352 / 580
第15章 秋から冬へ、仕込みの季節です
第349話 穴掘りはホントに得意なようです
しおりを挟む
「いやぁ、さすが精霊さんですね。見事なものです。
人力で地盤改良なんかした日には、ドンだけの月日を要したことか。
しかも、こんな堅固な地盤は出来ませんよ。
お見それしました。」
仕事振りを絶賛しながら、カバンの中から取り出したショコラーデを再びセピアちゃんに手渡すオークレフトさん。
「わーい!兄ちゃん、アリガトー!」
すっかり、餌付けされてしまっているようですね、セピアちゃん。
リーナが頭を抱えていました。
「で、これからどうするの?
ノミーちゃんに区割りとか、下水道掘りとかしてもらうのかしら。」
私はオークレフトさんに尋ねます。
「その前に決めておかないといけないことがあります。
汚水の処理施設の場所ですね。
何処に造るか決めておかないと、ノミーさんに下水道を掘ってもらうにも困るでしょう。」
私に返答したオークレフトさんは、地図を指差しながらヘレーネさんに問い掛けます。
「ここに出来る新市街から排出された汚水は最終的には、この川に流したいと思います。
川を汚さないために、汚水の処理施設を途中に設けることは説明しましたが。
何処か良いところはありますか。
現状、利用されていない土地で、新市街や集落からそこそこ離れている土地。」
汚水の処理施設と言っても当面は汚水を沈殿させて上澄みを川に放出するのだと言います。
そのために、そこそこの広さの沈殿池を三連で設け、順次沈殿させて三回の沈殿を経た上澄みを川に捨てるそうです。
当然の事ながら、臭います。それに見栄えも良くないです。
ですから、集落から離れている未利用地が望ましいそうです。
森の中であれば、人目に付かないし、木々が悪臭が阻んでくれるので良いのではとオークレフトさんは言います。
「そういう事であれば、現状管理に手が回らず持て余している森が何ヶ所かあります。
その内の一つを潰して汚水処理施設に充てましょう。」
オークレフトさんの問いに答えたヘレーネさんは、何ヶ所か地図上を指差しました。
ヘレーネさんの指さした場所を見たオークレフトさんは、思案顔になり現地を見てみたいと希望したのです。
********
そして、ガタガタと田舎道を馬車に揺られて候補地を巡ることになります。
巡ったのは三ヶ所、どれもそれなりに広い森でしたが…。
手を余しているとの言葉通り、間伐はおろか、下草も掃われていない森でした。
だからと言って、中に踏み込むのが大変かと言うと…。
そこはそれ、植物の精霊ドリーちゃんが歩き易いように下草を掃ってくれるので然したる労も無かったのですが。
オークレフトさんは、森に入るとその都度ノミーちゃんに何やら確認をしていました。
二ヶ所を巡った時点で難しい顔をしているオークレフトさん、余りお気に召した様子ではありませんでした。
そして、三番目に訪れた森の中で言います。
「ここにしましょう。
ここが一番理想的です。」
ノミーちゃんの話を聞いていたオークレフトさんが唐突に声を上げます。
「「?」」
私もリーナも、急に声を上げたオークレフトさんの意図が理解できず首を捻ました。
少なくとも私には前の二ヶ所との違いは分かりません。どれも荒れた森ですよね?
「今までの二ヶ所は標高が新市街より高い場所にあったのです。
この土地は、新市街から放流する川に向けて傾斜している斜面の中ほどに位置していて都合が良いのです。
それにこの森、沈殿池を三つ並べて作るのにも十分な広さもあります。
カロリーネ様、いかがですか。ここに決めてしまいませんか?」
どうやら、ノミーちゃんに聞いていたのは候補地と新市街、それに放流する川との位置関係、特に高低差だったようです。
「そうね、ここだったら、何かあっても汚水が逆流することは無いでしょうね。」
オークレフトさんの言葉に相槌をいれるノミーちゃん。
二人(?)の言葉を聞いて、リーナはヘレーネさんの表情を窺います。
「どうせ、この森も二束三文の持て余している土地ですし、よろしいのではないですか。
例によって、カロリーネお嬢様の精霊さんに穴を掘っていただければすぐでしょう。
ですが、この森って結構広いですよ。
この森の木々を退けるだけでかなりの時間と費用を要すると思いますが。」
ヘレーネさんはこの場所に汚水処理施設を造る事に異存はないようです。
セピアちゃんに穴掘りをさせることは決定事項なのですね…。
まあ、セピアちゃんも嫌がっていないから良いのでしょうか。
ただ、領地のお財布を預かるヘレーネさんとしては、森の木々の事が気がかりなようです。
「あっ、なるほど、それで私を呼んだんだ!
