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第18章 冬、繫栄する島国で遭遇したのは
第525話 新しい年を迎えます
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ナンシーさんのご実家で小麦の促成栽培を行った後は、再びメアリーさん達と合流して炊き出しを続けました。
小アルビオン島で事を起こすのは、クリントさんがノースウッヅ領内で収穫した小麦の販売を終えてからです。
それまでは、炊き出しと身寄りのなくなった子供達の保護を粛々と続けることにしたのです。
結局、年末までに百五十人以上の子供を保護し、三十人ほどの働き手を失った女性を施設の職員として雇い入れることになりました。
想定よりは大分少ない感触でしたが、ナショナルトラストから借り受けた屋敷はかなりいっぱいになりました。
まあ、五人のブラウニー達は人が増えたと大喜びでしたが。
予め、ブラウニーの存在を明かし、仲良くするように言ったのが功を奏して、ブラウニーは子供達の人気者になりました。
それで気を良くしたのか、ブラウニー達は新しい住人にとても良くしてくれます。
で、恒例の十二月三十一日。
「けりーおにいたん、いらっしゃい!」
「けりーおにいたん、きょうはとまってくんだよね。
いっしょにねよー!」
昼過ぎ、館を尋ねてきたケリー君に、サリーとエリーは大喜びです。
今日は、ジョージさんから王宮の年越しパーティーにお呼ばれですが。
サリーとエリーが一緒に行きたいとごねました。
その場に居合わしたメアリーさんが、「連れて来れば良いじゃない。」と言ってくださいましたが。
年越しパーティーは、その名の通り深夜に及びます。
まだまだ幼い二人は九時前に眠くなってしまいますので、連れて行くことは出来ません。
すると、メアリーさんが一計を案じて、ジョージさんに頼み込んでくださったのです。
ジョージさんの小姓を務めているケリー君に休みを与えて、この館へ来させるようにと。
それを聞いたサリーとエリーは大喜びで、パーティーの事などすっかり忘れてしまいました。
ここのところ毎日、口を開けば「けりーおにいたん、はやくこないかな」でした。
私も口癖になりました、「はいはい、もうすぐだから、良い子にしてましょうね。」が。
「おう、サリー、エリー、久しぶりだな。良い子にしていたか。」
いきなり飛び付いて来た二人を抱きかかえるようにして、ケリー君は声を掛けていました。
そして、私の方を向くと。
「シャルロッテ様、二人に良くしてくださって有り難うございます。
会うたびに、すくすく育って、とても健康そうだし。
とても、よく笑うようになりました。
あのままスラムにいたらこんなに元気ではいられなかったと思います。
それどころか、あの冬を越せなかったかも知れません。
その二人がこんなに幸せそうに。
あの時、シャルロッテ様のお願いして本当に良かったです。」
スラムで二人の世話をしていたケリー君が私に感謝の言葉を掛けてくれました。
ケリー君こそ、まだ十二歳やそこらなのに、二人の世話をする義務など全くない他人なのに。
ケリー君の優しさと責任感の強さには、本当に頭が下がります。
「うん、まま、とってもやさしくしてくれるの。」
「いつもいっしょにねてるんだよ。」
ケリー君の言葉に反応して、二人が本当に天使のような笑顔で答えていました。
**********
ケリー君が二人のお相手を引き受けてくれたので、私は気兼ねなく王宮へ出掛けられます。
いえ、まだですね。
ケリー君とサリー、エリーが嬉しそうに話しているの光景を羨ましそうに見つめている子がいますから。
プリムちゃんは、ケリー君と同じ年頃で、淡い恋心を抱いている様子ですが。
サリーやエリーのように無邪気に懐いていく訳にはいかないようです。お年頃ですね。
「あなた達二人も、ケリー君と会うのは久しぶりでしょう。
あの三人に混じって、お話すれば良いのに。
今日は、あの三人と一緒に私のベッドで眠ると良いわ。
春から先、色々な事をしてきて、話すことは沢山あるでしょう。」
私が、プリムちゃんとロコちゃんにそう勧めると、プリムちゃんは顔を真っ赤にしていました。
本当にこの子は分かり易いです。
「そうね、私達も話に混じりましょう。
王宮でケリー君がどんな暮らしをしているのかも興味あるしね。」
そう言うと、ケリー君の幼馴染のロコちゃんが、プリムちゃんの手を取って三人のもとへ連れて行きました。
とても頭の良いロコちゃんは、プリムちゃんの想いに気付いている様子です。
今日は、ステラちゃんにお願いして最高の食事を用意してもらいました。
この館に住む全ての人に、美味しい食事をお腹いっぱい食べてもらって幸せな気分で新しい年を迎えられるように。
そして私は、領主としての仕事で忙しいリーナが姿を現したので、王宮に向かうことにします。
「ええっと、シャルロッテ様、何故、私がご一緒しないといけないのでしょうか?
