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第17章 夏、季節外れの嵐が通り過ぎます

第470話 秋の夜長に

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 夏の大半をプルーシャ王に煩わされて、何とか迷惑なタヌキを懲らしめた時には八月が終っていました。
 そして今は九月の半ば。

 アルムハイムへお迎えしたおじいさまのささやかな歓迎会を催しました。
 歓迎会と言ってもおじいさまを囲んだのは、屋敷のみんなに、リーナとネーナさんを加えただけ。
 アインちゃん達ブラウニーのみんなにいつもより豪華な夕食を用意してもらって、和やかに食事をしただけです。

 それでも、おじいさまは小さな子供に囲まれて大喜びでしたし。
 子供達も、いつもより豪華なゴハンに目を輝かせていました。

 それに、

「おじいしゃま、ずっとここにいるの?
 えりー、うれしい。」

 いつもは控え目で自己主張の少ないエリーが、おじいさまがこれからずっと一緒に住むと聞くとそう言って。
 ちゃっかり、歓迎会の時におじいさまの隣の席を確保したのです。
 まあ、席次などは元から気にもしていないのですが。

 小さなエリーが、自分の隣に座りたいと主張したことがおじいさまには殊の外嬉しかったようでした。
 歓迎会の間中、ずっとエリーをかまっていたのです。

 そして、歓迎会が終ると、子供達はお眠のようで寝室に下がっていきました。
 いつもならサリーとエリーは私が一緒に眠るのですが、今日はアリィシャちゃんにその役をお願いしました。

    ********

 私達、大人組はというと…。

「なあ、ロッテや。そなたは、あまり酒は飲まないようであるが。
 今日は、少し付き合わんか。
 そなたに飲ませてあげようと思って持って来たワインがあるのだ。」

 おじいさまは、白ワインのビンを取り出しながら私を誘ったのです。
 もちろん、私だけではなく、館の大人組が揃っておじいさまの歓迎会の続きとなりました。

 おじいさまは、ワインのコルクを抜きながら…。

「このワインはな、私と婆さんが知り合ってすぐの頃、一緒に飲んだモノと同じ酒蔵のワインなのだよ。
 あれは、未曽有の旱魃に見舞われて大変な事になっておった時のことだ。
 その時は、帝国各地に雨を降らせてくれた婆さんに付き添って私も各地を巡ったのだがな。
 帝都近郊のブドウ畑に雨を降らせた後でな、そのブドウ農家が造り酒屋をしていると婆さんが耳にしたのだ。
 酒蔵で作ったワインが樽からその場で飲めると聞いて、婆さんが行ってみようと言い出してな。」

 おじいさまは、

「まあ、ワインとしてはそんな上物ではないだが。
 婆さんが好きだったワインだから、そなたに味わってもらうと思って持って来たのだ。」

 そう言いながら、私のグラスにワインを注いでくれました。

 そして、全員にワインが行き渡り、ワインに口をつけると、

「この蔵のワインの味はあの頃とちっとも変わらないな。
 私は、このワインを口にすると若かりし頃のことを。
 婆さんと巡った帝国各地のことを昨日のように思い出すのだ。」

 と懐かしそうに呟き、昔話を始めたのです。

 そう、おじいさまが、おばあさまと出会った遠い昔のことを。
 長い、長いおじいさまの話を聞き終えると、カミラさんが言いました。

「素敵な恋のお話しですこと。
 そんな風に想いを寄せてもらって。
 しかも、一族を捨ててこうして遠くアルムの地まで来るなんて。
 きっと、アーデルハイトさんもお喜びですよ。」

「そうであろうか。
 私は勝手に押し掛けて来てしまって。
 アーデルハイトが怒っているのでは無いかと心配なのだが。
 婆さんは私の事をタネの提供者としか思っていなかったようであるからな。
 こうして、ロッテの祖父を主張して居座ったら叱られるのではないかとな。」

 カミラさんの感想に、おじいさまは気弱な言葉を返しますが。

「単なるタネの提供者だなんて、アーデルハイトさんは思ってなかったですよ。
 私も子供を産んだ女だから、分かります。
 いくら、後継ぎを作って来いと言われても。
 気の乗らない男の子供を産みたいなんて思いませんよ。
 現にアーデルハイトさんは一年以上気が乗らないで、各地を放浪していたのでしょう。
 陛下と出会ったのは偶然かも知れませんが。
 一緒に帝国各地を巡る間に陛下に惹かれたのだと思いますよ。
 陛下につれなくしていたのは、陛下ではなく、陛下の一族と距離を取りたかったためですよ。
 ご本人も、そんな事を言ってらしたのでしょう。」

 実際に母親になった経験のあるカミラさんの言葉は実感のこもったもので。
 それは、おじいさまに対する単なる慰めとして掛けられた言葉とは思えませんでした。
 私は男性に惹かれた経験がないから、何とも言えませんが…。
 もし仮に、プルーシャ王みたいな男の子を産めと言われたら…、たしかに嫌だと言って逃げ出しそうです。

「そうですよ。
 私は、陛下とアーデルハイト様の若い日の事は知る由もございませんが。
 私がアンネリーゼ姫様のお付きをしていた頃、お二人で赤子のシャルロッテ姫様をあやしてらしたでしょう。
 私の目には、その時のお二人の姿はとても仲の良いご夫婦に映りましたもの。  
 きっと、アーデルハイト様にとっても陛下は特別な方だったと思いますよ。
 そうでなければ、アンネリーゼ姫様がそんなにちょくちょく皇宮へ遊びに来るのを許すはずありません。」

 かつて、お母様の専属侍女をしていたというベルタさんも、カミラさんと同じ感想を抱いているようです。

「そうであろうか。
 そうであったら、嬉しいのだが。」

 カミラさんとベルタさんの言葉を聞いて、おじいさまはポツリとそんな呟きをもらしました。
 そして、グラスに注いだワインを飲み干したのです。

 こうして、新しい住人を迎えて秋の夜長は更けていくのでした。

 おじいさまがこの地で心穏やかに過ごせるようにと願ってやみません。
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