上 下
388 / 580
第16章 冬から春へ、時は流れます

第385話 ちょっとしたサプライズもあります

しおりを挟む
 ジョージさんをご案内し会場を歩くうちに、開会の時間となりました。
 私は、来場したお客さん達を出迎えるため『クリスタルゲート』に向かいます。

「大公様、自らお客さんを出迎えかい。
 遊びに来るお客さんは、殆どが王都に住む平民であろう。 
 皆、さぞかし驚くであろうな。」

 後をついて来たジョージさんが、私をからかうように言いますが。

 今回も気軽にお祭りを楽しんでもらうため、堅苦しい開会式などは無しにしました。
 せめて、お客さんのお出迎えくらいはしませんと。
 別に、門の前で、私が大公だなんて明かす訳ではありません。

 『クリスタルゲート』に着くと、まだ十時前だと言うのに門の前には多くの人が集まっていました。
 門を塞ぐように渡された一本の木の棒。
 それに手を掛けたマルゴさんが集まった人々に言います。

「これから、『第二回スノーフェスティバル』を開催いたします。
 開会式のような、堅苦しい事を抜きにして始めますが。
 くれぐれも、走ったり、前の人を押したりせずにゆっくりと中にお進みください。
 では、『スノーフェスティバル』、スタートです。」

 そして、門を塞いだ木の棒を取り去ると、マルゴさんは道の端に寄りました。
 と同時に、門をくぐり始める人の列。
 一部には通行の邪魔にならないように道の端によって門をじっくりと眺める人もいます。

 お母さんに抱き上げられた小さな女の子が門のレリーフを指差して言います。

「おかあさん、小人さんがいっぱいいる!」

「あら、ホント、とっても可愛いレリーフね。
 ほら、こっちでは小人さんが遊んでいるわよ。」

「あっ、ホントだ!かわいい!」
 
 お母さんも、女の子同様に門に彫られた精霊達がお気に召したようです。
 母子でそんな会話を交わしながら、ぐるりと門の周りを回って施されたレリーフを楽しんでいます。
 
 門のレリーフを喜んでくださる人は、この母子に限った事ではありませんでした。
 小さな子や若い女性を中心に門のレリーフは好評で、お祭りの期間中、門の回りは賑わいを見せることになります。

      ********

 門をくぐって、会場に入った人達ですが、マルゴさんの注意も聞かずに走り始める人達がいます。
 その人達が目指すのは…。

 サクラソウの丘の広場に出ると元気な声が聞こえてきました。

「はーい!雪のオブジェを作りたい人はこっちに集まってください。
 十人一組で、先着十組でーす!」

 ノノちゃんがそう叫びながら、大きく手を振っています。

「はーい!雪合戦に出たい子供達はこっちに集まってね。
 子供なら誰でも参加できるよ!」

 ノノちゃんから少し離れた場所では、ナナちゃんが子供達を集めています。

 門をくぐるなり走って行った人達の目的は、二人が参加者を集めている二つのイベントです。

 一つは、雪のオブジェの製作。
 今回もノノちゃんが雪の造形を作る予定ですが、一つでは寂しいと思ったのです。
 せっかく告知期間があるのですから、王都の住民の方にも作ってもらおうと思いました。
 そのため、『スノーフェスティバル』の告知を出してもらう時に、参加者募集も記載してもらいました。
 参加してくださった方には、全員にこの会場の屋台で使える食券を五枚づつ進呈すると付記して。
 実は、それだけではないのですが、それはサプライズで。
 ここに集まったのは食券に釣られて集まった人々です。
 スペースの関係で先着十組にしたので、みんな走っていたようです。

 そして、もう一つは雪合戦。
 アルム地方の冬場の遊びを王都の子供達にも体験してもらう。
 それが、昨年、『スノーフェスティバル』を開催した時の建て前でした。
 今年も王都の子供達に楽しんでもらう事を前面に押し出したお祭りにしようと思ったのです。

