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第13章 春、芽生えの季節に
第305話 もちろん、酒樽も用意しました
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子供たちが代わる代わるドラゴン(もどき)に乗せてもらい空の散歩を楽しんでいると。
ユニコーン(もどき)の背に跨ったアニーさんが戻って来ました。
その表情はとてもにこやかで、あの変態ユニコーンに不埒なマネをされた様子は見られませんでした。
「ユニコーンさん、本当に有り難うございました。
もう大人になろうという年齢なのに粗相をしてしまい、すごく恥ずかしかったのです。
服も、体もきれいに洗って頂きとても助かりました。
それに、伝説上の聖獣と言われているユニコーンさんに乗せて頂けるなんて感激です。」
「なに、あれしきの事は礼を言われるまでもない。
それに、粗相などと恥じ入る必要もないぞ。
汝の反応は至極真っ当なものだ。
だいたい、ドラゴンを見て誰も恐れを抱かないなど、そっちの方が異常であろう。
以前、この森に攻め入った愚かな兵士共がおってな。
そ奴ら、いい歳した男のくせに、あのドラゴンに恐れ慄き色々垂れ流しておったぞ。
汚らわしいことこの上なかったわい。」
とても嬉しそうにユニコーン(もどき)に感謝の気持ちを伝えるアニーさん。
それに対し変態ユニコーンはとても紳士的に応えました。
どうやら、上手く猫を被りおおせたようです。
「おかえりなさい、アニーさん。
そのユニコーンに何か変な事はされなかったかしら?」
「変な事?
いえ、ユニコーンさんはとても親切にしてくださいましたの。
汚してしまった服をユニコーンさんが作り出した水の玉の中で洗ってくださいました。
宙に浮く水の玉の中で服がグルグル回って洗われて行く様子はとても面白かったです。
服を洗っている間、裸で風邪を引いたらいけないと首から下を温かいお湯で覆ってくださいました。
そのお湯に流れがあって、優しく撫でるように汚れた体をくまなく洗ってくださったのです。
あまりに心地良くてボーッとしてしまいました。」
その心地良さを思い出したのか恍惚として表情を見せるアニーさん、歳に似合わぬ艶っぽさです。
アニーさんのこんな表情と裸身を眺めて悦に入っていたのですね、あの変態ユニコーン。
いえ、ことによるとそのお湯、ユニコーン(もどき)と感覚が繋がっているのでは…。
ユニコーンの姿をしているとはいえ、実際は水の精霊ですものね。そのくらいは出来そうです。
『役得、役得』とほくそ笑む変態ユニコーンの心の声が聞こえてくるようです。
ユニコーン(もどき)の下心はともかく、アニーさんは伝説の聖獣に親切にされたととても喜んでいます。
その喜びに水を差すのも無粋ですので、私は口を噤むことにしました。
知らない方が幸せという事もあるのです…。
私がユニコーン(もどき)を白い目で見ていると、もう一人、ユニコーンの信奉者が現れました。
「ユニコーン様、お久しぶりでございます。
一度、お目にかかったことがあるフランシーヌです。
その節は、お背中に乗せて頂き有り難うございました。」
この人も、前回ユニコーン(もどき)に会った時、背中に乗せてもらい感動していました。
どうやら、今回も乗せて欲しい様子で、上目遣いにユニコーン(もどき)を伺っています。
「おお、久しいな。覚えておるぞ。
ずいぶんとご無沙汰であったではないか。
そなたであれば、いつでも遊び気来てくれて良いものを。」
「私も、是非またお邪魔したいと思ってたのですが。
あいにくと遠方に住まいを移すことになりまして。
今まで、再訪が叶わなかったのです。
今日、再びこうしてお目にかかる事が出来てとても嬉しいです。
それで…。」
フランシーヌさん、自分から聖獣に乗せて欲しいと頼むのは厚かましいと思っているのでしょうか。
乗せて欲しいと頼むのを躊躇している様子です。
「ねえ、せっかく、あなたに会いに来たのだから、また乗せてあげたらいかがかしら?」
私は助け舟を出すことにしました。
いえ、本心から言えば、変態ユニコーンを悦ばせるようなことはしたくないのですが…。
「おう、そうであるな。
フランシーヌよ、良ければ我の背に乗って湖畔の散歩でもせぬか。
ゆっくりと湖畔の案内をして進ぜよう。」
「えっ、よろしいのですか?
