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第17章 夏、季節外れの嵐が通り過ぎます
第449話 臨時収入のお時間です
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暴動鎮圧部隊を制圧してから二週間ほど経ちました。
プルーシャのタヌキ、鎮圧部隊が帰還せずに業を煮やしている事かと思いますが今のところ次の手を打ってくる様子はありませんでした。
今は、八月も中旬になりならんとする時期で、シューネフルトに建てたホテルは連日満員御礼の状況となっています。
とは言え、ホテルの運営はネーナさんにお任せしているので、私が直接忙しくなる訳では無いのですが。
ホテルが大盛況と言うことは、お金の出入りも激しくなるし、色々な物資の手配も必要になります。
普通のホテルでしたら、それも支配人にお任せなのでしょうが。
私のホテルの場合、アルビオンやセルベチアから直接仕入れているモノがあり、何かと私の転移魔法頼りとなっています。
そのため、リーナの事が心配だとは言っても、シュトロースに張り付きと言う訳には行かないのです。
その日の朝も、風の精霊クラルテからの報告では、プルーシャ側に動きは無いとのことでした。
ですから、私は一旦アルムハイムの館に戻ってホテル関係の仕事を片付けることにしました。
ネーナさんから送られてきた報告書をチェックして、必要なモノをアルビオンやセルベチアに買いに行く計画を立てていると。
「あ~!ロッテ、きょ~うはこっちにいたんだね~。ちょ~ど良かったよ~!」
私が契約している風の精霊ブリーゼちゃんが執務机の上に飛んで来ました。
とっても快活なブリーゼちゃん。
行動もとてもアクティブで、特段の用事がないと気ままにその辺を飛び回っています。
「うん? 何かありました?」
「うんとね~、ロッテの嫌いなタヌキのおっちゃん、何かすっご~い数の兵隊さんを動かしたよ。
今、ロッテのおじいちゃんちの方に向かってる~。」
何時ものお気楽な口調で、何の緊張感も感じさせずにブリーゼちゃんが口にした言葉。
それを耳にした私は、思わず手に持っていたペンを取り落としてしまいました。
「って、一大事じゃないですか!
それで、プルーシャの軍勢は本当にアスターライヒへ向けて進軍しているのですか?」
「う~ん? それはどうだろ~。
うんと~、日の出すぐの時間に、軍勢の先頭はこの辺にいたよ~。
こっちの方に向かってた~。」
ブリーゼちゃんは、何処からか愛用の地図を取り出すと軍勢を見かけた場所と進軍方向を指で指し示しました。
確かに、それへはノルドライヒ連邦からアスターライヒ王国へ抜ける主要街道で、今まさに国境に差し掛かろうと言う山道でした。
ただ、それはとても解せない行軍でした。
現在、エルゼス地方を支配下に置くことを狙ってクラーシュバルツ王国と交戦状態にあるプルーシャがアスターライヒと事を構える理由が見当たらないからです。
幾ら、軍事大国とはいえ、同時に二ヶ国に戦いを仕掛けるような真似はしないと思うのですが…。
「ブリーゼちゃん、その軍を自分の目で確かめたいから、案内してもらえる?」
「おっけ~!まかせといて~!」
こうして、私はブリーゼちゃんの案内でプルーシャ軍が進軍する山岳地帯へ向かったのです。
********
ノルドライヒ連邦に属する領邦とアスターライヒの国境地帯。
私がその上空に到着すると、確かにもの凄い数の軍勢がアスターライヒへ向かって進軍していました。
「うん~と、この地図によるとあの辺りが国境線だよ~。
あぁ~! もう越えちゃってる~!」
実際の地形と地図を見比べていたブリーゼちゃんが、プルーシャ軍が国境を越えアスターライヒへ侵入したことを告げました。
「こうしてはいられません。
ヴァイス、あの軍勢の先頭の前へ出て高度を下げて!」
「了解したぞ主!
