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第11章 実りの季節に
第252話 相応の服装は必要みたいです
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*申し訳ございません。明日投稿する予定の話を予約登録のミスで本日投稿してしました。
同時にもう1話投稿されていますので、お読みでない方は1話戻ってお読みください。
********
セルベチアとの戦争の後始末が一段落した時には、夏は過ぎ去り秋もすっかり深まっていました。
戦後処理を話し合う会議も無事終わり、シャルちゃん姉弟もセルベチアに帰っていきました。
アルムハイムの館も、元のアリィシャちゃんと二人きりに戻り、少し寂しい感じです。
「二人きりなんて失礼です、私の事をお忘れですか。
私は、いつまでも姫様のお側で仕えさせて頂きますよ。」
そうでした、皇宮侍女のベルタさん、彼女はシャルちゃん達姉弟のお世話のためにここに来たはずですが。
何故か、シャルちゃん達がセルベチアに帰った後も、帝都には戻らずにこの館に居付いてしまったのです。
「居付いたなどと人聞きの悪い、私は姫様を心配した皇帝陛下からの命でお世話させて頂くのですよ。」
などと、ベルタさんは言っていますが…。
実際には、皇宮へ戻るように言われたにもかかわらず、ここに残るとごねておじいさまから許可をもぎ取ったのです。
ま、そんな訳で、アルムハイムに静かな時間が戻って来ました。
********
その日、アルビオン海軍に納品する時計を受け取りに工房へ行くと。
「シャルロッテ様、お待ちしていました!」
本当に待ちわびていたような声で、迎えてくれたのは機械工房を任せているオークレフトさん。
人付き合いが苦手で、どちらかと言えばいつももの憂げな雰囲気の人なのですが…。
こんな風にテンションが高いときはロクな事がありません。
何か、私の魔法の力をアテにしている時のリアクションなのです。
「ごきげんよう、オークレフトさん。
先に言っておきますが、私はここのオーナーであって、運送屋ではありませんからね。
余り私の力を頼りにされても困りますよ、いつもいるとは限らないのですから。」
私は、何かを頼まれる前に、予め釘を刺しておくことにします。
それでも、めげずにああだこうだと理屈をつけて、私の魔法や精霊達を頼ろうとするのですけどね。
「シューネフルトの町に街灯を設置してほぼ半年が経ちました。
この間こまめに点検してきましたが故障らしい故障はありません。
これなら帝都への街灯設置、やれるのではないかと思いまして。
シャルロッテ様に下見に連れて行ってもらおうかと考えていたんです。」
私が留守にしていた間も、この方は頻繁にシューネフルトを訪れて自ら街灯のチェックを行っていたそうです。
出不精な雰囲気なのですが、こういったところ意外とアクティブなのですよね。
「順調なようで何よりです。
おじいさまが聞かれたらお喜びになりますよ。
そう言う事であれば、協力しましょう。
また、ヴァイスの引く馬車で行くこととしましょうか。」
帝都までは約四百マイル、結構な距離がありますが転移を使うと、帝都へ着いてからの移動が面倒です。
この方の事ですから、色々と動き回るに違いありませんから。
私がそう告げると、オークレフトさんには好都合だったようです。
「それは有り難いです。
ここから帝都に向かう途中に、アルム山脈の東端にあたる丘陵地帯があるんです。
出来れば、その上空を飛んでもらえれば有り難いです。
何処か、発電所を建てるのに都合の良い川があれば当たりを付けられますので。」
ああ、以前リーナの領地をくまなく回って、今の工房の場所を選定した時と同じですね。
「分かりました、ヴァイスにはそう飛ぶように指示します。」
こうして、私は帝都から返ってまたすぐに帝都へ向かう事となりました。
********
そして、数日後。
「うま~!今日は東に向かうよ~!
いい~、前みたいに反対方向へ飛ぶなんてボケかまさないでよ~!」
もはや、定位置となったヴァイスの背中で風の精霊ブリーゼちゃんが指示を飛ばします。
あらかじめブリーゼちゃんと帝都までの経路の打ち合わせをしてあるので安心です。
彼女のお気軽な声を聞いていると、そこはかとなく不安になりますが…。
ブリーゼちゃんはあちこち飛び回っていることもあり、周辺の地理に熟知しています。
しかも、人が作った地図も読めるので、安心して任せられるのです。
「小さき同胞よ、やかましいぞ。
分かっているから、背中で騒ぐんではない。
南に向かえば良いのであろう。」
「ちが~う!それ、ボケてるの~?
