上 下
416 / 580
第16章 冬から春へ、時は流れます

第413話 そんな話、聞いていません

しおりを挟む
 プレオープンを二日後に控えた五月十八日、私は帝都へおじいさまをお迎えに上がりましした。
 流石に、お招きするお三方を一日で迎えに行くのは無理です。
 特に、聖都には転移魔法の発動媒体を設置していないので、馬車でお迎えに行かないとなりませんし。

 と言うことで、まず最初におじいさまをお迎えに上がったのです。
 皇宮の居住区画に借りている部屋に転移すると…。
 目の前に壁がありました。

 目を凝らして良く見ると、それは壁ではなく、見上げるほどに積まれた木箱のようです。
 私の部屋に何でこんなものがと、不思議に思いつつもテーブルの上の呼び鈴を手にしました。

 例によって、待ち構えていたかの如く皇宮侍女がすぐさま姿を現します。

「姫様、お帰りなさいませ。
 荷物のせいで、狭苦しい思いをさせてしまい申し訳ございません。
 ただいま、陛下にお取次ぎいたしますので、少々お待ちください。」

 皇宮侍女は、それだけ言って慌ただしく部屋を出て行きました。
 この木箱の説明は無いのですね…。 

「ロッテや、待っておったぞ。
 久しぶりの休暇じゃからな、心待ちにしていたのだ。
 ましてや、孫娘が造ったホテルに招待して貰えるのじゃからな。
 こんな心が躍る休暇は生まれて初めてじゃ、長生きはするもんじゃな。」
 
 程なくして部屋にやって来たおじいさま。
 開口一番、そんな言葉を口にします。
 生まれ始めて何て大袈裟ですが、とても上機嫌の様子です。

「お待たせして申し訳ございません。
 自分では納得のいくホテルを造ったつもりですが…。
 そんなに期待されますと、おじいさまをガッカリさせないか不安になります。」

 一流のモノを知り尽くしているおじいさまからの、過剰な期待はプレッシャーを感じてしまいます。

「私は、可愛い孫娘が真っ先に招待してくれるということが嬉しいのじゃ。
 言い方が悪いかもしれんが、ロッテの招待であればあばら家だって嬉しぞ。」

 あばら家は酷いですが、おじいさまは本心からそう思っているような様子です。
 私の招待と言うことで喜んでいるのであれば、私としても嬉しいです。

「時におじいさま、この部屋に積み上げられてた木箱。
 これは、いったい何なのでしょうか?」

 私がそれを指差して尋ねると。

「これは、私からロッテへの心ばかりの開業祝だよ。
 本当はもっとずっと前に送りたかったのだが。
 アルム地方は雪で閉ざさておるからのう。
 もう揃えてしまっておるだろうが。
 消耗品であるし、幾らあっても困る物ではあるまい。」

 おじいさまが、開業祝だという木箱の中身は帝国磁器工房の食器セットでした。
 モチーフが統一された柄のシリーズを全シリーズ、百ピースずつ揃えたと言います。
 道理で、膨大な量になるはずです。
 おじいさまの話では、私がホテルの食器類を揃える前に届けたかったそうです。
 ですが、雪で交通が閉ざされているため、それが出来ませんでした。
 雪融けを待って急いで運ぶと、ワレモノ故、破損してしまうかも知れません。
 なので、私が来るのを待っていたそうですが…。
 
 最近、私が帝都を訪れていなかったので、渡す機会が無かったそうです。
 ええ、食器とか細々した備品を揃えるため、東奔西走していたのです。
 …失敗しました、先にここに来ていれば…。

 しかし、この木箱の中身が全部、目が飛び出るほど高価な帝国磁器工房の品って…。
 いったい幾らかかったのでしょうか。

「おじいさま、お気持ちはとっても嬉しいのですが…。
 これって、とんでもなくお金が掛かってますよね。
 こんなたいそうな品を頂戴してしまってよろしいのですか?」

「何を遠慮しておるんだ。
 大切な孫娘が最高のホテルを造りたいと言っているのだぞ。
 最高の食器を揃えてあげたいとも思うであろうが。
 それに、帝国磁器工房のオーナーは私だ。
 このくらいの融通は幾らでも利かせることが出来るよ。
 オーナー特権を振りかざせるのもこれが最後であろうからな。」

