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第11章 実りの季節に

第263話 ドロシーさん、ビックリです

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 その翌日、私は新たに計画に加わった六人を連れて、シューネフルトへ転移しました。
 一旦、アルムハイムの館へ転移し、そのままリーナの執務室に跳んだのです。

「あら、おかえりなさい。
 早かったのね。
 そちらの方々が教員として来てくださった方かしら。」

 毎度の事なので、突然現れても動じることなくリーナが声を掛けてくれます。

「ええ、アガサさんの教え子のドロシーさんとその教え子の五人よ。
 みなさん、自己紹介してくださるかしら。」

 私はリーナの問い掛けに首肯し、自己紹介を促しますが…。
 
「「「「「「……。」」」」」」

 無言でした。
 六人共、突然切り替わった目の前の光景に呆気に取られていて言葉を失っているようです。

「こら、こちらの方がシューネフルト領の領主様。
 お前たちの雇い主だよ、ご挨拶しないかい。」

 アガサさんが六人を叱ると、ドロシーさんはハッとした表情となり。

「し、信じられない…。
 ここは、本当にシューネフルトなのですか。
 アルビオン王国からここまで一瞬で移動したと言うのですか?
 アルムハイム伯の魔法で?」

 発したのは、挨拶ではなく、驚嘆の声でした。
 これは、またアガサさんにお小言をもらう事が確定ですね。

「ええ、そうよ。
 ロッテの転移の魔法を初めて体験したのでは、驚くのも無理はないわね。
 ようこそ、クラーシュバルツ王国へ。
 ここはシューネフルト、あなた方に働いていただく町よ。」

 リーナは笑いながら、一行に歓迎の言葉を掛けます。
 リーナの言葉に、やっと我に返ったドロシーさんが恐縮した様子を見せました。

「大変失礼致しました。
 私はドロシー・マイヤーと申します。
 ここで領民の識字率百パーセントを目指す計画があると聞き、協力させて頂きたくやって参りました。
 他の五名は私の教え子で、みな志を同じくする者です。
 よろしくお願いします。」

 ドロシーさんが自己紹介をすると、教え子五人がそれに続きました。
 全員の自己紹介が終ると、リーナは満足そうに微笑んで言いました。

「みなさん、こんな遠いところまで来ていただき感謝します。
 私は、カロリーネ・フォン・アルトブルク。
 このシューネフルト領の領主にして、クラーシュバルツ王国の王太女です。
 領民に広く教育を施すという制度を国全体に広げることが出来るか否かは、この領地での成否にかかっています。
 みなさんの役割は非常に重要ですので、心して取り組んでください。」

「えっ、次期女王様…?」

 リーナの自己紹介を聞いて、五人の中から戸惑いの声が上がりました。
 そう言えば、アガサさん、事前に伝えてなかったですね。

「そうだよ、この計画は次期女王陛下が自ら旗振り役になっているんだ。
 絶対に成功させて見せようじゃないか、みんなも頑張るんだよ。」

 アガサさんの言葉に全員が気を引き締めている様子でした。

     ********

 その数日後。

「えっ、農村を回って生徒を集めてくるのですか?」

 村を回って女学校の生徒を募集してくると、アガサさんから聞かされたドロシーさんが疑問の声をもらしました。
 ドロシーさんの常識では、学校というのは入学希望者の方から志願してやって来るモノのようです。

「そうだよ、アルビオンでは学校に通えるのは一部の金持ちだけだろう。
 今回、設立する学校は当面の間は、領内の最貧層の娘を生徒にする予定なんだよ。
 放っておくと娼婦として売り飛ばされてしまう娘を保護して、教員に育てようってのさ。
 一種の領民救済事業さ。
 能力的に問題のない事は、ドロシーだってわかっているだろう。
 あの学校に預けた最年少のノノっていう娘、あの子もそうだったのだから。
 ノノは優秀な子だろう。」

 アガサさんは、学校が軌道に乗って生徒の数を増やせるようになれば、生徒を公募する計画だと説明していました。
 それまでは、領民の救済事業として、最貧層の農民の娘の中から適齢者を探して生徒にすると。

 私が何故ここにいるかと言うと、リーナに手伝って欲しいと頼まれたから。
 今回学校設立に当たって一期生の予定人数は三十名、リーナだけではとても手が足りないからです。

