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第17章 夏、季節外れの嵐が通り過ぎます

第477話 夢を膨らませ過ぎです…

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 私の目の前では、リーナを中心に建築家のフランクさん、技術者のオークレフトさんが三人で熱心に打ち合わせをしています。
 リーナが色々と要望を伝えるとフランクさんはそれをメモに取りつつ、細かい点をリーナに確認していきます。
 また、オークレフトさんは、宿屋を新市街地のどの場所に配置していくかの助言を加えていました。

 リーナはシューネフルトの新市街地をリゾート地アルム地方の顔にしようと高い理想を抱いているし。
 今まで不遇をかこっていたフランクさんは、今こそ陽の目を見る時と意気込んでいます。
 そこに、オークレフトさんが鉄道と電気配線を上手く嵌め込もうとするものですから。

 どんどん話が大きくなり、理想的な都市デザインが描かれていきます。
 ええ、絵に描いた餅としてはとても、理想的な…。

「熱心に打ち合わせをしているところ申し訳ないけど。
 それ、予算的にどうなの?
 いえ、それ以前に、そんなあれもこれもと取り込んでいって間に合うのかしら。
 遅くても来年の七月頭には宿屋を開業したいのよね。
 後、十ヶ月、いえ、今月いっぱいに図面をだして即着工としても九ヶ月しかないの。
 工期から逆算して、リーナの要望に何処まで答えられるかを搾っていかないとダメなのでは。」

 私は議論に夢中になり、夢を膨らませていく三人に敢えて水を差すことにしました。

「うっ、確かに、施主である殿下のご要望をお伺いするつもりが、つい熱が入ってしまいました。
 コンセプトに沿った建物を造ることにのめり込み過ぎて、工期と予算のことを失念してました。
 ご指摘の通り、今うかがった殿下の要望を全て取り入れると数年がかりの工期になりますね。
 そもそも、与えられた工期では石造りの建物は無理です。」

 そう、話の流れは瀟洒な石造りの建物を造るという方向へ向かい始めていたのです。
 今から、石材を確保するだけでも、普通に考えたら来年の夏に間に合う訳がありません。

「セピアちゃんにお願いできないかしら。
 ロッテのホテルは、ノミーちゃんが三日で建ててくれたのでしょう。
 ねえ、セピアちゃん。」

 リーナが姿を消している大地の精霊セピアに問い掛けると。
 ポンッとリーナの目の前に姿を現したセピアが言いました。

「うん? おいらに何かやって欲しいの?
 良いよ、力仕事なら得意だよ。
 穴でもなんでも掘るよ。」

 開口一番セピアが口にした言葉を聞き、リーナは脱力しました。
 セピアに頼むのは無理なことだと理解したようです。

 そうでしょうとも、セピアの得意技は穴掘りですものね。
 先日、ルーネス川に橋を架けた時も、セピアが作ったのは唯々堅固な武骨な石の橋でした。
 瀟洒な意匠を施すのはお手上げで、仕上げは私が契約するノミーちゃんに手伝ってもらったのです。

 セピアに頼めば、精々が真四角な石の箱のような建物を建てるのがやっとでしょう。
 間違ってもリーナの希望する瀟洒な建物は出来ないと思います。
 第一、大地の精霊に、設計図の寸法通りに建物を建てろなんて無理スジも良い所です。
 繊細なモノを作るのが割と得意なノミーちゃんにすらできないのですから。

 精霊は人間が定めた長さの基準になど捉われませんし。
 そもそも巻き尺片手にモノを作る訳では無いのですもの。

 私がシューネフルトの新市街に建ててもらったホテルは建設期間短縮のため。
 ノミーちゃんに帝都にある宮殿を丸々模造してもらったのです。

 私の契約する大地の精霊ノミーちゃんは繊細な仕事が苦手なのではありません。
 何インチという寸法通りに造ることが苦手なのです。
 これとすっかり同じ物を造って欲しいと頼めば、ちゃんと模造することが出来ちゃいます。
 …多少寸法が違うかも知れませんが。