この森の木を抜いちゃえば良いんだね。」
私の肩の上に腰掛けていた植物の精霊ドリーちゃんが、アクアちゃんに呼ばれた意図に気付いたようです。
「そう、その通りよ。
ドリーさんなら難しい事ではないでしょう。
その男の計画を聞いて、あなたの力が必要だと思いましたの。
頼まれて頂けるかしら?」
水の精霊アクアちゃんはそれを肯定し、ドリーちゃんの意向を確認します。。
「いいよー!難しい事もないしね!
抜いた木はどうする?」
「それはこちらに頂戴できませんか、カロリーネ様。
元々、多額の費用を要する作業をシャルロッテ様の契約精霊さんがしてくださるのです。
その対価として取り払った木々をこちらにくださっても損は無いのでは。
ここにある木は、ホテルの内装材として使おうと思います。」
快く引き受けてくれたドリーちゃん。
取り払った木々の処理を尋ねる言葉に、すかさずオークレフトさんが権利を主張しました。
ちゃっかりしていますね…。
「ええ、そうして頂けますか。
何から、何まで、ロッテの精霊ちゃんにお願いしてしまい、心苦しかったのです。
ロッテの建てるホテルで使うのであれば、是非とも持って行ってください。」
オークレフトさんの主張を快く受け入れるリーナ。
話しは決まったようです。
********
「四方に森をある程度残して他の木を全部抜いちゃってもらえますか。
残す森の幅は、シャルロッテ様のお屋敷の正門の前にある森と同じくらいでお願いします。」
オークレフトさんがドリーちゃんに指示を出します。
例によって精霊達に細かい寸法を言っても無駄です。
シンプルに私の屋敷の森くらいの厚みを残すように言っています。
「りょーかい!
うんじゃ、サッとやっちゃうね!
せーの!」
なんか、とても軽い掛け声でしたが…。
「「「「えっ?」」」」
そんな、微笑まし掛け声とはかけ離れた光景が目の前で展開しました。
これにはみんな、度肝を抜かれます。
手入れが行き届かず無秩序に木が生い茂った広い森、その薄暗い森に燦燦と陽の光りが降り注ぎました。
いえ、言葉が正確ではありませんね。
森に光が差し込むようになったのではなく、森が消えて目の前が明るくなったのです。
私達が目にしたのは、目にもとまらぬ速さで、スポスポを引き抜かれる木々でした。
引き抜かれた木々はご丁寧に、根っこと枝を切り落とされ、それぞれ別の場所に積み上げられます。
まだ根が張っていない雑草を抜くような感じで大木がいとも簡単に引き抜かれていきます。
まるで、冗談のような光景でした。
「でーきた!
こんなもんで良いかな?」
ドリーちゃんがそんな声を上げた時には目の前の森はすっかり姿を消し地面が姿を現しています。
確かに、ノミーちゃんの言う通り、私達のいるところから前方に向かって緩やかな斜面になっているのが分かりました。
「これどうする?」
ドリーちゃんが切り分けた木をどうするか尋ねてきます。
「そうね、根っこと枝は薪にしましょうか。
それと積み上げてある幹の部分は丸太にしておいてくれるかな。
それ以降は、大工さんなり、建具屋さんなりに使い易いように加工して頂きましょう。
あと、適度に乾燥させておいてもらえると助かるのだけど。
悪いけどドリーちゃん、お願いできる?」
「うん、わかった!
