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第13章 春、芽生えの季節に
第314話 ノノちゃん、本領発揮です
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「へえ、わかりやした。
明日の朝、こちらにお泊りの一行に牧場の案内をすればよろしいんすね。」
私が、明日、ノノちゃんのお父さんにして欲しい事を説明するとそんな答えが返って来ます。
いまいち、頼りなさ気な雰囲気ですが、ノノちゃんがいるので心配ないでしょう。
「ええ、お願いしますわ。
これで、仕事の話はお終いだけど、せっかく来たのだからノノちゃんと話でもして行って。」
元々、村長さんに、仕事を依頼したいので、ノノちゃんのお父さんを遣いに寄こすようとに言ったのは口実に過ぎません。
実際のところは、ノノちゃんにご家族と話す時間を取って上げるためです。
この後の段取りも、ノノちゃんと打ち合わせ済みです。
「お父さん、せっかくこの村に戻って来たのだから、家に顔を出したいんだけど。
お客様のお子さん、何人かにこうして懐かれちゃって、何処へ行くにも付いてくる状態なんだ。
家には、良家のお子さんをおもてなしするような所はないでしょう。
だから、ここに、お母さんと妹達を連れて来てもらえないかな。
久し振りに会って話がしたいし、お土産も買って来たんだ。」
そう、お父さんに告げるノノちゃん、その膝の上には例の女の子がしっかりと座っています。
同時に、ノノちゃんは父さんに何やら持ってきて欲しいとお願いしていました。
ノノちゃんに頼まれて一旦家に帰ったお父さんは、ノノちゃんのお母さんと弟妹を連れてやって来ました。
「あれまあ、見違えるぐらいに奇麗になっちまって…。
元気そうにしているようで安心したよ。」
開口一番、そんな事を口にしたノノちゃんのお母さん。
その後ろには、十歳くらいの女の子と小さな男の子二人を連れています。
「お母さんも元気そうで良かった。
ナナたちも元気そうね。
そうそう、ついこの間、領都でネネにも会ったわ。
元気に女学校で勉強に励んでいるから安心して。」
三人姉妹、上からノノ、ネネ、ナナですか…。なんか、適当に付けた感がありありですね。
そんな言葉を交わした後、ノノちゃんは家族にお土産を渡していました。
アルビオン王国の王都では標準的な町の住民の普段着に着るような衣服です。
ですが、
「わーい!ノノおねえちゃん、ありがとう!
こんなきれいな服、わたし、初めてだよ。」
ナナちゃんと呼ばれた十歳くらいの女の子が、満面の笑みを浮かべ嬉しそうに言います。
「あらまあ、新品の服なんて着たことあったかしら?
継ぎ当てのない服なんて、記憶にないわ。」
そう、嬉しそうに漏らすお母さん。
お店の一つもなく、年に数回来る行商頼りのこの村では、衣服は滅多に手に入りません。
普段継ぎ当てだらけの服を着ているこの村では、十分上等な部類の衣服のようです。
********
さて、この間もノノちゃんの足にヒシっとくっついていた女の子ですが…。
ノノちゃんが、服をもらって喜ぶナナちゃんと会話を交わしていると、しがみつく腕に力が籠ったようです。
どうやら、ノノちゃんを取られまいとしているようです。
そんな女の子に気付いたようにナナちゃんが言います。
「ねえ、ノノおねえちゃん、その子、だあれ?」
その問いに答えて事情を説明するノノちゃん。
「そうなんだ。
はじめまして、わたし、ナナって言うの。
わたしとも仲良くしてくれると嬉しいな。
よろしくね。」
説明を聞いてナナちゃんは腰を落として、女の子と目線の高さをあわせて言います。
すると。
「ノノおねえちゃんをとらない?」
「うん、とらいないよ。一緒に楽しく遊ぼう。」
小さな弟が二人もいるからでしょうか、ナナちゃんも小さな子をあやすのが得意なようです。
視線を合わせてにっこりと笑うナナちゃんに、女の子も警戒を解いたようです。
「うん、あそぶ!」
と元気良く言いました。
でやって来たの村外れにある小川です。
今回の参加メンバー全員を引き連れて先頭を歩くノノちゃん。
その腕には何やら幅の細い木を束ねた様なものを抱えています。
ノノちゃんの身長より遥かに長いのですが…。
先程、お父さんに言って家から取って来てもらったものです。