王宮ですよね、パーティーの出席者って厳選されたVIPばかりですよね。
私、平民ですよ、しかも、貴族のお嬢様のデビュー年齢にも達していない。」
ここ数年毎年ご招待を受けている年越しパーティー、国王であるジョージさん主催の非公式パーティーです。
ジョージさんの『身内』だけを招待したほんの三十人程の規模的には極めて小規模な。
ですが、これ、ジョージさんから『身内』と認定された人だけが招かれる、貴族達羨望のパーティーなのです。
毎年、私とリーナ宛に招待状をもらうのですが、今年トリアさんが持って来た招待状は三通ありました。
「ジョージさんとは以前から親しくしているでしょう。
私が留守の時にジョージさんがやって来ると、ノノちゃんが話し相手をしているじゃない。
それに今年は、メアリーさんが推薦してくださったのよ。
小アルビオン島の飢饉対策に最初から協力してくれた労をねぎらうために。
今年限りよ、滅多に出席出来るモノじゃないから、楽しめば良いのよ。」
「楽しめませんよ、周りがお偉いさんばかりでは。
それに、私、シルクのドレスなんて初めて着ます。
このドレスを汚してしまったら大変だと思うと、緊張して食事も出来ません。」
ノノちゃんが緊張してしまうと言っているドレスは、おじいさまが帝都で仕立てて下さいました。
ノノちゃん、着ていける服がないとの理由でお断りの返事を出そうとしていたのですが。
おじいさまが、逃げ道を塞ぎました。
ノノちゃんが貰った招待状を目にしたおじいさまが、絶対に断ったらダメだと言って。
馴染みの服屋に特急で仕立てさせたのです。私も作ってもらった服屋さんです。
ノノちゃんの後ろでは、「わあ、お姉ちゃん、きれい。どっかのお姫様みたい」なんて言ってナナちゃんが喜んでいます。
ほんのりと薄いピンク色に染色されたシルクのドレスは、とっても可愛らしいデザインでノノちゃんに良く似合っているのですが。
当の本人は気が気でない様子です。
そんな、パーティー初参加のノノちゃんも連れて王宮へ出発です。
**********
そして、パーティーはと言うと…。
昨年、一昨年に続き野戦病院のようになっています。
出席者はご年配の方が多く、どこかしら体を痛めています。
毎年、水の精霊アクアちゃんとシアンちゃんが、そんな出席者を癒すのがすっかり恒例になってしまいました。
「私は、毎年、このパーティーに出席するのが楽しみでね。
可愛い精霊さんにこうして悪いところを治してもらえるとは、本当に有り難いことだね。」
とても具合が良くなったという表情を見せてアクアちゃんに感謝の言葉を伝える年配のご婦人。
皆さん、口々に二人の精霊にお礼の言葉を告げています。
そんな中で。
「今年も精霊さんは大人気だね。
話しは聞いているよ、小アルビオン島の件、今回は大分露出してしまったようだね。
いっそのこと、うちに入信して、聖人認定を受けてしまった方が行動し易いのではないかい。」
そんな風に話しかけてきたのは、聖教アルビオン教区のマイケル大司教です。
マイケル大司教には、王都の疫病騒動の時から懇意にさせて頂いてます。
私の魔法や精霊のことを秘密にしておきたいので、隠れ蓑になってもらいました。
「本当は不本意なのですが、新聞記者が急に来たもので隠せなかったのです。
それに、飢饉の状況が余りに酷くて、人目を気にしていられなかったと言うのもありますが。」
私は、入信の勧誘は敢えてスルーさせて貰いました、聖人認定などされても困ります。
私が苦々しく思っていることを伝えると。
「まあ、超常の力を持っていることを広く知られてしまうと、良からぬ輩も寄ってくるからの。
その気持ちは理解できるよ。
だが、今回も多くの人を救ってもらう事なった。
もちろん、その中には聖教の信者も多く含まれている。
信者に代わって、お礼を申し上げる。」
マイケル大司教はそう言って私を労ってくださいました。
「シャルロッテお嬢ちゃん、小アルビオン島の件、色々と助かったよ。
あの日、お嬢ちゃんが知らせてくれなかったら、飢饉が起こっていることに気付けなかったよ。
おかげで、被害が小さいうちに応急的な対策を打つことが出来た。
まあ、抜本的な問題は、いまミリアム君が頭を抱えているけどね。
そこは、王家が口出しすることは出来ないからね…。
そう言えば、お嬢ちゃん、何か、側面支援をしてくれるのだって。
ミリアム君が期待していたよ。」
マイケル大司教と談笑していると、このパーティーの主催者のジョージさんが加わります。
「いえ、こちらこそ、王家の方々が迅速に慈善運動を立ち上げて下さったので助かりました。
