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第17章 夏、季節外れの嵐が通り過ぎます

第485話 いつもながら酷い村です

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 村長さんの協力で、私に前に三人の男の子が集められました。
 もちろん、子供の意思だけでは決められませんので、ご両親にも来てもらいました。
 まあ、それだけではなく、田舎の農村のことです。
 物珍しさに見物人も集まっていますが。
 ちゃっかり、ナナちゃんも混じっていますしね。

 私は、最初に今年初めて試験的に男子生徒の募集をする事を告げました。
 そして、授業料は免除であることや就学中の生活は保障されることを説明します。
 宿舎、制服、食事及び生活必需品を揃えるためのお金が支給されるなどですね。
 更に、卒業後は領民学校の教師として採用する予定であることも。

「今話したことは、他の女子生徒と全く同じ待遇です。
 最初に話した通り、男の子は四人だけ、残り八十六人は全て女の子です
 ですから、今回、男子生徒を募集するに当たって、幾つかのが条件があります。
 まず第一に女の子と対等に接することを約束できることです。
 女学校だからといって男の子が差別されることはありません。
 その代わり、男の子だからといって威張ることも絶対に許しません。
 第二に、当たり前ですが真面目に授業を受けると約束できること。
 授業時間中ジッと座っていることは当然ですが。
 授業中に居眠りをすること、おしゃべりをすることも許しません。
 第三に、暴力は絶対に振るわないと約束できることです。
 他人を殴ったり、蹴ったりすることは絶対に許しません。
 喧嘩をしても良いですが、口喧嘩に限ります。
 殴り合い、取っ組み合いの喧嘩は絶対にダメです。」

 この国に限らず、旧帝国の領域およびその周辺国は男尊女卑の傾向が非常に強いのです。
 リーナは、それを非常に憂いており、自分が女王に即位した暁には法に男女平等を定めたいと言っています。
 女学校では男女平等の考えを領民に広めるべく、女生徒に男女平等の啓蒙についても取り組んでいるのです。
 なので、リーナと相談して、男女平等が守れることを第一条件にしたのです。
 リーナと私の予想では、まずここでほとんどの男の子が脱落するのではないかと。

 第二の条件は、女の子の入学に際しても約束させている事なので取り立てて男の子に限ることではありません。
 殊更にここで強調したのは、男の子の方が傾向としてジッとしているのを苦手とするからです。
 最初に念を押しておく必要があると判断し、守ってもらう条件に入れたのです。

 そして第三の条件、私の工房のサル共を見ていて感じたのですが、揉め事があるとすぐに殴り合いで決着をつけようとします。
 力でモノを言わすという習慣が、力の強い者が偉いという悪しき因習を作り出す一因にもなっていると感じます。
 もちろん、農村では力仕事が多いので、力の強い者の方が役に立つ、イコール偉いという図式もある程度理解できますが。
 この辺りの集落はそれに偏り過ぎな気がします。
 なので、女学校では取っ組み合いの喧嘩は厳禁です。
 子供と言えど人間が集まるのですもの、意見の対立が生じるのは当たり前です
 喧嘩しても良いのです、それが口喧嘩であれば。
 でも暴力はご法度です、未開の地の野蛮人ではないのですから。
 意見の対立があれば話し合いで決着をつける。
 子供のうちからその習慣を身に付けさせたいと私達は考えたのです。

 この三つの条件は絶対条件です。これが必ず守れると誓える男の子だけを入学させようと決めたのです。

      *******

 私は一通り説明を終えて。

「以上が今年の女学校における男子生徒募集のあらましです。
 待遇は今までの女生徒と全く同じなので安心してください。
 それで、何か分からないことがあれば聞いてもらえれば答えますし。
 入学希望者がいれば、この場で手を上げてくださって結構です。」

 私が三人の男の子とその両親に向かって声をかけると。

「お貴族様の言うことって、なんかよく分かんねえけど。
 なーんか、変な感じだなー。
 男が女の前で威張っちゃいけねえとか言われてても。
 父ちゃん、女がずべこべ言ったら殴りつけて黙らせろって、いつも言ってるぜ。
 他人を殴っちゃいけねえと言われたら、何にも出来ねえじゃねえ。」

 いかにも農村の子供といった雰囲気のわんぱく坊主がそんな事を言います。

「こら、おえめ、お貴族様に向かってなんて口利いてるんだ。」

 ガツン!