 さて、今回は、前回無かった屋台を出店しました。
 このお祭りで儲ける気は無いので、屋台の食べ物はどれも銅貨三枚と格安に設定してあります。
 できれば、子供達に屋台の食べ物を味わって欲しいのですが。
 子供達が親と一緒に遊びに来るとは限りませんし、銅貨三枚を小遣いに持たせてもらえるとも限りません。

 そこで、雪合戦を子供限定のイベントにして、参加賞として屋台の食券を一枚進呈することにしたのです。
 しかも、何回でも、参加できることにしました。
 こちらは、一日中何回でもやっているし、参加人数も限定してないので走る必要ないのですが。
 きっと、子供達は待ち切れなかったのですね。

     ********

 まずは、ノノちゃんの所に集まった雪のオブジェの参加者ですが。

「ちぇ、俺達は十一番目か、出遅れちまったぜ。
 せっかく、目を見張るようなモノを作ってやろうと思ったのに。」

 私としては、先着十組集まるとは思っていませんでした。
 八割方枠が埋まれば十分だと思っていたのです。
 ふたを開けてみれば、けっこう手を上げる人がいたようで一組あぶれてしまいました。

「おじさん達、良かったら私を手伝ってくれませんか。
 私も主催者側で一つ作るのですが。
 先着にあぶれる人がいれば手伝ってもらおうと考えてたんです。
 もちろん、参加賞は差し上げますよ。」

 十一番目になって、先着からもれてしまった一団にノノちゃんが声を掛けました。
 元々、ノノちゃんの出品を除くとスペースの制約で十組が限界だったのです。
 万が一、十組を超えることになったら、ノノちゃんの手伝いをしてもらおうと予め決めておいたのです。

「おお、お嬢ちゃん、そいつはありがてぇな。
 せっかくここまで来たんだ。
 門前払いで帰るよりお嬢ちゃんの手伝いをした方が、なんぼかマシだ。
 なあ、そうだろう、みんな。」

 ノノちゃんの誘いに答えてリーダーらしき男が仲間たちに問いました。

「おう、いいぜ。
 俺は去年、そのお嬢ちゃんと雪の城を作ったんだ。
 そのお嬢ちゃん、大した指導力だぜ。
 去年は楽しかったぞ。」

 男達の中から上がったその一言で、このグループの参加が決まりました。
 こうして、雪のオブジェ作りの参加者が確定したのですが…。

「どうやら、参加者が決まったようだね。」

「あっ、国王陛下。
 ここまで足を運んで頂き有り難うございます。」

 国王がこんな所にいるとは誰も思っていなかったようで。
 ノノちゃんが言葉にするまで、声を掛けて来たジョージさんの正体に気付いた人はいませんでした。
 ノノちゃんの言葉を耳にして、一同、跪こうとしますが。

「よい、よい。そんなところで跪いたらズボンが濡れてしまうであろう。
 そのまま、立って聞いておくれ。
 今回のこの雪のオブジェだけど。
 どんなものが出来るか、私は楽しみにしているのだ。
 完成したものの中で、私が気に入ったモノ二つに金一封を授けよう。
 そうだな、一等が金貨十枚、二等が金貨五枚でどうだろうか。
 みんな、最終日までに頑張って完成させておくれ。」

 ジョージさんの口からそんなサプライズが飛び出します。
 もちろん、最初から予定していたものです。

 このイベントを考えた時に、ジョージさんに相談したのですが。

「王都の住民にオブジェを作らせるのは良いが。
 参加賞目当てのやる気のない連中ばかり集まったらどうするのだ。
 作りかけで放棄された雪の塊があったら、見苦しいだけだぞ。
 何か、頑張って完成させようと言うエサをちらつかせた方が良いのではないか。」

 そんな事を言われました。
 ジョージさんは、食券だけもらってドロンする輩が出てくるのではと懸念したのです。
 今回の『スノーフェスティバル』は、ジョージさんから持ち掛けた事だからと言うことで。
 ジョージさんが、賞金を出してくださることになりました。