 遠慮がちな私の言葉に、おじいさまは笑いながら答えました。
 オーナー権限で、品物を揃えさせたのですね。
 これだけの数です、きっと、帝国時工房の方に無理をさせてしまいましたね。

 私は一旦アルムハイムの館に戻り、ブラウニー隊のみんなに宝物庫で待機するようにお願いしました。
 大量の木箱を送りますので、速やかに整理してもらわないと大変なことになります。

      ********

 大量の木箱の転送も終わり。
 おじいさまと一緒にアルムハイムの館へ転移しようとして初めて気付きました。
 おじいさまの荷物がやけに多い事を。

 ホテルに滞在いただくのは三日間、今日明日を入れても五日間です。
 もちろん、滞在日程はおじいさまに伝えてあります。

 ですが、その荷物たるや、ゆうに半月は旅に出るかという大荷物でした。

 私が、荷物が多いのではないかと尋ねると…。

「おお、これか?
 私もアルビオンまで、そなたの晴れ姿を見に行こうかと思ってな。
 ロッテが勲章をもらう日まで、休みを取ったのだ。
 宰相に仕事を押し付けてな。」

 しれっと、そんな事をのたまうおじいさま。
 仕事を押し付けられる宰相が可哀想ですね。

 じゃ、なくて、聞いてませんよ、おじいさま。

 おじいさまは、六月上旬に予定されている私の受勲式を見に来るつもりのようです。
 それまで、私の館に滞在すると。

「おじいさまが館に滞在されるのは、私はいっこうにかまいませんが。
 よろしいのですか、半月近くもお休みになって。
 ましてや、皇帝がお忍びで他国へ出かけてしまうなど許されるのですか。」 

「うん?
 お忍びではないぞ、ほれ、これがそなたの受勲を祝う晩餐会の招待状だ。
 そこには、晩餐会の席で、そなたをエスコートするようにと書かれておる。
 先般ジョージ国王から送られてきたんだよ。」

 何と、ジョージさんもグルのようです。
 これも一種のサプライズでしょうか。
 まさか、私抜きでそんな事になっているとは思いもしませんでした。

 正式な晩餐会は、男女ペアで参加するもので、普通は夫婦。
 未婚の女性の場合は、父親か男兄弟が普通だと耳にしたことがあります。
 それ以外の殿方にエスコートしてもらうと関係が取り沙汰されてしまうと。

 その晩餐会の主役である私にエスコート役がいないのでは締まらないと言うことで。
 唯一血縁である殿方として、おじいさまに白羽の矢が立ったそうです。
 ですので、おじいさまのスケジュール上は、きちんと国外へ出ることは記録されていると言います。

 初めて参加する正式な晩餐会で、帝国皇帝の孫娘としてお披露目されてしまうのですか。
 果たしてそれで良いのでしょうか。
 私達の一族は今まで、帝国、そして皇帝一族とは距離を取って来ました。
 亡くなったお母様やおばあ様が、もし耳にしたとしたら烈火のごとく叱られそうなのです。

「私も歳だからのう、おそらくこれが最後の外遊になるであろう。
 その最後の外遊が、孫娘の勲章受勲の付き添いだなんて思いもしなかった。
 嬉しいことよのう、本当に長生きした甲斐があるわ。」

 でも、本当に嬉しそうなおじいさまを見ていると、とてもダメとは言えませんでした。
 こうして、おじいさまは、しばらくの間、アルムハイムの館に逗留することになりました。

   ********

*並行して新作を投稿しています。
 『ゴミスキルだって育てりゃ、けっこうお役立ちです!』
 ゴミスキルとバカにされるスキルをモグモグと育てた女の子の物語です。
 12時10分、20時30分の投稿です。
 お読み頂けたら幸いです。
 よろしくお願いいたします。 
 ↓ ↓ ↓ (PCの方の向け) 
 https://www.alphapolis.co.jp/novel/255621303/784533340
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】番である私の旦那様