そのくらいは簡単だよ!」
私のお願いに快い返事を聞かせてくれたドリーちゃん。
言葉通り、精霊がもつ超常の力をもってすれば容易い事だったようで…。
数十分後、私達の目の前には堆く積み上げられた丸太と使い易い大きさに揃えられた薪の山が出来ていました。
広い森を大部分を覆っていた木の大部分を丸太と薪にしてしまいました。
当然、その数たるやとんでもないモノで、丸太などいつ崩れてくるか冷や冷やするくらいの高さに積まれてます。
「うーん、こんな量の薪は使い切れないわね。
うちの館で使って、王都の館に持って行って、工房に配ってもまだ余るわ。
ねえ、リーナ、女学校とかで薪がたくさん必要でしょう、冬越しに。
これ、半分くらい持って行かない?」
私が薪の山を指差しながらリーナに勧めると…。
「それは助かるわ。
ヘレーネと女学校の冬越しにかかる費用を算段していてね。
昨年、薪代が思ったよりかかったので、今年はどうしようかと考えていたの。
私が所有している森で、生徒たちに拾わせようかという話もあったのよ。
それだけ頂けるのなら、生徒たちを勉学に専念させられるわ。」
そう言って喜ぶリーナ、小さな所領の予算では生徒三十人分の薪代も負担になるようです。
********
で、丸太やら、薪やらですが。
私が転送魔法の敷物を使って転送するには余りに量が多過ぎました。
仕方がないので、私の身近で唯一時空を自由に操れる精霊に頼むことにしました。
本当はアレにはなるべく借りを作りたくないのですが…。
ええ、処女偏愛嗜好のペガサス(もどき)を呼んで、丸太や薪をあちこちに送ってもらいました。
私の屋敷はもちろんのこと、工房やリーナの館にも薪を送ることは出来ました。
ですが…。
「この丸太、送る場所が我には分らんぞ。
行ったことが無いのでな、場所が特定できぬことには送りようがないな。
どうだ、主、然して遠くないのであれば、我を案内するが良い。
さすれば、すぐに送る事ができるぞ。
さ、さっ、我の背中に跨るのだ。」
などとのたまうヴァイス、私を背に乗せて飛ぶ気満々です。
こちらから頼みごとをしている手前、イヤとは言えませんでした。
私は、渋々ヴァイスの背に乗ってホテルの建設予定地と往復してきました。
その甲斐あって無事丸太も片付き、目の前に何も無くなった緩やかな斜面が広がっています。
「良い、よく聞いて?
この斜面、この場所が一番高いのは分かるよね。
この場所から、斜面の下方に向かって同じ大きさの池を三つ掘って。
なるべく大きな池を掘ってね。
順繰りに低い位置になるように作るの。」
セピアちゃんに指示を出すアクアちゃん。
その指示をボケっと聞いているセピアちゃんに一抹の不安を感じます。
「うーん、ここから下に向かって降るように穴を掘れば良いんだね。
三つ並べて。
わかったよ!
おいら、穴掘りは得意だ!」
まあ、そうなのですが…、本当に任せて大丈夫なのか心配です。
私の不安も何のその、セピアちゃんはさっそく穴掘りにかかります。
「うんじゃ、お菓子をご馳走になっている分、働くよ!
そーれ!」
セピアちゃんの掛け声と共に沈み込んでいく地面、穴を掘っているのですが…。
掘った土は何処にも見当たりません。
これもアレですか、トンネルを掘った時と同じで土を思い切り圧縮しているのでしょうか。
そして間もなく、一つ目の沈殿池となる穴が掘り終わります。
近づくと、穴の側面と底がまるで御影石のようにツルツルで光っています。
「あれれ、これは思った以上のデキだわ。
穴の側面も底もえらい密度の岩になってる。
つなぎ目もないし、かなりの厚みもある。
これなら、汚水が染み込んで地下水を汚す事も無いね。
深さも十分。
じゃあ、これと同じ大きさの池をあと二つ造って!」
「わかった!
