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第18章 冬、繫栄する島国で遭遇したのは

第514話 炊き出し、そして…

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 生存者の応急処置を水の精霊アクアちゃんに委ねて、私は炊き出しの準備に掛かることにします。
 まずは、アリィシャちゃんに王都の館へ戻ってもらい、転送部屋に運び込んである諸々をこちらに送ってもらいます。

 そのために、さっそく二種類の敷物を広場に敷きます。
 アリィシャちゃんが王都へ戻るための転移魔法の発動媒体と、荷物をこちらに送るための簡易転移魔法の敷物です。
 すぐにアリィシャちゃんに王都へ戻ってもらい、荷物が送られてくる間に。

「ノミーちゃん、この辺にカマドを作ってちょうだい。
 昨日見せた鍋が、三つ乗せられるカマドを。」

「ガッテンだ!すぐに作っちゃうよ!」

 スムーズに炊き出しが出来るように、大地の精霊ノミーちゃんに使う鍋を見せて。
 それを火にかけられるカマドを作って欲しいとお願いしておきました。

 気風の良い言葉通り、あっという間に地面が盛り上がりカマドの形を成しました。
 そして、その形のまま盛り上がった土は、硬い石のカマドに姿を変えます。

「はい、いっちょう上がり!」

 元気よくカマドの完成を告げるドリーちゃん、ちょど時を同じくして転移魔法の敷物の上に鍋が現れました。
 ノノちゃんやナナちゃんでは、とても持てそうもない大鍋なので私が魔法で浮かせてカマドの上まで運びます。

 そうこうするうちに、炊き出しに使う食器や食材などが次々に転送されてきました。

「必要な物はだいたい揃ったみたいね。
 生存者の方はみんな、目を覚ましたわ。
 命に別状はないように回復させてあるから、事情を説明してあげて。
 私は、ノノちゃんと一緒に炊き出しの料理を作る方に回るわ。」

 揃った食材を見てアクアちゃんが言います。
 今日は、消化に良いスープを配るつもりなので、鍋に水を満たすのがアクアちゃんの役割です。
 たっぷりの野菜とベーコンのスープですが、ノノちゃんとステラちゃんの手で既に下拵え済みです。

 カマドに乗せた鍋にアクアちゃんが水を注ぎ、そこに食材を入れて火にかけるだけにしてきました。

「野菜とベーコンだけじゃ、物足りないでしょうからね。
 腹持ちが良いように、小麦粉を練って小さくちぎったモノで嵩増ししますね。
 野菜とベーコンの旨味が練った小麦粉に染み込んで美味しいのですよ。」

 ノノちゃんは、そんなことを言いながら野菜とベーコンを鍋に放り込んでいきます。
 小麦を練ったパスタもどきは、全体が沸騰してから入れるそうです。

 ここの場はノノちゃんに任せて、私は目を覚ました村人に説明に向かうことにしました。
 もちろん、メイちゃんを連れてです。

       **********

 メイちゃんに馬車を降りてもらい、目覚めた村人たちが集まる場所に向かいます。
 無事だったのは四十名ほど、みな衰弱していて、目を覚ましたものの起き上がる元気はないようです。

 メイちゃんは、生存者四十人と聞いて悲壮な顔つきになりました。
 それでも、実際に生き残った人々の顔を見ると、ホッとしたような表情を見せました。

「こんにちは、私はシャルロッテ・フォン・アルムハイムと申します。
 昨日、こちらにいるメイちゃんからこの村の事情は伺いました。
 少しでも手を差し伸べることが出来ればと思いやって参りました。
 みなさん、お腹を空かせている事でしょう。
 今、炊き出しの準備をしておりますので、先ずは空腹を満たして頂きたいと思います。
 色々なお話は、その後にしましょう。」

 この人達には、これから残酷な事実を告げないといけません。
 この村で生き残ったのはここにいるおよそ四十人の方だけ、百名以上の方が亡くなられたことを。
 それを先に言ってしまって、食べる物も喉を通らなくなるでしょうから、それは後回しにします。

 ただ、皆さん、呆然として私の言葉を理解できない様子でした。
 無理もありません、気付いたら広場に寝かされていて、私がいきなり話し掛けたのですから。

「みんな、気をしっかりもって。
 シャルロッテ様が、食べ物を分けてくださると言っているの。
 私達を助けに来てくださったのよ。」

 メイちゃんが、広場に横たわっている人々にそう呼びかけると。

「メイ、それは本当なの。私達、助かるの?」

 メイちゃんと同じような背格好の少女が尋ねてきます。

「ええ、そうよ、みなさんの事は私が支援をさせて頂きます。
 それについても、食後にゆっくり説明させて頂きますので。
 まずは、食事を配るまで、体を休めていてください。」

 メイちゃんに代わって私が答えると。
 その少女は、「助かったんだ…。」と一言呟くと涙を流し始めました。
 その少女の言葉にあわせるように、四十人の人々から安堵の声が聞こえます。