今日は朝から存分に主の股間の温もりを堪能させてもらったのだ。
幾らでも頼みを聞こうではないか。」
いえ、そんなキモいことは言ってないで、早く飛んでください。
私の心の声が届いた訳では無いでしょうが、はやての如き速度で軍勢の前に回り込むヴァイス。
私は軍勢に向かって。
「停まりなさい、あなた方はいったい何の目的でここにいるのですか。
所属と進軍の目的を言いなさい。」
突如として空から舞い降りて来た私の姿に軍勢からどよめきが起こります。
すると、前線指揮官らしき先頭にいた軍人が馬上で言いました。
「空から馬に乗ってやって来るとは、なんと奇怪な。
怪しい奴、そっちこそ名を名乗らんかい!」
この人、動じませんね。普通、空から天馬が舞い降り来てたらもっと驚くかと思いますが。
しかも、奇怪なとか言って凄く失礼、聖教の教皇聖下でさえこの姿を見ると神の遣いのようだと崇めて下さるのに。
「私は、アルムハイム公国の大公、シャルロッテ・フォン・アルムハイムです。
もう一度聞きます。
あなた方の所属と進軍目的を答えなさい。
さもなければ、国境侵犯として速やかに排除させて頂きますよ。」
「貴様、アルムハイム大公だか何だか知れんが、何故我が軍の進軍を邪魔だてするのだ。
我々はプルーシャ公国軍である。
現在、交戦中のクラーシュバルツ王国へ向けて進軍中なのだ。
関係のないものは引っ込んでおいてもらおう。」
なるほど、攻撃目標はアスターライヒではなく、クラーシュバルツ王国の何処かの町ですか。
リーナを相手に本命のエルゼス地方を攻めあぐねているので、後方をかく乱するつもりですかね。
それとも、背後からエルゼス地方に攻め込むつもりなのでしょうか。
あるいは、あのタヌキのことです。
いっそのこと、クラーシュバルツ王国そのものを支配下に置いてしまおうとか考えているかも知れませんね。
この軍勢の真の目的は分かりませんが、この軍勢が犯した一つの間違いは気付きました。
「一応警告しておきます。
もしかしたら、何かの間違いでここにいるのかも知れませんから。
ここは、既にアスターライヒ王国の領土です。
すぐに引き返すのであれば、目を瞑りますが。
さもなければ、国境侵犯で排除させて頂きます。」
「引き返せだと、何をふざけた事をぬかす、小娘が。
ノルドライヒ連邦からズーリックへ進軍しようとしたらこの道しかないのだ。
引き返せる訳が無かろうが。
悪いが、お前の口を塞いで進軍させてもらうぞ。
おい、第一小隊、小銃斉射用意、あの小娘を撃ち落とすんだ!」
どうやら、クラーシュバルツ王国へ侵攻する途中に一旦アスターライヒ王国を通ることは認識していたようです。
ブリーゼちゃんの持っていた地図によると、一マイルほど西に行った地点にズーリック方面への分岐があります。
そこまでは無人の山道なので、アスターライヒ王国の軍関係者に気付かれることは無いと高を括っていたのでしょう。
そんなことを考えていると、私を銃撃する準備が整ったようです。
「第一小隊、撃て!」
指揮官の号令と共に、幾つもの銃声が鳴り響き…。
「そんな豆鉄砲で我が主に傷を負わせてなるものか!」
ヴァイスのそんな叫びと共に突風が吹き抜け、全ての銃弾が吹き払われます。
ヴァイスの起こした突風はそれにとどまらず、先頭付近を進軍していた兵士達もなぎ倒しました。
もちろん、指揮官も堪らず落馬していました。
「ヒィイ!ば、ばけものー!」
落馬した指揮官はそう言って、しりもちを突いたまま後ずさります。
ペガサス(もどき)を指差してばけものなんて、本当に失礼な人ですね。
「マリンちゃん、少しお願いできるかしら?」
そろそろ、決着をつけたいと思った私はいつもの切り札水の精霊マリンちゃんに出て来てもらいました。
「は~い、およびですか~。ロッテさん。
きょ~うは、何のごよ~うですか~。」
間延びした眠たげな口調で現れたマリンちゃん、この子の紡ぐ歌は途轍もなく眠気を誘うのです。
しかも、強大な魔力を込めて歌うものですから、それ自体が眠りの魔法と言っても良いくらいです。
マリンちゃんの歌は、傷つけることなく、また抵抗されることなく、相手を無力化できるのでとても重宝しています。
無用な血を一切流すことが無いのがグッドですね。
と言うことで。
「マリンちゃん、ここを先頭に一マイルくらいに渡って進軍してくる軍隊があるの。
全員にご自慢の歌をたっぷり聞かせてあげて欲しいの。
マリンちゃんの歌声に聞きほれて眠ってしまうまで、思い切り歌って欲しいのだけど。
頼めるかしら?」
「わたし~、歌っていいんですか~?思いっ切り~?
もちろん、歌いますよ~!