おいら、頑張っちゃうよ!」
御影石のようになった穴の表面に手を当てて、出来栄えを調べていたノミーちゃんから合格が出ました。
合格が出ると共にセピアちゃんは二つ目の穴を掘り始めました。
そして、あっという間に沈殿池用の穴が三つ揃います。
「じゃあ、ここからが出番だね。
新市街からここまで下水道を結んじゃおうか。」
ちょっと待ってください、ノミーちゃん。
もう日が暮れます。
あとは日を改めましょうか。
人力で地盤改良なんかした日には、ドンだけの月日を要したことか。
しかも、こんな堅固な地盤は出来ませんよ。
お見それしました。」
仕事振りを絶賛しながら、カバンの中から取り出したショコラーデを再びセピアちゃんに手渡すオークレフトさん。
「わーい!兄ちゃん、アリガトー!」
すっかり、餌付けされてしまっているようですね、セピアちゃん。
リーナが頭を抱えていました。
「で、これからどうするの?
ノミーちゃんに区割りとか、下水道掘りとかしてもらうのかしら。」
私はオークレフトさんに尋ねます。
「その前に決めておかないといけないことがあります。
汚水の処理施設の場所ですね。
何処に造るか決めておかないと、ノミーさんに下水道を掘ってもらうにも困るでしょう。」
私に返答したオークレフトさんは、地図を指差しながらヘレーネさんに問い掛けます。
「ここに出来る新市街から排出された汚水は最終的には、この川に流したいと思います。
川を汚さないために、汚水の処理施設を途中に設けることは説明しましたが。
何処か良いところはありますか。
現状、利用されていない土地で、新市街や集落からそこそこ離れている土地。」
汚水の処理施設と言っても当面は汚水を沈殿させて上澄みを川に放出するのだと言います。
そのために、そこそこの広さの沈殿池を三連で設け、順次沈殿させて三回の沈殿を経た上澄みを川に捨てるそうです。
当然の事ながら、臭います。それに見栄えも良くないです。
ですから、集落から離れている未利用地が望ましいそうです。
森の中であれば、人目に付かないし、木々が悪臭が阻んでくれるので良いのではとオークレフトさんは言います。
「そういう事であれば、現状管理に手が回らず持て余している森が何ヶ所かあります。
その内の一つを潰して汚水処理施設に充てましょう。」
オークレフトさんの問いに答えたヘレーネさんは、何ヶ所か地図上を指差しました。
ヘレーネさんの指さした場所を見たオークレフトさんは、思案顔になり現地を見てみたいと希望したのです。
********
そして、ガタガタと田舎道を馬車に揺られて候補地を巡ることになります。
巡ったのは三ヶ所、どれもそれなりに広い森でしたが…。
手を余しているとの言葉通り、間伐はおろか、下草も掃われていない森でした。
だからと言って、中に踏み込むのが大変かと言うと…。
そこはそれ、植物の精霊ドリーちゃんが歩き易いように下草を掃ってくれるので然したる労も無かったのですが。
オークレフトさんは、森に入るとその都度ノミーちゃんに何やら確認をしていました。
二ヶ所を巡った時点で難しい顔をしているオークレフトさん、余りお気に召した様子ではありませんでした。
そして、三番目に訪れた森の中で言います。
「ここにしましょう。
ここが一番理想的です。」
ノミーちゃんの話を聞いていたオークレフトさんが唐突に声を上げます。
「「?」」
私もリーナも、急に声を上げたオークレフトさんの意図が理解できず首を捻ました。
少なくとも私には前の二ヶ所との違いは分かりません。どれも荒れた森ですよね?
「今までの二ヶ所は標高が新市街より高い場所にあったのです。
この土地は、新市街から放流する川に向けて傾斜している斜面の中ほどに位置していて都合が良いのです。
それにこの森、沈殿池を三つ並べて作るのにも十分な広さもあります。
カロリーネ様、いかがですか。ここに決めてしまいませんか?」
どうやら、ノミーちゃんに聞いていたのは候補地と新市街、それに放流する川との位置関係、特に高低差だったようです。
「そうね、ここだったら、何かあっても汚水が逆流することは無いでしょうね。」
オークレフトさんの言葉に相槌をいれるノミーちゃん。
二人(?)の言葉を聞いて、リーナはヘレーネさんの表情を窺います。
「どうせ、この森も二束三文の持て余している土地ですし、よろしいのではないですか。
例によって、カロリーネお嬢様の精霊さんに穴を掘っていただければすぐでしょう。
ですが、この森って結構広いですよ。
この森の木々を退けるだけでかなりの時間と費用を要すると思いますが。」
ヘレーネさんはこの場所に汚水処理施設を造る事に異存はないようです。
セピアちゃんに穴掘りをさせることは決定事項なのですね…。
まあ、セピアちゃんも嫌がっていないから良いのでしょうか。
ただ、領地のお財布を預かるヘレーネさんとしては、森の木々の事が気がかりなようです。
「あっ、なるほど、それで私を呼んだんだ!
