473 / 580
第17章 夏、季節外れの嵐が通り過ぎます
第470話 秋の夜長に
しおりを挟む
夏の大半をプルーシャ王に煩わされて、何とか迷惑なタヌキを懲らしめた時には八月が終っていました。
そして今は九月の半ば。
アルムハイムへお迎えしたおじいさまのささやかな歓迎会を催しました。
歓迎会と言ってもおじいさまを囲んだのは、屋敷のみんなに、リーナとネーナさんを加えただけ。
アインちゃん達ブラウニーのみんなにいつもより豪華な夕食を用意してもらって、和やかに食事をしただけです。
それでも、おじいさまは小さな子供に囲まれて大喜びでしたし。
子供達も、いつもより豪華なゴハンに目を輝かせていました。
それに、
「おじいしゃま、ずっとここにいるの?
えりー、うれしい。」
いつもは控え目で自己主張の少ないエリーが、おじいさまがこれからずっと一緒に住むと聞くとそう言って。
ちゃっかり、歓迎会の時におじいさまの隣の席を確保したのです。
まあ、席次などは元から気にもしていないのですが。
小さなエリーが、自分の隣に座りたいと主張したことがおじいさまには殊の外嬉しかったようでした。
歓迎会の間中、ずっとエリーをかまっていたのです。
そして、歓迎会が終ると、子供達はお眠のようで寝室に下がっていきました。
いつもならサリーとエリーは私が一緒に眠るのですが、今日はアリィシャちゃんにその役をお願いしました。
********
私達、大人組はというと…。
「なあ、ロッテや。そなたは、あまり酒は飲まないようであるが。
今日は、少し付き合わんか。
そなたに飲ませてあげようと思って持って来たワインがあるのだ。」
おじいさまは、白ワインのビンを取り出しながら私を誘ったのです。
もちろん、私だけではなく、館の大人組が揃っておじいさまの歓迎会の続きとなりました。
おじいさまは、ワインのコルクを抜きながら…。
「このワインはな、私と婆さんが知り合ってすぐの頃、一緒に飲んだモノと同じ酒蔵のワインなのだよ。
あれは、未曽有の旱魃に見舞われて大変な事になっておった時のことだ。
その時は、帝国各地に雨を降らせてくれた婆さんに付き添って私も各地を巡ったのだがな。
帝都近郊のブドウ畑に雨を降らせた後でな、そのブドウ農家が造り酒屋をしていると婆さんが耳にしたのだ。
酒蔵で作ったワインが樽からその場で飲めると聞いて、婆さんが行ってみようと言い出してな。」
おじいさまは、
「まあ、ワインとしてはそんな上物ではないだが。
婆さんが好きだったワインだから、そなたに味わってもらうと思って持って来たのだ。」
そう言いながら、私のグラスにワインを注いでくれました。
そして、全員にワインが行き渡り、ワインに口をつけると、
「この蔵のワインの味はあの頃とちっとも変わらないな。
私は、このワインを口にすると若かりし頃のことを。
婆さんと巡った帝国各地のことを昨日のように思い出すのだ。」
と懐かしそうに呟き、昔話を始めたのです。
そう、おじいさまが、おばあさまと出会った遠い昔のことを。
長い、長いおじいさまの話を聞き終えると、カミラさんが言いました。
「素敵な恋のお話しですこと。
そんな風に想いを寄せてもらって。
しかも、一族を捨ててこうして遠くアルムの地まで来るなんて。
きっと、アーデルハイトさんもお喜びですよ。」
「そうであろうか。
私は勝手に押し掛けて来てしまって。
アーデルハイトが怒っているのでは無いかと心配なのだが。
婆さんは私の事をタネの提供者としか思っていなかったようであるからな。
こうして、ロッテの祖父を主張して居座ったら叱られるのではないかとな。」
カミラさんの感想に、おじいさまは気弱な言葉を返しますが。
「単なるタネの提供者だなんて、アーデルハイトさんは思ってなかったですよ。
私も子供を産んだ女だから、分かります。
いくら、後継ぎを作って来いと言われても。
気の乗らない男の子供を産みたいなんて思いませんよ。
現にアーデルハイトさんは一年以上気が乗らないで、各地を放浪していたのでしょう。
陛下と出会ったのは偶然かも知れませんが。
一緒に帝国各地を巡る間に陛下に惹かれたのだと思いますよ。
陛下につれなくしていたのは、陛下ではなく、陛下の一族と距離を取りたかったためですよ。
ご本人も、そんな事を言ってらしたのでしょう。」
実際に母親になった経験のあるカミラさんの言葉は実感のこもったもので。
