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第16章 冬から春へ、時は流れます
第416話 とってもアブない気がします
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「おじいさま、いったい何を?」
おじいさまの突然のお願いに、私は戸惑いを感じました。
帝国皇帝は終身制、その身が神の御許に召されるまでその座を降りることは出来ないのです。
もしその願いが叶うことがあるとすれば、それは…。
「いや、なに、あくまで、もしもの話じゃ。
私は、六十年の長きにわたり窮屈な思いをしてきたのじゃよ。
例え叶わん望みだとしても、可愛い孫娘と余生を一緒に過ごしたいと願ってもバチはあたるまい。
まあ、最期くらいは一族の墓所を離れて、婆さんの隣で眠りたいと言うのは本音だがな。」
笑ってそう言ったおじいさま、明らかにはぐらかすつもりですね。
おそらく、おじいさまは確信を持って言っているのだと思います。
そして、おそらく、その時は遠からず訪れる事でしょう。
「そうですね。
今更、言うまでもない事ですが。
おばあさまもお母様も、おじいさまの一族に取り込まれるのを警戒していました。
なので、もし、おじいさまが、一族とのしがらみを断ち切ってくださるのなら。
私は、喜んでおじいさまをお迎えすると思いますよ。
あくまで、もしもの話ですが。」
ですから、私もあくまで『もしもの話』として返事をしました。
ですが、それで正解だったようで、おじいさまは相好を崩しました。
「そうか、そうか。
では、時の流れが、私にとって吉とでるか、凶と出るか。
静かに見守ることとしようかのう。
私ももう十分に働いた、そろそろ、のんびりさせてもらいたいものだ。」
おじいさまは、私が歓迎すると聞いて上機嫌な様子です。
おそらく、おじいさまが予想している事態は大陸中を震撼させるものだと思います。
ですが、おじいさま個人にとっては、そう悪い事では無いようです。
まあ、後のことは若い世代に任せて、自分はここで楽隠居と目論んでいるのですからね。
********
その翌日、今度はジョージさんをお迎えにアルビオン王国へ赴いたのですが。
王都の館で、ジョージさんの到着を待っていると。
現れたジョージさん一行の顔触れはと言うと。
主賓のジョージさん、娘のトリアさん、小姓のケリー君。
ここまでは良いのです。
今回滞在するのは、私の館ではなくホテルですので、お付きの人が必要でしょうから。
ジョージさんには、二ベッドルーム、一コネクティングルームに納まる人数でとお願いしました。
ケリー君は、サリーとエリーのためにお供に選んでくださったのでしょう。
その心配りには感謝です。
ですが、一行にはもう一人いて…。
「いやあ、レディーのホテルに、ご招待いただけるとは何と光栄な。
私も、先般、陛下に誘われてからずっと心待ちにしてたのです。
アルム山脈が一望に見渡せる湖畔のホテルですか、楽しみですね。」
などど言っているのは、誰あろうアルビオン王国首相のミリアム閣下です。
まさか、ジョージさんがミリアムさんを連れて来るとは思いもしませんでした。
良いのでしょうか、国家元首に加え、事実上の最高権力者までお忍びで国外に出て。
私がそのことをジョージさんに尋ねると。
「ミリアム君も日頃激務で疲れているだろうからね。
たまには、命の洗濯も必要かと思って誘ったんだよ。
なに、一週間やそこら、いなくても別段問題ないさ。
むしろ、仕事中毒のミリアム君はそのくらい休んだ方が良いのだ。」
ジョージさんはそんな風に笑い飛ばしています。
まあ、その言葉を素直に信じる訳には参りませんがね。
ジョージさんお一人なのと、ミリアムさんを伴っているのでは意味合いが全然違います。
ジョージさんは国家元首ではありますが、政治的な権限は限定的です。
この国で実務的な権限を幅広く有しているのはミリアムさんの方ですから。
ミリアムさんを伴っているということは、色々と政治的なことを決められるのです。
今回、おじいさまの要望で、ジョージさんと聖下をお招きしました。
それだけで、十分きな臭いのですが。
ミリアムさんまで揃うとなると、これはとってもアブないです。
私としては、単なるホテルの開業記念のつもりでお招きしたのですが。
場合によっては、とんでもない巨頭会談になりそうです。
********
ジョージさんや聖下をお招きした理由は遠からず明らかになるはずです。
ここで、私が詮索しても仕方ない事だと割り切り、皆さんを転移部屋にお連れしようとした時です。
「ねえ、ロッテさん、なんでシャルちゃんを招待してくださらなかったの?」
唐突にトリアさんが、不満気な言葉をもらしました。
「本当は、今回のご招待はおじいさまだけのつもりだったのです。
もうお年を召してらっしゃるので、たまには息抜きにと思い。
開業前のホテルの最終チェックを兼ねてお招きしたのです。
おじいさまに、ホテルの評価をしていただこうかと思いまして。
そしたら、おじいさまから、ご要望があったのです。
一緒にジョージさんや聖下をお招きして欲しいと。
なので、私はご要望に沿っただけで…。
何故、シャルちゃんを呼ばなかったのかと責められても困るのですが。」
いくら、婚約者のシャルちゃんと会いたいからと言って、私を責められても困ります。
私、トリアさんが来るという事すら知りませんでしたから。
「あら、そうでしたの。
私としては、大陸の今後の枠組みを相談しようと言うのに。
大陸第二の大国であるセルベチアを含めないのは疑問なのですけど。」
