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第18章 冬、繫栄する島国で遭遇したのは
第501話 一網打尽です
しおりを挟む私は自慢気に自分達の悪事を話す三人に辟易としてしまいました。
これ以上、下衆な話を聞かされるのは真っ平なので、そろそろ終止符を打つことにします。
『この組織の資金管理を担当している者は私の前に出て来なさい。』
私が『言霊』の魔法を用いて命じると、幹部の座るテーブルから一人が立ち上がり私に近づきました。
『その位置で止まりなさい。動くことを禁じます。』
暴力を振るわれると困るので、その男の間合いの外で立ち止まらせました。
もちろん、今の命令も、ブリーゼちゃんの風に乗せて倉庫全体に届けてあります。
倉庫の奥の方から全部で六人の男がこちらに向かって来ます。
今、この倉庫の中で動けるのは、資金管理を担当している者だけです。
おそらく、テーブルに着いていたのがリーダーで、他の六人が手下なのでしょう。
「おい、いったい何のつもりだ。」
私の前で立ち止まったリーダーが苛立ちの声を上げました。
私はそれを無視して六人が近づいて来るのを待ちました。
そして、六人がリーダーの位置まで近づくと、そこに制止させて命じます。
『あなた達の中に資金管理の責任者がいれば、一歩前に出て制止しなさい。』
すると、案の定、テーブルに着いていた一人が、一歩前に進み出ます。
『では、残りの六人は、この倉庫の中にある金品をここに集めなさい。
貨幣、為替証書、宝飾品、貴金属、金目の物は全てです。
一切隠し立てすることは許しません。
また、金品をここへ集める以外のいかなる行為も一切禁じます。』
私が、そう命じると。
「何をバカなことを言っている。そんな命令に誰が従うものか。」
リーダーはそう嘲り、テーブルにいる他の幹部連中も異口同音に声を上げました。
ですが、命じられた六人は、あちこちに散らばっていくと。
その中の一人は、私の前に立つリーダーの懐を探り始めました。
そして、ポイとリーダーの財布を床に放り出したのです。
「おい、お前、いったい何をしている。」
「いえ、同志評議員、私もやりたくないのですが、勝手に手が動きまして…。
あの女の命令に逆らえないのです。」
「そんな、バカなことがあるか! おい、やめるんだ!」
いざと言う時に換金するために常に身に付けているのでしょう。
リーダーの体から、金無垢のレックレス、ブレスレット、指輪を外すと…。
今度は、おもむろにリーダーの口をこじ開けて、金歯を毟り取りました。
「ぎゃーーー、痛てーよ!」
リーダーは悲鳴を上げますが、私の制止命令があり、その場に蹲ることも出来ませんでした。
リーダーの所持する金目の物を全て床に放り出した下っ端の男は、次にモーの所へ行きました。
「何するアル。
止める、ヨロシ。」
モーは自由になる拳を振るって抵抗しますが。
椅子から腰を上げることが出来ないため、大した抵抗も出来ませんでした。
あっという間に、腰から下げた大きな巾着袋を取り上げられ、やはり金無垢のアクセサリーを剥ぎ取られます。
剥ぎ取ってみてわかったのですが、こいつら常に逃亡することを念頭においてるようで。
女性よりもアクセサリーを沢山身に付けていたのです。
しかも、全て換金性の高い金無垢です。
この男は、然程の時間もかけずに幹部全員の所持する金品を集めて、私の前に積み上げてくれました。
その頃には、倉庫に散った五人も戻って来ました。
目の前に積み上げられたのは、金塊に、金貨、銀貨、それにダイヤモンドなどの宝飾品もあります。
「バカ野郎! それに手を付けるのは絶対に許さんぞ!
それは、『クリムゾン・アーミー』の武器弾薬を揃えるための資金なんだ。
それだけ、集めるのにいったい何年掛かったと思っているんだ。」
黎仁が声を荒げますが、無視です。
こんな物騒な連中の勢力を削ぐためには、活動資金を取り上げてしまうのが一番です。
私は、これ見よがしに簡易転移魔法の敷物を懐から出して床に敷きました。
そして、手始めに金塊を敷物の上に置くように命じ、それをアルムハイムの宝物庫に転送して見せます。
「おい、小娘、金塊をいったい何処へやったんだ。」
また、黎仁がうるさい声を上げました。
「いかがですか、私の魔法を目にした感想は?