      ********

「しかし、木造の建物を建てるにしても、相応の規模の宿を造るとしたら。
 今から木材を集めるのは無理でしょう。
 十二月の頭から雪が降り始めてしまうので、それ以前に屋根まで乗せる必要もあります。
 屋根まで乗せてしまえば、後は冬場の雪の中でも何とか作業が出来ますから。
 そう考えると、かなり小さな宿、アルビオンではB&Bと呼ばれている程度のものしか出来ませんね。」

 冷静になったフランクさんが告げたのは、アルビオン王国で少し大きな民家が空き室を利用して営んでいる小さな宿でした。
 B&B(ベッド&ブレックファースト)という呼称は、ベッドと朝食だけを提供するという形態からそう呼ばれています。
 通常であれば営んでいる家族が住んでいるので、その分の部屋も客室に充てるとして五~十室程度の宿になるでしょうか。
 
 いきなり、現実に引き戻されてリーナも消沈してしまいます。

 さて、意気消沈してしまったリーナを立ち直らせるにはどうしたもんでしょうか。

 フランクさんの言ったネック、木材だけであれば何とでもなります。
 私が契約する植物の精霊ドリーちゃんに頼めば幾らでも用意してもらえますから。
 それこそ、乾燥させた丸太の状態で。
 ただ、建材として利用できる形の加工するのは、精霊には無理な話です。
 しかし、三階建ての大きな木造の宿屋を造るとなると、丸太から大量の建材を作らないといけません。
 短期間でそれを行うだけの職人を集めるのも難しいでしょう。

 ならば、新市街地の開発計画と来年夏に予想される宿の不足への対処は切り離してしまいましょう。

「ねえ、いっそのこと、リーナの要望する宿屋は一、二年かけてゆっくり建てたら。
 来年の宿泊客のためには、ドリーちゃんに頼んで山小屋風のログハウスを造ってもらいましょう。
 私が夏に『わくわく農村体験ツアー』に使っているログハウスと同じ物を造ればどうかな。
 ツインベッドの部屋が二十室ほどの平屋建宿に出来るわ。
 それを何処か新市街の隅の方の区画にまとめて造っておいて。
 ちゃんとした宿が出来たら取り壊していけば良いと思うの。
 ログハウスなら、電気も引かないでオイルランプでも雰囲気的には良いじゃないかしら。」

 私は、そんな提案をリーナに持ち掛けました。
 あのログハウスであれば、着工から一月で開業に漕ぎ着けられます。
 何といっても、建設に要する期間は三日間ですから。
 多分、リーナが契約する植物の精霊ベルデでも造れるでしょうし。
 不足するようであれば、幾らでも数を増やすことも出来ますからね。

「そうね、私、ヘレーネから宿が足りないと言われ。
 来年の夏までに何とかしないと拙いと言われて焦っていたわ。
 新市街地の開発に変な建物は建てたくないという思いと。
 手許にまとまった資金があったことで、つい理想ばかり追っちゃいました。
 冷静さに欠いていたようです。
 元々時間を掛けて開発するつもりでしたもの、拙速は慎むべきですね。
 いったん、目立たない場所に急場をしのぐ宿を造っておいて。
 後で取り壊すと言うのは良い案だと思います。」

 私も今思いついたのですけどね。
 元々、今年の夏に一般の方向けの宿が不足するであろうことは予想されていたのです。
 ですが、自分のホテルの事やプルーシャ公国のことに気を取られてそこまで頭が回りませんでした。
 もっと早く思いついていれば、今年の夏前にリーナに持ち掛けることが出来たのに。

 リーナが、私の提案に同意するとフランクさんが確認してきます。

「では、来年の夏までに間に合わせるという件とは別に、俺は仕事をすればよいのですか。
 最初にカロリーネ殿下がご要望された通り、アルム地方の顔となるように設計すれば良いのですね。」

「ええ、フランクさんには、先程私が出した要望を最大限取り入れた設計をお願いします。
 良い仕事を期待していますよ。」

 リーナがそう答えると、フランクさんは再びやる気を取り戻したようでした。
 まあ、ログハウスは、ドリーちゃんにおまかせで造ってもらいますので。
 フランクさんが口出しする余地はございませんね。

 リーナもあらかた要望を伝えたようですので、あとはフランクさんとオークレフトさんに検討してもらいましょう。 

 
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