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第17章 夏、季節外れの嵐が通り過ぎます

第493話 寒い冬はこれが一番です

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 その晩、ノノちゃんは、クララちゃんとアリスちゃんの外泊許可をもらってきました。
 私の館に泊まって、サリー、エリーとクララちゃん達をゆっくり遊ばせるようにお願いしておいたからです。

「あったか、あったか。」

 サリーがお湯に浸かって幸せそうな声を上げます。

「うん、くらら、しゃるろってさまのおやしき、すき!
 おふろにはいれる。」

 サリーの隣でお湯に浸かるクララちゃんもお風呂がお気に入りの様子です。

「すごいね、こんなおおきなおふろ。」

 アリスちゃんの家にはお風呂があるのでしょうか。
 きっとネコ足のバスタブなのでしょう、うちのお風呂の大きさに驚いてます。

「さむいふゆが、うそみたいだね。」

 サリーは木枯らしが吹く冬の時期に体の芯から温まれることを喜んでいるようです。

 今は、チビッ子達四人をお風呂に入れているところです。
 この館、最初にあった浴室はネコ足のバスタブに一人で浸かるタイプで。
 バスタブの中で体を洗うタイプのお風呂だったのです。
 水が貴重で貴族ですら入浴する習慣のないこの国では、そんな浴室でもあるだけで贅沢なのですが。

 アルムハイムの館のお風呂は、大きな湯船に大人数でお湯に浸かるタイプです。
 そんなお風呂に慣れてしまった私には、ネコ足のバスタブでは物足りませんでした。
 なので、例によって裏庭にログハウスを建てて、大きな石の湯船に天然温泉の大浴場を造ってもらったのです。
 ノミーちゃん、ドリーちゃん、アクアちゃんには大感謝ですね。

 アルムハイムの館にももちろんありますが。
 この大きなお風呂は新たに引き取った子供たちにとても評判が良いのです。
 特に、路上で生活していた、サリー、エリー、プリムには冬の寒さが身に染みたようで。
 私がこの館に引き取って、最初にお風呂に入れた時はとても喜びました。
 それ以来、子供達はすっかりお風呂がお気に入りになってしまいました。

 私が館に留まっている時は、夕方になるとサリーとエリーが二人揃って私をお風呂に誘いに来るのです。

「まま、おふろに入ろう」って。

 そんな可愛らしい二人の誘いを断れるはずがなく、二人をお風呂に入れるのが日課の一つに加わりました。
 二人順番に、体と髪を良く洗ってあげて、体が温まるまでお湯に浸からせるのは私の仕事になりました。

 ですが、今日は、お世話が必要な小さな子供達が四人です。
 とても私一人で世話できる訳がなく、ノノちゃんとナナちゃんにも手伝ってもらいました。
 ノノちゃんも、ナナちゃんも小さな子の世話は手慣れたもので、手際よく子供達を洗っていました。

「このお屋敷のお風呂は広い洗い場があるので、子供達を洗ってあげるのが楽で良いですね。
 アリスちゃんの家のお風呂はバスタブの中で体を洗うタイプなので大変なんです。
 アリスちゃんとクララちゃんをお風呂に入れると、いかな小柄なわたしでも一緒には入れませんから。
 小柄なわたしが、バスタブの外から二人を洗うのは大仕事です。
 でも、二人にせがまれると嫌と言えなくて。」

 私の隣でお湯に浸かっているノノちゃんがそんな言葉を呟きます。
 やはり、アリスちゃんの家にはお風呂があるそうで。
 この国ではオーソドックスなネコ足バスタブだとのことでした。
 あのタイプのお風呂は、バスタブの縁がけっこう高い位置にあります。
 背の低いノノちゃんが、バスタブの外から小さなクララちゃんを洗うのは確かに大変そうです。

「わたしもシャルロッテ様のお屋敷に泊めて頂くとき一番楽しみなのは、このお風呂なんですよ。
 女学校の寄宿舎では、手桶一杯のお湯で体を拭くだけですから。
 水が貴重なアルビオン王国では毎日お湯で体を拭けるだけでも贅沢な事ですし。
 村の貧乏生活じゃ、ロクに体を拭く事も出来なかったので、有り難いことではあるのですが。
 このお風呂を知ってしまうとやはり物足りなくて。」

 ノノちゃんは、お湯に浸かりながら、こんな贅沢を言っちゃダメですねって自嘲していました。
 そう言うノノちゃんは、平民としては破格に身綺麗にしています。
 リーナに召し上げられて最初に配属されたのが領主館の厨房で。
 厨房の料理長が衛生管理に厳しい方だそうで、食中毒防止のために常に身綺麗にするように命じたそうです。
 毎日、体をお湯で洗うように指示し、そのために貴重な石鹸を支給したそうですから。