 隣にいた父親らしき男が、いきなり少年の頭に拳骨を落としました。

「うちの倅が失礼な口を利いて申し訳ございません。
 ですが、今回のお話し、うちは遠慮させていただきます。
 喧嘩の一つも出来ねえようじゃ、一人前の男にはなれません。
 男は殴り合いに勝ってなんぼです。
 牧場の仕事でも、嫁さんを取り合うのでも、腕っ節があってこそですから。
 五年間も、女のような生活をさせられたら、とんだ役立たずになっちまいます。」

 自分の子供に躊躇なく手加減無しの拳骨を落としたので驚きましたが。
 どうやら、この子の家庭は典型的なこの村の男が家長のようです。
 貴族に失礼な口を利くのは拙い事だとわきまえているようで。
 私に対する息子さんの物言いには怒りましたが、意見そのものは息子さんに同意のようです。

「ねえ、お貴族様。
 ジッとしてなきゃダメ、居眠りしちゃダメ、おしゃべりしちゃダメって言うけど。
 それって、どのくらいの間なんだ。」

 今度は別の子が尋ねてきました。

「そうね、この村じゃ、時計が無いから時間で言っても分からないかしら。
 だいたい、朝ごはんを食べてからお昼まで、お昼ごはんを食べてから夕方までね。
 お昼ごはんの時はゆっくり休む時間があるけど、後は間にトイレ休憩が入るくらいね。」

「えーっ! 朝から晩までかよ。
 ずっと、ジッとしてなきゃダメだって? おしゃべりもダメ?
 そんなの無理に決まってらー!
 それに、そんなんじゃ、体を鍛えられねえぜ。
 父ちゃん、子供のうちは山で木登りをしたり、走り回ったりして体を鍛えろっていつも言ってるぜ。」

「うんだ、うんだ、子供のうちは遊ぶのも仕事だ。
 山を駆けずり回って足を鍛えて、木登りをして腕や足を鍛えるだ。
 そんでもって、殴り合いの喧嘩でこぶしを鍛えて。
 一人前の男ってのはそうやって出来ていくもんだ。
 一日中、ジッとしてようもんなら裏なりのズッキーニみたいなひょろっとした男になっちまう。
 そしたら、倅は一生肩身の狭い思いをしなきゃなんねえ。そんなのダメだ。」

 この家も、似た者親子で、学校を全否定です。
 野山を走り回って、木登りって、本当にサルじゃないですか。
 大の大人が、うちの工房のサル共のような事を言うので頭が痛いです。
 この様子では、三年後領民学校を創設する時に、子供を通わせるのに苦労しそうですね。

     *******

 すると、残りの一人、他の二人に比べてやや線の細い男の子が言います。

「あの、お貴族様。
 俺、この間、そこにいるナナから話を聞かせてもらったんです。
 お貴族様の工房じゃ、村一番の暴れん坊だったゴンダーが一番下っ端だったって。
 それで、村で『裏なりのズッキーニ』って言われて虐められてた兄ちゃんが出世頭だったって。
 それって本当のことなんですか。
 もし本当なら、学校へ行って勉強した方が良いかなって。」

 その子は、言いかけの言葉をそこでいったん切って…。
 ナナちゃんから聞いた話は本当かって目で尋ねてきました。

「ええ、ナナちゃんが言ったことは全部本当に事よ。
 その『裏なりのズッキーニ』って呼ばれていた男の子。
 職長といって、とても高い給金を貰っているの。
 工房長も優秀だと褒めてから、もっともっと出世すると思うわ。
 それに、今度、とても素敵なお嫁さんを貰うのよ。」

 あえて、ゴンダー青年のことは触れませんでした、彼の名誉のために。

「お貴族様、俺、学校へ行きたいです。
 俺、この通り、幾ら鍛えても女みたいに細っこい体で。
 みんなからバカにされてたんです。
 この間、ナナから『裏なりのズッキーニ』の兄ちゃんの話を聞いて。
 この村の外なら、体つきは関係ない、頭が良いモンが偉くなれるって知ったんです。
 そのためには、最低限、読み書き算術がスラスラ出来ねえとダメだって。
 俺、この村じゃ、女にだって『うらなり』ってバカにされてるくらいだから。
 女を相手でも威張りません。
 女相手の喧嘩でも負けますので、暴力は絶対に振るいません。
 もちろん、勉強も頑張ります。
 俺、『裏なりのズッキーニ』の兄ちゃんみたいになりたいです。」

 この子、『裏なりのズッキーニ』二世みたいな存在で、村の子供達のヒエラルキーの最下層にいたようです。

「うちの倅は、体を動かすのは嫌いではないんですが。
 この通り、生まれつき体がひ弱で、これじゃあ嫁さんも来んだろうし。
 一生日陰モンだなと思ってたんです。
 それが、ナナの話を聞いてから村を出たいと言い出しおって。
 もし、学校で面倒見てもらえるんだったら、連れてってもらえんでしょうか。」

 これが父親のセリフ、どうやら息子さんに対する愛情はとても深いようで。
 村の価値観では不憫な思いをするであろう息子さんに心を痛めていた様子です。

 私は迷わずこの少年を連れ帰ることにしました。
 この子が五年後、高い給金をもらう教員になってこの村に赴任すれば。
 村の人々の体力偏重の価値観を変える良いきっかけになるのではないかと思ったから。
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