本気で言っているなら怒るよ~!
い~い!東だからね~、ひ・が・し。」
本当に任せて大丈夫ですよね…。
「帝都って遠いんでしょう。
ヴァイスに乗って遠くまで行くのって久しぶりだね。
アルビオンでアガサおばあちゃんの家に行った時以来だ。」
今回はアリィシャちゃんも連れて行きます。
シャルちゃん達がいなくなった館に一人留守番は可哀想です。
それに、オークレフトさん一人を馬車に乗せるとヴァイスが嫌な顔をするのです。
私が歳の近い男性と馬車と言う密室で二人きりなのが嫌なようで、以前は乗車拒否をしようとしました。
「私は連れて行ってくれないのですか?」
ベルタさんが一緒に行きたそうでしたが、「そのまま、帝都に帰りますか?」と言ったら引き下がりました。
「私は、アインちゃんと食事の支度でもして待っていますね。」
ですって。
ということで、帝都へ向かって出発です。
********
さて、帝都までは約四百マイル、春先に行った教皇庁と同じような距離です。
あの時は、数時間で着いたのですが…。
「シャルロッテ様、あの川の辺りで一旦降りるように風の精霊さんに頼んでもらえますか。」
窓から外を眺めていたオークレフトさんが眼下を指差して言います。
こんな感じで、発電所を造るのによさげな場所を見つけると着地して停車するように言い。
しかも、例によって画家顔負けの腕前で川の様子をデッサンします。
そこに、川の水量や流れの速さ、それに川岸の様子などを細かく書き込むものですから、結構時間が掛かります。
帝都に辿り着いた時にはもう日が暮れかかっていました。
帝都近郊、人目の付かない場所に着地して、オークレフトさんを御者台に座らせます。
「今日はもう遅いから、皇宮に泊まらせて頂きましょう。
私の部屋はありますし、オークレフトさんのために部屋を用意してもらいましょう。
アリィシャちゃん、今日の晩御飯はご馳走ですよ。」
「ごちそう!わーい、たのしみー!」
私が泊まるといつも賓客用の食事を用意してくださるので、きっと今日もそうなるでしょう。
無邪気に喜ぶアリィシャちゃんを微笑ましく思いながら、私達は皇宮を目指したのです。
そして、馬車を走らせること小一時間、すっかり陽が沈み、辺りが薄暗くなった頃、やっと帝都に辿り着きました。
「わあ、帝都だ…。
久しぶりだな、アルビオンの王都に負けないくらい賑やかだよね。」
アリィシャちゃんは以前流浪の民の一座で王都に立ち寄ったことがあるそうです。
本当にこの子は記憶力が良いですね。
「ここが帝都ですか。
大きな町ですが、アルビオンの王都に比べて清潔な街ですね。
臭くもないし、煙くもないのが、好感が持てます。」
アルビオンの王都の不潔さに嫌気が差して脱出して来たオークレフトさんがそんな感想をもらしました。
「ええ、おじいさまの話では、アルビオンの王都ほどは人口が密集していないからとのことです。
これから人口が増えるとどうなるか分からないので、前もって都市機能の充実を図りたいそうです。
オークレフトさんにちらっといった、帝都の改造計画はそのためのモノです。」
などと話をしている間に、馬車は皇宮の敷地に入りました。
「なあに、これ…。
アルムハイムのお屋敷の何倍もある…。
ねえ、ロッテお姉ちゃん、こんな宮殿に私のような平民が入り込んで良いの?