孤児の保護施設をあんなに早く創設してくださったので、私の館がパンクせずに済みました。
ジョージさんとメアリーさんのおかげです。」
「いや、お嬢ちゃんにしてもらったことも、本来は我々がしないといけないことだから。
叱られることはあっても、決して褒められたことではないな。
それにしても、今回はノノ君にも随分と活躍してもらったようだね。
メアリー叔母から、色々と聞かされているよ。
そうそう、来春にでも君にメダルを一つ上げようと思っているから。」
ジョージさんは私の言葉に自嘲的に返した後、ノノちゃんに水を向けました。
ノノちゃんは、「メダル?」とか言ってピンとこないようですが。
以前、疫病から王都を救った功労で、私の契約精霊のアクアちゃんとシャインちゃんが貰った勲章のことです。
この国で、人命救助に大功があった人に与えられる勲章で、身分、性別、国籍を問わない勲章です。
正式にはこの国で勲章とは『騎士勲章』を指し、ノノちゃんが貰うのは勲章ではなく『メダル』なのですが。
この国では私が頂いた最高位の『騎士勲章』よりも、序列で上に来る栄典だと言います。
ノノちゃんには、そのことは教えないでおきました。
もらう時になって明かされた方がサプライズがあって良いでしょうから。
そして、今年一年を締めくくるのはやはりこの子です。
「やっと、アタシの出番ね。今年も派手にやるわよ!」
火の精霊サラちゃんの威勢の良い言葉と共に、王都の夜空に大輪の花が咲きました。
これで良いのかと思いますが、サラちゃんの打ち上げる花火は毎年豪勢になっています。
花火の華麗さが増し、数もどんどん増えています。
これ、今後も続けるのかしらと不安になりますが。
見ている皆さんが、大満足なので無粋な事は言わないでおきます。
こうして、私達は新しい年を迎えることになりました。
**********
お読み頂き有り難うございます。
今年一年お読み頂きました皆様、有り難うございました。
心より感謝いたします。
来年も引き続き応援して頂けると幸いです。
皆様、良い年をお迎えください。
なお、明日の投稿はお休みさせて頂きます。
小アルビオン島で事を起こすのは、クリントさんがノースウッヅ領内で収穫した小麦の販売を終えてからです。
それまでは、炊き出しと身寄りのなくなった子供達の保護を粛々と続けることにしたのです。
結局、年末までに百五十人以上の子供を保護し、三十人ほどの働き手を失った女性を施設の職員として雇い入れることになりました。
想定よりは大分少ない感触でしたが、ナショナルトラストから借り受けた屋敷はかなりいっぱいになりました。
まあ、五人のブラウニー達は人が増えたと大喜びでしたが。
予め、ブラウニーの存在を明かし、仲良くするように言ったのが功を奏して、ブラウニーは子供達の人気者になりました。
それで気を良くしたのか、ブラウニー達は新しい住人にとても良くしてくれます。
で、恒例の十二月三十一日。
「けりーおにいたん、いらっしゃい!」
「けりーおにいたん、きょうはとまってくんだよね。
いっしょにねよー!」
昼過ぎ、館を尋ねてきたケリー君に、サリーとエリーは大喜びです。
今日は、ジョージさんから王宮の年越しパーティーにお呼ばれですが。
サリーとエリーが一緒に行きたいとごねました。
その場に居合わしたメアリーさんが、「連れて来れば良いじゃない。」と言ってくださいましたが。
年越しパーティーは、その名の通り深夜に及びます。
まだまだ幼い二人は九時前に眠くなってしまいますので、連れて行くことは出来ません。
すると、メアリーさんが一計を案じて、ジョージさんに頼み込んでくださったのです。
ジョージさんの小姓を務めているケリー君に休みを与えて、この館へ来させるようにと。
それを聞いたサリーとエリーは大喜びで、パーティーの事などすっかり忘れてしまいました。
ここのところ毎日、口を開けば「けりーおにいたん、はやくこないかな」でした。
私も口癖になりました、「はいはい、もうすぐだから、良い子にしてましょうね。」が。
「おう、サリー、エリー、久しぶりだな。良い子にしていたか。」
いきなり飛び付いて来た二人を抱きかかえるようにして、ケリー君は声を掛けていました。
そして、私の方を向くと。
「シャルロッテ様、二人に良くしてくださって有り難うございます。
会うたびに、すくすく育って、とても健康そうだし。
とても、よく笑うようになりました。
あのままスラムにいたらこんなに元気ではいられなかったと思います。
