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第15章 秋から冬へ、仕込みの季節です
第363話 私が雇い主なのですが…
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「やあ、精霊さん。
どうやら、無事につながったようですね。
お疲れ様でした。
これ、つまらないものですが、召し上がってください。
そこにある宮廷御用達のお菓子屋で買って来ました。」
私が中庭で、大地の精霊ノミーちゃんを交えてお茶をしていると。
宮廷に発電施設の設置状況の報告に行っていたオークレフトさんが顔を見せます。
そして、ノミーちゃんの姿を目に留めると、菓子箱を差し出しながら労いの言葉を掛けました。
「あんたねえ、お菓子を差し出しておけば私が機嫌を良くすると思っているでしょう。
お菓子で釣れば何でも言う事を聞くと思っているんじゃないでしょうね。
いつも言ってるけど、私はそんな安い女じゃないわよ。」
ノミーちゃんはそんなオークレフトさんを白い目で見ながら、苦言を呈しました。
ノミーちゃんは、何かとオークレフトさんに利用されている感のありますからね。
「まあ、まあ、そうおっしゃらず。
そんな失礼なことは思っていませんって。
これはほんの感謝の気持ちです。
このお菓子、先般の講和会議でも供された評判のモノだそうですよ。
ショコラーデをふんだんに使ったケーキです。」
少しご機嫌斜めとなったノミーちゃんを宥めながら、差し出したお菓子の説明をするオークレフトさん。
その姿はまるで太鼓持ちのようで、ノミーちゃんに媚びているのがミエミエです。
お菓子ごときで買収されないと言っていたノミーちゃんですが…。
大好きなショコラーデをふんだんに使ったケーキと聞き、ノミーちゃんの視線は釘付けです。
やがて、…。
「……。
まあ、これはもらっておくわ。」
あっ、やっぱり。
ノミーちゃんのご機嫌を取ったオークレフトさん、今度は私に向かって言います。
「さて、シャルロッテ様、休暇は終わりですよ。
明日からはまた付き合って頂きますからね。」
どうやら、あまりのんびりとはさせて頂けないようです…。
********
で、翌朝。
私は、ヴァイスの引く馬車で帝都から発電施設のある丘陵地帯まで逆行する形で空を飛んでいます。
「そのまま、まっすぐ西に向かって!」
普段とは違い、ヴァイスの背にはノミーちゃんが座ってナビゲートしています。
そう、ノミーちゃんが掘ったトンネルの上を正確に飛ぶように誘導しているのです。
「風の精霊さん、あそこに見える空き地の所で馬車を降ろすように伝えてもらえますか。」
「おっけ~!じゃあ、言ってくる~!」
オークレフトさんが、私の肩に腰掛けてご機嫌そうな風の精霊ブリーゼちゃんに伝えます。
元気な声でブリーゼちゃんが飛んでいくと、馬車は徐々に高度を下げ始めました。
馬車が降り立ったのは、人里から少し離れた空き地でした。
「精霊さん、この地下に昨日掘って頂いたトンネルが通っているのですね。」
「そうだよ!」
「では、そのトンネルに接続するように、この空き地からトンネルに降りる階段を作ってください。
事前に説明した通りの形になるようにお願いします。」
オークレフトさんがトンネルに降りるための通路を作るよう、ノミーちゃんにお願いしました。
そう、今日はトンネルの換気口を兼ねた保守点検用の入り口を作って回っています。
帝都を出てから、一定の間隔で作っていくのですが、…。
上空から見て、人目に付かない空き地を探すのがけっこう骨でした。
「ガッテンだよ!」
気風の良い返事をして地面に穴を掘り始めるノミーちゃん。
あっという間に地面に穴が開き、階段が出来上がっていきます。
そして、
「はい、おまち!いっちょう上がり!」
ノミーちゃんの元気な声が響いた時には、目の前には階段を覆った小さな石造りの小屋が出来ていました。
「じゃあ、ヴァイス、昨日頼んだアレ、出してもらえるかな。」
「承知したぞ、主。
今回協力した礼は期待しておるからな。」
私が指示をすると、ヴァイスはそう言って目の前に鉄の扉を出してくれます。
今作っている構造物、メンテナンス用の入り口と換気口を兼ねていますので、百ではきかない数設置します。
