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第12章 冬来たりなば

第270話 新たな年を迎えます

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 今年も残すところあと数時間、私はアルビオン王国の王宮に招かれています。
 国王のジョージさんが主催している小さな年越しパーティ。
 三十人ほどのパーティーですが、バカにしてはいけません。

 招かれているのは、王族の他、首相や政府の要人ばかり。
 聞くところによると、このパーティーに招待されるのがアルビオン王国の貴族のあこがれだとか。

 私とリーナは、昨年に引き続きジョージさんに直々にエスコートされてこのパーティに出席しているのです。
 私はと言うと、ここぞとばかり張り切ったベルタさんによって、これでもかってくらいにドレスアップされました。

 今日のドレスは、淡い天色そらいろのシルク地に流れるような沢山の小花が染められたものです。
 昨年の藤色のドレスが大変気に入ったと言ったら、おじいさまが色違いで新たに仕立ててくださいました。
 
 そのドレスを着付けている最中の、ベルタさんが呟きですが。
 
「姫様は本当にシックなドレスが好きでございますわね。
 お若いのですから、もっと原色系の派手なドレスを着ても良いと思うのですが。
 もっとも、姫様の慎ましやかなお胸にはシックなドレスの方が似合ってはおりますが…。」

 うるさいです、別に薄い胸が目立つから派手なドレスを着ない訳ではありません。
 こういった落ち着いた風合いのドレスが好きなだけです。放っといてください。

 ということで、いつもの黒ずくめの装いではなく、気張った服装をしているのですが…。
 並んで立つ私とリーナの前に浮かんだ、水の精霊アクアとシアン。

 その前には、ずらっと並んだパーティー出席者の皆さん。

「本当に有り難いわ。
 この年になると、毎年、何処かしら痛むようになってね。
 今年もこうして治していただけるなんて思いませんでしたわ。
 これで来年も健康な体で過ごせそうですわ。」

 アクアちゃんに感謝の言葉を伝えているのは、ジョージさんの遠縁にあたるという老齢のご婦人です。
 目の前に繰り広げられる光景はパーティ会場というよりも診療所のようです。

 昨年同様、出席者の中に具合の悪そうな人を見つけたアクアちゃんが治療を施しました。
 すると、それを目にした方が我も集まってしまったのです。年配の方が多いパーティですからね…。 

「おやおや、小さなレディー達は今年も人気者だね。
 しかし、申し訳ない事をしてしまったね、なにせ年寄りばかりのパーティーなものでね。」

 ジョージさんが、その様子を見てすまなそうに言います。

「お気になさらず、元はと言えばアクアちゃんが自分からしたことですから。
 優しい子ですので、おそらく、こうなる事は分かっていたのだと思います。」

「そう言えば、今年の春に聖都を救ってくれたのもその子達であろう。
 聖下が大変お喜びだったと聞いているよ。
 聖下はあのおチビちゃんたちが天使に見えたと言っていたそうだが。
 ああやって、何の対価も求めずに人を癒す姿は本当に天使のようだ。」

 私がジョージさんにそう答えると、ジョージさんの隣にいたマイケル大司教が会話に加わりました。
 マイケル大司教は、聖教とアルムハイム伯国が正式に和解したことをとても喜んでくれました。

「ところで、アルムハイム伯が懇意にしているラビエル枢機卿の件、ご存じかな。」

「それは、来年の夏、シューネフルトへいらしてくださることですか。」

「やはり、ご存じでしたか。
 聖教の内部でもまだ公表されていない事をご存じとなると、やはりアルムハイム伯が一枚噛んでいるのですね。」

 あら、カマかけでしたか。まあ、秘密にする程の事ではないのでかまいませんが。

「アルムハイム伯は何をお考えなので。
 しばらく教皇庁の中で異教徒との折衝役を任されていたラビエルが大司教になると言うのも意外でしたが。
 それまで司教座がおかれていなかったシューネフルトで大司教になると知らされ大変驚きましたよ。」

「ふふふ、それはまだヒ・ミ・ツです。
 来年の夏を楽しみにしていてください、きっとビックリなされますよ。
 シューネフルトは信者の方の新たな巡礼地になると思います。
 それこそ、大司教クラスが治めていないと収拾がつかないくらい沢山の信者が集まる巡礼地に。」