凄いでしょう、我が一族自慢の魔法なのですよ。
先ほどの金塊は、千マイル以上離れた私の館に送りました。
残りも全部送っちゃいますね。」
私はそう告げて、下っ端に命じてどんどん敷物の上に金品を移動させました。
下っ端が私に従う光景を見て、連中、改めて私の『言霊』の魔法の恐ろしさを実感した様子です。
「なんてこった、今までコツコツと蓄積してきた活動資金が消えちまった…。」
吉夫が呆然とした面持ちで、そんな言葉を零しました。
大部分の金品をアルムハイムに転送し、残ったのは両替商にお金を預けている口座の証書と為替証書などです。
たぶん、実物の金塊などより、ずっと多額のお金がここに入っているんですよね。
『この証書を管理している者は、名乗り出なさい』
私が命じると、さっきから金歯を剥ぎ取られて痛そうにしていたリーダーが名乗り出ました。
『では、今より、私に命じられたことに逆らうこと禁じます。
加えて、私が命じたこと以外の行為をすることも禁じます。』
こいつには、明日、一緒に両替商に行ってもらわないといけません。
こいつらの隠し口座にある資金を吸い上げるのには、こいつのサインが要りますからね。
**********
金品の没収が終ったところで、私は改めてテーブルに座っている幹部連中に対峙します。
「いかがですか、私の魔法、大したものでしょう。
これから、あなた達全員に今まで犯してきた悪事の報いを受けて頂きます。」
私が、そう宣言すると。
「おい、悪魔! 俺達をいったいどうするつもりだ。
他人の自由を奪って、意のままに操るなんて、大悪党、初めて見たぞ。」
黎仁がそんな悪態をつきます。悪党に悪党と言われるなんて心外ですね。
「いえ、私が直接あなた方に危害を加えることはありませんよ。
あなた方は、ここアルビオン王国で、法に基づいて公正な裁きを受けて頂きます。
良かったですね、この国は三審制といって三回裁判を受けるチャンスがあるそうですよ。
それに、国選弁護人が付くんですって、テロリストでも差別はないそうですよ。」
「ホホホ、お優しい魔女アルネ。
この国の裁判、ヌルイ、ヌルイアルヨ。
アタシたち、証拠残してないアル。
せいぜい、一、二年、ブタ箱入るくらいアル。
出て来たら、報復するアル。
アタシたち、敵に回したこと、後悔するヨロシ。」
私が、公正な裁判を受けてもらうと告げるとモーが勝ち誇ったように言いました。
バカですね、私がそんなことを許す訳ないじゃありませんか。
『アルビオン王国の王都から、逃亡することを禁じます。
アルビオン王国の官憲の指示に従って移動することを命じます。
これ以降、他人から質問された事には、嘘偽りなく返答することを命じます。
返答を拒否すること、少したりとも隠し立てすることを禁じます。
他人と話す時には嘘を言うこと、建前を言うことを禁じます。
常に、真意を話し、本音を話すことを命じます。
他人を煽動することを一切禁じます。
これ以降、他人に危害を加えることを一切禁じます。
他人に命じて、別の他人に危害を加えることを一切禁じます。』
こんな所で良いでしょうか、幾ら証拠を消したところで全て消せる訳はありません。
例えば、コッソリ粛清した同志、死体を何処かに埋めていれば、その場所を自白させれば証拠が出て来ます。
簡単な事です、『今まで殺した人物は』と質問すれば、そこから糸口が掴めるのですもの。
「おい、てめえ、なんてことをしてくれる。
それじゃ、俺達のやって来たこと、俺達の組織の全容、俺達の計画、その全て権力側に知られちまうじゃねえか。
他人を扇動できない? 本音しか話せねえ? 他人に危害を加えられない?
バカ言うな、それじゃ、革命なんかできねえじゃねえか。」
やっと、ことの重大さに気付いた様子です。…遅いですよ。
だいたい、もう革命の事など考える必要ないですよ。待っているのは断頭台なのですから。
そこまでしたところで、私は風の精霊ブリーゼちゃんに首相官邸に行ってもらいました。
こいつらを捕縛してもらわないといけません。
見張りが厳しいので、全てが終ってから捕縛に動いてもらうように打ち合わせしておいたのです。
それから、小一時間して内務卿が手配してくださった官憲の人達がやって来て全員を捕らえてくださいました。
私と一緒にいた、資金管理の責任者を除いて。
もちろん、承諾済みですよ。
翌日、こいつらの資金を私の口座に移し終わったら身柄を引き渡す約束になっています。
ということで、一応、醜悪なテロリストの捕縛は終了です。
もう少し、やらないといけない事はありますけどね。
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