捕まらない?」
壮大な皇宮を目にしたアリィシャちゃんは、驚きと共に怯えを感じた様子です。
「捕まりはしないだろうけど、その子の言う通り僕も場違いですね。
こんな作業着みたいな服装で立ち寄っても良いものでしょうか?」
普段は身なりなど気にしないオークレフトさんも流石に気後れしたようです。
「二人共そんなに気にしないで大丈夫ですよ。
この皇宮の主は私のおじいさまですから。
アリィシャちゃんだって遊んでもらったでしょう。
アリィシャちゃんを可愛いと言って優しくしてくれたあのおじいちゃんですよ。」
「えっ、ロッテお姉ちゃんのおじいちゃんって、この宮殿に住んでいるの。
そんなに偉い人だったんだ、あのおじいちゃん。」
そう言えば、アリィシャちゃんにはおじいさまが皇帝だと教えてなかったかもしれません。
おじいさまも、自分では皇帝だと言ってませんでしたものね。
********
さて、皇宮この中に入ると、何時ものように顔パスと言う訳には参りませんでした。
いつもは帝室の居住区画にある私の部屋に直接転移で行くので気にしてもいなかったのですが。
実は、あの区画に立ち入るのはそう簡単ではないようです。
正面入り口に控えていた人に、身分を明かし自分の部屋に行きたいと告げると…。
オークレフトさんを見て露骨に怪訝な顔をしました。
そして、確認を取るので、控え室で待つように言われたのです。
アリィシャちゃんには私の幼い頃のおさがりを着せています。
おさがりと言ってもそう何度も袖を通していない外出着で、いかにも貴族のお嬢ちゃんといった服装です。
ですが、自分でも言っていたように、オークレフトさんはどう見ても作業着姿の平民なのです。
ある意味警戒されるのも当然かもしれません。
「ロッテや、良くぞ参った。
今日は正面入り口にやって来たと聞いて、慌ててしまったわい。
使いの者から、貧相な男を伴っていて通して良いものか判断が付かないと言われてな。」
少し待っているとバタバタと速足で歩く音がして、おじいさまが控え室の扉を開けました。
居住区域から結構な距離があるため、やや息を切らしています。
「おじいさま、突然、訪ねて来て申し訳ございません。
そんな息を切らすほど、急いで来られなくて良かったですのに。」
「何を言う、せっかくロッテが訪ねて来てくれたのに待たせる訳には参らんじゃろう。
すぐに部屋まで案内しないで悪いことをしたな。
ここから居住区域に入るのは何かと難儀でな、次にここから来ることがあればすぐに通すように伝えておく。
会議が終ってしばらく会えないと思っていたので、来てくれて嬉しいぞ。」
おじいさまは、貧相な男と聞いてすぐにオークレフトさんを思い浮かべたそうです。
うーん…。
まっ、それはともかくおじいさまは喜んで下さった様子ですので良しとしましょう。
同時にもう1話投稿されていますので、お読みでない方は1話戻ってお読みください。
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セルベチアとの戦争の後始末が一段落した時には、夏は過ぎ去り秋もすっかり深まっていました。
戦後処理を話し合う会議も無事終わり、シャルちゃん姉弟もセルベチアに帰っていきました。
アルムハイムの館も、元のアリィシャちゃんと二人きりに戻り、少し寂しい感じです。
「二人きりなんて失礼です、私の事をお忘れですか。
私は、いつまでも姫様のお側で仕えさせて頂きますよ。」
そうでした、皇宮侍女のベルタさん、彼女はシャルちゃん達姉弟のお世話のためにここに来たはずですが。
何故か、シャルちゃん達がセルベチアに帰った後も、帝都には戻らずにこの館に居付いてしまったのです。
「居付いたなどと人聞きの悪い、私は姫様を心配した皇帝陛下からの命でお世話させて頂くのですよ。」
などと、ベルタさんは言っていますが…。
実際には、皇宮へ戻るように言われたにもかかわらず、ここに残るとごねておじいさまから許可をもぎ取ったのです。
ま、そんな訳で、アルムハイムに静かな時間が戻って来ました。
********
その日、アルビオン海軍に納品する時計を受け取りに工房へ行くと。
「シャルロッテ様、お待ちしていました!」
本当に待ちわびていたような声で、迎えてくれたのは機械工房を任せているオークレフトさん。
人付き合いが苦手で、どちらかと言えばいつももの憂げな雰囲気の人なのですが…。
こんな風にテンションが高いときはロクな事がありません。
何か、私の魔法の力をアテにしている時のリアクションなのです。