それは是非ともお願いいたします。
また、ユニコーン様にお乗せ頂けるなんて夢のようです。」
そう言って、フランシーヌさんは喜び勇んでユニコーン(もどき)の背に跨りました。
そして、ユニコーン(もどき)と共に湖畔の散歩にと出掛けたのです。
その様子を見ていたトリアさんが私の袖を引っ張って言いました。
「ねえ、あれ、止めなくて良かったのですか?」
「止めるも何も、本人が乗りたいと言っているのですからよろしいのでは。
前回来た時に彼女は、ユニコーン(もどき)がトリアさんを純潔ではないとなじったのを見ています。
なので、あのユニコーン(もどき)が処女偏愛の困ったちゃんだと知っているはずです。
その上で、伝説の聖獣と崇めているのですから、好きにさせてあげれば良いです。」
ええ、『あばたもえくぼ』の方に何を言っても無駄です。
本人が納得しているのであれば、それで良いのではないでしょうか。人の好みはそれぞれです。
********
しばらくして、フランシーヌさんを乗せたユニコーン(もどき)が戻ってくると。
「ねえ、ノノおねえちゃん、わたし、つののあるおうまさんにのりたいの。」
ノノちゃんに手を引かれてやって来た小さな女の子がユニコーン(もどき)に乗りたいと言い出しました。
あの港町で迷子になっていた女の子です。
「そう、じゃあ、ユニコーンさんに頼んでみましょうか。」
そう言ってユニコーン(もどき)に近付いて行く二人。
「あのー、ユニコーンさん…。
この子が乗せて欲しいと言っているのですが、乗せて頂けます?」
「おお、めんこい童だのう。
もちろん良いぞ、遠慮することはない。
ただ、そんな幼い童が一人だと我から転げ落ちる恐れがある。
そなた、その童を抱えて我に乗るが良い。」
あのユニコーン(もどき)、またおためごかしを言って…。
実際は、背に乗せたノノちゃんの感触を味わいたいくせに。
「わーい!
ノノおねえちゃんといっしょにおうまさんにのれるんだ!
ねえ、ねえ、ノノおねえちゃん、はやくのせてもらおう。」
舌ったらず言葉で喜ぶ女の子、そんな女の子を微笑まし気に見ているノノちゃん。
そんな表情の二人を見ていたら乗るなとは言えませんでした。
小さい子供は、他の子がしている事をマネしたがるもので…。
ノノちゃん達が戻ってくると、ユニコーン(もどき)に乗りたいという子が続出します。
結局、フランシーヌさん、アニーさん、ノノちゃんの三人が交代で小さな子を抱えてユニコーン(もどき)に乗ることになりました。
小さな子は大喜びだし、フランシーヌさん、アニーさんもとっても幸せそうなので余計な事は言わないことにしました。
ただ、ノノちゃんが一人、ボソッと呟きました。
「ドラゴンさんもユニコーンさんもとっても気さくで親切なのですが…。
なんか、伝承に伝えられているような神聖な感じがしないんですよね。
何というか、邪なモノを感じるというか…。
そうだ!どっかで、こんな感じの人を見た覚えがあると思ったら。
村でよく見かけた悪さばっかりしているお兄さん達に雰囲気が似てるんだ。
ちょくちょく、村でお姉さん方に悪さをしようとして袋叩きにあっていました。
あんな袋叩きにされるような悪さって、いったい何をしようとしたんでしょうね?」
そう言って首を傾げるノノちゃん。
さすが、ノノちゃん、一発であの性獣共の本性を見抜いた様子です。
その内容までは分からないようですが…。
********
さて、ドラゴン(もどき)やユニコーン(もどき)に子供たちのお相手をしてもらっている間に昼時になりました。
私は、アリィシャちゃんに手伝ってもらい、乗ってきた箱の中からランチのセットを運び出しました。
子供が中心とはいえ、二十人近い人の昼食です。
結構な分量になります。他に地面に敷く敷物やお茶のための茶器などもありますし。
アリィシャちゃんと二人、浮遊の魔法でそれらを浮かべて運びます。
「わっ、ちっちゃなおえねちゃんもまほうつかいだったんだ。
すごーい!」
年少の女の子の一人が、アリィシャちゃんの使う魔法をみて感心しています。
「そう、このアリィシャちゃんも魔法使いなの。
ランチの後で、アリィシャちゃんに魔法を見せてもらうと良いわ。」
「おねえちゃん、まほうをみせてくれるの?
みたい、みたい。」
そんな風に可愛くせがまれたアリィシャちゃん、食後に魔法を披露する約束をしていました。
食後はアリィシャちゃんの魔法を、みんなの前で披露することになりそうです。
ランチのセットを運んで来ると、ノノちゃんがセッティングを手伝ってくれました。
「サンドイッチにお菓子、お茶の道具に…、スープの入った鍋?