この森の木を抜いちゃえば良いんだね。」
私の肩の上に腰掛けていた植物の精霊ドリーちゃんが、アクアちゃんに呼ばれた意図に気付いたようです。
「そう、その通りよ。
ドリーさんなら難しい事ではないでしょう。
その男の計画を聞いて、あなたの力が必要だと思いましたの。
頼まれて頂けるかしら?」
水の精霊アクアちゃんはそれを肯定し、ドリーちゃんの意向を確認します。。
「いいよー!難しい事もないしね!
抜いた木はどうする?」
「それはこちらに頂戴できませんか、カロリーネ様。
元々、多額の費用を要する作業をシャルロッテ様の契約精霊さんがしてくださるのです。
その対価として取り払った木々をこちらにくださっても損は無いのでは。
ここにある木は、ホテルの内装材として使おうと思います。」
快く引き受けてくれたドリーちゃん。
取り払った木々の処理を尋ねる言葉に、すかさずオークレフトさんが権利を主張しました。
ちゃっかりしていますね…。
「ええ、そうして頂けますか。
何から、何まで、ロッテの精霊ちゃんにお願いしてしまい、心苦しかったのです。
ロッテの建てるホテルで使うのであれば、是非とも持って行ってください。」
オークレフトさんの主張を快く受け入れるリーナ。
話しは決まったようです。
********
「四方に森をある程度残して他の木を全部抜いちゃってもらえますか。
残す森の幅は、シャルロッテ様のお屋敷の正門の前にある森と同じくらいでお願いします。」
オークレフトさんがドリーちゃんに指示を出します。
例によって精霊達に細かい寸法を言っても無駄です。
シンプルに私の屋敷の森くらいの厚みを残すように言っています。
「りょーかい!
うんじゃ、サッとやっちゃうね!
せーの!」
なんか、とても軽い掛け声でしたが…。
「「「「えっ?」」」」
そんな、微笑まし掛け声とはかけ離れた光景が目の前で展開しました。
これにはみんな、度肝を抜かれます。
手入れが行き届かず無秩序に木が生い茂った広い森、その薄暗い森に燦燦と陽の光りが降り注ぎました。
いえ、言葉が正確ではありませんね。
森に光が差し込むようになったのではなく、森が消えて目の前が明るくなったのです。
私達が目にしたのは、目にもとまらぬ速さで、スポスポを引き抜かれる木々でした。
引き抜かれた木々はご丁寧に、根っこと枝を切り落とされ、それぞれ別の場所に積み上げられます。
まだ根が張っていない雑草を抜くような感じで大木がいとも簡単に引き抜かれていきます。
まるで、冗談のような光景でした。
「でーきた!
こんなもんで良いかな?」
ドリーちゃんがそんな声を上げた時には目の前の森はすっかり姿を消し地面が姿を現しています。
確かに、ノミーちゃんの言う通り、私達のいるところから前方に向かって緩やかな斜面になっているのが分かりました。
「これどうする?」
ドリーちゃんが切り分けた木をどうするか尋ねてきます。
「そうね、根っこと枝は薪にしましょうか。
それと積み上げてある幹の部分は丸太にしておいてくれるかな。
それ以降は、大工さんなり、建具屋さんなりに使い易いように加工して頂きましょう。
あと、適度に乾燥させておいてもらえると助かるのだけど。
悪いけどドリーちゃん、お願いできる?」
「うん、わかった!