みんなに心地よ~い歌を~、聞いてもらいましょ~う!」
歌声を披露することが大好きなマリンちゃんは快く引き受けてくれました。
そして、
「~♪~~♪~♪~♪~♪~~♪~♪」
とても楽しそうに歌い始めます。
********
そして、約一時間後、隊列が一マイルにも及んだ軍勢は一人残らず夢の中でした。
それから、どうしたかって?
もちろん、お楽しみの追剥の時間ですよ。
鉄砲や大砲、それに砲弾を中心に鉄は全てアルムハイムへ送りました。
このところ、発電施設を作ったりで、鉄の手持ちが大分減っていたので大助かりです。
もちろん、金・銀・銅は、軍資金のみならず、個人のポケットマネーまで根こそぎ貰って行きます。
糧秣その他の輜重物資や火薬などは、いつもであれば燃やしてしまうのですが…。
場所が場所だけに、燃やすと山火事になる恐れがありました。
仕方が無いので、これも取り敢えずアルムハイムへ転送しておきました。
火薬は肥料に変えちゃっても良いし、他は慈善物資として何処かに寄付でもしましょうかね。
それで、物資を没収しながら数えたところ、多いと思ったら十万もの大軍勢でした。
軍勢の最後尾に近いところにいた総司令官と思しき年配の士官を筆頭にして。
明らかに高級士官とわかる軍服の人が百人もいてビックリです。
「この人達、国境侵犯した軍勢の指揮官として、おじいさまに突き出したいのだけど。
進軍の目的など、詳しい尋問もしたいですしね。
だけど…、どうやって百人も、おじいさまの許まで連れて行こうかしら。」
私が縛り上げた士官たちを前にして途方に暮れていると。
「そんなのは、簡単な事ではないか。
全員を丈夫な縄で繋いで、我にぶら下げれば良い。
人間の百人や二百人ぶら下がっていたところで、我が飛翔するのに何の問題も無いぞ。」
いえ、それ、怖いですよ。
ヴァイスが飛ぶのに支障が無くても、ぶら下がっている人が立木とか障害物にぶつかって大惨事になりそうです。
「それこそ、心配するでない。
そう言ったことが起こらないように、十分に高度を取って飛んでいくわ。」
ヴァイスが自信たっぷりに主張するものですから、士官百人、捕虜としてぶら下げていくことにしました。
飛んでいる最中に目を覚ましたら驚くでしょうね。
プルーシャのタヌキ、鎮圧部隊が帰還せずに業を煮やしている事かと思いますが今のところ次の手を打ってくる様子はありませんでした。
今は、八月も中旬になりならんとする時期で、シューネフルトに建てたホテルは連日満員御礼の状況となっています。
とは言え、ホテルの運営はネーナさんにお任せしているので、私が直接忙しくなる訳では無いのですが。
ホテルが大盛況と言うことは、お金の出入りも激しくなるし、色々な物資の手配も必要になります。
普通のホテルでしたら、それも支配人にお任せなのでしょうが。
私のホテルの場合、アルビオンやセルベチアから直接仕入れているモノがあり、何かと私の転移魔法頼りとなっています。
そのため、リーナの事が心配だとは言っても、シュトロースに張り付きと言う訳には行かないのです。
その日の朝も、風の精霊クラルテからの報告では、プルーシャ側に動きは無いとのことでした。
ですから、私は一旦アルムハイムの館に戻ってホテル関係の仕事を片付けることにしました。
ネーナさんから送られてきた報告書をチェックして、必要なモノをアルビオンやセルベチアに買いに行く計画を立てていると。
「あ~!ロッテ、きょ~うはこっちにいたんだね~。ちょ~ど良かったよ~!」
私が契約している風の精霊ブリーゼちゃんが執務机の上に飛んで来ました。
とっても快活なブリーゼちゃん。
行動もとてもアクティブで、特段の用事がないと気ままにその辺を飛び回っています。
「うん? 何かありました?」
「うんとね~、ロッテの嫌いなタヌキのおっちゃん、何かすっご~い数の兵隊さんを動かしたよ。
今、ロッテのおじいちゃんちの方に向かってる~。」
何時ものお気楽な口調で、何の緊張感も感じさせずにブリーゼちゃんが口にした言葉。
それを耳にした私は、思わず手に持っていたペンを取り落としてしまいました。
「って、一大事じゃないですか!