桜もふ
恋愛
異世界であるミーストの世界最強なのが黒竜族! 黒竜族の第一皇子、オパール・ブラック・オニキス(愛称:オール)の番をミースト神が異世界転移させた、それが『私』だ。 バールナ公爵の元へ養女として出向く事になるのだが、1人娘であった義妹が最後まで『自分』が黒竜族の番だと思い込み、魅了の力を使って男性を味方に付け、なにかと嫌味や嫌がらせをして来る。 オールは政務が忙しい身ではあるが、溺愛している私の送り迎えだけは必須事項みたい。 気が抜けるほど甘々なのに、義妹に邪魔されっぱなし。 でも神様からは特別なチートを貰い、世界最強の黒竜族の番に相応しい子になろうと頑張るのだが、なぜかディロ-ルの侯爵子息に学園主催の舞踏会で「お前との婚約を破棄する!」なんて訳の分からない事を言われるし、義妹は最後の最後まで頭お花畑状態で、オールを手に入れようと男の元を転々としながら、絡んで来ます!(鬱陶しいくらい来ます!) 大好きな乙女ゲームや異世界の漫画に出てくる「私がヒロインよ!」な頭の変な……じゃなかった、変わった義妹もいるし、何と言っても、この世界の料理はマズイ、不味すぎるのです! 神様から貰った、特別なスキルを使って異世界の皆と地球へ行き来したり、地球での家族と異世界へ行き来しながら、日本で得た知識や得意な家事(食事)などを、この世界でオールと一緒に自由にのんびりと生きて行こうと思います。 前半は転移する前の私生活から始まります。

【完結】父が再婚。義母には連れ子がいて一つ下の妹になるそうですが……ちょうだい癖のある義妹に寮生活は無理なのでは?

つくも茄子
ファンタジー
父が再婚をしました。お相手は男爵夫人。 平民の我が家でいいのですか? 疑問に思うものの、よくよく聞けば、相手も再婚で、娘が一人いるとのこと。 義妹はそれは美しい少女でした。義母に似たのでしょう。父も実娘をそっちのけで義妹にメロメロです。ですが、この新しい義妹には悪癖があるようで、人の物を欲しがるのです。「お義姉様、ちょうだい!」が口癖。あまりに煩いので快く渡しています。何故かって?もうすぐ、学園での寮生活に入るからです。少しの間だけ我慢すれば済むこと。 学園では煩い家族がいない分、のびのびと過ごせていたのですが、義妹が入学してきました。 必ずしも入学しなければならない、というわけではありません。 勉強嫌いの義妹。 この学園は成績順だということを知らないのでは?思った通り、最下位クラスにいってしまった義妹。 両親に駄々をこねているようです。 私のところにも手紙を送ってくるのですから、相当です。 しかも、寮やクラスで揉め事を起こしては顰蹙を買っています。入学早々に学園中の女子を敵にまわしたのです!やりたい放題の義妹に、とうとう、ある処置を施され・・・。 なろう、カクヨム、にも公開中。

私はお母様の奴隷じゃありません。「出てけ」とおっしゃるなら、望み通り出ていきます【完結】

小平ニコ
ファンタジー
主人公レベッカは、幼いころから母親に冷たく当たられ、家庭内の雑務を全て押し付けられてきた。 他の姉妹たちとは明らかに違う、奴隷のような扱いを受けても、いつか母親が自分を愛してくれると信じ、出来得る限りの努力を続けてきたレベッカだったが、16歳の誕生日に突然、公爵の館に奉公に行けと命じられる。 それは『家を出て行け』と言われているのと同じであり、レベッカはショックを受ける。しかし、奉公先の人々は皆優しく、主であるハーヴィン公爵はとても美しい人で、レベッカは彼にとても気に入られる。 友達もでき、忙しいながらも幸せな毎日を送るレベッカ。そんなある日のこと、妹のキャリーがいきなり公爵の館を訪れた。……キャリーは、レベッカに支払われた給料を回収しに来たのだ。 レベッカは、金銭に対する執着などなかったが、あまりにも身勝手で悪辣なキャリーに怒り、彼女を追い返す。それをきっかけに、公爵家の人々も巻き込む形で、レベッカと実家の姉妹たちは争うことになる。 そして、姉妹たちがそれぞれ悪行の報いを受けた後。 レベッカはとうとう、母親と直接対峙するのだった……