それどころか、あの冬を越せなかったかも知れません。
その二人がこんなに幸せそうに。
あの時、シャルロッテ様のお願いして本当に良かったです。」
スラムで二人の世話をしていたケリー君が私に感謝の言葉を掛けてくれました。
ケリー君こそ、まだ十二歳やそこらなのに、二人の世話をする義務など全くない他人なのに。
ケリー君の優しさと責任感の強さには、本当に頭が下がります。
「うん、まま、とってもやさしくしてくれるの。」
「いつもいっしょにねてるんだよ。」
ケリー君の言葉に反応して、二人が本当に天使のような笑顔で答えていました。
**********
ケリー君が二人のお相手を引き受けてくれたので、私は気兼ねなく王宮へ出掛けられます。
いえ、まだですね。
ケリー君とサリー、エリーが嬉しそうに話しているの光景を羨ましそうに見つめている子がいますから。
プリムちゃんは、ケリー君と同じ年頃で、淡い恋心を抱いている様子ですが。
サリーやエリーのように無邪気に懐いていく訳にはいかないようです。お年頃ですね。
「あなた達二人も、ケリー君と会うのは久しぶりでしょう。
あの三人に混じって、お話すれば良いのに。
今日は、あの三人と一緒に私のベッドで眠ると良いわ。
春から先、色々な事をしてきて、話すことは沢山あるでしょう。」
私が、プリムちゃんとロコちゃんにそう勧めると、プリムちゃんは顔を真っ赤にしていました。
本当にこの子は分かり易いです。
「そうね、私達も話に混じりましょう。
王宮でケリー君がどんな暮らしをしているのかも興味あるしね。」
そう言うと、ケリー君の幼馴染のロコちゃんが、プリムちゃんの手を取って三人のもとへ連れて行きました。
とても頭の良いロコちゃんは、プリムちゃんの想いに気付いている様子です。
今日は、ステラちゃんにお願いして最高の食事を用意してもらいました。
この館に住む全ての人に、美味しい食事をお腹いっぱい食べてもらって幸せな気分で新しい年を迎えられるように。
そして私は、領主としての仕事で忙しいリーナが姿を現したので、王宮に向かうことにします。
「ええっと、シャルロッテ様、何故、私がご一緒しないといけないのでしょうか?
王宮ですよね、パーティーの出席者って厳選されたVIPばかりですよね。
私、平民ですよ、しかも、貴族のお嬢様のデビュー年齢にも達していない。」
ここ数年毎年ご招待を受けている年越しパーティー、国王であるジョージさん主催の非公式パーティーです。
ジョージさんの『身内』だけを招待したほんの三十人程の規模的には極めて小規模な。
ですが、これ、ジョージさんから『身内』と認定された人だけが招かれる、貴族達羨望のパーティーなのです。
毎年、私とリーナ宛に招待状をもらうのですが、今年トリアさんが持って来た招待状は三通ありました。
「ジョージさんとは以前から親しくしているでしょう。
私が留守の時にジョージさんがやって来ると、ノノちゃんが話し相手をしているじゃない。
それに今年は、メアリーさんが推薦してくださったのよ。
小アルビオン島の飢饉対策に最初から協力してくれた労をねぎらうために。
今年限りよ、滅多に出席出来るモノじゃないから、楽しめば良いのよ。」
「楽しめませんよ、周りがお偉いさんばかりでは。
それに、私、シルクのドレスなんて初めて着ます。
このドレスを汚してしまったら大変だと思うと、緊張して食事も出来ません。」
ノノちゃんが緊張してしまうと言っているドレスは、おじいさまが帝都で仕立てて下さいました。
ノノちゃん、着ていける服がないとの理由でお断りの返事を出そうとしていたのですが。
おじいさまが、逃げ道を塞ぎました。
ノノちゃんが貰った招待状を目にしたおじいさまが、絶対に断ったらダメだと言って。
馴染みの服屋に特急で仕立てさせたのです。私も作ってもらった服屋さんです。
ノノちゃんの後ろでは、「わあ、お姉ちゃん、きれい。どっかのお姫様みたい」なんて言ってナナちゃんが喜んでいます。
ほんのりと薄いピンク色に染色されたシルクのドレスは、とっても可愛らしいデザインでノノちゃんに良く似合っているのですが。
当の本人は気が気でない様子です。
そんな、パーティー初参加のノノちゃんも連れて王宮へ出発です。
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そして、パーティーはと言うと…。
昨年、一昨年に続き野戦病院のようになっています。
出席者はご年配の方が多く、どこかしら体を痛めています。