そのくらいは簡単だよ!」
私のお願いに快い返事を聞かせてくれたドリーちゃん。
言葉通り、精霊がもつ超常の力をもってすれば容易い事だったようで…。
数十分後、私達の目の前には堆く積み上げられた丸太と使い易い大きさに揃えられた薪の山が出来ていました。
広い森を大部分を覆っていた木の大部分を丸太と薪にしてしまいました。
当然、その数たるやとんでもないモノで、丸太などいつ崩れてくるか冷や冷やするくらいの高さに積まれてます。
「うーん、こんな量の薪は使い切れないわね。
うちの館で使って、王都の館に持って行って、工房に配ってもまだ余るわ。
ねえ、リーナ、女学校とかで薪がたくさん必要でしょう、冬越しに。
これ、半分くらい持って行かない?」
私が薪の山を指差しながらリーナに勧めると…。
「それは助かるわ。
ヘレーネと女学校の冬越しにかかる費用を算段していてね。
昨年、薪代が思ったよりかかったので、今年はどうしようかと考えていたの。
私が所有している森で、生徒たちに拾わせようかという話もあったのよ。
それだけ頂けるのなら、生徒たちを勉学に専念させられるわ。」
そう言って喜ぶリーナ、小さな所領の予算では生徒三十人分の薪代も負担になるようです。
********
で、丸太やら、薪やらですが。
私が転送魔法の敷物を使って転送するには余りに量が多過ぎました。
仕方がないので、私の身近で唯一時空を自由に操れる精霊に頼むことにしました。
本当はアレにはなるべく借りを作りたくないのですが…。
ええ、処女偏愛嗜好のペガサス(もどき)を呼んで、丸太や薪をあちこちに送ってもらいました。
私の屋敷はもちろんのこと、工房やリーナの館にも薪を送ることは出来ました。
ですが…。
「この丸太、送る場所が我には分らんぞ。
行ったことが無いのでな、場所が特定できぬことには送りようがないな。
どうだ、主、然して遠くないのであれば、我を案内するが良い。
さすれば、すぐに送る事ができるぞ。
さ、さっ、我の背中に跨るのだ。」
などとのたまうヴァイス、私を背に乗せて飛ぶ気満々です。
こちらから頼みごとをしている手前、イヤとは言えませんでした。
私は、渋々ヴァイスの背に乗ってホテルの建設予定地と往復してきました。
その甲斐あって無事丸太も片付き、目の前に何も無くなった緩やかな斜面が広がっています。
「良い、よく聞いて?
この斜面、この場所が一番高いのは分かるよね。
この場所から、斜面の下方に向かって同じ大きさの池を三つ掘って。
なるべく大きな池を掘ってね。
順繰りに低い位置になるように作るの。」
セピアちゃんに指示を出すアクアちゃん。
その指示をボケっと聞いているセピアちゃんに一抹の不安を感じます。
「うーん、ここから下に向かって降るように穴を掘れば良いんだね。
三つ並べて。
わかったよ!
おいら、穴掘りは得意だ!」
まあ、そうなのですが…、本当に任せて大丈夫なのか心配です。
私の不安も何のその、セピアちゃんはさっそく穴掘りにかかります。
「うんじゃ、お菓子をご馳走になっている分、働くよ!
そーれ!」
セピアちゃんの掛け声と共に沈み込んでいく地面、穴を掘っているのですが…。
掘った土は何処にも見当たりません。
これもアレですか、トンネルを掘った時と同じで土を思い切り圧縮しているのでしょうか。
そして間もなく、一つ目の沈殿池となる穴が掘り終わります。
近づくと、穴の側面と底がまるで御影石のようにツルツルで光っています。
「あれれ、これは思った以上のデキだわ。
穴の側面も底もえらい密度の岩になってる。
つなぎ目もないし、かなりの厚みもある。
これなら、汚水が染み込んで地下水を汚す事も無いね。
深さも十分。
じゃあ、これと同じ大きさの池をあと二つ造って!」
「わかった!
おいら、頑張っちゃうよ!」
御影石のようになった穴の表面に手を当てて、出来栄えを調べていたノミーちゃんから合格が出ました。
合格が出ると共にセピアちゃんは二つ目の穴を掘り始めました。
そして、あっという間に沈殿池用の穴が三つ揃います。
「じゃあ、ここからが出番だね。
新市街からここまで下水道を結んじゃおうか。」
ちょっと待ってください、ノミーちゃん。
もう日が暮れます。
あとは日を改めましょうか。
1
お気に入りに追加
323
あなたにおすすめの小説
【完結】番である私の旦那様
桜もふ
恋愛
異世界であるミーストの世界最強なのが黒竜族!