 せっかく、サプライズイベントを仕込んだのです。そう簡単には教えません。
 でも…。

「私やリーナが住むアルム山麓一帯は、冷涼でやせた土地が多く農業に向きません。
 かといって他の産業が発達している訳でもないのです。
 端的に言って、地域全体がとても貧しいのです。
 私とリーナは、アルム地方に住む人々に少しでも豊かな暮らしをして欲しいと常々思っています。
 そんな中で、この国では裕福層の余暇の楽しみ方の一つとして観光があると知りました。
 リゾートなんて呼んでいるそうですね。
 それを知り、私とリーナは、アルム地方を裕福層向けのリゾート地にしたいと思いました。
 ただ、アルム山脈の大自然だけでは、もう一つ弱いと考えていたのです。
 何かこう、人を引き付けるようなインパクトが欲しいと。
 良い案がないかと検討しているところに、今年の春に聖下からとある依頼を受けました。
 それで、お互いの利害が一致しまして…。」

 私はそこまでで言葉を区切り、目の前で楽し気に年配の方々と話をしながら癒しを施す精霊達に目をやります。
 私に答えをはぐらかされて、釈然としない様子のマイケル大司教でしたが。
 私の視線の先を追って、ハッとした表情を見せました。

「アルムハイム伯、もしかして、伯はシューネフルトで…。」

 マイケル大司教がそこまで言ったところで、私は唇の前に人差し指を立ててそれ以上の言葉を制止しました。

「それ以上言ってはダメですよ。は予期せぬ場所で、予期せぬ時に起きるものですから。」
 
 答えを言ってしまったようなものですが、ハッキリ口にしていないので、まあ良いでしょう。
 
 私の意図が伝わったのでしょう、マイケル大司教はあわてて口を噤み、無言で頷くのでした。

    ********

 そうこうする間に時間は過ぎ、間も無く新たな年を迎える時間となります。

「皆さん、改めてご紹介させて頂きます。
 アルムハイム伯と契約している火の精霊のサラさんです。
 昨年は見事な花火を披露され、私達の目を楽しませてくださいました。
 今年もまたあの花火が見たいという要望が、この王都の住民から多数寄せられています。
 そんな期待に応えて、今年も花火を披露してくださるそうです。」

 ジョージさんが、私の前で胸を張って浮かぶサラちゃんを紹介します。
 ジョージさんの言葉を受けて、パーティー会場にいる皆さんが期待を込めた拍手をサラちゃんに送ります。
 拍手に迎えられたサラちゃんはとても気分が良さそうです。本当に目立つのが好きな子ですね…。

 やがて、新年を告げる教会の鐘が鳴り響くと同時に。

 ドーン!

 と言う大音響と共に王都の夜空に大輪の光の花が咲きました。

 一瞬、王都が音を失ったかのように静まり返り、その後、ワーッという住民の歓声が上がりました。
 中心街から離れた王宮まで響くような、大歓声が。

 それに気を良くしたサラちゃんが次々に花火を打ち上げ始めます。
 昨年より多くの花火を、昨年より大輪の花火を。
 色とりどりの光の花が次々と王都の夜空を染めていきます。

 いったい幾つの花火を打ち上げたのでしょうか、私は千を超えた辺りで数えるのを止めました。
 王都の夜空を染めた光の競演は、最近見せ場が無いと不満をもらすサラちゃんの気が済むまで続きました。 

「ふふん、もっと私を称賛して良いのよ。」

 王都の街中から響いてくる大歓声を耳にして、サラちゃんはとても得意気に言います。
 パーティー会場にいる皆さんも夜空を彩る幻想的な光景に言葉を忘れて見入ってました。

 今年も花火をやって欲しと住民から寄せられた要望に頭を悩ませていたジョージさん。
 住民の要望に応えられて満足そうです。

 でも、サラちゃんは調子に乗り過ぎだと思います。
 ジョージさんは分かっているのでしょうか、また来年も花火をやって欲しいという要望が出るのを。
 きっと、来年は今年以上のモノを期待されますよ。
 民衆の期待というのは得てしてエスカレートするものですから。

 何はともあれ、私達はこうして新しい年を迎えたのです。
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