毎年、水の精霊アクアちゃんとシアンちゃんが、そんな出席者を癒すのがすっかり恒例になってしまいました。
「私は、毎年、このパーティーに出席するのが楽しみでね。
可愛い精霊さんにこうして悪いところを治してもらえるとは、本当に有り難いことだね。」
とても具合が良くなったという表情を見せてアクアちゃんに感謝の言葉を伝える年配のご婦人。
皆さん、口々に二人の精霊にお礼の言葉を告げています。
そんな中で。
「今年も精霊さんは大人気だね。
話しは聞いているよ、小アルビオン島の件、今回は大分露出してしまったようだね。
いっそのこと、うちに入信して、聖人認定を受けてしまった方が行動し易いのではないかい。」
そんな風に話しかけてきたのは、聖教アルビオン教区のマイケル大司教です。
マイケル大司教には、王都の疫病騒動の時から懇意にさせて頂いてます。
私の魔法や精霊のことを秘密にしておきたいので、隠れ蓑になってもらいました。
「本当は不本意なのですが、新聞記者が急に来たもので隠せなかったのです。
それに、飢饉の状況が余りに酷くて、人目を気にしていられなかったと言うのもありますが。」
私は、入信の勧誘は敢えてスルーさせて貰いました、聖人認定などされても困ります。
私が苦々しく思っていることを伝えると。
「まあ、超常の力を持っていることを広く知られてしまうと、良からぬ輩も寄ってくるからの。
その気持ちは理解できるよ。
だが、今回も多くの人を救ってもらう事なった。
もちろん、その中には聖教の信者も多く含まれている。
信者に代わって、お礼を申し上げる。」
マイケル大司教はそう言って私を労ってくださいました。
「シャルロッテお嬢ちゃん、小アルビオン島の件、色々と助かったよ。
あの日、お嬢ちゃんが知らせてくれなかったら、飢饉が起こっていることに気付けなかったよ。
おかげで、被害が小さいうちに応急的な対策を打つことが出来た。
まあ、抜本的な問題は、いまミリアム君が頭を抱えているけどね。
そこは、王家が口出しすることは出来ないからね…。
そう言えば、お嬢ちゃん、何か、側面支援をしてくれるのだって。
ミリアム君が期待していたよ。」
マイケル大司教と談笑していると、このパーティーの主催者のジョージさんが加わります。
「いえ、こちらこそ、王家の方々が迅速に慈善運動を立ち上げて下さったので助かりました。
孤児の保護施設をあんなに早く創設してくださったので、私の館がパンクせずに済みました。
ジョージさんとメアリーさんのおかげです。」
「いや、お嬢ちゃんにしてもらったことも、本来は我々がしないといけないことだから。
叱られることはあっても、決して褒められたことではないな。
それにしても、今回はノノ君にも随分と活躍してもらったようだね。
メアリー叔母から、色々と聞かされているよ。
そうそう、来春にでも君にメダルを一つ上げようと思っているから。」
ジョージさんは私の言葉に自嘲的に返した後、ノノちゃんに水を向けました。
ノノちゃんは、「メダル?」とか言ってピンとこないようですが。
以前、疫病から王都を救った功労で、私の契約精霊のアクアちゃんとシャインちゃんが貰った勲章のことです。
この国で、人命救助に大功があった人に与えられる勲章で、身分、性別、国籍を問わない勲章です。
正式にはこの国で勲章とは『騎士勲章』を指し、ノノちゃんが貰うのは勲章ではなく『メダル』なのですが。
この国では私が頂いた最高位の『騎士勲章』よりも、序列で上に来る栄典だと言います。
ノノちゃんには、そのことは教えないでおきました。
もらう時になって明かされた方がサプライズがあって良いでしょうから。
そして、今年一年を締めくくるのはやはりこの子です。
「やっと、アタシの出番ね。今年も派手にやるわよ!」
火の精霊サラちゃんの威勢の良い言葉と共に、王都の夜空に大輪の花が咲きました。
これで良いのかと思いますが、サラちゃんの打ち上げる花火は毎年豪勢になっています。
花火の華麗さが増し、数もどんどん増えています。
これ、今後も続けるのかしらと不安になりますが。
見ている皆さんが、大満足なので無粋な事は言わないでおきます。
こうして、私達は新しい年を迎えることになりました。
**********
お読み頂き有り難うございます。
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心より感謝いたします。
来年も引き続き応援して頂けると幸いです。
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