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第13章 春、芽生えの季節に

第307話 聖獣の森は大好評です

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「フェニックスさん、凄いです。
 空に絵を描くなんて、素敵なことが出来るとは流石です。
 先程はタダの鷲だなんて失礼な事を言って申し訳ございませんでした。
 さぁさぁ、どうぞお召し上がりください。」

 見事なパフォーマンスを見せて戻って来たフェニックス(もどき)を思いっきりヨイショしたノノちゃん。
 木の器になみなみと注いだお酒をフェニックス(もどき)に差し出しました。

「おお、これはかたじけない。
 なに、儂の凄さをわかったのならば良いのだ。
 昔は良くこうやって女子おなごどものご機嫌を取ったものだ。
 あの芸を披露して戻ってくると、機嫌を良くした女子どもが豊満な胸に抱き留めてくれてのう。
 その柔らかい感触がまっこと至福であった。」

 せっかく良い所を見せたのですから、そんなことは言わなければ良いのに…。
 ほら、感心していたノノちゃんが引いてしまったではないですか。

「シャルロッテ様、やっぱり、このフェニックスさん、何かイヤです。」

 邪なモノを感じたのでしょう、ノノちゃんが嘆いています。

     ********

 昼食後、フェニックスの見事な芸の余韻に浸りながら、木陰に敷いた敷物の上で休んでいると。

「ねえ、ねえ、小さなおねえちゃん、まほうをみせて。」

 小さな女の子がよちよちとアリィシャちゃんのところまで歩いて来て、魔法が見たいとせがみます。
 どうやら、食後にアリィシャちゃんの魔法を披露すると言ったのを覚えていたようです。

「それじゃあ、こんなのはどうかな。」

 アリィシャちゃんはそう言って、目の前に光の玉を浮かべてみました。

「うわっ、ひかった!
 すごい、すごい、もっとみせて!」

「じゃあ、今度は、こんなの!」

 アリィシャちゃん、今度は上を向けた手のひらから噴水のように水を上げて見せます。

「うわっ!つめたい!」

 水飛沫がかかった女の子がそう言いながらはしゃいでいます。
 その後もアリィシャちゃんは、冷風を送って女の子を涼ませてあげたりしました。
 アリィシャちゃんが使う魔法を目にした女の子はとても嬉しそうにはしゃいでいます。

 ですが、やんちゃ盛りの男の子はそんな大人しい魔法は退屈なようで。

「ちいちゃなお姉ちゃん、なんかショボい。
 大きなお姉ちゃんみたいに、ボワッともえる火とか出せないの。」

 それを聞いたアリィシャちゃん、勿論小さな子供の言葉に一々目くじらは立てません。
 ですが、笑いながらも、怒ったフリをして。

「そんな、悪いことを言う子は、おしおきよ!
 これで、どうだ!」

 アリィシャちゃんの言葉と共に、生意気を言った男の子がふわりと浮き上がります。

「おおっ!すげえ、おれ、ういてる!」

 フワフワと大人の身長くらいまで浮き上がった男の子。
 アリィシャちゃんはその高さでゆっくりと男の子をくるりと一回転前転させます。

「おもしれえー!」

 男の子が気分を悪くしないように注意を払いつつ、アリィシャちゃんは宙に浮かぶその子を側転、後転と転げまわします。

「きゃは、はっ!ちっちゃなお姉ちゃんの魔法ってすげー!」

 宙を転げ回って男の子は大喜びです。
 すると、子供たちが集まって来て、我もとせがみ始めました。

「はい、はい、順番ね。」

 そう言ったアリィシャちゃん、最初の男の子を地面に降ろすと次の子を宙に浮かべ、ころころと宙を転がします。
 結局、アニーさんを除く全員がアリィシャちゃんの魔法で宙を転がりまわることになりました。

 流石に、十二歳のアニーさんはスカートが気になるようで、やりたいとは言い出せなかった様子です。
 ちっちゃな女の子がドロワーズ丸出しで転がりまくっているのを見て気が引けたようでした。

     ********

 その後も似非ドラゴンや似非ユニコーンと遊んだ子供たち、夕方になる頃には遊び疲れた様子でした。
 小さな子は木蔭に敷いた敷物の上でスヤスヤと寝息を立てています。

「みんな、今日は子供たちと遊んでくれて有り難う。
 子供たちは、とても喜んでくれたわ。
 また、連れて来て良いかしら?」

 今回の企画は大成功です、この聖獣もどきがウンと言えば観光に使えるかも知れません。
 若い女性と子供限定、 『ドキ、ドキ、聖獣ランド』とか言って…。

わらしは嫌いではないから、別にかまわんが…。
 どうせなら、もう少し成長した乙女を増やして欲しいものだな。
 我は、アニーやノノくらいの開きかけの蕾が一番好みなのだ。
 その辺を増やしてくれれば、幾らでも相手してやるぞ。」