トリアさんが、とんでもない爆弾を落としてくれました。
「あっ、こら、ビクトリア。
そのことは、ロッテお嬢ちゃんには、まだナイショだって。」
ほら、やっぱりきな臭いことになっているし…。
ジョージさんが慌てて、トリアさんの口を塞いでいる辺り。
どうやら、トリアさんの言うことは間違いではない様子です。
「ええとだな、ロッテお嬢ちゃん。
今回は、ビクトリアが言うほど大袈裟な話をしようという訳では無いんだ。
まだ、事前の根回しと言うか…。
右に転ぶか、左に転ぶかもハッキリしていない、そんな段階で。
セルベチアまで巻き込むような段階には至ってないんだ。
だから、私も、皇帝陛下も、ロッテお嬢ちゃんの耳に入れてない次第で。
もう少し事態の成り行きがハッキリしたら皇帝陛下からお話があると思う。
それまで待ってはくれないだろうか。」
私に向かって、そんな風に説明をしたジョージさん。
それまで、詮索はしてくれるなと言うことらしいです。
その後、ジョージさんは、「迂闊な事は言うな。」とヴィクトリアさんにきつく釘を刺していました。
********
*並行して新作を投稿しています。
『ゴミスキルだって育てりゃ、けっこうお役立ちです!』
ゴミスキルとバカにされるスキルをモグモグと育てた女の子の物語です。
12時10分、20時30分の投稿です。
お読み頂けたら幸いです。
よろしくお願いいたします。
↓ ↓ ↓ (PCの方の向け)
https://www.alphapolis.co.jp/novel/255621303/784533340
おじいさまの突然のお願いに、私は戸惑いを感じました。
帝国皇帝は終身制、その身が神の御許に召されるまでその座を降りることは出来ないのです。
もしその願いが叶うことがあるとすれば、それは…。
「いや、なに、あくまで、もしもの話じゃ。
私は、六十年の長きにわたり窮屈な思いをしてきたのじゃよ。
例え叶わん望みだとしても、可愛い孫娘と余生を一緒に過ごしたいと願ってもバチはあたるまい。
まあ、最期くらいは一族の墓所を離れて、婆さんの隣で眠りたいと言うのは本音だがな。」
笑ってそう言ったおじいさま、明らかにはぐらかすつもりですね。
おそらく、おじいさまは確信を持って言っているのだと思います。
そして、おそらく、その時は遠からず訪れる事でしょう。
「そうですね。
今更、言うまでもない事ですが。
おばあさまもお母様も、おじいさまの一族に取り込まれるのを警戒していました。
なので、もし、おじいさまが、一族とのしがらみを断ち切ってくださるのなら。
私は、喜んでおじいさまをお迎えすると思いますよ。
あくまで、もしもの話ですが。」
ですから、私もあくまで『もしもの話』として返事をしました。
ですが、それで正解だったようで、おじいさまは相好を崩しました。
「そうか、そうか。
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おそらく、おじいさまが予想している事態は大陸中を震撼させるものだと思います。
ですが、おじいさま個人にとっては、そう悪い事では無いようです。
まあ、後のことは若い世代に任せて、自分はここで楽隠居と目論んでいるのですからね。
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その翌日、今度はジョージさんをお迎えにアルビオン王国へ赴いたのですが。
王都の館で、ジョージさんの到着を待っていると。
現れたジョージさん一行の顔触れはと言うと。
主賓のジョージさん、娘のトリアさん、小姓のケリー君。
ここまでは良いのです。
今回滞在するのは、私の館ではなくホテルですので、お付きの人が必要でしょうから。
ジョージさんには、二ベッドルーム、一コネクティングルームに納まる人数でとお願いしました。
ケリー君は、サリーとエリーのためにお供に選んでくださったのでしょう。
その心配りには感謝です。
ですが、一行にはもう一人いて…。
「いやあ、レディーのホテルに、ご招待いただけるとは何と光栄な。
私も、先般、陛下に誘われてからずっと心待ちにしてたのです。
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そのことは、ロッテお嬢ちゃんには、まだナイショだって。」
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ジョージさんが慌てて、トリアさんの口を塞いでいる辺り。
どうやら、トリアさんの言うことは間違いではない様子です。
「ええとだな、ロッテお嬢ちゃん。
今回は、ビクトリアが言うほど大袈裟な話をしようという訳では無いんだ。
まだ、事前の根回しと言うか…。
右に転ぶか、左に転ぶかもハッキリしていない、そんな段階で。
セルベチアまで巻き込むような段階には至ってないんだ。
だから、私も、皇帝陛下も、ロッテお嬢ちゃんの耳に入れてない次第で。
もう少し事態の成り行きがハッキリしたら皇帝陛下からお話があると思う。
それまで待ってはくれないだろうか。」
私に向かって、そんな風に説明をしたジョージさん。
それまで、詮索はしてくれるなと言うことらしいです。
その後、ジョージさんは、「迂闊な事は言うな。」とヴィクトリアさんにきつく釘を刺していました。
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12時10分、20時30分の投稿です。
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