なんと言っても五十マイルもの間に一定間隔で設置して行くのですから。
この入り口、なるべく人目に付かないところに造りますが、勝手に人が入り込んだら困ります。
人でなくても、熊とか、毒ヘビとか害獣が入っても困るのです。
なので、頑丈な扉を作りましたが、これがとても重くて。
それを百枚以上運ぶのはとても難しいので、ヴァイスのお便利能力に頼りました。
ヴァイスの持つ力は、私の転移魔法の上位版の様なものです。
特定の場所に物体を送ったり、引き寄せたりが自由にできます。
昨日、今回設置する扉を工房から作業現場に引き寄せる事をお願いしておいたのです。
好色なヴァイスのことです。タダという訳にはいかず、後日ヴァイスの背に跨る事を要求されました。
この鉄の扉、高さ三ヤード、幅二ヤードもある大きな扉です。
不具合があった場合に、補修用の資材を搬入出来るように大きなモノにしました。
この扉、雨や雪解け水がトンネルの中に入らないように下半分は厚い金属板になっています。
そして、上半分は換気のため格子状になっていて、蛇やネズミなどの小動物が侵入しないように金網が張られています。
更に、設置する場所で作業をしないで済むように既に桟に嵌め込まれた形になっていて。
「じゃあ、ノミーちゃん、説明した通りにしてもらえるかな。」
「ガッテンだよ!」
私が魔法で扉を浮かべて、ノミーちゃんが作った小屋の入り口を塞ぐようにすると。
『ニョキ、ニョキ』
そんな表現がピッタリです。
開けられた入り口の四隅から石が成長するようにせり出してきて扉をガッチリと固定します。
これで一つ、メンテナンス用の入り口兼換気口の出来上がりです。
私達は、これを朝から延々と繰り返しています。
これが、口で言うほど簡単な作業ではないのです。
なるべく等間隔に設置したいのですが、中々そうもいきません。
雨が降ったら浸水するような低い場所は避けないといけませんし、既に建物建っている場所もあります。
少し高い土地で、うまい具合に空き地になっているところを探しながら設置しているのです。
また、森の中に作る時は植物の精霊ドリーちゃんにお願いして、樹木を退かしてから作ることになりました。
そんな作業を繰り返し、三十ヶ所ほど設置するとお日様は大分西に傾いています。
「今日はここまでにしましょうか。
だいたい、一日に設置できるのは三十個と言ったところですか。
このペースですと、だいたい一週間くらいかかりますかね。
明日からもお願いしますよ、シャルロッテ様。」
オークレフトさんは事も無げに言いますが、…。
日頃アルムハイムにこもっている私には、一日中出歩くだけでもしんどいのです。
これをあと1週間ですか。
その時私は思いました、「早く帰って温泉に浸かりたい」と。
********
そして、一週間後。
「シャルロッテ様、お疲れさまでした。
これでメンテナンス用の入り口の設置も無事に終わりました。
明日からは、いよいよ資材の搬入です。
よろしくお願いしますよ。」
予定していた全ての場所にメンテナンス用の入り口の設置が終了して戻って来た工房の庭。
一週間に及ぶ作業で疲れ切った私に明日からも資材の搬入をしろというオークレフトさん。
これでは、私がオークレフトさんに雇われているようです。
いや、だから、私は運送屋ではありません。
とは口に出しては言いません。
発電施設を建てた場所は、道も通っていない、丘陵地帯の森の中です。
最初から、私の魔法で資材を転送させる前提で、その場所を選んだのですから。
ええ、やりましたとも。
工房の作業場に積まれた資材を、浮遊魔法で敷物の上に運んでは魔法で発電施設へ転送する作業を延々と。
発電施設に運び込んだ資材はとんでもない量になりました。
先日苦労して設置した発電機本体を動かすための諸々の資材や配電のための資材はもちろんですが。
オークレフトさんを指揮官に、冬の間、五十人の作業員が発電施設の建物に泊まり込んで作業を続けることになります。
そのための食料や生活物資は当面の分だけでもかなりの量になったのです。
もちろん、これは私が定期的に追加を届けるのが前提になっています。
魔力を消耗しながらも、何とかその作業を成し遂げた三日後。
私は帝都への街灯設置工事に関する冬前最後の仕事をしました。
オークレフトさんとその指揮下の作業員五十人を発電施設の建物に送り届ける仕事です。