河原まで来ると、ノノちゃんがみんなに向かって言います。
「今日は、暑いので、小川で水遊びをしようと思います。
アルビオンの王都にはきれいな水がないので、みんな水遊びなんてしたことが無いでしょう。
この川の水はとても奇麗でそのまま飲めます。
それに、子供でも溺れることが無いくらい浅いですから、水遊びに最適です。」
ノノちゃんの言葉を聞いたお母さん、小川をのぞき込み。
「あら、本当にきれいな水、濁り一つない透明な水なのね。
泳いでいる魚がハッキリ見える。」
「えっ、サカナ?どこ?どこ?」
「あっ、いた!あっちにも!」
すると、ノノちゃんは靴を脱ぎ、スカートの裾を膝の少し上で縛ります。
そして、ボチャんと川の中に入りました。
「冷たくて、気持ちが良いですよ。
どうぞ、私と同じようにスカートの裾をたくし上げて川に入ってください。」
みんなに向かってそう言ったノノちゃん、河原に残した女の子の裾を上げると、抱き上げました。
そして、小川の最も浅い場所に降ろします。
「つめたい!」
そう言って喜ぶ女の子。
今は八月半ば、一年中で最も暑い時期です。
しかも今日は快晴、お日様もかなり高い時間になり汗ばむ陽気なのです。
女の子の満面の笑顔を見て、他の子供たちも、お母さん方も裾を上げると我先にと川の中に入って行きました。
もちろん、私も続きましたよ、暑いですもの。
水の中に入って気付いたのは、大した川でもないのに結構大きな魚が泳いでいること。
しかも、結構な数が。
「ねえ、おねえちゃん、お父さんにあれを持って来させたと言うことは。
お昼に食べるの?」
ナナちゃんがノノちゃんに尋ねると。
「ええ、やっぱり、都会から来て頂いたのですもの。
田舎ならではの美味しいものを食べて頂こうと思って。
貧乏なこの村でも、あれは自慢して良いと思うわ。
もちろん、ナナも一緒に食べて行くでしょう?」
「うれしい、ノノお姉ちゃんの作るご飯は美味しいから好き!」
「じゃあ、準備するから手伝って。」
そう言うとノノちゃんは、女の子の手を引いて河原に戻ります。
河原に戻ると、ノノちゃんは先程抱えていた木を束ねたものを解きました。
すると、それは単に木を束ねていたモノではなく、細木を等間隔に紐で結んだものでした。
沢山の細木を紐で結んだそれは、細木と細木の間に一インチにも満たない隙間が開けられています。
それを広げると全体で、幅は二ヤード弱、長さは三ヤードはあるでしょうか。
「ねえ、ノノちゃん、それは何に使うの?」
私が尋ねると、ノノちゃんは何でそんなことを聞くのかと言う顔をして言います。
「あれ、シャルロッテ様、スケジュールの打ち合わせをした時に言いましたよね。
一日目のお昼は河原で食べるって。
これから、その食材を調達するんです。
期待してくださいよ、この川で取れるマスの塩焼きは絶品なんです。」
ええっと、確かに聞いています。
ですから、お昼時にここにサンドイッチを届けるように侍女たちに指示してあります。
川魚を獲って食べるとは聞いていないのですが…。
「シャルロッテ様、マスを捕まえる準備をしますので。
この子を見ていてもらえますか、ちょっと深い所へ行くのでこの子には危ないのです。
溺れでもしたら大変ですから。」
そう言って、木の束を抱えて河原を歩いて行くノノちゃんとナナちゃん。
********
女の子の手を引いて歩いて行くと、川幅が狭まり水深がやや深くなっているところに着きました。
そこに入って行くノノちゃんとナナちゃん。
ナナちゃんは膝の上まで水に浸かっています。
やがて、
「あった、あった。
よかった、この杭、まだ無事だったんだ。
無くなっていたら、杭を打つところから始めないといけないところだった。」
ノノちゃんが立っている辺り、良く目を凝らしてみると川を横断するように等間隔に杭が打ってあります。
ノノちゃんとナナちゃんは、束ねた木を川の中に広げると、二人で分担してそれを杭に縛り付けて固定していきます。
一通り木の束を固定すると、ノノちゃんはそれが流れに流されないようにしっかり固定されているかを確認しています。
その様子をぼうっと眺めていると、すぐにそれは起こりました。
一匹の魚が撥ねたかと思うと、束ねた木の水から露出している場所に落ちたのです。
「やった、やった、やっぱり、ノノおねえちゃんは凄いや!
