、この島を離れるつもりないもの。
ずっと、この島で人の営みを見て来て。
そして、これからも、この島の人の営みを見続けていくの。」
風の精霊は、そう言って私の誘いを断ってきました。
この子は、このアルビオンの地に深い愛着があるようです。
その上で、こう続けます。
「でも、冬場は人がいなくなるのよね。
寒風が吹きすさむ季節になると、人は皆家に引き籠ってしまうわ。
そうなると、私も面白くないわね。
シャルロッテは、冬の間、この館にいるのでしょう。
なら、冬の間はここに居座ろうかしら。
ここは賑やかで良いわ、お仲間も、子供達も沢山いるからね。
春までお世話になることにするわ、よろしくね。」
きっと、この心優しい風の精霊は、冷たい風を吹かせることはないのでしょう。
冬の間はこの屋敷に留まりたいと言ってくれました。
もちろん、私は大歓迎です。
「そう、子供達も喜ぶわ。
春まで、ゆっくりしていってね。
そうね、風の精霊さんだと、他にもいるし。
何と呼べばいいかしら。」
契約するのでなければ、私が名前を付けてしまう訳にはいきません。
風の精霊さんに、自分で呼び方を決めてもらう方が良いでしょう。
すると風の精霊は、
「そうね、この国の言葉で風はウインドだから…。
ウインディなんてどうかしら。
仮初めの名前だから、分かり易い方が良いわ。」
などと言って、安易に決めてしまいました。
そんな訳で、心優しい風の精霊ウィンディが春まで我が家に留まることになりました。
きっとここから、この島の各地に春風を届けに出て行くのでしょうね。
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