 私は、アガサさん、ドロシーさんと組んでリーナとは反対方面に向かいます。
 リーナはローザ先生と組んで既に出発しました。

「それじゃあ、出発しましょうか。
 今日は一番遠い村へ行きますので、早くしないと今日中に帰れなくなりますよ。」

 一つの村から入学させる子は、二人、多く三人と見込んでいます。
 私の馬車は大人六人が余裕で乗れる大型の馬車ですので、十分乗せられるはずです。

「そうだね、シューネ湖の対岸だからね、片道十マイルといったところかい。
 早く行かんと、往復だけで日が暮れちゃうね。」

 アガサさんの言葉にドロシーさんが目を丸くします。

「えっ、片道十マイル?
 その距離を、この馬一頭で引くのですか?日帰りで?
 この馬車、通常なら四頭引きのリムジンですよ。
 こんな祭典に使うような美馬が一頭で引くなんて、とても無理のなのでは…。」

 ドロシーさんがヴァイスを指差して言います。
 通常、馬の休憩だけ取って一日で移動できる距離は三十マイル程と言われています。
 それも、馬車の大きさに見合った頭数の馬で引いてです。

 十マイル離れたところで仕事をして、日帰りで帰って来る事は難しい思うのももっともです。
 しかも、馬車を引くのはヴァイス一頭ですから、尚更です。

「ヴァイスはとっても優秀な馬ですから、このくらいの馬車を引くのは楽勝ですよ。
 さあ、早く乗ってください。」

 私に促されて、ドロシーさんは釈然としない様子で馬車に乗り込みました。

 三人が乗った馬車は、走り始めて間もなくフワッとした浮遊感を伴い宙に舞い上がります。

「えっ?」

 突然、浮遊感を感じて戸惑いの声をもらすドロシーさん。
 慌てて車窓に寄って外を眺めます。

「えええぇ!この馬車、飛んでますよ!
 ほら、シューネ湖が眼下に見える。
 これも、アルムハイム伯の魔法なのですか?」

 片道十マイル、別に空を飛ばなくてもヴァイスなら一時間ほどで到着します。
 ですが、なにせ田舎道で路面の状況は良くないです。
 そこを時速十マイルで走ろうものなら、確実に馬車酔いしてしまいます。

 ドロシーさんにはこれから色々と協力してもらう事になるでしょうから、早々に秘密を明かすことにしたのです。

「残念ながら私の魔法ではありませんね。
 この馬車を引いている馬、実は馬ではなく風の精霊ですの。
 空の旅は初めてでしょう、十分堪能してくださいね。」

 私の言葉を聞いたドロシーさんは、車窓に張り付くようにしてヴァイスの方を見ています。

「へえぇ、風の精霊ですか、色々な精霊がいるのですね。 
 三十年間に培ってきた常識がことごとく覆されそうです…。
 って、あれ、ペガサスじゃないですか!羽がありますよ!
 有翼の白馬、なんて神々しい…。」

 ヴァイスの姿を目にしたドロシーさんは驚嘆の声を上げた後、言葉を失ってしまいました。
 どうやら感動に浸っている様子です。

 そして、十五分後、私達は目的の村のすぐ近く、人目に付かない場所に着地しました。
 ヴァイスの速さもさることながら、シューネ湖の上をショートカットしたのでとても早く着いたのです。

「領館を出てからまだ十五分しか立っていませんよ。
 もう、目的の村ですか?」

 懐から取り出した古めかしい懐中時計を確認しながらドロシーさんが言います。

「ええ、湖の上をまっすぐ突っ切ることで大分距離も短くなりましたので。
 ここからは、普通の馬車の速度で走ります。
 余り早く走ると揺れで気分が悪くなりますからね。」

「アルムハイム伯には驚かされてばかりですね。
 アルビオンから一瞬でアルム山麓まで移動した時も驚嘆しましたが…。
 まさか、ペガサスまで飼っているとは思いもよりませんでした。
 でも、空を飛ぶなんて、なんて素敵な経験ができたのでしょう。
 こんなに、ワクワクしたのは子供の時以来ですわ。」

 喜んでもらえたようで良かったです。
 ヴァイスは飼っている訳ではありませんが、細かい事は良いでしょう。 

 ゆっくり馬車を走らせること五分ほど、私達は目的の村に着きました。

     ********

 お読み頂き有り難うございます。
 本日20時に、『精霊の森に捨てられた少女が、精霊さんと一緒に人の街へ帰ってきた』の追補を投稿しました。
 以前頂戴した感想への返信の中で書くことを予告していた、お騒がせ少女ルーナのその後の話です。
 中々書く時間が取れずに今になってしまいました。ごめんなさい。
 蛇足のようになりましたが、これが最後の話になります。 
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