こんな大きなマスをあっという間に捕まえちゃうんだもの。」
どうやら、ノノちゃんが抱えていたのは魚を獲る仕掛けのようです。
「シャルロッテ様、二人のお母さんに桶を持ってここに来るように言ってください。
それと、身長の大きな子供にもここでマスの摑み獲りをしてもらいます。」
そう言う間にも、ノノちゃんの作った仕掛けの上に魚がどんどん跳ね上がって来ます。
私は、女の子の手を引いてお母さん方を呼びに行きました。
そして…。
「きゃ!魚が撥ねた!」
「つるつる滑って、捕まえるのって結構難しいわね。」
「おさかなさん、逃げちゃダメ!」
「うわ、大きなおさかな!」
二人のお母さんと八歳から十歳までの参加者の中では年長の女の子三人が楽しそうにマスの摑み取りに興じています。
私はと言うと…。
「ねえ、わたしも、ノノおねえちゃんのところいきたい!」
「わたし、わたし、わたしもおさかなさんとりたい!」
「ゴメンね。
ノノお姉ちゃんのいるところは、あなた達じゃ足が付かないの。
溺れちゃうわ。」
そう、仕掛けのところへ行くと溺れてしまいそうな、年少の子供たちの宥め役を仰せつかったのです。
ううっ、私もマスの掴み獲りしたかったのに…。
********
小一時間ほど魚の摑み獲りを楽しむと、持って来た木桶二つがマスでいっぱいになっていました。
ノノちゃん、みんなが摑み獲りした魚を木桶に入れるとすぐさま小さなマスやマス以外の魚を下流に戻していました。
「沢山獲り過ぎても食べきれないので、小さなマスは逃がしてあげます。
もっと大きくなってから、美味しく頂いた方が良いでしょう。
あとは他の魚も美味しいのですが、今日はみんなで同じものを食べるという事でマスだけにしました。」
などと言うノノちゃん、色々と考えているようです。
木桶を二つ抱えて河原に戻ると、ノノちゃんは予め用意していたナイフでマスの処理を始めました。
器用に内臓を取り除くと、その内側とマスの外側に塩を塗り付けていきます。
そして、口から木串を刺すと言いました。
「シャルロッテ様、ナナが石でカマドを組んで薪を入れたら、それに火を点けて頂けますか?」
ええ、そのくらいはお手の物です。そのくらいしか役に立てませんから。
私の魔法で火を点けた薪が半分炭のようになり、炎が小さくなったころ。
タイミングを見計らっていたノノちゃんが、カマドの周りにマスを刺した串を立てていきました。
ちょうどその時、ログハウスに残した侍女たちがサンドイッチを詰めたランチボックスを届けてくれました。
河原に敷物を敷いてランチボックスのサンドイッチを並べているとマスの焼ける香ばしい匂いが漂ってきます。
非常に食欲をそそられます。
「うーん、美味しいわ。
農村体験ツアーの一日目から、こんな楽しい企画があるとは思わなかった。
無理を言ってついて来た甲斐があったわ。
私の息子も来ればよかったのに、『田舎はイヤだ』なんて生意気言うから。
こんな美味しいものを食べ損ねたじゃない。」
串に刺したマスの塩焼きに舌鼓を打つお母さんその一。
「本当よね。
あんな奇麗な水の中に入って魚を掴み獲るなんて経験、早々できるモノじゃないのにね。
しかも、取ったその場で食べるマスの美味しい事。最高の贅沢だわ。」
お母さんその二もご満悦です。
「ノノおねえちゃんもまほうつかいなの?