それで、プルーシャの軍勢は本当にアスターライヒへ向けて進軍しているのですか?」
「う~ん? それはどうだろ~。
うんと~、日の出すぐの時間に、軍勢の先頭はこの辺にいたよ~。
こっちの方に向かってた~。」
ブリーゼちゃんは、何処からか愛用の地図を取り出すと軍勢を見かけた場所と進軍方向を指で指し示しました。
確かに、それへはノルドライヒ連邦からアスターライヒ王国へ抜ける主要街道で、今まさに国境に差し掛かろうと言う山道でした。
ただ、それはとても解せない行軍でした。
現在、エルゼス地方を支配下に置くことを狙ってクラーシュバルツ王国と交戦状態にあるプルーシャがアスターライヒと事を構える理由が見当たらないからです。
幾ら、軍事大国とはいえ、同時に二ヶ国に戦いを仕掛けるような真似はしないと思うのですが…。
「ブリーゼちゃん、その軍を自分の目で確かめたいから、案内してもらえる?」
「おっけ~!まかせといて~!」
こうして、私はブリーゼちゃんの案内でプルーシャ軍が進軍する山岳地帯へ向かったのです。
********
ノルドライヒ連邦に属する領邦とアスターライヒの国境地帯。
私がその上空に到着すると、確かにもの凄い数の軍勢がアスターライヒへ向かって進軍していました。
「うん~と、この地図によるとあの辺りが国境線だよ~。
あぁ~! もう越えちゃってる~!」
実際の地形と地図を見比べていたブリーゼちゃんが、プルーシャ軍が国境を越えアスターライヒへ侵入したことを告げました。
「こうしてはいられません。
ヴァイス、あの軍勢の先頭の前へ出て高度を下げて!」
「了解したぞ主!
今日は朝から存分に主の股間の温もりを堪能させてもらったのだ。
幾らでも頼みを聞こうではないか。」
いえ、そんなキモいことは言ってないで、早く飛んでください。
私の心の声が届いた訳では無いでしょうが、はやての如き速度で軍勢の前に回り込むヴァイス。
私は軍勢に向かって。
「停まりなさい、あなた方はいったい何の目的でここにいるのですか。
所属と進軍の目的を言いなさい。」
突如として空から舞い降りて来た私の姿に軍勢からどよめきが起こります。
すると、前線指揮官らしき先頭にいた軍人が馬上で言いました。
「空から馬に乗ってやって来るとは、なんと奇怪な。
怪しい奴、そっちこそ名を名乗らんかい!」
この人、動じませんね。普通、空から天馬が舞い降り来てたらもっと驚くかと思いますが。
しかも、奇怪なとか言って凄く失礼、聖教の教皇聖下でさえこの姿を見ると神の遣いのようだと崇めて下さるのに。
「私は、アルムハイム公国の大公、シャルロッテ・フォン・アルムハイムです。
もう一度聞きます。
あなた方の所属と進軍目的を答えなさい。
さもなければ、国境侵犯として速やかに排除させて頂きますよ。」
「貴様、アルムハイム大公だか何だか知れんが、何故我が軍の進軍を邪魔だてするのだ。
我々はプルーシャ公国軍である。
現在、交戦中のクラーシュバルツ王国へ向けて進軍中なのだ。
関係のないものは引っ込んでおいてもらおう。」
なるほど、攻撃目標はアスターライヒではなく、クラーシュバルツ王国の何処かの町ですか。
リーナを相手に本命のエルゼス地方を攻めあぐねているので、後方をかく乱するつもりですかね。
それとも、背後からエルゼス地方に攻め込むつもりなのでしょうか。
あるいは、あのタヌキのことです。
いっそのこと、クラーシュバルツ王国そのものを支配下に置いてしまおうとか考えているかも知れませんね。
この軍勢の真の目的は分かりませんが、この軍勢が犯した一つの間違いは気付きました。
「一応警告しておきます。
もしかしたら、何かの間違いでここにいるのかも知れませんから。
ここは、既にアスターライヒ王国の領土です。
すぐに引き返すのであれば、目を瞑りますが。
さもなければ、国境侵犯で排除させて頂きます。」
「引き返せだと、何をふざけた事をぬかす、小娘が。
ノルドライヒ連邦からズーリックへ進軍しようとしたらこの道しかないのだ。
引き返せる訳が無かろうが。
悪いが、お前の口を塞いで進軍させてもらうぞ。
おい、第一小隊、小銃斉射用意、あの小娘を撃ち落とすんだ!」