それは、おじいさまに対する単なる慰めとして掛けられた言葉とは思えませんでした。
私は男性に惹かれた経験がないから、何とも言えませんが…。
もし仮に、プルーシャ王みたいな男の子を産めと言われたら…、たしかに嫌だと言って逃げ出しそうです。
「そうですよ。
私は、陛下とアーデルハイト様の若い日の事は知る由もございませんが。
私がアンネリーゼ姫様のお付きをしていた頃、お二人で赤子のシャルロッテ姫様をあやしてらしたでしょう。
私の目には、その時のお二人の姿はとても仲の良いご夫婦に映りましたもの。
きっと、アーデルハイト様にとっても陛下は特別な方だったと思いますよ。
そうでなければ、アンネリーゼ姫様がそんなにちょくちょく皇宮へ遊びに来るのを許すはずありません。」
かつて、お母様の専属侍女をしていたというベルタさんも、カミラさんと同じ感想を抱いているようです。
「そうであろうか。
そうであったら、嬉しいのだが。」
カミラさんとベルタさんの言葉を聞いて、おじいさまはポツリとそんな呟きをもらしました。
そして、グラスに注いだワインを飲み干したのです。
こうして、新しい住人を迎えて秋の夜長は更けていくのでした。
おじいさまがこの地で心穏やかに過ごせるようにと願ってやみません。
そして今は九月の半ば。
アルムハイムへお迎えしたおじいさまのささやかな歓迎会を催しました。
歓迎会と言ってもおじいさまを囲んだのは、屋敷のみんなに、リーナとネーナさんを加えただけ。
アインちゃん達ブラウニーのみんなにいつもより豪華な夕食を用意してもらって、和やかに食事をしただけです。
それでも、おじいさまは小さな子供に囲まれて大喜びでしたし。
子供達も、いつもより豪華なゴハンに目を輝かせていました。
それに、
「おじいしゃま、ずっとここにいるの?
えりー、うれしい。」
いつもは控え目で自己主張の少ないエリーが、おじいさまがこれからずっと一緒に住むと聞くとそう言って。
ちゃっかり、歓迎会の時におじいさまの隣の席を確保したのです。
まあ、席次などは元から気にもしていないのですが。
小さなエリーが、自分の隣に座りたいと主張したことがおじいさまには殊の外嬉しかったようでした。
歓迎会の間中、ずっとエリーをかまっていたのです。
そして、歓迎会が終ると、子供達はお眠のようで寝室に下がっていきました。
いつもならサリーとエリーは私が一緒に眠るのですが、今日はアリィシャちゃんにその役をお願いしました。
********
私達、大人組はというと…。
「なあ、ロッテや。そなたは、あまり酒は飲まないようであるが。
今日は、少し付き合わんか。
そなたに飲ませてあげようと思って持って来たワインがあるのだ。」
おじいさまは、白ワインのビンを取り出しながら私を誘ったのです。
もちろん、私だけではなく、館の大人組が揃っておじいさまの歓迎会の続きとなりました。
おじいさまは、ワインのコルクを抜きながら…。
「このワインはな、私と婆さんが知り合ってすぐの頃、一緒に飲んだモノと同じ酒蔵のワインなのだよ。
あれは、未曽有の旱魃に見舞われて大変な事になっておった時のことだ。
その時は、帝国各地に雨を降らせてくれた婆さんに付き添って私も各地を巡ったのだがな。
帝都近郊のブドウ畑に雨を降らせた後でな、そのブドウ農家が造り酒屋をしていると婆さんが耳にしたのだ。
酒蔵で作ったワインが樽からその場で飲めると聞いて、婆さんが行ってみようと言い出してな。」
おじいさまは、
「まあ、ワインとしてはそんな上物ではないだが。
婆さんが好きだったワインだから、そなたに味わってもらうと思って持って来たのだ。」
そう言いながら、私のグラスにワインを注いでくれました。
そして、全員にワインが行き渡り、ワインに口をつけると、
「この蔵のワインの味はあの頃とちっとも変わらないな。
私は、このワインを口にすると若かりし頃のことを。
婆さんと巡った帝国各地のことを昨日のように思い出すのだ。」
と懐かしそうに呟き、昔話を始めたのです。
そう、おじいさまが、おばあさまと出会った遠い昔のことを。
長い、長いおじいさまの話を聞き終えると、カミラさんが言いました。
「素敵な恋のお話しですこと。
そんな風に想いを寄せてもらって。
しかも、一族を捨ててこうして遠くアルムの地まで来るなんて。
きっと、アーデルハイトさんもお喜びですよ。」
「そうであろうか。
私は勝手に押し掛けて来てしまって。