異世界でのんびり暮らしてみることにしました

松石 愛弓
ファンタジー
アラサーの社畜OL 湊 瑠香(みなと るか)は、過労で倒れている時に、露店で買った怪しげな花に導かれ異世界に。忙しく辛かった過去を忘れ、異世界でのんびり楽しく暮らしてみることに。優しい人々や可愛い生物との出会い、不思議な植物、コメディ風に突っ込んだり突っ込まれたり。徐々にコメディ路線になっていく予定です。お話の展開など納得のいかないところがあるかもしれませんが、書くことが未熟者の作者ゆえ見逃していただけると助かります。他サイトにも投稿しています。

夫に用無しと捨てられたので薬師になって幸せになります。

光子
恋愛
この世界には、魔力病という、まだ治療法の見つかっていない未知の病が存在する。私の両親も、義理の母親も、その病によって亡くなった。 最後まで私の幸せを祈って死んで行った家族のために、私は絶対、幸せになってみせる。 たとえ、離婚した元夫であるクレオパス子爵が、市民に落ち、幸せに暮らしている私を連れ戻そうとしていても、私は、あんな地獄になんか戻らない。 地獄に連れ戻されそうになった私を救ってくれた、同じ薬師であるフォルク様と一緒に、私はいつか必ず、魔力病を治す薬を作ってみせる。 天国から見守っているお義母様達に、いつか立派な薬師になった姿を見てもらうの。そうしたら、きっと、私のことを褒めてくれるよね。自慢の娘だって、思ってくれるよね―――― 不定期更新。 この世界は私の考えた世界の話です。設定ゆるゆるです。よろしくお願いします。

「婚約を破棄したい」と私に何度も言うのなら、皆にも知ってもらいましょう

天宮有
恋愛
「お前との婚約を破棄したい」それが伯爵令嬢ルナの婚約者モグルド王子の口癖だ。 侯爵令嬢ヒリスが好きなモグルドは、ルナを蔑み暴言を吐いていた。 その暴言によって、モグルドはルナとの婚約を破棄することとなる。 ヒリスを新しい婚約者にした後にモグルドはルナの力を知るも、全てが遅かった。

狼の子 ~教えてもらった常識はかなり古い!?~

一片
ファンタジー
バイト帰りに何かに引っ張られた俺は、次の瞬間突然山の中に放り出された。 しかも体をピクリとも動かせない様な瀕死の状態でだ。 流石に諦めかけていたのだけど、そんな俺を白い狼が救ってくれた。 その狼は天狼という神獣で、今俺がいるのは今までいた世界とは異なる世界だという。 右も左も分からないどころか、右も左も向けなかった俺は天狼さんに魔法で癒され、ついでに色々な知識を教えてもらう。 この世界の事、生き延び方、戦う術、そして魔法。 数年後、俺は天狼さんの庇護下から離れ新しい世界へと飛び出した。 元の世界に戻ることは無理かもしれない……でも両親に連絡くらいはしておきたい。 根拠は特にないけど、魔法がある世界なんだし……連絡くらいは出来るよね? そんな些細な目標と、天狼さん以外の神獣様へとお使いを頼まれた俺はこの世界を東奔西走することになる。 色々な仲間に出会い、ダンジョンや遺跡を探索したり、何故か謎の組織の陰謀を防いだり……。 ……これは、現代では失われた強大な魔法を使い、小さな目標とお使いの為に大陸をまたにかける小市民の冒険譚!

三歳で婚約破棄された貧乏伯爵家の三男坊そのショックで現世の記憶が蘇る

マメシバ
ファンタジー
貧乏伯爵家の三男坊のアラン令息 三歳で婚約破棄され そのショックで前世の記憶が蘇る 前世でも貧乏だったのなんの問題なし なによりも魔法の世界 ワクワクが止まらない三歳児の 波瀾万丈

処理中です...