いくら贅沢な具材が入ったスープだとしても、冷めてしまって油が浮いてます。
これをどうやって食べるのですか、ここにはカマドはありませんよ?」
スープが入った大鍋の蓋を取ってノノちゃんが尋ねて来ました。
それ、溢さないように運んで来るのが大変だったのです。
「ああ、それね。
それは、子供たちがみんな集まってからのお楽しみね。」
子供たちに魔法を使ったちょっとしたパフォーマンスを披露するつもりですので。
すると、別のモノに気が付いたノノちゃん。
「これお酒です。どなたかお酒を召し上がるのですか?
そう言えば、アルビオンやセルベチアで奇麗な水が手に入らないところでは、子供のうちからお酒を飲むと聞いた気が…。
アルビオンでも女学校の寄宿舎のある場所は普通に水が飲めるので忘れてましたが。」
お酒の入った小樽を手にして尋ねて来ました。
「この中でお酒を嗜む人はいないわね。
それにね、そのお酒、火の酒って言われるくらい強いお酒なの。
とても水代わりに飲める品物ではないわ。
それはね、酒好きの吞兵衛をおびき出すのに使うのよ。
ちょうど良いわ、その小樽の栓を抜いてみて。」
私の言葉を良く呑み込めないノノちゃん、不思議そうな表情をしつつも言われた通りに栓を抜きました。
「うっ、凄い匂い、これだけで酔ってしまいそうです。」
非常に強いアルコールの匂いに、ノノちゃんが顔をしかめました。
それほどまでに、強い匂いです。あの吞兵衛が気付かない訳がありません。
すると森の中から火の玉が飛び出します。
火の玉はある程度まで上昇すると、一直線にノノちゃんに向かって飛んできました。
いえ、正確にはノノちゃんの持つ酒樽に向かってですね。
「おお、久々に酒の匂いがするぞ!
なんと、女子までいるではないか!」
そんな声が火の玉から聞こえたと思うと、火力が弱まったのか炎がだんだん小さくなり…。
炎の中から一羽の鳥が姿を現しました。
「えっ、今度はフェニックスですか?」
その鳥の姿を確認したノノちゃんが呟きました。
ええ、フェニックスです、『もどき』ですが。
ユニコーン(もどき)の背に跨ったアニーさんが戻って来ました。
その表情はとてもにこやかで、あの変態ユニコーンに不埒なマネをされた様子は見られませんでした。
「ユニコーンさん、本当に有り難うございました。
もう大人になろうという年齢なのに粗相をしてしまい、すごく恥ずかしかったのです。
服も、体もきれいに洗って頂きとても助かりました。
それに、伝説上の聖獣と言われているユニコーンさんに乗せて頂けるなんて感激です。」
「なに、あれしきの事は礼を言われるまでもない。
それに、粗相などと恥じ入る必要もないぞ。
汝の反応は至極真っ当なものだ。
だいたい、ドラゴンを見て誰も恐れを抱かないなど、そっちの方が異常であろう。
以前、この森に攻め入った愚かな兵士共がおってな。
そ奴ら、いい歳した男のくせに、あのドラゴンに恐れ慄き色々垂れ流しておったぞ。
汚らわしいことこの上なかったわい。」
とても嬉しそうにユニコーン(もどき)に感謝の気持ちを伝えるアニーさん。
それに対し変態ユニコーンはとても紳士的に応えました。
どうやら、上手く猫を被りおおせたようです。
「おかえりなさい、アニーさん。
そのユニコーンに何か変な事はされなかったかしら?」
「変な事?