「ごきげんよう、オークレフトさん。
先に言っておきますが、私はここのオーナーであって、運送屋ではありませんからね。
余り私の力を頼りにされても困りますよ、いつもいるとは限らないのですから。」
私は、何かを頼まれる前に、予め釘を刺しておくことにします。
それでも、めげずにああだこうだと理屈をつけて、私の魔法や精霊達を頼ろうとするのですけどね。
「シューネフルトの町に街灯を設置してほぼ半年が経ちました。
この間こまめに点検してきましたが故障らしい故障はありません。
これなら帝都への街灯設置、やれるのではないかと思いまして。
シャルロッテ様に下見に連れて行ってもらおうかと考えていたんです。」
私が留守にしていた間も、この方は頻繁にシューネフルトを訪れて自ら街灯のチェックを行っていたそうです。
出不精な雰囲気なのですが、こういったところ意外とアクティブなのですよね。
「順調なようで何よりです。
おじいさまが聞かれたらお喜びになりますよ。
そう言う事であれば、協力しましょう。
また、ヴァイスの引く馬車で行くこととしましょうか。」
帝都までは約四百マイル、結構な距離がありますが転移を使うと、帝都へ着いてからの移動が面倒です。
この方の事ですから、色々と動き回るに違いありませんから。
私がそう告げると、オークレフトさんには好都合だったようです。
「それは有り難いです。
ここから帝都に向かう途中に、アルム山脈の東端にあたる丘陵地帯があるんです。
出来れば、その上空を飛んでもらえれば有り難いです。
何処か、発電所を建てるのに都合の良い川があれば当たりを付けられますので。」
ああ、以前リーナの領地をくまなく回って、今の工房の場所を選定した時と同じですね。
「分かりました、ヴァイスにはそう飛ぶように指示します。」
こうして、私は帝都から返ってまたすぐに帝都へ向かう事となりました。
********
そして、数日後。
「うま~!今日は東に向かうよ~!
いい~、前みたいに反対方向へ飛ぶなんてボケかまさないでよ~!」
もはや、定位置となったヴァイスの背中で風の精霊ブリーゼちゃんが指示を飛ばします。
あらかじめブリーゼちゃんと帝都までの経路の打ち合わせをしてあるので安心です。
彼女のお気軽な声を聞いていると、そこはかとなく不安になりますが…。
ブリーゼちゃんはあちこち飛び回っていることもあり、周辺の地理に熟知しています。
しかも、人が作った地図も読めるので、安心して任せられるのです。
「小さき同胞よ、やかましいぞ。
分かっているから、背中で騒ぐんではない。
南に向かえば良いのであろう。」
「ちが~う!それ、ボケてるの~?
本気で言っているなら怒るよ~!
い~い!東だからね~、ひ・が・し。」
本当に任せて大丈夫ですよね…。
「帝都って遠いんでしょう。
ヴァイスに乗って遠くまで行くのって久しぶりだね。
アルビオンでアガサおばあちゃんの家に行った時以来だ。」
今回はアリィシャちゃんも連れて行きます。
シャルちゃん達がいなくなった館に一人留守番は可哀想です。
それに、オークレフトさん一人を馬車に乗せるとヴァイスが嫌な顔をするのです。
私が歳の近い男性と馬車と言う密室で二人きりなのが嫌なようで、以前は乗車拒否をしようとしました。
「私は連れて行ってくれないのですか?」
ベルタさんが一緒に行きたそうでしたが、「そのまま、帝都に帰りますか?」と言ったら引き下がりました。
「私は、アインちゃんと食事の支度でもして待っていますね。」
ですって。
ということで、帝都へ向かって出発です。
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さて、帝都までは約四百マイル、春先に行った教皇庁と同じような距離です。
あの時は、数時間で着いたのですが…。
「シャルロッテ様、あの川の辺りで一旦降りるように風の精霊さんに頼んでもらえますか。」
窓から外を眺めていたオークレフトさんが眼下を指差して言います。
こんな感じで、発電所を造るのによさげな場所を見つけると着地して停車するように言い。
しかも、例によって画家顔負けの腕前で川の様子をデッサンします。
そこに、川の水量や流れの速さ、それに川岸の様子などを細かく書き込むものですから、結構時間が掛かります。
帝都に辿り着いた時にはもう日が暮れかかっていました。
帝都近郊、人目の付かない場所に着地して、オークレフトさんを御者台に座らせます。
「今日はもう遅いから、皇宮に泊まらせて頂きましょう。