 処女偏愛のユニコーン(もどき)が贅沢な注文を付けると、フェニックス(もどき)が調子に乗ります。

「儂はあのくらい小さな童は良いと思うぞ、女でも男でも共に可愛いものよ。
 しかし、あのくらいの童の母親ならまだ三十前であろう。
 どうせなら、母親も一緒に連れてこんか。
 儂は生娘でなくてはダメだなんて偏狭な事は言わん。
 むしろ、そのくらいの熟れ具合の方が好みなのでな。
 昔のように、柔らかい胸にパフパフと挟まれてみたいものだ。
 それが叶うのであれば、もっとすごい芸を披露して進ぜよう。」

 などと、セクハラ発言をかまします。でも、若奥さんはセーフですか…、対象層が増えますね。

「俺はノノが気に入ったぞ。
 あの娘が望むのであれば、契約して付いて行っても良いぞ。
 一生守ってやろうではないか、あの娘の純潔を奪おうとする悪い虫からも。」

 ノノちゃん、ドラゴン(もどき)に甚く気に入られてようです。
 止めてください、そんなことをしたらノノちゃん一生独身になってしまうではないですか。
 第一、アルビオンの王都でドラゴン(もどき)が姿を見せようものなら大パニックです。

「それは遠慮してもらえると助かるかな…。
 ノノちゃんなら、また連れて遊びに来るから、それで我慢して。
 あなたがこの森から出て行くと人の町にパニックが起こるから。
 この森で大人しくしていて、ノノちゃん以外にもまた若い女の子を連れて来るから。」

「うむむ、そうなのか。
 仕方あるまい。でも、約束だぞ必ずノノを連れて来るのだぞ。」

 割と聞き分けが良くて助かりました。
 アルム地方観光の目玉(予定)ですから、いなくなられたら困ります。

「ところで、この子達のお母さんを連れて来て良いのなら、お父さんは?」

 私はダメもとで尋ねてみました。

「なんだ、燃やしてしまって良いのか?」

「ふむ、その童の母親の純潔を奪ったにっくき虫けら共か、この角がうずくわ。」

 あっ、絶対に連れて来てはダメなやつですね…。

     ********

 そして、聖獣の森探訪は、子供たちにとても喜ばれて幕を下ろしました。
 例によって、木の箱に乗せてフヨフヨとゆっくりした速度で館へ戻り、正面玄関前に着きました。

 ちょうどその時、テラスでお茶をしていたご婦人方が部屋に戻ろうとしている所でした。

 私達を乗せた木の箱がゆっくりと着地する様子をはっきりとご婦人方に目撃されます。
 いえ、わざとですがね。

 突然、空から降りて来た木の箱に、ご婦人方は呆然としていました。
 私とノノちゃんが手分けをして子供たちを木箱から降ろすと、子供たちは母親に向かって走り出しました。

「ママ、おねえちゃんが、まほうで、おそらへ、つれてってくれたの。
 んでねー、どらごんさんがいたんだよ。のっけてもらったの。」

 母親に抱き付いて舌足らずの言葉で話しかける年少の女の子。
 すこし興奮気味なので、余計舌足らずになっています。

「あら、良かったわね。…えっ、ドラゴン?」

 とても嬉しそうにはしゃぐ我が子に相好を崩したお母さんでしたが、ドラゴンという言葉には引っ掛かりを感じたようです。

 別の場所で、もう少し年上の女の子が母親のもとで話しています。

「おかあさん、ただいま。
 今日はね、シャルロッテお姉ちゃんが、魔法で空を飛んで、森へ連れて行ってくれたの。
 凄いんだよ、ドラゴンやユニコーンがいたの。
 フェニックスもいて、お空に絵をかいてくれたの。とっても奇麗だった。」

 この女の子は五、六歳でしょうか。活舌がハッキリしていて、その言葉は周囲のご婦人方の耳に届いたようです。

「あのう、アルムハイム伯様、この子達、こんなことを言っていますが…。」

 ああ、これはこの子達の言葉の真偽を尋ねているのですね。

「ええ、全て本当のことですよ。
 私は正真正銘の魔法使いです。
 セルベチアでは『アルムの魔女』なんて言われて、結構恐れられているのですよ。
 今日は、魔法を使ってこの木の箱で空の散歩を楽しんでもらったのです。
 目的地は裏山にある聖獣の森、ドラゴンにユニコーン、それにフェエニックスが住んでいます。
 聖獣たちは小さな子供が大好きで、一日遊び相手をしてもらいました。
 ねえ、みんな。」