いえ、ユニコーンさんはとても親切にしてくださいましたの。
汚してしまった服をユニコーンさんが作り出した水の玉の中で洗ってくださいました。
宙に浮く水の玉の中で服がグルグル回って洗われて行く様子はとても面白かったです。
服を洗っている間、裸で風邪を引いたらいけないと首から下を温かいお湯で覆ってくださいました。
そのお湯に流れがあって、優しく撫でるように汚れた体をくまなく洗ってくださったのです。
あまりに心地良くてボーッとしてしまいました。」
その心地良さを思い出したのか恍惚として表情を見せるアニーさん、歳に似合わぬ艶っぽさです。
アニーさんのこんな表情と裸身を眺めて悦に入っていたのですね、あの変態ユニコーン。
いえ、ことによるとそのお湯、ユニコーン(もどき)と感覚が繋がっているのでは…。
ユニコーンの姿をしているとはいえ、実際は水の精霊ですものね。そのくらいは出来そうです。
『役得、役得』とほくそ笑む変態ユニコーンの心の声が聞こえてくるようです。
ユニコーン(もどき)の下心はともかく、アニーさんは伝説の聖獣に親切にされたととても喜んでいます。
その喜びに水を差すのも無粋ですので、私は口を噤むことにしました。
知らない方が幸せという事もあるのです…。
私がユニコーン(もどき)を白い目で見ていると、もう一人、ユニコーンの信奉者が現れました。
「ユニコーン様、お久しぶりでございます。
一度、お目にかかったことがあるフランシーヌです。
その節は、お背中に乗せて頂き有り難うございました。」
この人も、前回ユニコーン(もどき)に会った時、背中に乗せてもらい感動していました。
どうやら、今回も乗せて欲しい様子で、上目遣いにユニコーン(もどき)を伺っています。
「おお、久しいな。覚えておるぞ。
ずいぶんとご無沙汰であったではないか。
そなたであれば、いつでも遊び気来てくれて良いものを。」
「私も、是非またお邪魔したいと思ってたのですが。
あいにくと遠方に住まいを移すことになりまして。
今まで、再訪が叶わなかったのです。
今日、再びこうしてお目にかかる事が出来てとても嬉しいです。
それで…。」
フランシーヌさん、自分から聖獣に乗せて欲しいと頼むのは厚かましいと思っているのでしょうか。
乗せて欲しいと頼むのを躊躇している様子です。
「ねえ、せっかく、あなたに会いに来たのだから、また乗せてあげたらいかがかしら?」
私は助け舟を出すことにしました。
いえ、本心から言えば、変態ユニコーンを悦ばせるようなことはしたくないのですが…。
「おう、そうであるな。
フランシーヌよ、良ければ我の背に乗って湖畔の散歩でもせぬか。
ゆっくりと湖畔の案内をして進ぜよう。」
「えっ、よろしいのですか?
それは是非ともお願いいたします。
また、ユニコーン様にお乗せ頂けるなんて夢のようです。」
そう言って、フランシーヌさんは喜び勇んでユニコーン(もどき)の背に跨りました。
そして、ユニコーン(もどき)と共に湖畔の散歩にと出掛けたのです。
その様子を見ていたトリアさんが私の袖を引っ張って言いました。
「ねえ、あれ、止めなくて良かったのですか?」
「止めるも何も、本人が乗りたいと言っているのですからよろしいのでは。
前回来た時に彼女は、ユニコーン(もどき)がトリアさんを純潔ではないとなじったのを見ています。
なので、あのユニコーン(もどき)が処女偏愛の困ったちゃんだと知っているはずです。
その上で、伝説の聖獣と崇めているのですから、好きにさせてあげれば良いです。」
ええ、『あばたもえくぼ』の方に何を言っても無駄です。
本人が納得しているのであれば、それで良いのではないでしょうか。人の好みはそれぞれです。
********
しばらくして、フランシーヌさんを乗せたユニコーン(もどき)が戻ってくると。
「ねえ、ノノおねえちゃん、わたし、つののあるおうまさんにのりたいの。」
ノノちゃんに手を引かれてやって来た小さな女の子がユニコーン(もどき)に乗りたいと言い出しました。
あの港町で迷子になっていた女の子です。
「そう、じゃあ、ユニコーンさんに頼んでみましょうか。」
そう言ってユニコーン(もどき)に近付いて行く二人。
「あのー、ユニコーンさん…。
この子が乗せて欲しいと言っているのですが、乗せて頂けます?」
「おお、めんこい童だのう。
もちろん良いぞ、遠慮することはない。
ただ、そんな幼い童が一人だと我から転げ落ちる恐れがある。
そなた、その童を抱えて我に乗るが良い。」
あのユニコーン(もどき)、またおためごかしを言って…。
実際は、背に乗せたノノちゃんの感触を味わいたいくせに。
「わーい!
ノノおねえちゃんといっしょにおうまさんにのれるんだ!