アーデルハイトが怒っているのでは無いかと心配なのだが。
婆さんは私の事をタネの提供者としか思っていなかったようであるからな。
こうして、ロッテの祖父を主張して居座ったら叱られるのではないかとな。」
カミラさんの感想に、おじいさまは気弱な言葉を返しますが。
「単なるタネの提供者だなんて、アーデルハイトさんは思ってなかったですよ。
私も子供を産んだ女だから、分かります。
いくら、後継ぎを作って来いと言われても。
気の乗らない男の子供を産みたいなんて思いませんよ。
現にアーデルハイトさんは一年以上気が乗らないで、各地を放浪していたのでしょう。
陛下と出会ったのは偶然かも知れませんが。
一緒に帝国各地を巡る間に陛下に惹かれたのだと思いますよ。
陛下につれなくしていたのは、陛下ではなく、陛下の一族と距離を取りたかったためですよ。
ご本人も、そんな事を言ってらしたのでしょう。」
実際に母親になった経験のあるカミラさんの言葉は実感のこもったもので。
それは、おじいさまに対する単なる慰めとして掛けられた言葉とは思えませんでした。
私は男性に惹かれた経験がないから、何とも言えませんが…。
もし仮に、プルーシャ王みたいな男の子を産めと言われたら…、たしかに嫌だと言って逃げ出しそうです。
「そうですよ。
私は、陛下とアーデルハイト様の若い日の事は知る由もございませんが。
私がアンネリーゼ姫様のお付きをしていた頃、お二人で赤子のシャルロッテ姫様をあやしてらしたでしょう。
私の目には、その時のお二人の姿はとても仲の良いご夫婦に映りましたもの。
きっと、アーデルハイト様にとっても陛下は特別な方だったと思いますよ。
そうでなければ、アンネリーゼ姫様がそんなにちょくちょく皇宮へ遊びに来るのを許すはずありません。」
かつて、お母様の専属侍女をしていたというベルタさんも、カミラさんと同じ感想を抱いているようです。
「そうであろうか。
そうであったら、嬉しいのだが。」
カミラさんとベルタさんの言葉を聞いて、おじいさまはポツリとそんな呟きをもらしました。
そして、グラスに注いだワインを飲み干したのです。
こうして、新しい住人を迎えて秋の夜長は更けていくのでした。
おじいさまがこの地で心穏やかに過ごせるようにと願ってやみません。
1
お気に入りに追加
325
あなたにおすすめの小説
【完結】父が再婚。義母には連れ子がいて一つ下の妹になるそうですが……ちょうだい癖のある義妹に寮生活は無理なのでは?
つくも茄子
ファンタジー
父が再婚をしました。お相手は男爵夫人。
平民の我が家でいいのですか?
疑問に思うものの、よくよく聞けば、相手も再婚で、娘が一人いるとのこと。
義妹はそれは美しい少女でした。義母に似たのでしょう。父も実娘をそっちのけで義妹にメロメロです。ですが、この新しい義妹には悪癖があるようで、人の物を欲しがるのです。「お義姉様、ちょうだい!」が口癖。あまりに煩いので快く渡しています。何故かって?もうすぐ、学園での寮生活に入るからです。少しの間だけ我慢すれば済むこと。
学園では煩い家族がいない分、のびのびと過ごせていたのですが、義妹が入学してきました。
必ずしも入学しなければならない、というわけではありません。
勉強嫌いの義妹。
この学園は成績順だということを知らないのでは?思った通り、最下位クラスにいってしまった義妹。
両親に駄々をこねているようです。
私のところにも手紙を送ってくるのですから、相当です。
しかも、寮やクラスで揉め事を起こしては顰蹙を買っています。入学早々に学園中の女子を敵にまわしたのです!やりたい放題の義妹に、とうとう、ある処置を施され・・・。
なろう、カクヨム、にも公開中。
【完結】言いたいことがあるなら言ってみろ、と言われたので遠慮なく言ってみた
杜野秋人
ファンタジー
社交シーズン最後の大晩餐会と舞踏会。そのさなか、第三王子が突然、婚約者である伯爵家令嬢に婚約破棄を突き付けた。
なんでも、伯爵家令嬢が婚約者の地位を笠に着て、第三王子の寵愛する子爵家令嬢を虐めていたというのだ。
婚約者は否定するも、他にも次々と証言や証人が出てきて黙り込み俯いてしまう。
勝ち誇った王子は、最後にこう宣言した。
「そなたにも言い分はあろう。私は寛大だから弁明の機会をくれてやる。言いたいことがあるなら言ってみろ」
その一言が、自らの破滅を呼ぶことになるなど、この時彼はまだ気付いていなかった⸺!