「うん、ユニコーンに乗せてもらったんだ!」と五つくらいの歳の男の子が、

「白いお馬さん、とってもきれいだった。長い角があるんだよ。」とやはり五つくらい歳の女の子が、そして、

「ユニコーンさんにとても親切にして頂きました。伝説の聖獣に優しくして頂き幸せです。」とアニーさんが言いました。

 私と子供たちの話を聞いたご婦人の一人が言います。

「ユニコーンに、ドラゴンに、フェニックスですか。
 私も見てみたいものですわ。
 それに、子供の話を聞いたら、夫がぜひ見たいと言い出しそうです。」

「ええ、そう言われると思っていました。
 実は、聖獣たちは大人の男が大嫌いなのです。
 昨年、セルベチアの大軍がここへ攻め入る目的で、聖獣の森に侵入しました。
 その数、歩兵が千人、うち約六百人が聖獣たちに一方的に殺戮されて生き残ったのは僅か四百人でした。
 それだって、私が止めに入ったから見逃してもらえたのです。
 とにかく、聖獣たちは女子供にはとても優しいですが、男の事は虫けら以下に考えています。
 殺されたくなければ、殿方は近寄らないに限ります。」

「それは本当なのですか?
 森に入られない様に、脅しているだけではないのですか。
 存在が広く知られてしまうと、欲深い男が侵入して聖獣を捕らえようとするかも知れないから。」

「いえ、捕えられるモノなら捕えてみれば良いです。
 生半可な人数であれば、ものの数分も掛からず皆殺しです。
 今度は私は助けませんよ、聖獣を捕らえようなんて輩、どうなろうと自業自得です。
 昨年だって、私の領地に攻め入ろうとしたのです。
 助ける義理も無かったのですが、そこにセルベチア皇帝がいると分かったので殺戮を止めたのです。
 セルベチア皇帝を生きたまま捕らえるためにね。
 おかしいと思いませんでした、終始優勢で戦争を続けてきたセルベチアがいきなり全面降伏するなんて。」

 ここにいるご婦人方は、ほとんどの方が政治とかには関心のない上流階級の奥様方でしょう。
 ですが、上流階級の方の情報網は侮れません。
 たとえ関心がなくとも、セルベチアと帝国の戦争の話くらいは耳にしているはずです。

 すると、

「昨年、主人が言っていましたわ。
 セルベチアが優勢とみて、セルベチアに肩入れしていた商人がいたそうです。
 戦争を優位に進めてきたセルベチアがいきなり降伏したせいで、膨大な焦げ付きが生じて破産したとか。
 なんでも、突然セルベチア皇帝が宰相と共に帝国に捕らえられて、帝都で降伏を宣言したと聞きました。」

 やはり、口コミはバカに出来ません。ここに事情通の奥様がいました。

「えっ、では…。」

 先程私を疑っていた奥様が顔色を悪くして私を見ました。

「ええ、私が、聖獣に殺される寸前のセルベチア皇帝を捕らえて、帝都へ突き出したのです。
 おかげで戦争を終結に導いた功労者として沢山褒賞を頂きました。
 それを元手にアルム地方のリゾート地化を計画しているのです。
 その第一歩として、今回皆様をご招待しましたのよ。
 信じて頂けますかしら。」

 と私が笑って見せると、そのご婦人は顔を青ざめさせたまま、無言で数回首を縦に振りました。
 どうやら、聖獣が一軍を一方的に殲滅できるほど恐ろしい存在だと理解したようです。

 でも…。
 そもそも、ユニコーンに男性が触れると気が狂ったように暴れ出し、男を刺し殺すと言うのは有名な伝承ですよね。
 それに、ドラゴンが厄災のような存在だというのも。

 という事で、旦那さん達を連れて行くのは無理だと理解してくれたようです。
 
     ********

「あら、でも、女、子供には優しいのでしょう。
 私達は行っても良いのでは?」

 すると、一番若く見えるお母さんが言いました。
 見た目、まだ二十代前半、私よりそんなに年上ではないようです。
 あのセクハラフェニックスの好みドンピシャの色っぽい若奥様でした。

 ええ、連れていきましたとも、翌日。
 似非ドラゴンと似非ユニコーンからは使い古しの年増ばかり連れて来たとさんざん文句言われました。
 使い古しとか、年増とか、本当に失礼な奴らです。
 次回は若いを連れて来ると宥めて、愛想を振りまいてもらいましたけどね。

 ただ、ユニコーン(もどき)は頑なにご婦人を乗せる事を拒んでいました。
 まあ、トリアさんですら生娘ではないとなじられ、乗せてもらえなかったのですから仕方ないでしょう。
 その分、ドラゴン(もどき)が渋々ですが、ご婦人方を乗せて空を飛んでくれました。
 お気に入りのノノちゃんが上目遣いで『お願い』と頼んだら一発で了承してくれたのです。ちょろい…。

 唯一、フェニックス(もどき)だけは前日以上に上機嫌で、より気合いの入った芸を披露してくれました。
 やはり、このくらいの年齢の成熟したご婦人が好みのようです。 なんだかなぁ…。

「シャルロッテ様、ここは素晴らしいです。
 『男子禁制の森で、聖獣と過ごす一時』、これ受けると思いますよ。
 アルム地方を本格的にリゾート地として売り出す際には、是非ここを公開してください。」

 帰り際、一人のご婦人がこんな事を言いました。
 周囲を見回すと、皆さんが頷いていました。
 皆さんにご満足して頂けた様子ですので、ご案内した甲斐はあったようです。
 
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