おさかなっておいしくないでしょう。
ノノおねえちゃんがまほうでおいしくしてくれたの?」
そんなことを言う小さな子もいました。
川の水が汚れたアルビオンの王都では、川魚は食べられません。
遠く離れた海から持ってくるのでどうしても鮮度が落ちてします。
お母さん方の話では、生臭い魚が多いため大部分の子供は魚が嫌いなのだそうです。
「お姉ちゃんは魔法使いではないかな。
そのお魚が美味しいのは、この川の水がとってもきれいだからよ。
それに、みんなで頑張って獲ったお魚だから一層美味しく感じるのだと思う。」
ノノちゃんは優しい笑みを浮かべながらそう言いました。
この日、獲ったマスはお代わりをするのに十分な数があり、心行くまでマスの塩焼きを堪能したのです。
みなさん、とっても満足そうな笑顔を見せてくれました。
明日の朝、こちらにお泊りの一行に牧場の案内をすればよろしいんすね。」
私が、明日、ノノちゃんのお父さんにして欲しい事を説明するとそんな答えが返って来ます。
いまいち、頼りなさ気な雰囲気ですが、ノノちゃんがいるので心配ないでしょう。
「ええ、お願いしますわ。
これで、仕事の話はお終いだけど、せっかく来たのだからノノちゃんと話でもして行って。」
元々、村長さんに、仕事を依頼したいので、ノノちゃんのお父さんを遣いに寄こすようとに言ったのは口実に過ぎません。
実際のところは、ノノちゃんにご家族と話す時間を取って上げるためです。
この後の段取りも、ノノちゃんと打ち合わせ済みです。
「お父さん、せっかくこの村に戻って来たのだから、家に顔を出したいんだけど。
お客様のお子さん、何人かにこうして懐かれちゃって、何処へ行くにも付いてくる状態なんだ。
家には、良家のお子さんをおもてなしするような所はないでしょう。
だから、ここに、お母さんと妹達を連れて来てもらえないかな。
久し振りに会って話がしたいし、お土産も買って来たんだ。」
そう、お父さんに告げるノノちゃん、その膝の上には例の女の子がしっかりと座っています。
同時に、ノノちゃんは父さんに何やら持ってきて欲しいとお願いしていました。
ノノちゃんに頼まれて一旦家に帰ったお父さんは、ノノちゃんのお母さんと弟妹を連れてやって来ました。
「あれまあ、見違えるぐらいに奇麗になっちまって…。
元気そうにしているようで安心したよ。」
開口一番、そんな事を口にしたノノちゃんのお母さん。
その後ろには、十歳くらいの女の子と小さな男の子二人を連れています。
「お母さんも元気そうで良かった。
ナナたちも元気そうね。
そうそう、ついこの間、領都でネネにも会ったわ。
元気に女学校で勉強に励んでいるから安心して。」
三人姉妹、上からノノ、ネネ、ナナですか…。なんか、適当に付けた感がありありですね。
そんな言葉を交わした後、ノノちゃんは家族にお土産を渡していました。
アルビオン王国の王都では標準的な町の住民の普段着に着るような衣服です。
ですが、
「わーい!ノノおねえちゃん、ありがとう!
こんなきれいな服、わたし、初めてだよ。」
ナナちゃんと呼ばれた十歳くらいの女の子が、満面の笑みを浮かべ嬉しそうに言います。
「あらまあ、新品の服なんて着たことあったかしら?
継ぎ当てのない服なんて、記憶にないわ。」
そう、嬉しそうに漏らすお母さん。
お店の一つもなく、年に数回来る行商頼りのこの村では、衣服は滅多に手に入りません。
普段継ぎ当てだらけの服を着ているこの村では、十分上等な部類の衣服のようです。
********
さて、この間もノノちゃんの足にヒシっとくっついていた女の子ですが…。
ノノちゃんが、服をもらって喜ぶナナちゃんと会話を交わしていると、しがみつく腕に力が籠ったようです。
どうやら、ノノちゃんを取られまいとしているようです。
そんな女の子に気付いたようにナナちゃんが言います。
「ねえ、ノノおねえちゃん、その子、だあれ?」
その問いに答えて事情を説明するノノちゃん。
「そうなんだ。
はじめまして、わたし、ナナって言うの。
わたしとも仲良くしてくれると嬉しいな。
よろしくね。」
説明を聞いてナナちゃんは腰を落として、女の子と目線の高さをあわせて言います。
すると。
「ノノおねえちゃんをとらない?」
「うん、とらいないよ。一緒に楽しく遊ぼう。」
小さな弟が二人もいるからでしょうか、ナナちゃんも小さな子をあやすのが得意なようです。
視線を合わせてにっこりと笑うナナちゃんに、女の子も警戒を解いたようです。
「うん、あそぶ!」
と元気良く言いました。
でやって来たの村外れにある小川です。
今回の参加メンバー全員を引き連れて先頭を歩くノノちゃん。
その腕には何やら幅の細い木を束ねた様なものを抱えています。
ノノちゃんの身長より遥かに長いのですが…。
先程、お父さんに言って家から取って来てもらったものです。
河原まで来ると、ノノちゃんがみんなに向かって言います。
「今日は、暑いので、小川で水遊びをしようと思います。
アルビオンの王都にはきれいな水がないので、みんな水遊びなんてしたことが無いでしょう。
この川の水はとても奇麗でそのまま飲めます。
それに、子供でも溺れることが無いくらい浅いですから、水遊びに最適です。」
ノノちゃんの言葉を聞いたお母さん、小川をのぞき込み。
「あら、本当にきれいな水、濁り一つない透明な水なのね。
泳いでいる魚がハッキリ見える。」
「えっ、サカナ?どこ?どこ?」
「あっ、いた!あっちにも!」
すると、ノノちゃんは靴を脱ぎ、スカートの裾を膝の少し上で縛ります。
そして、ボチャんと川の中に入りました。
「冷たくて、気持ちが良いですよ。
どうぞ、私と同じようにスカートの裾をたくし上げて川に入ってください。」
みんなに向かってそう言ったノノちゃん、河原に残した女の子の裾を上げると、抱き上げました。
そして、小川の最も浅い場所に降ろします。
「つめたい!」
そう言って喜ぶ女の子。
今は八月半ば、一年中で最も暑い時期です。
しかも今日は快晴、お日様もかなり高い時間になり汗ばむ陽気なのです。
女の子の満面の笑顔を見て、他の子供たちも、お母さん方も裾を上げると我先にと川の中に入って行きました。
もちろん、私も続きましたよ、暑いですもの。
水の中に入って気付いたのは、大した川でもないのに結構大きな魚が泳いでいること。
しかも、結構な数が。
「ねえ、おねえちゃん、お父さんにあれを持って来させたと言うことは。
お昼に食べるの?」
ナナちゃんがノノちゃんに尋ねると。
「ええ、やっぱり、都会から来て頂いたのですもの。
田舎ならではの美味しいものを食べて頂こうと思って。
貧乏なこの村でも、あれは自慢して良いと思うわ。
もちろん、ナナも一緒に食べて行くでしょう?」
「うれしい、ノノお姉ちゃんの作るご飯は美味しいから好き!」
「じゃあ、準備するから手伝って。」
そう言うとノノちゃんは、女の子の手を引いて河原に戻ります。
河原に戻ると、ノノちゃんは先程抱えていた木を束ねたものを解きました。
すると、それは単に木を束ねていたモノではなく、細木を等間隔に紐で結んだものでした。
沢山の細木を紐で結んだそれは、細木と細木の間に一インチにも満たない隙間が開けられています。
それを広げると全体で、幅は二ヤード弱、長さは三ヤードはあるでしょうか。
「ねえ、ノノちゃん、それは何に使うの?」
私が尋ねると、ノノちゃんは何でそんなことを聞くのかと言う顔をして言います。
「あれ、シャルロッテ様、スケジュールの打ち合わせをした時に言いましたよね。
一日目のお昼は河原で食べるって。
これから、その食材を調達するんです。
期待してくださいよ、この川で取れるマスの塩焼きは絶品なんです。」
ええっと、確かに聞いています。
ですから、お昼時にここにサンドイッチを届けるように侍女たちに指示してあります。
川魚を獲って食べるとは聞いていないのですが…。
「シャルロッテ様、マスを捕まえる準備をしますので。
この子を見ていてもらえますか、ちょっと深い所へ行くのでこの子には危ないのです。
溺れでもしたら大変ですから。」
そう言って、木の束を抱えて河原を歩いて行くノノちゃんとナナちゃん。
********
女の子の手を引いて歩いて行くと、川幅が狭まり水深がやや深くなっているところに着きました。
そこに入って行くノノちゃんとナナちゃん。
ナナちゃんは膝の上まで水に浸かっています。
やがて、
「あった、あった。
よかった、この杭、まだ無事だったんだ。
無くなっていたら、杭を打つところから始めないといけないところだった。」
ノノちゃんが立っている辺り、良く目を凝らしてみると川を横断するように等間隔に杭が打ってあります。
ノノちゃんとナナちゃんは、束ねた木を川の中に広げると、二人で分担してそれを杭に縛り付けて固定していきます。
一通り木の束を固定すると、ノノちゃんはそれが流れに流されないようにしっかり固定されているかを確認しています。
その様子をぼうっと眺めていると、すぐにそれは起こりました。
一匹の魚が撥ねたかと思うと、束ねた木の水から露出している場所に落ちたのです。
「やった、やった、やっぱり、ノノおねえちゃんは凄いや!
こんな大きなマスをあっという間に捕まえちゃうんだもの。」
どうやら、ノノちゃんが抱えていたのは魚を獲る仕掛けのようです。
「シャルロッテ様、二人のお母さんに桶を持ってここに来るように言ってください。
それと、身長の大きな子供にもここでマスの摑み獲りをしてもらいます。」
そう言う間にも、ノノちゃんの作った仕掛けの上に魚がどんどん跳ね上がって来ます。
私は、女の子の手を引いてお母さん方を呼びに行きました。
そして…。
「きゃ!魚が撥ねた!」
「つるつる滑って、捕まえるのって結構難しいわね。」
「おさかなさん、逃げちゃダメ!」
「うわ、大きなおさかな!」
二人のお母さんと八歳から十歳までの参加者の中では年長の女の子三人が楽しそうにマスの摑み取りに興じています。
私はと言うと…。
「ねえ、わたしも、ノノおねえちゃんのところいきたい!」
「わたし、わたし、わたしもおさかなさんとりたい!」
「ゴメンね。
ノノお姉ちゃんのいるところは、あなた達じゃ足が付かないの。
溺れちゃうわ。」
そう、仕掛けのところへ行くと溺れてしまいそうな、年少の子供たちの宥め役を仰せつかったのです。
ううっ、私もマスの掴み獲りしたかったのに…。
********
小一時間ほど魚の摑み獲りを楽しむと、持って来た木桶二つがマスでいっぱいになっていました。
ノノちゃん、みんなが摑み獲りした魚を木桶に入れるとすぐさま小さなマスやマス以外の魚を下流に戻していました。
「沢山獲り過ぎても食べきれないので、小さなマスは逃がしてあげます。
もっと大きくなってから、美味しく頂いた方が良いでしょう。
あとは他の魚も美味しいのですが、今日はみんなで同じものを食べるという事でマスだけにしました。」
などと言うノノちゃん、色々と考えているようです。
木桶を二つ抱えて河原に戻ると、ノノちゃんは予め用意していたナイフでマスの処理を始めました。
器用に内臓を取り除くと、その内側とマスの外側に塩を塗り付けていきます。
そして、口から木串を刺すと言いました。
「シャルロッテ様、ナナが石でカマドを組んで薪を入れたら、それに火を点けて頂けますか?」
ええ、そのくらいはお手の物です。そのくらいしか役に立てませんから。
私の魔法で火を点けた薪が半分炭のようになり、炎が小さくなったころ。
タイミングを見計らっていたノノちゃんが、カマドの周りにマスを刺した串を立てていきました。
ちょうどその時、ログハウスに残した侍女たちがサンドイッチを詰めたランチボックスを届けてくれました。
河原に敷物を敷いてランチボックスのサンドイッチを並べているとマスの焼ける香ばしい匂いが漂ってきます。
非常に食欲をそそられます。
「うーん、美味しいわ。
農村体験ツアーの一日目から、こんな楽しい企画があるとは思わなかった。
無理を言ってついて来た甲斐があったわ。
私の息子も来ればよかったのに、『田舎はイヤだ』なんて生意気言うから。
こんな美味しいものを食べ損ねたじゃない。」
串に刺したマスの塩焼きに舌鼓を打つお母さんその一。
「本当よね。
あんな奇麗な水の中に入って魚を掴み獲るなんて経験、早々できるモノじゃないのにね。
しかも、取ったその場で食べるマスの美味しい事。最高の贅沢だわ。」
お母さんその二もご満悦です。
「ノノおねえちゃんもまほうつかいなの?