どうやら、クラーシュバルツ王国へ侵攻する途中に一旦アスターライヒ王国を通ることは認識していたようです。
ブリーゼちゃんの持っていた地図によると、一マイルほど西に行った地点にズーリック方面への分岐があります。
そこまでは無人の山道なので、アスターライヒ王国の軍関係者に気付かれることは無いと高を括っていたのでしょう。
そんなことを考えていると、私を銃撃する準備が整ったようです。
「第一小隊、撃て!」
指揮官の号令と共に、幾つもの銃声が鳴り響き…。
「そんな豆鉄砲で我が主に傷を負わせてなるものか!」
ヴァイスのそんな叫びと共に突風が吹き抜け、全ての銃弾が吹き払われます。
ヴァイスの起こした突風はそれにとどまらず、先頭付近を進軍していた兵士達もなぎ倒しました。
もちろん、指揮官も堪らず落馬していました。
「ヒィイ!ば、ばけものー!」
落馬した指揮官はそう言って、しりもちを突いたまま後ずさります。
ペガサス(もどき)を指差してばけものなんて、本当に失礼な人ですね。
「マリンちゃん、少しお願いできるかしら?」
そろそろ、決着をつけたいと思った私はいつもの切り札水の精霊マリンちゃんに出て来てもらいました。
「は~い、およびですか~。ロッテさん。
きょ~うは、何のごよ~うですか~。」
間延びした眠たげな口調で現れたマリンちゃん、この子の紡ぐ歌は途轍もなく眠気を誘うのです。
しかも、強大な魔力を込めて歌うものですから、それ自体が眠りの魔法と言っても良いくらいです。
マリンちゃんの歌は、傷つけることなく、また抵抗されることなく、相手を無力化できるのでとても重宝しています。
無用な血を一切流すことが無いのがグッドですね。
と言うことで。
「マリンちゃん、ここを先頭に一マイルくらいに渡って進軍してくる軍隊があるの。
全員にご自慢の歌をたっぷり聞かせてあげて欲しいの。
マリンちゃんの歌声に聞きほれて眠ってしまうまで、思い切り歌って欲しいのだけど。
頼めるかしら?」
「わたし~、歌っていいんですか~?思いっ切り~?
もちろん、歌いますよ~!
みんなに心地よ~い歌を~、聞いてもらいましょ~う!」
歌声を披露することが大好きなマリンちゃんは快く引き受けてくれました。
そして、
「~♪~~♪~♪~♪~♪~~♪~♪」
とても楽しそうに歌い始めます。
********
そして、約一時間後、隊列が一マイルにも及んだ軍勢は一人残らず夢の中でした。
それから、どうしたかって?
もちろん、お楽しみの追剥の時間ですよ。
鉄砲や大砲、それに砲弾を中心に鉄は全てアルムハイムへ送りました。
このところ、発電施設を作ったりで、鉄の手持ちが大分減っていたので大助かりです。
もちろん、金・銀・銅は、軍資金のみならず、個人のポケットマネーまで根こそぎ貰って行きます。
糧秣その他の輜重物資や火薬などは、いつもであれば燃やしてしまうのですが…。
場所が場所だけに、燃やすと山火事になる恐れがありました。
仕方が無いので、これも取り敢えずアルムハイムへ転送しておきました。
火薬は肥料に変えちゃっても良いし、他は慈善物資として何処かに寄付でもしましょうかね。
それで、物資を没収しながら数えたところ、多いと思ったら十万もの大軍勢でした。
軍勢の最後尾に近いところにいた総司令官と思しき年配の士官を筆頭にして。
明らかに高級士官とわかる軍服の人が百人もいてビックリです。
「この人達、国境侵犯した軍勢の指揮官として、おじいさまに突き出したいのだけど。
進軍の目的など、詳しい尋問もしたいですしね。
だけど…、どうやって百人も、おじいさまの許まで連れて行こうかしら。」
私が縛り上げた士官たちを前にして途方に暮れていると。
「そんなのは、簡単な事ではないか。
全員を丈夫な縄で繋いで、我にぶら下げれば良い。
人間の百人や二百人ぶら下がっていたところで、我が飛翔するのに何の問題も無いぞ。」
いえ、それ、怖いですよ。
ヴァイスが飛ぶのに支障が無くても、ぶら下がっている人が立木とか障害物にぶつかって大惨事になりそうです。
「それこそ、心配するでない。
そう言ったことが起こらないように、十分に高度を取って飛んでいくわ。」
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