ねえ、ねえ、ノノおねえちゃん、はやくのせてもらおう。」
舌ったらず言葉で喜ぶ女の子、そんな女の子を微笑まし気に見ているノノちゃん。
そんな表情の二人を見ていたら乗るなとは言えませんでした。
小さい子供は、他の子がしている事をマネしたがるもので…。
ノノちゃん達が戻ってくると、ユニコーン(もどき)に乗りたいという子が続出します。
結局、フランシーヌさん、アニーさん、ノノちゃんの三人が交代で小さな子を抱えてユニコーン(もどき)に乗ることになりました。
小さな子は大喜びだし、フランシーヌさん、アニーさんもとっても幸せそうなので余計な事は言わないことにしました。
ただ、ノノちゃんが一人、ボソッと呟きました。
「ドラゴンさんもユニコーンさんもとっても気さくで親切なのですが…。
なんか、伝承に伝えられているような神聖な感じがしないんですよね。
何というか、邪なモノを感じるというか…。
そうだ!どっかで、こんな感じの人を見た覚えがあると思ったら。
村でよく見かけた悪さばっかりしているお兄さん達に雰囲気が似てるんだ。
ちょくちょく、村でお姉さん方に悪さをしようとして袋叩きにあっていました。
あんな袋叩きにされるような悪さって、いったい何をしようとしたんでしょうね?」
そう言って首を傾げるノノちゃん。
さすが、ノノちゃん、一発であの性獣共の本性を見抜いた様子です。
その内容までは分からないようですが…。
********
さて、ドラゴン(もどき)やユニコーン(もどき)に子供たちのお相手をしてもらっている間に昼時になりました。
私は、アリィシャちゃんに手伝ってもらい、乗ってきた箱の中からランチのセットを運び出しました。
子供が中心とはいえ、二十人近い人の昼食です。
結構な分量になります。他に地面に敷く敷物やお茶のための茶器などもありますし。
アリィシャちゃんと二人、浮遊の魔法でそれらを浮かべて運びます。
「わっ、ちっちゃなおえねちゃんもまほうつかいだったんだ。
すごーい!」
年少の女の子の一人が、アリィシャちゃんの使う魔法をみて感心しています。
「そう、このアリィシャちゃんも魔法使いなの。
ランチの後で、アリィシャちゃんに魔法を見せてもらうと良いわ。」
「おねえちゃん、まほうをみせてくれるの?
みたい、みたい。」
そんな風に可愛くせがまれたアリィシャちゃん、食後に魔法を披露する約束をしていました。
食後はアリィシャちゃんの魔法を、みんなの前で披露することになりそうです。
ランチのセットを運んで来ると、ノノちゃんがセッティングを手伝ってくれました。
「サンドイッチにお菓子、お茶の道具に…、スープの入った鍋?
いくら贅沢な具材が入ったスープだとしても、冷めてしまって油が浮いてます。
これをどうやって食べるのですか、ここにはカマドはありませんよ?」
スープが入った大鍋の蓋を取ってノノちゃんが尋ねて来ました。
それ、溢さないように運んで来るのが大変だったのです。
「ああ、それね。
それは、子供たちがみんな集まってからのお楽しみね。」
子供たちに魔法を使ったちょっとしたパフォーマンスを披露するつもりですので。
すると、別のモノに気が付いたノノちゃん。
「これお酒です。どなたかお酒を召し上がるのですか?
そう言えば、アルビオンやセルベチアで奇麗な水が手に入らないところでは、子供のうちからお酒を飲むと聞いた気が…。
アルビオンでも女学校の寄宿舎のある場所は普通に水が飲めるので忘れてましたが。」
お酒の入った小樽を手にして尋ねて来ました。
「この中でお酒を嗜む人はいないわね。
それにね、そのお酒、火の酒って言われるくらい強いお酒なの。
とても水代わりに飲める品物ではないわ。
それはね、酒好きの吞兵衛をおびき出すのに使うのよ。
ちょうど良いわ、その小樽の栓を抜いてみて。」
私の言葉を良く呑み込めないノノちゃん、不思議そうな表情をしつつも言われた通りに栓を抜きました。
「うっ、凄い匂い、これだけで酔ってしまいそうです。」
非常に強いアルコールの匂いに、ノノちゃんが顔をしかめました。
それほどまでに、強い匂いです。あの吞兵衛が気付かない訳がありません。
すると森の中から火の玉が飛び出します。
火の玉はある程度まで上昇すると、一直線にノノちゃんに向かって飛んできました。
いえ、正確にはノノちゃんの持つ酒樽に向かってですね。
「おお、久々に酒の匂いがするぞ!
なんと、女子までいるではないか!」
そんな声が火の玉から聞こえたと思うと、火力が弱まったのか炎がだんだん小さくなり…。
炎の中から一羽の鳥が姿を現しました。
「えっ、今度はフェニックスですか?」
その鳥の姿を確認したノノちゃんが呟きました。
ええ、フェニックスです、『もどき』ですが。
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