◆例によって設定ナシの即興作品です。なので主人公の伯爵家令嬢以外に固有名詞はありません。頭カラッポにしてゆるっとお楽しみ下さい。
婚約破棄ものですが恋愛はありません。もちろん元サヤもナシです。
◆全6話、約15000字程度でサラッと読めます。1日1話ずつ更新。
◆この物語はアルファポリスのほか、小説家になろうでも公開します。
◆9/29、HOTランキング入り!お読み頂きありがとうございます!
10/1、HOTランキング最高6位、人気ランキング11位、ファンタジーランキング1位!24h.pt瞬間最大11万4000pt!いずれも自己ベスト!ありがとうございます!
【完結】6歳の王子は無自覚に兄を断罪する
土広真丘
ファンタジー
ノーザッツ王国の末の王子アーサーにはある悩みがあった。
異母兄のゴードン王子が婚約者にひどい対応をしているのだ。
その婚約者は、アーサーにも優しいマリーお姉様だった。
心を痛めながら、アーサーは「作文」を書く。
※全2話。R15は念のため。ふんわりした世界観です。
前半はひらがなばかりで、読みにくいかもしれません。
主人公の年齢的に恋愛ではないかなと思ってファンタジーにしました。
小説家になろうに投稿したものを加筆修正しました。
冷遇妻に家を売り払われていた男の裁判
七辻ゆゆ
ファンタジー
婚姻後すぐに妻を放置した男が二年ぶりに帰ると、家はなくなっていた。
「では開廷いたします」
家には10億の価値があったと主張し、妻に離縁と損害賠償を求める男。妻の口からは二年の事実が語られていく。
義母に毒を盛られて前世の記憶を取り戻し覚醒しました、貴男は義妹と仲良くすればいいわ。
克全
ファンタジー
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。
11月9日「カクヨム」恋愛日間ランキング15位
11月11日「カクヨム」恋愛週間ランキング22位
11月11日「カクヨム」恋愛月間ランキング71位
11月4日「小説家になろう」恋愛異世界転生/転移恋愛日間78位
【完結】兄の事を皆が期待していたので僕は離れます
まりぃべる
ファンタジー
一つ年上の兄は、国の為にと言われて意気揚々と村を離れた。お伽話にある、奇跡の聖人だと幼き頃より誰からも言われていた為、それは必然だと。
貧しい村で育った弟は、小さな頃より家の事を兄の分までせねばならず、兄は素晴らしい人物で対して自分は凡人であると思い込まされ、自分は必要ないのだからと弟は村を離れる事にした。
そんな弟が、自分を必要としてくれる人に会い、幸せを掴むお話。
☆まりぃべるの世界観です。緩い設定で、現実世界とは違う部分も多々ありますがそこをあえて楽しんでいただけると幸いです。
☆現実世界にも同じような名前、地名、言葉などがありますが、関係ありません。
完結 お飾り正妃も都合よい側妃もお断りします!
音爽(ネソウ)
恋愛
正妃サハンナと側妃アルメス、互いに支え合い国の為に働く……なんて言うのは幻想だ。
頭の緩い正妃は遊び惚け、側妃にばかりしわ寄せがくる。
都合良く働くだけの側妃は疑問をもちはじめた、だがやがて心労が重なり不慮の事故で儚くなった。
「ああどうして私は幸せになれなかったのだろう」
断末魔に涙した彼女は……
ドアマットヒロインはごめん被るので、元凶を蹴落とすことにした
月白ヤトヒコ
ファンタジー
お母様が亡くなった。
それから程なくして――――
お父様が屋敷に見知らぬ母子を連れて来た。
「はじめまして! あなたが、あたしのおねえちゃんになるの?」
にっこりとわたくしを見やるその瞳と髪は、お父様とそっくりな色をしている。
「わ~、おねえちゃんキレイなブローチしてるのね! いいなぁ」
そう、新しい妹? が、言った瞬間・・・
頭の中を、凄まじい情報が巡った。
これ、なんでも奪って行く異母妹と家族に虐げられるドアマット主人公の話じゃね?
ドアマットヒロイン……物語の主人公としての、奪われる人生の、最初の一手。
だから、わたしは・・・よし、とりあえず馬鹿なことを言い出したこのアホをぶん殴っておこう。
ドアマットヒロインはごめん被るので、これからビシバシ躾けてやるか。
ついでに、「政略に使うための駒として娘を必要とし、そのついでに母親を、娘の世話係としてただで扱き使える女として連れて来たものかと」
そう言って、ヒロインのクズ親父と異母妹の母親との間に亀裂を入れることにする。
フハハハハハハハ! これで、異母妹の母親とこの男が仲良くわたしを虐げることはないだろう。ドアマットフラグを一つ折ってやったわっ!
うん? ドアマットヒロインを拾って溺愛するヒーローはどうなったかって?
そんなの知らん。
設定はふわっと。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる