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第16章 冬から春へ、時は流れます

第421話 精霊の力を借りるために

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「こんにちは、精霊のみなさん。
 私はカロリーネと申します。
 今日は、私と契約してくださる精霊さんを探しに来ました。
 よろしければ、話を聞いていただけませんか。」

 精霊の森にある常春の広場で精霊達に向かって呼びかけたリーナ。
 その呼びかけに応えて、精霊達の視線がリーナに注がれました。

 すると、精霊達の中から、深紅のドレスをまとった赤髪の精霊が出て来ました。

「知っているわよ。
 あなた、この森が出来た初めの頃からここにきているでしょう。
 隣にいる精霊の民の末裔と一緒に。
 肩の上に乗ったお澄ましさんとあそこで終始食べている食いしん坊の契約者さん。
 どうしたの、今まで契約を呼びかける事なんかなかったのに。
 何かあったのかしら?」

 どうやら、この火の精霊さん、この森の古株のようです。

 火の精霊に問われて、リーナはこれまでの経緯を説明します。
 そして、予想されるプルーシャ公国からの侵攻を迎え撃つために協力を仰ぎたいと告げました。

「あなた、二体もの精霊と契約しているからご存じよね。
 私達精霊が争いを好まないことを。
 力を貸して欲しいと言うのは、契約した精霊に戦えというのかしら。」

「いいえ、私はプルーシャ公国の軍勢と正面から戦うつもりはありません。
 私は、無益な殺生を望んでいませんですから。
 戦わずして、勝つための助力を得たいのです。」

 火の精霊を正面に見据えてそう答えたリーナ。
 リーナの姿を品定めするように見詰めていた火の精霊ですが。

「どうやら、嘘は言ってないようね。
 だとしたら、私はお呼びではないようですね。
 私が力を振るえば、万の軍勢でも一撃のもとに焼き払ってしまいますもの。
 では、あなたは何を望むのですか。
 水と土の力があれば十分では?」

「はい、今私が求めているのは風の力。
 風の精霊さんの協力を得たいのです。」

 リーナの言葉に嘘がないと見極めて、火の精霊は警戒を解いたようです。
 火の精霊の問い掛けに答えて希望を告げるリーナ。

「うん? アタシ?」

 テーブルの上で、セピアと共にお菓子をかじっていた一体の精霊が振り向きました。
 透けそうなほど薄い白のワンピースを着た、透明感のある白銀の髪の少女、風の精霊です。

 その風の精霊は、リーナの前までやって来て。

「大地の精霊に聞いたよ。
 いつも、美味しいお菓子を振る舞ってくれるって。
 あなたが、可愛がってくれるから、毎日楽しいって。
 アタシも仲間に入れって?
 アタシに何をして欲しいの?」

「私がお願いしたいのは二つ。
 一つは、毎日エルゼス地方へ行って、プルーシャ公国の軍勢を見張って欲しいのです。
 これは、大陸の隅から隅まで素早く移動できる風の精霊さんにしかお願いできません。
 もう一つは、私が戦場に立つとき、私の言葉を風に乗せて敵軍全体に広めて欲しいのです。」

 リーナが最前線でプルーシャ公国の軍勢を迎え撃つとは言うものの。
 プルーシャ公国の侵攻が予想されるのは夏場以降で、そのハッキリした時期はわかりません。
 普段のリーナにはシューネフルト領の領主の仕事があります。

 何時あるのか分からない侵攻に備えて、エルゼス地方へ駐在する訳にはいきません。
 なので、七月以降、朝昼二回、風の精霊に往復してもらいます。
 軍勢が攻め入る兆候を探って、毎日報告してもらうことにしたのです。

 風の精霊がプルーシャ軍侵攻の兆候を捉えたら、リーナがエルゼス地方へ動くことにします。
 そのために、私はリーナから依頼を受け、転移魔法の発動媒体になる敷物を一組作成しました。

    ********

「何だ、そんな簡単な事で良いの?
 そのくらいなら、幾らでもしてあげるよ。
 じゃあ、アタシも仲間に入れてもらおうっと。
 リーナ、私にも素敵な名前をちょうだい。」

 そう言った風の精霊は自らリーナの手のひらに乗りました。

「ありがとう、精霊さん。
 あなたの名前はクラルテ。
 これから、ずっと一緒よ。
 よろしくね。」

「私の名前はクラルテ。
 うん、気に入ったわ。
 これから、ずっと一緒ね、よろしく、リーナ。」

 さて、お目当ての風の精霊とは契約することが出来ました。
 次に行くところはあまり気乗りしませんが、時間的な余裕がないのでさっさと行きますか。

 私が次の目的地に移動しようと思ったら…。

「ねえ、ねえ、リーナの所、楽しそうだね。
 アタイも仲間に入れてもらえないかい。」

 緑髪ショートヘアの精霊がリーナの前に現れました。
 緑、赤、黒のチェックのスカートに深緑のベストを身に着けた植物の精霊です。

「アタイ、時々遊びに来るあんた達を見てて楽しそうだと思ってたんだ。
 そっちの精霊の民の嬢ちゃんは、お仲間が沢山くっついてるからね。
 あんまり多いと邪魔かと思ってたんだ。
 でも、リーナの方は少ないみたいだし、この機会にどうかと思ってね。」

「私の所に来てくれるのなら大歓迎です。
 私、精霊さんが大好きで、側にいてもらえるだけでも嬉しいです。」

 植物の精霊の申し出に対し、常日頃から精霊の姿に顔を綻ばせているリーナに否はありません。

「おや、そうかい。
 じゃあ、お言葉に甘えて、付いて行こうかね。
 アタイにも、良い名前を付けておくれよ。」

 手のひらに乗った植物の精霊にリーナが告げます。

「あなたの名前は、ベルデ。
 ようこそ、歓迎するわ、ベルデ。
 これから、ずっと、よろしくね。」

「私の名はベルデ。
 良い名前を有り難う、リーナ。
 これから、よろしくだよ。」

 これは、予想外の戦力補強が出来ました。
 植物の精霊が仲間にいれば凶作知らず、しかも、色々な場面でお役立ちですから。

     ********

 それから、やって来たのは私の館の裏庭です。
 あんまり気乗りしませんが、今回の計画の鍵の一つですから仕方ありません。

「ヴァイス、姿を現してもらえる?」

「何か用かな、主。」

 私が呼びかけると、直ちに姿を現すヴァイス。

「ねえ、ヴァイス。
 あなたと同じ馬型の風の精霊って、この辺にまだいるかしら。
 リーナが契約したいと言ってるだけど。」

 私が用件を告げると、…。

「きゃあ!」

 ヴァイスがいきなりリーナのスカートの中に頭を入れて、匂いを嗅ぎ始めました。
 この変態馬、やっぱりやりましたね…。

 リーナは顔を赤らめて恥ずかしがっていますが。
 この変態馬の性癖を知っているので、怒らずに耐えている様子です。
 お願いする立場なので、機嫌を損ねないようにと思っているのでしょう。

 しばらく、リーナの匂いを堪能(?)したヴァイスが言います。

「ふむ、今でも間違いなく生娘のようだな。
 良かろう、我に二、三、心当たりがある。
 今から連れて来るゆえ、しばしの間、ここで待つが良い。」

 どうやら、処女偏愛癖のヴァイスのお眼鏡に適ったようで、お仲間を紹介してくれそうです。
 心当たりがあると言って消え去りました。
 どんな頭の痛いお仲間を連れて来ることかと考えると気が重いですが。
 戦場を翔ける足が必要なので仕方がありません。

 三十分ほど待つと、ヴァイスが裏庭に戻って来ました。
 隣には、ヴァイスそっくりの有翼の白馬を伴っています。

「やはり、二十歳前の生娘は人気があってな。
 三体ほど声を掛けたら、我こそは言って譲らず大変だったぞ。
 まあ、雌を巡る雄の決着の付け方なんてお決まりだな。
 それで、勝ち残ったのがこいつだ。
 リーナに危害を加えようなんて不届き者は皆殺しにしてくれるだろうよ。」

 などと言う物騒な事を言うヴァイス。
 何ですか、そのお決まりの決着の付け方って。
 動物型をしている精霊って、どうしてこんなに血の気が多いのでしょうか。

 そう思いながら、ヴァイスが連れて来た白馬を見ると…。

「きゃあ!」

 やっぱり、匂いを嗅いでるし…。
 変態馬が二頭に増えて頭が痛いです。

 しばらく、リーナのスカートの中に頭を入れてた白馬ですが…。

「甘露、甘露。
 お仲間が言う通り、稀に見る上玉であるな。
 よし、儂がそなたのしもべとなって、そなたが命尽きるまで守護しようぞ。
 さっ、契約するのであろう、早く名前を付けるのだ。」

 リーナの意向も確かめずに、契約を迫る変態馬。
 確か、ヴァイスの時もそうでしたね、あの時は鼻息が荒くてキモかったです。

「契約してくださり、有り難うございます。
 私は、カロリーネ・フォン・アルトブルク。
 あなたの名前はエール。
 どうか、私の翼になってください。」

 リーナは羞恥に顔を赤らめながらも、エールにそう願いました。
 まっ、背に腹は代えられないですね。
 例え性癖に難有りでも、空を飛翔する手段を手に出来るのですから。

「儂の名はエール。
 『翼』という意味であるな。
 良かろう、儂は主リーナの翼となりて。
 何処まででも飛翔する事を誓おうではないか。」

 こうして、リーナに頼もしい(?)翼が出来ました。

 さあ、取り敢えずはプルーシャ公国の軍勢を迎え撃つ手段は手に入りました。

   ********

*並行して新作を投稿しています。
 『ゴミスキルだって、育てりゃ、けっこうお役立ちです!』
 ゴミスキルとバカにされるスキルをモグモグと育てた女の子の物語です。
 12時10分、20時30分の投稿です。
 お読み頂けたら幸いです。
 よろしくお願いいたします。 
 ↓ ↓ ↓ (PCの方の向け) 
 https://www.alphapolis.co.jp/novel/255621303/784533340    
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