私の部屋はありますし、オークレフトさんのために部屋を用意してもらいましょう。
アリィシャちゃん、今日の晩御飯はご馳走ですよ。」
「ごちそう!わーい、たのしみー!」
私が泊まるといつも賓客用の食事を用意してくださるので、きっと今日もそうなるでしょう。
無邪気に喜ぶアリィシャちゃんを微笑ましく思いながら、私達は皇宮を目指したのです。
そして、馬車を走らせること小一時間、すっかり陽が沈み、辺りが薄暗くなった頃、やっと帝都に辿り着きました。
「わあ、帝都だ…。
久しぶりだな、アルビオンの王都に負けないくらい賑やかだよね。」
アリィシャちゃんは以前流浪の民の一座で王都に立ち寄ったことがあるそうです。
本当にこの子は記憶力が良いですね。
「ここが帝都ですか。
大きな町ですが、アルビオンの王都に比べて清潔な街ですね。
臭くもないし、煙くもないのが、好感が持てます。」
アルビオンの王都の不潔さに嫌気が差して脱出して来たオークレフトさんがそんな感想をもらしました。
「ええ、おじいさまの話では、アルビオンの王都ほどは人口が密集していないからとのことです。
これから人口が増えるとどうなるか分からないので、前もって都市機能の充実を図りたいそうです。
オークレフトさんにちらっといった、帝都の改造計画はそのためのモノです。」
などと話をしている間に、馬車は皇宮の敷地に入りました。
「なあに、これ…。
アルムハイムのお屋敷の何倍もある…。
ねえ、ロッテお姉ちゃん、こんな宮殿に私のような平民が入り込んで良いの?
捕まらない?」
壮大な皇宮を目にしたアリィシャちゃんは、驚きと共に怯えを感じた様子です。
「捕まりはしないだろうけど、その子の言う通り僕も場違いですね。
こんな作業着みたいな服装で立ち寄っても良いものでしょうか?」
普段は身なりなど気にしないオークレフトさんも流石に気後れしたようです。
「二人共そんなに気にしないで大丈夫ですよ。
この皇宮の主は私のおじいさまですから。
アリィシャちゃんだって遊んでもらったでしょう。
アリィシャちゃんを可愛いと言って優しくしてくれたあのおじいちゃんですよ。」
「えっ、ロッテお姉ちゃんのおじいちゃんって、この宮殿に住んでいるの。
そんなに偉い人だったんだ、あのおじいちゃん。」
そう言えば、アリィシャちゃんにはおじいさまが皇帝だと教えてなかったかもしれません。
おじいさまも、自分では皇帝だと言ってませんでしたものね。
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さて、皇宮この中に入ると、何時ものように顔パスと言う訳には参りませんでした。
いつもは帝室の居住区画にある私の部屋に直接転移で行くので気にしてもいなかったのですが。
実は、あの区画に立ち入るのはそう簡単ではないようです。
正面入り口に控えていた人に、身分を明かし自分の部屋に行きたいと告げると…。
オークレフトさんを見て露骨に怪訝な顔をしました。
そして、確認を取るので、控え室で待つように言われたのです。
アリィシャちゃんには私の幼い頃のおさがりを着せています。
おさがりと言ってもそう何度も袖を通していない外出着で、いかにも貴族のお嬢ちゃんといった服装です。
ですが、自分でも言っていたように、オークレフトさんはどう見ても作業着姿の平民なのです。
ある意味警戒されるのも当然かもしれません。
「ロッテや、良くぞ参った。
今日は正面入り口にやって来たと聞いて、慌ててしまったわい。
使いの者から、貧相な男を伴っていて通して良いものか判断が付かないと言われてな。」
少し待っているとバタバタと速足で歩く音がして、おじいさまが控え室の扉を開けました。
居住区域から結構な距離があるため、やや息を切らしています。
「おじいさま、突然、訪ねて来て申し訳ございません。
そんな息を切らすほど、急いで来られなくて良かったですのに。」
「何を言う、せっかくロッテが訪ねて来てくれたのに待たせる訳には参らんじゃろう。
すぐに部屋まで案内しないで悪いことをしたな。
ここから居住区域に入るのは何かと難儀でな、次にここから来ることがあればすぐに通すように伝えておく。
会議が終ってしばらく会えないと思っていたので、来てくれて嬉しいぞ。」
おじいさまは、貧相な男と聞いてすぐにオークレフトさんを思い浮かべたそうです。
うーん…。
まっ、それはともかくおじいさまは喜んで下さった様子ですので良しとしましょう。
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