 それは、サプライズイベントにしようと言うことで、今の今までナイショにしていました。

 国王陛下が完成を楽しみにしていると口にしたのです。
 よもや、途中で放り出すグループはいないでしょう。

 そして、ノノちゃんに協力してくれるグループにも、ジョージさんは配慮して下さいました。
 ジョージさんの審査対象にはノノちゃんの作品も含むことになったのです。

「うおお、すげーぜ!
 国王陛下が金貨十枚を下賜してくださるそうだ。
 野郎ども、頑張っていくぞ!」

 参加者の一人がそんな声を上げると…。

「「「「「おー!」」」」」

 それに呼応して、参加者の中から雄叫びが上がりました。
 皆さん、やる気を出してくれたようで何よりです。
 
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】6歳の王子は無自覚に兄を断罪する

土広真丘
ファンタジー
ノーザッツ王国の末の王子アーサーにはある悩みがあった。 異母兄のゴードン王子が婚約者にひどい対応をしているのだ。 その婚約者は、アーサーにも優しいマリーお姉様だった。 心を痛めながら、アーサーは「作文」を書く。 ※全2話。R15は念のため。ふんわりした世界観です。 前半はひらがなばかりで、読みにくいかもしれません。 主人公の年齢的に恋愛ではないかなと思ってファンタジーにしました。 小説家になろうに投稿したものを加筆修正しました。

「あなたのことはもう忘れることにします。 探さないでください」〜 お飾りの妻だなんてまっぴらごめんです!

友坂 悠
恋愛
あなたのことはもう忘れることにします。 探さないでください。 そう置き手紙を残して妻セリーヌは姿を消した。 政略結婚で結ばれた公爵令嬢セリーヌと、公爵であるパトリック。 しかし婚姻の初夜で語られたのは「私は君を愛することができない」という夫パトリックの言葉。 それでも、いつかは穏やかな夫婦になれるとそう信じてきたのに。 よりにもよって妹マリアンネとの浮気現場を目撃してしまったセリーヌは。 泣き崩れ寝て転生前の記憶を夢に見た拍子に自分が生前日本人であったという意識が蘇り。 もう何もかも捨てて家出をする決意をするのです。 全てを捨てて家を出て、まったり自由に生きようと頑張るセリーヌ。 そんな彼女が新しい恋を見つけて幸せになるまでの物語。

【完結】言いたいことがあるなら言ってみろ、と言われたので遠慮なく言ってみた

杜野秋人
ファンタジー
社交シーズン最後の大晩餐会と舞踏会。そのさなか、第三王子が突然、婚約者である伯爵家令嬢に婚約破棄を突き付けた。 なんでも、伯爵家令嬢が婚約者の地位を笠に着て、第三王子の寵愛する子爵家令嬢を虐めていたというのだ。 婚約者は否定するも、他にも次々と証言や証人が出てきて黙り込み俯いてしまう。 勝ち誇った王子は、最後にこう宣言した。 「そなたにも言い分はあろう。私は寛大だから弁明の機会をくれてやる。言いたいことがあるなら言ってみろ」 その一言が、自らの破滅を呼ぶことになるなど、この時彼はまだ気付いていなかった⸺! ◆例によって設定ナシの即興作品です。なので主人公の伯爵家令嬢以外に固有名詞はありません。頭カラッポにしてゆるっとお楽しみ下さい。 婚約破棄ものですが恋愛はありません。もちろん元サヤもナシです。 ◆全6話、約15000字程度でサラッと読めます。1日1話ずつ更新。 ◆この物語はアルファポリスのほか、小説家になろうでも公開します。 ◆9/29、HOTランキング入り!お読み頂きありがとうございます! 10/1、HOTランキング最高6位、人気ランキング11位、ファンタジーランキング1位!24h.pt瞬間最大11万4000pt!いずれも自己ベスト!ありがとうございます!