大きなログハウスの中、私は無事に送り届けた五十人を前にしてオークレフトさんに尋ねます。
「何度も言うようですが、本当に大丈夫なのでしょうね。
工事が完了した時に、全員がお腹を大きくしていたなんてことはゴメンですよ。」
今回、オークレフトさんの指揮下で働く作業員ですが。
初期に採用した悪ガキ共が四十五人、それに女の子が五人です。
そのメンツで、冬中、ここにこもって作業を続けることになります。
狭い空間にこもって作業を続けるメンツに女の子がいる事に、私は当初難色を示しました。
ですが、オークレフトさんが、ここにいる五人の女の子がいないと仕事にならないと主張したのです。
どうやら、今回の作業に参加する五人の女の子は、オークレフトさんが目を掛けている部下のようです。
一応、このログハウスは、男子部屋と女子部屋を備えていますし、温泉も男女別に浴室を作りました。
もちろん、女子部屋や女子風呂には内側から施錠できるように作ってはあります。
女の子の身の安全には配慮したつもりですが、多勢に無勢ですから万が一と言うことがあります。
娼館に行くために目の色を変えて働くエロガキ共が、女の子に狼藉を働かないか心配です。
「大丈夫ですよ、ご安心ください。
今回、ここで働いてもらう女性工員は、全員一騎当千の猛者たちです。
悪ガキ共四十五人が束になってかかっても、とても太刀打ちできませんよ。
それに、今回連れてきた五人は今でも悪ガキ共を指揮させているリーダーなんです。
彼女たちがいないと仕事になりませんし、彼女たちの怖さを悪ガキ共は身に染みて知っています。」
一騎当千の猛者って…、それ、女の子に対してつかう言葉じゃないですよね。
私が、そんな事を考えていると。
「さあ、みんな、もたもたしていたら日が暮れちゃうよ。
食料は早く厨房の横にある食糧庫に運ぶんだよ。
ちんたらしていると、晩飯抜きにするよ!」
一際小柄な女の子が、厨房の方を指差して大きな声で指示を出しました。
すると、悪ガキ共の一団が一糸乱れぬ隊列を組んで、まるで軍隊のように荷物を運び始めます。
どうやら、私の杞憂のようでした。
よく一、二年であのおサルさん達を躾けたものですね。ホント、感心しました。
何はともあれ、こうして帝都に街灯を設置する作業が始まりました。
どうやら、無事につながったようですね。
お疲れ様でした。
これ、つまらないものですが、召し上がってください。
そこにある宮廷御用達のお菓子屋で買って来ました。」
私が中庭で、大地の精霊ノミーちゃんを交えてお茶をしていると。
宮廷に発電施設の設置状況の報告に行っていたオークレフトさんが顔を見せます。
そして、ノミーちゃんの姿を目に留めると、菓子箱を差し出しながら労いの言葉を掛けました。
「あんたねえ、お菓子を差し出しておけば私が機嫌を良くすると思っているでしょう。
お菓子で釣れば何でも言う事を聞くと思っているんじゃないでしょうね。
いつも言ってるけど、私はそんな安い女じゃないわよ。」
ノミーちゃんはそんなオークレフトさんを白い目で見ながら、苦言を呈しました。
ノミーちゃんは、何かとオークレフトさんに利用されている感のありますからね。
「まあ、まあ、そうおっしゃらず。
そんな失礼なことは思っていませんって。
これはほんの感謝の気持ちです。
このお菓子、先般の講和会議でも供された評判のモノだそうですよ。
ショコラーデをふんだんに使ったケーキです。」
少しご機嫌斜めとなったノミーちゃんを宥めながら、差し出したお菓子の説明をするオークレフトさん。
その姿はまるで太鼓持ちのようで、ノミーちゃんに媚びているのがミエミエです。
お菓子ごときで買収されないと言っていたノミーちゃんですが…。
大好きなショコラーデをふんだんに使ったケーキと聞き、ノミーちゃんの視線は釘付けです。
やがて、…。
「……。
まあ、これはもらっておくわ。」
あっ、やっぱり。
ノミーちゃんのご機嫌を取ったオークレフトさん、今度は私に向かって言います。
「さて、シャルロッテ様、休暇は終わりですよ。
明日からはまた付き合って頂きますからね。」
どうやら、あまりのんびりとはさせて頂けないようです…。
********
で、翌朝。
私は、ヴァイスの引く馬車で帝都から発電施設のある丘陵地帯まで逆行する形で空を飛んでいます。
「そのまま、まっすぐ西に向かって!」
普段とは違い、ヴァイスの背にはノミーちゃんが座ってナビゲートしています。
そう、ノミーちゃんが掘ったトンネルの上を正確に飛ぶように誘導しているのです。
「風の精霊さん、あそこに見える空き地の所で馬車を降ろすように伝えてもらえますか。」
「おっけ~!じゃあ、言ってくる~!」
オークレフトさんが、私の肩に腰掛けてご機嫌そうな風の精霊ブリーゼちゃんに伝えます。
元気な声でブリーゼちゃんが飛んでいくと、馬車は徐々に高度を下げ始めました。
馬車が降り立ったのは、人里から少し離れた空き地でした。
「精霊さん、この地下に昨日掘って頂いたトンネルが通っているのですね。」
「そうだよ!」
「では、そのトンネルに接続するように、この空き地からトンネルに降りる階段を作ってください。
事前に説明した通りの形になるようにお願いします。」
オークレフトさんがトンネルに降りるための通路を作るよう、ノミーちゃんにお願いしました。
そう、今日はトンネルの換気口を兼ねた保守点検用の入り口を作って回っています。
帝都を出てから、一定の間隔で作っていくのですが、…。
上空から見て、人目に付かない空き地を探すのがけっこう骨でした。
「ガッテンだよ!」
気風の良い返事をして地面に穴を掘り始めるノミーちゃん。
あっという間に地面に穴が開き、階段が出来上がっていきます。
そして、
「はい、おまち!いっちょう上がり!」
ノミーちゃんの元気な声が響いた時には、目の前には階段を覆った小さな石造りの小屋が出来ていました。
「じゃあ、ヴァイス、昨日頼んだアレ、出してもらえるかな。」
「承知したぞ、主。
今回協力した礼は期待しておるからな。」
私が指示をすると、ヴァイスはそう言って目の前に鉄の扉を出してくれます。
今作っている構造物、メンテナンス用の入り口と換気口を兼ねていますので、百ではきかない数設置します。
なんと言っても五十マイルもの間に一定間隔で設置して行くのですから。
この入り口、なるべく人目に付かないところに造りますが、勝手に人が入り込んだら困ります。
人でなくても、熊とか、毒ヘビとか害獣が入っても困るのです。
なので、頑丈な扉を作りましたが、これがとても重くて。
それを百枚以上運ぶのはとても難しいので、ヴァイスのお便利能力に頼りました。
ヴァイスの持つ力は、私の転移魔法の上位版の様なものです。
特定の場所に物体を送ったり、引き寄せたりが自由にできます。
昨日、今回設置する扉を工房から作業現場に引き寄せる事をお願いしておいたのです。
好色なヴァイスのことです。タダという訳にはいかず、後日ヴァイスの背に跨る事を要求されました。
この鉄の扉、高さ三ヤード、幅二ヤードもある大きな扉です。
不具合があった場合に、補修用の資材を搬入出来るように大きなモノにしました。
この扉、雨や雪解け水がトンネルの中に入らないように下半分は厚い金属板になっています。
そして、上半分は換気のため格子状になっていて、蛇やネズミなどの小動物が侵入しないように金網が張られています。
更に、設置する場所で作業をしないで済むように既に桟に嵌め込まれた形になっていて。
「じゃあ、ノミーちゃん、説明した通りにしてもらえるかな。」
「ガッテンだよ!」
私が魔法で扉を浮かべて、ノミーちゃんが作った小屋の入り口を塞ぐようにすると。
『ニョキ、ニョキ』
そんな表現がピッタリです。
開けられた入り口の四隅から石が成長するようにせり出してきて扉をガッチリと固定します。
これで一つ、メンテナンス用の入り口兼換気口の出来上がりです。
私達は、これを朝から延々と繰り返しています。
これが、口で言うほど簡単な作業ではないのです。
なるべく等間隔に設置したいのですが、中々そうもいきません。
雨が降ったら浸水するような低い場所は避けないといけませんし、既に建物建っている場所もあります。
少し高い土地で、うまい具合に空き地になっているところを探しながら設置しているのです。
また、森の中に作る時は植物の精霊ドリーちゃんにお願いして、樹木を退かしてから作ることになりました。
そんな作業を繰り返し、三十ヶ所ほど設置するとお日様は大分西に傾いています。
「今日はここまでにしましょうか。
だいたい、一日に設置できるのは三十個と言ったところですか。
このペースですと、だいたい一週間くらいかかりますかね。