おさかなっておいしくないでしょう。
ノノおねえちゃんがまほうでおいしくしてくれたの?」
そんなことを言う小さな子もいました。
川の水が汚れたアルビオンの王都では、川魚は食べられません。
遠く離れた海から持ってくるのでどうしても鮮度が落ちてします。
お母さん方の話では、生臭い魚が多いため大部分の子供は魚が嫌いなのだそうです。
「お姉ちゃんは魔法使いではないかな。
そのお魚が美味しいのは、この川の水がとってもきれいだからよ。
それに、みんなで頑張って獲ったお魚だから一層美味しく感じるのだと思う。」
ノノちゃんは優しい笑みを浮かべながらそう言いました。
この日、獲ったマスはお代わりをするのに十分な数があり、心行くまでマスの塩焼きを堪能したのです。
みなさん、とっても満足そうな笑顔を見せてくれました。
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なんでも、伯爵家令嬢が婚約者の地位を笠に着て、第三王子の寵愛する子爵家令嬢を虐めていたというのだ。
婚約者は否定するも、他にも次々と証言や証人が出てきて黙り込み俯いてしまう。
勝ち誇った王子は、最後にこう宣言した。
「そなたにも言い分はあろう。私は寛大だから弁明の機会をくれてやる。言いたいことがあるなら言ってみろ」
その一言が、自らの破滅を呼ぶことになるなど、この時彼はまだ気付いていなかった⸺!
◆例によって設定ナシの即興作品です。なので主人公の伯爵家令嬢以外に固有名詞はありません。頭カラッポにしてゆるっとお楽しみ下さい。
婚約破棄ものですが恋愛はありません。もちろん元サヤもナシです。
◆全6話、約15000字程度でサラッと読めます。1日1話ずつ更新。
◆この物語はアルファポリスのほか、小説家になろうでも公開します。
◆9/29、HOTランキング入り!お読み頂きありがとうございます!
10/1、HOTランキング最高6位、人気ランキング11位、ファンタジーランキング1位!24h.pt瞬間最大11万4000pt!いずれも自己ベスト!ありがとうございます!
狼の子 ~教えてもらった常識はかなり古い!?~
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バイト帰りに何かに引っ張られた俺は、次の瞬間突然山の中に放り出された。
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右も左も分からないどころか、右も左も向けなかった俺は天狼さんに魔法で癒され、ついでに色々な知識を教えてもらう。
この世界の事、生き延び方、戦う術、そして魔法。
数年後、俺は天狼さんの庇護下から離れ新しい世界へと飛び出した。
元の世界に戻ることは無理かもしれない……でも両親に連絡くらいはしておきたい。
根拠は特にないけど、魔法がある世界なんだし……連絡くらいは出来るよね?
そんな些細な目標と、天狼さん以外の神獣様へとお使いを頼まれた俺はこの世界を東奔西走することになる。
色々な仲間に出会い、ダンジョンや遺跡を探索したり、何故か謎の組織の陰謀を防いだり……。
……これは、現代では失われた強大な魔法を使い、小さな目標とお使いの為に大陸をまたにかける小市民の冒険譚!
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