       **********

 そして、ややあって、ノノちゃんと私の二人で、具だくさんスープをトレーに乗せて配り始めました。

「はーい、みなさん、熱いから火傷しないように気をつけて食べてくださいね。」

 そう言ってスープの入った木製の器を手渡すノノちゃん、その後ろからは…。

「はい、おなかいっぱいたべて。」

 と声を掛けながら、手にぶら下げたバスケットからパンを手渡すサリーが続きます。

「こんな小さな貴族のお嬢様が、食べ物を配ってくださるなんて有り難いことです。」

 パンを受け取りながら、そんな言葉を口にするご婦人。
 彼女の目にはサリーが貴族のお嬢様に見えるようです。

 ノノちゃんの後ろについて歩いているのがサリーということは、当然。

「はい、ぱんもたべて。
 ままがきたから、もうだいじょうぶ。
 もう、ひもじくないよ。」

 私がスープを配る後について、エリーがパンを配って歩いています。
 今、そう言ってパンを手渡したのは、エリーと同じくらいの小さな女の子です。

「ありがとう。」

 と言って受け取ると、木匙でスープを一掬い口にして、「おいしい」と言って笑いました。
 それからは、一心不乱でスープをかきこみ、併せてパンを頬張ります。

 アクアちゃんの話ではここまで飢餓状態が続くと、本来ならこうして普通の食事は与えることが出来ないそうです。
 食べ物を消化する内臓の働きが弱っていて、最悪、食事を与えたことにより命を落とすこともあるそうです。
 そこは癒しの力を持つアクアちゃんが、メイちゃんの時同様に全員の体調を整えてくれました。

 正直、流動食を作るのは大変ですし、食べる方からしてもしっかりとお腹に溜まる方が満足感があるはずです。
 アクアちゃんの気遣いには感謝です。

 目の前の女の子は、スープとパンを食べ終わるとまだ足りないようで寂し気な顔をしました。

「はい、おかわり、どーぞ!」

 そんな少女に、エリーはすかさずもう一つパンを差し出します。
 もちろん、私もスープのお替りを手渡しました。

「ありがとう、こんないっぱいたべたの、はじめて!」

 少女は更に嬉しそうな声を上げて、スープをかき込み始めました。

 そんな感じで、手分けをして四十人程の全員にスープとパンを配り終え、お替りも配ってあげると。
 ノノちゃんの作ったスープはとても好評で、あっという間に食べ尽くしてしまいました。

 お腹がいっぱいになり人心地ついたのでしょう。
 子供たちの中に、周りを見回して「父さんと母さんは?」と尋ねる子がいました。

 どうやら、辛いことを告げないといけない時間のようです。

     **********

 生き残った人々を改めて見回すと、正確な人数は四十二名、うち男性は僅かに六人、残りの三十六人は女性でした。
 ただし、成人と思しき人は女性の十名ほど、残りは皆子供、うち男性六人全員を含めて十八人は十歳未満の幼児でした。

 本当か否かは定かでありませんが、女性の方が飢餓状態に強いと耳にした覚えがあります。
 奇しくも、この村はその通りになっているようです。
 その中で、幼子に限り男の子が生き延びたのは、おそらく我が子に生き延びて欲しいと願った両親の愛情の賜物でしょう。
 自分の食べ物を削ってでも幼子に食べ物を与えたおかげで、男女を問わず生き延びることが出来たのだと思います。

「皆さん、これから、辛いことを申し上げますが聞いてください。
 この村で、生き延びたのはここに集まっている四十二人の方のみです。
 残念ですが、私が訪れた時には既に百人以上の方がお亡くなりになっていました。」

 私がそう告げると、そこかしこからすすり泣く声が聞こえます。

「とうちゃんとかあちゃんはどこいっちゃったの。」

 六人の男の子の中で一番小さな子は、死の意味が理解できないで両親の所在を尋ねています。

「あんたの父ちゃんと母ちゃんは、遠い所に行っちゃったんだよ。
 もう会うことのできない遠い所へ…。」

 数少ない成人女性が、その男の子を抱き締めて涙ながらに言いました。
 その女性の涙に、男の子も両親に会うことが出来ないということだけは理解できたようです。
 男の子は、「とうちゃん、かあちゃん」と言って泣き出してしまいました。

「ねえ、母さん、私のお父さんももう会えないの?」

 サリー達より少しだけ歳上に見える女の子が、隣にいる女性に向かって問い掛けます。
 どうやら、このご家族は母子で生き延びることが出来たようです。

「父さんはね、私とお前に生き延びて欲しいって言って。
 自分は何も口にしないで、私とお前に食べ物を分けてくれたのよ。
 私達が今こうしていられるのは、父さんのおかげなの。
 お父さんのためにも、二人で頑張って生きていかないとね。」

 娘に尋ねられて母親が、娘を抱きしめて言いました。

 他にも、子供たちの中には号泣する子もいます。
 私は、何ともやるせない光景を目にすることになったのです。
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