 それ以来、ノノちゃんは身綺麗にする習慣がついていて、横着な貴族よりよっぽど清潔にしています。

「私も、昨年の夏、ログハウスの温泉に入るまでお湯に浸かる習慣があるなんて知りませんでした。
 広い湯船にお湯がいっぱい張ってあってビックリしました。
 私の家じゃ、薪が勿体なくて体を拭くためのお湯さえ滅多に沸かしませんでしたから。」

 そんな、侘しい言葉を口にしたナナちゃん。
 あの村では、薪なんて幾らでも拾い放題で、水もタダだし、お湯なんか幾らでも沸かせそうですが。
 日々の煮炊きで薪は結構使うモノで、冬場の備蓄を考えると大変な量の薪が必要なようです。
 確かに、山に入れば薪自体は拾えるようですが、それを拾うための労力と蓄える場所には限りがあるようです。

「あれ以来、私、お風呂に入るのが好きになりました。
 昨年の冬、シャルロッテ様のお屋敷にお世話になって毎日お風呂に入れたのがとても嬉しかったです。
 それに、シャルロッテ様の作られた石鹸がとても良い匂いでうっとりしちゃいます。」

 子供たちに人気のこのお風呂ですが、実のところ私の館に備わったのはまだ数年前の話です。
 それまでは、かく言う私も、お湯に浸した布で体を清拭するだけでした。
 そう言った意味では、厨房勤めの頃のノノちゃんと変わらなかった訳です。

 そして、実際のところ水が貴重なアルビオン王国は勿論のこと、大陸でも入浴の習慣は一般的ではありません。
 大陸には、一部、天然の温泉が湧き出している地域があり、かろうじてその地域で入浴の習慣がある程度です。
 もっとも、おじいさまの一族は昔から入浴の習慣があるようです。
 皇宮や離宮にはネコ足のバスタブが据えられた部屋があるそうですから。
 また、アルム地方では聞きませんが、もっと北の方へ行くと蒸し風呂の習慣がある地域はあるようです。

 ともあれ、あまりお風呂は一般的ではありませんが、あれは数年前のことです。
 まだアルビオン王国に屋敷を持っていなかった頃、アルム地方に大雪の降った冬がありました。
 雪に閉ざされ、日照が全くなかった冬に、精霊達が私の健康を心配して大きなお風呂を造ってくれました。
 最初は、水の精霊アクアちゃんが張ってくれた水を火の精霊セラちゃんが沸かしてくれたのですが。
 その後、アクアちゃんが天然の温泉を引っ張って来てくれたのです。
 今では、地の底から滾々とお湯が湧き出していて、二十四時間いつでも入浴できるお風呂になっています。

    **********

 ノノちゃん、ナナちゃんと並んでお湯に浸かって、チビッ子達の微笑ましい様子を眺めていると。

「そうだ、お姉ちゃん。
 私、来年の秋に、お姉ちゃんが通っている女学校に留学させてもらえることになったの。
 シャルロッテ様が、『アルムハイム育英基金』で支援してくださるって。」

 お湯に浸かりながら、ナナちゃんが先日決まったばかりのことをノノちゃんに報告します。

「シャルロッテ様、有り難うございます。
 でも、よろしいのですか、ナナまでお世話になってしまって。
 うちばかり、シャルロッテ様に贔屓されているようで申し訳ないのですが。」

 ノノちゃんは私に感謝の言葉を告げると共に、ノノちゃん姉妹ばかり特別扱いのようで差し障りないのかと尋ねてきます。

「良いのよ、『アルムハイム育英基金』は私個人で運営しているモノだから。
 私が将来有望だと判断した子を応援するの。
 別にノノちゃん姉妹に甘い訳では無いわ。
 私はナナちゃんと接してみて、あの女学校で学ばせる価値があると思ったから留学を持ち掛けたの。
 実は、リーナもナナちゃんの事をかっていて、手許に置きたかったみたいなのよ。
 でも、留学させた方がナナちゃんのためになると思って引いてくれたのよ。
 条件はノノちゃんと同じよ。
 『アルムハイム育英基金』は何も要求しないわ、卒業後に私の下で働けなんて言わない。
 望むのはただ一つ、サボることなく真面目に学んで、それを社会のために役立ててくれること。
 だから、遠慮することはないわ。」

 ノノちゃんの心配を払拭するように言うと、ノノちゃんはナナちゃんに向かい。

「ナナ、良かったわね。
 シャルロッテ様に感謝して一所懸命に勉強するのよ。
 来年からだと、わたしも二年一緒に学べるから凄く心強いわ。
 それに、クララちゃんやアリスちゃんも喜ぶと思う。」

 祝福の言葉を投げかけていました。
 二人の喜ぶ姿を見ていると、お湯で温まった体だけではなく、心もほっこりしてきました。

「ままー、サリー、もうおふろからあがる!
 ままのいれたはーぶてぃがのみたいなー。」

 そのうち、何時ものようにサリーから風呂上がりのお茶の催促がありました。
 お風呂の後は、湯冷めする前に私が体を拭いてあげて。
 その後は、温かいハーブティを淹れてあげるのが日課になっています。

 そうですね、湯あたりする前にあがることにしますか。
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