冷遇妻に家を売り払われていた男の裁判

七辻ゆゆ
ファンタジー
婚姻後すぐに妻を放置した男が二年ぶりに帰ると、家はなくなっていた。 「では開廷いたします」 家には10億の価値があったと主張し、妻に離縁と損害賠償を求める男。妻の口からは二年の事実が語られていく。

チート幼女とSSSランク冒険者

紅 蓮也
ファンタジー
【更新休止中】 三十歳の誕生日に通り魔に刺され人生を終えた小鳥遊葵が 過去にも失敗しまくりの神様から異世界転生を頼まれる。 神様は自分が長々と語っていたからなのに、ある程度は魔法が使える体にしとく、無限収納もあげるといい、時間があまり無いからさっさと転生しちゃおっかと言いだし、転生のため光に包まれ意識が無くなる直前、神様から不安を感じさせる言葉が聞こえたが、どうする事もできない私はそのまま転生された。 目を開けると日本人の男女の顔があった。 転生から四年がたったある日、神様が現れ、異世界じゃなくて地球に転生させちゃったと・・・ 他の人を新たに異世界に転生させるのは無理だからと本来行くはずだった異世界に転移することに・・・ 転移するとそこは森の中でした。見たこともない魔獣に襲われているところを冒険者に助けられる。 そして転移により家族がいない葵は、冒険者になり助けてくれた冒険者たちと冒険したり、しなかったりする物語 ※この作品は小説家になろう様、カクヨム様、ノベルバ様、エブリスタ様でも掲載しています。

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた

佐藤醤油
ファンタジー
 貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。  僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。  魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。  言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。  この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。  小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。 ------------------------------------------------------------------  お知らせ   「転生者はめぐりあう」 始めました。 ------------------------------------------------------------------ 注意  作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。  感想は受け付けていません。  誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。

婚約破棄されたら魔法が解けました

かな
恋愛
「クロエ・ベネット。お前との婚約は破棄する。」 それは学園の卒業パーティーでの出来事だった。……やっぱり、ダメだったんだ。周りがザワザワと騒ぎ出す中、ただ1人『クロエ・ベネット』だけは冷静に事実を受け止めていた。乙女ゲームの世界に転生してから10年。国外追放を回避する為に、そして后妃となる為に努力し続けて来たその時間が無駄になった瞬間だった。そんな彼女に追い打ちをかけるかのように、王太子であるエドワード・ホワイトは聖女を新たな婚約者とすることを発表した。その後はトントン拍子にことが運び、冤罪をかけられ、ゲームのシナリオ通り国外追放になった。そして、魔物に襲われて死ぬ。……そんな運命を辿るはずだった。 「こんなことなら、転生なんてしたくなかった。元の世界に戻りたい……」 あろうことか、最後の願いとしてそう思った瞬間に、全身が光り出したのだ。そして気がつくと、なんと前世の姿に戻っていた!しかもそれを第二王子であるアルベルトに見られていて……。 「……まさかこんなことになるなんてね。……それでどうする?あの2人復讐でもしちゃう?今の君なら、それができるよ。」 死を覚悟した絶望から転生特典を得た主人公の大逆転溺愛ラブストーリー! ※最初の5話は毎日18時に投稿、それ以降は毎週土曜日の18時に投稿する予定です

鋼将軍の銀色花嫁

小桜けい
ファンタジー
呪われた両手を持つ伯爵令嬢シルヴィアが、十八年間も幽閉された塔から出されたのは、借金のかたに北国の将軍へ嫁がされるためだった。 何もかもが嫌になり城を逃げ出したが、よりによって嫁ぐ相手に捕まってしまい……。  一方で北国の将軍ハロルドは困惑していた。軍師に無茶振りされた政略婚でも、妻には一目ぼれだ。幸せな家庭を築きけるよう誠意を尽くそう。 目指せ夫婦円満。 しかし何故か、話し掛けるほど脅えられていく気がするのだが!?  妻には奥手な二十八歳の将軍と、身体の秘密を夫に知られたくない十八歳の娘の、すれ違い夫婦のお話。 シリアス、コメディ要素が半々。

処理中です...