明日からもお願いしますよ、シャルロッテ様。」
オークレフトさんは事も無げに言いますが、…。
日頃アルムハイムにこもっている私には、一日中出歩くだけでもしんどいのです。
これをあと1週間ですか。
その時私は思いました、「早く帰って温泉に浸かりたい」と。
********
そして、一週間後。
「シャルロッテ様、お疲れさまでした。
これでメンテナンス用の入り口の設置も無事に終わりました。
明日からは、いよいよ資材の搬入です。
よろしくお願いしますよ。」
予定していた全ての場所にメンテナンス用の入り口の設置が終了して戻って来た工房の庭。
一週間に及ぶ作業で疲れ切った私に明日からも資材の搬入をしろというオークレフトさん。
これでは、私がオークレフトさんに雇われているようです。
いや、だから、私は運送屋ではありません。
とは口に出しては言いません。
発電施設を建てた場所は、道も通っていない、丘陵地帯の森の中です。
最初から、私の魔法で資材を転送させる前提で、その場所を選んだのですから。
ええ、やりましたとも。
工房の作業場に積まれた資材を、浮遊魔法で敷物の上に運んでは魔法で発電施設へ転送する作業を延々と。
発電施設に運び込んだ資材はとんでもない量になりました。
先日苦労して設置した発電機本体を動かすための諸々の資材や配電のための資材はもちろんですが。
オークレフトさんを指揮官に、冬の間、五十人の作業員が発電施設の建物に泊まり込んで作業を続けることになります。
そのための食料や生活物資は当面の分だけでもかなりの量になったのです。
もちろん、これは私が定期的に追加を届けるのが前提になっています。
魔力を消耗しながらも、何とかその作業を成し遂げた三日後。
私は帝都への街灯設置工事に関する冬前最後の仕事をしました。
オークレフトさんとその指揮下の作業員五十人を発電施設の建物に送り届ける仕事です。
大きなログハウスの中、私は無事に送り届けた五十人を前にしてオークレフトさんに尋ねます。
「何度も言うようですが、本当に大丈夫なのでしょうね。
工事が完了した時に、全員がお腹を大きくしていたなんてことはゴメンですよ。」
今回、オークレフトさんの指揮下で働く作業員ですが。
初期に採用した悪ガキ共が四十五人、それに女の子が五人です。
そのメンツで、冬中、ここにこもって作業を続けることになります。
狭い空間にこもって作業を続けるメンツに女の子がいる事に、私は当初難色を示しました。
ですが、オークレフトさんが、ここにいる五人の女の子がいないと仕事にならないと主張したのです。
どうやら、今回の作業に参加する五人の女の子は、オークレフトさんが目を掛けている部下のようです。
一応、このログハウスは、男子部屋と女子部屋を備えていますし、温泉も男女別に浴室を作りました。
もちろん、女子部屋や女子風呂には内側から施錠できるように作ってはあります。
女の子の身の安全には配慮したつもりですが、多勢に無勢ですから万が一と言うことがあります。
娼館に行くために目の色を変えて働くエロガキ共が、女の子に狼藉を働かないか心配です。
「大丈夫ですよ、ご安心ください。
今回、ここで働いてもらう女性工員は、全員一騎当千の猛者たちです。
悪ガキ共四十五人が束になってかかっても、とても太刀打ちできませんよ。
それに、今回連れてきた五人は今でも悪ガキ共を指揮させているリーダーなんです。
彼女たちがいないと仕事になりませんし、彼女たちの怖さを悪ガキ共は身に染みて知っています。」
一騎当千の猛者って…、それ、女の子に対してつかう言葉じゃないですよね。
私が、そんな事を考えていると。
「さあ、みんな、もたもたしていたら日が暮れちゃうよ。
食料は早く厨房の横にある食糧庫に運ぶんだよ。
ちんたらしていると、晩飯抜きにするよ!」
一際小柄な女の子が、厨房の方を指差して大きな声で指示を出しました。
すると、悪ガキ共の一団が一糸乱れぬ隊列を組んで、まるで軍隊のように荷物を運び始めます。
どうやら、私の杞憂のようでした。
よく一、二年であのおサルさん達を躾けたものですね。ホント、感心しました。
何はともあれ、こうして帝都に街灯を設置する作業が始まりました。
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