黒竜族の第一皇子、オパール・ブラック・オニキス(愛称:オール)の番をミースト神が異世界転移させた、それが『私』だ。
バールナ公爵の元へ養女として出向く事になるのだが、1人娘であった義妹が最後まで『自分』が黒竜族の番だと思い込み、魅了の力を使って男性を味方に付け、なにかと嫌味や嫌がらせをして来る。
オールは政務が忙しい身ではあるが、溺愛している私の送り迎えだけは必須事項みたい。
気が抜けるほど甘々なのに、義妹に邪魔されっぱなし。
でも神様からは特別なチートを貰い、世界最強の黒竜族の番に相応しい子になろうと頑張るのだが、なぜかディロ-ルの侯爵子息に学園主催の舞踏会で「お前との婚約を破棄する!」なんて訳の分からない事を言われるし、義妹は最後の最後まで頭お花畑状態で、オールを手に入れようと男の元を転々としながら、絡んで来ます!(鬱陶しいくらい来ます!)
大好きな乙女ゲームや異世界の漫画に出てくる「私がヒロインよ!」な頭の変な……じゃなかった、変わった義妹もいるし、何と言っても、この世界の料理はマズイ、不味すぎるのです!
神様から貰った、特別なスキルを使って異世界の皆と地球へ行き来したり、地球での家族と異世界へ行き来しながら、日本で得た知識や得意な家事(食事)などを、この世界でオールと一緒に自由にのんびりと生きて行こうと思います。
前半は転移する前の私生活から始まります。
私はお母様の奴隷じゃありません。「出てけ」とおっしゃるなら、望み通り出ていきます【完結】
小平ニコ
ファンタジー
主人公レベッカは、幼いころから母親に冷たく当たられ、家庭内の雑務を全て押し付けられてきた。
他の姉妹たちとは明らかに違う、奴隷のような扱いを受けても、いつか母親が自分を愛してくれると信じ、出来得る限りの努力を続けてきたレベッカだったが、16歳の誕生日に突然、公爵の館に奉公に行けと命じられる。
それは『家を出て行け』と言われているのと同じであり、レベッカはショックを受ける。しかし、奉公先の人々は皆優しく、主であるハーヴィン公爵はとても美しい人で、レベッカは彼にとても気に入られる。
友達もでき、忙しいながらも幸せな毎日を送るレベッカ。そんなある日のこと、妹のキャリーがいきなり公爵の館を訪れた。……キャリーは、レベッカに支払われた給料を回収しに来たのだ。
レベッカは、金銭に対する執着などなかったが、あまりにも身勝手で悪辣なキャリーに怒り、彼女を追い返す。それをきっかけに、公爵家の人々も巻き込む形で、レベッカと実家の姉妹たちは争うことになる。
そして、姉妹たちがそれぞれ悪行の報いを受けた後。
レベッカはとうとう、母親と直接対峙するのだった……
異世界でのんびり暮らしてみることにしました
松石 愛弓
ファンタジー
アラサーの社畜OL 湊 瑠香(みなと るか)は、過労で倒れている時に、露店で買った怪しげな花に導かれ異世界に。忙しく辛かった過去を忘れ、異世界でのんびり楽しく暮らしてみることに。優しい人々や可愛い生物との出会い、不思議な植物、コメディ風に突っ込んだり突っ込まれたり。徐々にコメディ路線になっていく予定です。お話の展開など納得のいかないところがあるかもしれませんが、書くことが未熟者の作者ゆえ見逃していただけると助かります。他サイトにも投稿しています。
夫に用無しと捨てられたので薬師になって幸せになります。
光子
恋愛
この世界には、魔力病という、まだ治療法の見つかっていない未知の病が存在する。私の両親も、義理の母親も、その病によって亡くなった。
最後まで私の幸せを祈って死んで行った家族のために、私は絶対、幸せになってみせる。
たとえ、離婚した元夫であるクレオパス子爵が、市民に落ち、幸せに暮らしている私を連れ戻そうとしていても、私は、あんな地獄になんか戻らない。
地獄に連れ戻されそうになった私を救ってくれた、同じ薬師であるフォルク様と一緒に、私はいつか必ず、魔力病を治す薬を作ってみせる。
