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第15章 秋から冬へ、仕込みの季節です

第357話 おサルさんの作り方…、なんだかな~…

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 さて、村長の娘さん二人と村一番の器量よしのセレナさんを雇い入れる事が決まり、私の目的は終わりました。
 まだ、女学校の生徒募集には時期が早いので、それは後日改めてですね。
 ナナちゃんをアルムハイムへ連れて帰るのもその時で良いでしょう。

 私がそう思っていると。

「村長、今回の用件はこれで終わりました。
 私はまた冬前に、女学校の生徒を集めにこの村も訪れるつもりでいます。
 募集の要件は昨年と全く同じです。
 十二歳から十四歳の女の子で、生活に困窮している家から生徒を募ります。
 そのつもりでいてください。」

 リーナが今年の生徒募集の話を伝えました。
 訪れた時に事がスムーズに運ぶようにとの配慮からでしょう。

「そうでございますか。
 このような片田舎の村にまで、ご慈悲を掛けて頂き恐縮でございます。
 ですが、今年は学校で学ばせていただく該当者がおりませんで…。」

「それは、今年は生活に困窮している家が無いという事ですか?」

 今年は女学校の生徒の候補者がいないという村長に、リーナが問い掛けます。
 この村は極貧の村で、毎年どこかしらの家で女の子を身売りしていたはずです。
 確かに、ノノちゃんを始めこの村からは十人以上の少女を保護しました。
 その内の半分以上は、リーナの許で働いて給金を得ています。
 その子達からの仕送りで暮らし向きが改善したという事でしょうか。


「今年は天候に恵まれて牛の生育が良く、村の稼ぎが多かったのもありますが…。
 もう、領主様が募集されている年回りの娘がこの村にはおりません。
 今日集めた六人の娘の下は、一番年長の者で十歳のナナなのです。
 間にいた娘達はみんな、お二方が連れて行ってしまったもので。」

 ここは本当に小さな村です。
 娼婦として売られて行くの防ぐために、私達が貧しい家庭の子供を保護した結果、対象年齢の少女がいなくなったと言います。

「それでは、仕方がありませんね。
 では、今年はこの村からの募集は無しとしましょう。」

 と返答したリーナ。
 だとすると、私はナナちゃんを迎えるだけにここまで来なくてはならないのですか。一人で…。
 それも、面倒ですね。

     ********

「と言うことで、少し季節が早いのですが。
 ナナちゃんを私の許に連れて行こうと思います。
 よろしいですか。」

 私はナナちゃんの家を訪れ、今から冬の間ナナちゃんを預かりたいと両親に伝えました。
 事前の話では、もう少し秋が深まってから連れて行くことになっていたのですが。

「お貴族様、申し訳ありませんが。
 うちはこの通り貧乏なもので、私と旦那の二人で働かないと生活していけません。
 ナナを連れて行かれてしまうと。
 私が働いている間、下の子供二人の世話をするモンがいなくなってしまいます。」

 貴族の私に逆らうことに戦々恐々としながら答えたのは、ナナちゃんのお母さんです。
 小さな子供の世話や水汲み、食事の支度は年長の子供の仕事だとは聞かされていました。
 この地域は深い積雪のため、冬場は出来る牧場の仕事が減ります。、
 そのため、両親が家にいる事が多い冬になったらナナちゃんを預かる事にしたのです。
 冬の間は両親が二人の小さな子供の相手が出来ますから。

「馬鹿言ってねえで、お貴族様の言う通りにするだー。
 ノノにしたって、ネネにしたって、お貴族様の言う事に従っといて間違いなかったっぺ。
 おら達みたいな頭の足らんものは、何も考えんとお貴族様の言う事に従っとけばそれで良いべ。
 だいたい、末の息子だってもう六つだっぺ。
 何時までもナナに世話焼かせていたら、ヒョロヒョロに育っちまう。
 そろそろ、村のガキ共の仲間入りをさせて、こん村のしきたりを教えてもらわんと。」

 渋るナナちゃんのお母さんを叱り付けたお父さん。
 私の言葉に従うように言いますが、話を聞いていると完全に思考を放棄しています。

 それに、最後のフレーズがすごく気に掛かりました。
 ガキ共の仲間入り?村のしきたり?
 …そうやって、脳筋でモノを考えない悪ガキ共がコピーされて行くのですね。

 お父さんの言葉に、渋々ですがお母さんも従うことになり、ナナちゃんを連れて行くことに同意してくれました。

「あんたが言い出したんだから、水汲みはあんたがやっておくれよ。
 仕方ないから、飯炊きは私がするよ。
 ナナより飯が不味いからって、文句を言うんじゃないよ。」

 などと、お母さんが言っていたことは聞かなかったことにしましょう。

   ********

 そんな訳で、今馬車の中には私とリーナの他に四人の少女が同乗しています。
 村長の娘さん二人、セレナさん、そしてナナちゃんです。

「あのう、私達のような下々の者がご領主様と同じ馬車に乗せて頂いてよろしいのでしょうか。
 なんなら、私達は荷馬車にでも乗って領都まで参りますが…。」

 荷馬車って、売られていく子牛じゃないんだから…。
 そんな言葉を、恐縮しながら口にしたのは村長の娘さんの一人です。
 身分差というモノをキッチリとわきまえている様子でした。

「良いのよ。最初からこの馬車で乗せて帰るつもりで来たのだから。
 それに、この馬車でないと今日中にシューネフルトに帰り着かないのよ。
 良いい、三人とも?
 今日から私に仕えるのだから、私の命は絶対に従ってもらいます。
 今から起こることは、絶対に他の人に教えてはいけません。
 ナナちゃんもそうよ、約束できるかな?」

「うん、私、シャルロッテ様の指示にはちゃんと従うよ!」

「そう、良いお返事ね。
 それじゃ、ヴァイス、頼んだわよ!」

 ナナちゃんの無邪気な返事を聞いた私は、馬車を引くヴァイスに伝えます。
 すると…。

「あれ?
 シャルロッテ様、なんか変だよ!
 地に足が付いてないと言うか、なんか変な感じがする。」

「なんだ、なんだ、これは。
 空を飛んでいるじゃないか!」

 ナナちゃんが感じたのは浮遊感でしょう。
 他の三人も感じた様子で、セレナさんが窓の外を見て驚いています。

「凄いでしょう。
 この世界でたった一つの空を飛ぶ馬車よ。
 こんなの他の人に知れたら、欲しいという人や乗せろという人が押し寄せて大変でしょう。
 だから、絶対に他に人に教えたらダメよ。」

 私の言葉に四人は、ただただ頷くだけでした。

     ********

 驚愕のため、しばらく言葉を失っていた四人。
 車窓にしがみ付くようにして、過ぎ行く景色を呆然と眺めていましたが。

 シューネ湖の上空に差し掛かり、村が完全に見えなくなると。

「これで、やっとあの村からおさらばできる。
 シャルロッテ様、わたしを雇ってくれて有り難うございます。
 このご恩は忘れません、頑張ってお仕えしますのでよろしくお願いします。」

 セレナさんが私に向き直り、感謝の言葉と共に深く頭をさげました。
 この子にとっては、あの村を連れ出してくれる人は救世主のようですね。
 余程、あの村に嫌気が差していたようです。

「ゴメンなさいね。
 あんなロクでもない男ばかりの村にしちゃって。
 村長の娘として謝るわ。
 大変だったでしょう、セレナさん。
 あんなしょーもない男共に言い寄られて。」

 今度は村長の娘さんがセレナさんに頭を下げました。
 今の言葉、少し変です。
 男たちがロクでもないのは、別にこの子が謝る事ではないと思いますが。

「それ、どういう事かしら?
 あなたが謝る事ではないような気がするけど。」

 馬車の中の暇つぶしでもと、私は尋ねてみました。

「実は…。」

 そう言って話し始めた村長の娘さん。
 あの村は、村長が営む牧場で村全員の生計を賄っています。

 つまり、村長は村の取りまとめ役であると共に経営者なのです。
 村長の一族は代々牧場を営んでいる訳ですが、その経営方針に問題があって…。

『使用人はバカで、愚直な方が良い。ものを考えるのは村長だけで十分だ』

 なのだそうです。
  
 つべこべ言わずに、がむしゃらに働けという訳で…。
 経営者である村長が村人に求めた資質は、第一に体力、第二に愚直なまでの従順さ、だそうです。
 牧場も体力勝負の仕事が多いですからね。
 そして、体力があって、逆らわず真面目に働く者を優遇してきたと言います。
 それが何代か続いた結果が、今の状況です。

 まるで、脳ミソまで筋肉のような、思考を放棄したような、そんなロクでもない男共の出来上がりです。
 自分で考えて行動するのは、食欲、性欲、睡眠欲という三大欲求に関するものばかりのようです。
 ホント、サルみたいです。
 まあ、代々、悪ガキ共がしきたりを教え込むのですから、そうなるのも頷けますね。

 で…。

「最近になって、やっと父もそれでは拙いと気が付いたようです。
 私の家に男の子が生まれ続けていれば、父も気付かなかったかもしれません。
 不運な事に父には、私達娘しか生まれませんでした。
 婿を取らないといけないとなって、初めて分かったのです。
 村の男共に、牧場の経営を任せられる知恵のある者がいないと…。
 慌てて近隣の村にも声を掛けたのですが、やはりどこも似たようなもので…。
 父は頭を抱えてしまったのです。
 そこで初めて、私の先祖達の過ちに気が付いたのです。」

 などと暴露話を始めた娘さん。

 でも、村長を一概に責めることは出来ないと思います。
 村なんてそんな狭い世界ではなく、もっと大きな、それこそ国といった範疇でそれをやっていた為政者もいるのですから。
 昔から為政者の心得として、『民は由らしむべし、知らしむべからず』という言葉が有ります。

 これ、元々は

 『力で民を従わせることはできるけど、何故従わないといけないのか、その道理を分らせることは難しいことだよ』

 と為政者を諫める言葉だったのですが…。

 時を経て曲解されて、

 『命じた理由など民に教える必要はない、一方的に従わせれば良い。』

 に変わってしまいました。

 ぶっちゃけ、民は無知で、妄信的にお上に従う方が扱い易いということですね。
 
 村長さん一族はそんなことは知らないでしょうが、生活の知恵で気付いて実践してきたのですね、…何代も。
 
 これ、ちょっと考えればわかる事ですが、停滞を招きます。
 上の者に従っておけば良いと、思考を放棄して、誰も知恵を使わなくなるのだから。

 案外、アルム地方の人々が貧しいのは、冷涼な気候とか、痩せた大地という事のほか、こういう気風が招いたことかも知れません。
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