天国から見守っているお義母様達に、いつか立派な薬師になった姿を見てもらうの。そうしたら、きっと、私のことを褒めてくれるよね。自慢の娘だって、思ってくれるよね――――
不定期更新。
この世界は私の考えた世界の話です。設定ゆるゆるです。よろしくお願いします。
「婚約を破棄したい」と私に何度も言うのなら、皆にも知ってもらいましょう
天宮有
恋愛
「お前との婚約を破棄したい」それが伯爵令嬢ルナの婚約者モグルド王子の口癖だ。
侯爵令嬢ヒリスが好きなモグルドは、ルナを蔑み暴言を吐いていた。
その暴言によって、モグルドはルナとの婚約を破棄することとなる。
ヒリスを新しい婚約者にした後にモグルドはルナの力を知るも、全てが遅かった。
【完結】言いたいことがあるなら言ってみろ、と言われたので遠慮なく言ってみた
杜野秋人
ファンタジー
社交シーズン最後の大晩餐会と舞踏会。そのさなか、第三王子が突然、婚約者である伯爵家令嬢に婚約破棄を突き付けた。
なんでも、伯爵家令嬢が婚約者の地位を笠に着て、第三王子の寵愛する子爵家令嬢を虐めていたというのだ。
婚約者は否定するも、他にも次々と証言や証人が出てきて黙り込み俯いてしまう。
勝ち誇った王子は、最後にこう宣言した。
「そなたにも言い分はあろう。私は寛大だから弁明の機会をくれてやる。言いたいことがあるなら言ってみろ」
その一言が、自らの破滅を呼ぶことになるなど、この時彼はまだ気付いていなかった⸺!
◆例によって設定ナシの即興作品です。なので主人公の伯爵家令嬢以外に固有名詞はありません。頭カラッポにしてゆるっとお楽しみ下さい。
婚約破棄ものですが恋愛はありません。もちろん元サヤもナシです。
◆全6話、約15000字程度でサラッと読めます。1日1話ずつ更新。
◆この物語はアルファポリスのほか、小説家になろうでも公開します。
◆9/29、HOTランキング入り!お読み頂きありがとうございます!
10/1、HOTランキング最高6位、人気ランキング11位、ファンタジーランキング1位!24h.pt瞬間最大11万4000pt!いずれも自己ベスト!ありがとうございます!
狼の子 ~教えてもらった常識はかなり古い!?~
一片
ファンタジー
バイト帰りに何かに引っ張られた俺は、次の瞬間突然山の中に放り出された。
しかも体をピクリとも動かせない様な瀕死の状態でだ。
流石に諦めかけていたのだけど、そんな俺を白い狼が救ってくれた。
その狼は天狼という神獣で、今俺がいるのは今までいた世界とは異なる世界だという。
右も左も分からないどころか、右も左も向けなかった俺は天狼さんに魔法で癒され、ついでに色々な知識を教えてもらう。
この世界の事、生き延び方、戦う術、そして魔法。
数年後、俺は天狼さんの庇護下から離れ新しい世界へと飛び出した。
元の世界に戻ることは無理かもしれない……でも両親に連絡くらいはしておきたい。
根拠は特にないけど、魔法がある世界なんだし……連絡くらいは出来るよね?
そんな些細な目標と、天狼さん以外の神獣様へとお使いを頼まれた俺はこの世界を東奔西走することになる。
色々な仲間に出会い、ダンジョンや遺跡を探索したり、何故か謎の組織の陰謀を防いだり……。
……これは、現代では失われた強大な魔法を使い、小さな目標とお使いの為に大陸をまたにかける小市民の冒険譚!
三歳で婚約破棄された貧乏伯爵家の三男坊そのショックで現世の記憶が蘇る
マメシバ
ファンタジー
貧乏伯爵家の三男坊のアラン令息
三歳で婚約破棄され
そのショックで前世の記憶が蘇る
前世でも貧乏だったのなんの問題なし
なによりも魔法の世界
ワクワクが止まらない三歳児の
波瀾万丈
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる