上 下
223 / 580
第10章 動き出す時間

第221話 少しアバウトな方が良いようです

しおりを挟む
「うん?おいらがどうかしたか?」

 みんなの注目を集めていることに気付いた大地の精霊セピアちゃんは、そう言ってキョトンとしています。

「ねえ、シアンちゃん。
 セピアちゃんにお願いしても良いと思う?」

 リーナが肩の上に乗る水の精霊シアンちゃんの意見を聞くと…。

「よろしいのではなくて。
 私、最近、あの子の食べている姿しか見ておりませんわ。
 このままだと、あの子、本当に無駄飯食いですもの。
 少しは役に立っていただきましょう。」

 無駄飯食いって…。
 シアンちゃんって、けっこう辛辣な事を言うのですね…。

「そんな酷いことを言わなくても…。
 私は、シアンちゃん達が傍にいてくれるだけで嬉しいの。
 別に、何かを要求するつもりはないのですよ。」

「いいえ、リーナ。
 私達だって、人形ではないのですから。
 たまには役立ちませんと。
 私達にだってアイデンティティというモノがありますわ。」

「そう、じゃあ、お願いしてみようかしら。」

「ええ、それが良いと思いますわ。」

 どうやら、話はまとまったようです。
 特に話し掛けられることが無かったため、セピアちゃんは再びお菓子に齧りついています。
 本当にこの子、片時も食べるのを止めませんね。
 そんなセピアちゃんに向かってリーナが遠慮がちに話し掛けます。

「セピアちゃん、少し良いかしら?」

「うん、なぁに?」

 セピアちゃんは口の周りを食べかすだらけにして、お菓子から顔を上げました。

「少しお願いしたいことがあるのだけど、良いかな?
 ちょっと、穴掘りをお願いしたいのだけど…。」

「穴掘り?
 それなら、おいら、大得意だ!
 そんなに遠慮する必要ないよ。
 最近、力を使ってないから、有り余ってるんだ。
 このままじゃ、おいらのきゅーとな体形がまんまるになるところだった。
 ちょうど良い、腹ごなしになる!」

 それ、ジョークですよね?
 精霊が甘いもので太るなんて聞いたことないのですが…。
 マジなら、最近みんなに餌付けされているうちの子達にも注意しないといけません。

     **********

 セピアちゃんの協力が得られたので、オークレフトさんがやって欲しいことの説明を始めました。

「まあ、端的に言うとシューネフルトの地下に地下道を張り巡らせて欲しいんです。
 この地図で説明すると…。」

 オークレフトさんは、地図に書き込んだ赤線をなぞるように、地下道の経路と地下道の大きさなどを説明していきます。
 説明が進むに従い、セピアちゃんの表情が曇り、…。

「無理!こんなの出来る訳がない!」

 と説明の途中で匙を投げたのです。

「へっ?」

 オークレフトさんは思わずという感じで、セピアちゃんに問い返しました。
 オークレフトさんは、ノミーちゃんが地下道を掘る様子を見ています。
 工房からシューネフルトまであっという間に掘るのですから、無茶を言ったつもりは無かったようです。
 それを、無理だと言われて、戸惑っている様子でした。

 すると、…。

 説明が中断しているところに、植物の精霊ドリーちゃんがポンと現れました。
 そして、やおらオークレフトさんにお説教を始めます。
 
「もう、あんたはまだわかってない、前にも言ったでしょう。
 そんな細かい指示をしても、私達精霊には理解できないって。
 ヤードやらインチやらと人間の尺度で言われても困るの。
 だいたい、地図を見せてこの下を掘れなんてどんな無茶振りよ。
 地中にいて、そんなの分かる訳ないじゃない。
 そもそも、私達精霊に地図を読めって言うのが無理なのよ。
 ブリーゼちゃん、いるんでしょう、ちょっと出てきて。」

 ああ、以前、ドリーちゃんに建物を建ててもらう時にそんなことを言ってましたね。
 人間が勝手に決めた尺度で指示されても精霊には理解できないって。

 どうやら、ドリーちゃんは、セピアちゃんが何が出来ないのかを説明に現れてくれたようです。

「な~に?なんか面白いことでもあるの~?」

「この男が、地図に書き込んだ赤線の位置に地下道を通したいんだって。
 あんた、地図が読めたわよね、それに空間の位置把握は得意でしょう。
 この子が穴を掘るから、誘導してもらえないかな。」

「うん?その地図は正確なの~?
 それが正しくて、どこから始めるか分かってれば、そんなの簡単だよ~。」

 更に、ドリーちゃんは、地図を読むのが得意な風の精霊ブリーゼちゃんを呼びました。
 ブリーゼちゃんに、セピアちゃんが地下道を掘る際の誘導を頼みたいようです。

 その後、ドリーちゃんは、オークレフトさんの希望に修正を加えて説明していきます。
 地下道の天井の高さは、オークレフトさんが立った頭の上にブリーゼちゃんが乗ってまだ余裕がある高さだとか。
 地下道の幅は、オークレフトさんが両手を広げても余裕がある幅にして欲しいとか。
 地上には重い建物が建っているので、天井が重さで崩れない様に頑丈にして欲しいとか。
 とにかく、セピアちゃんに分かるようにするのが大事な事のようです。

 ドリーちゃんの説明が終わると…。

「なんだ、そんな簡単な事だったんだ。
 おいら、高さ二ヤード半とか、十ヤード進んで右へ曲がれとか言われて困ったよ。
 何が何だか、さっぱりわからなくて。
 そっちの、風の精霊が誘導してくれるなら、それに従って掘れば良いんだよね。
 だったら、簡単だ。穴を掘るだけなら大得意だよ。」

 どうやら、セピアちゃんはこちらのお願いを理解してくれたようです。
 セピアちゃんが簡単だと言うのですから、安心して任せて良いでしょう。

 精霊達の仕事は寸法こそアバウトですが、仕上がりはきっちりしていますので。

 その後、リーナとオークレフトさんの間で計画の詳細を詰めていきました。
 こうして、私の工房は街灯設置の受注第一号を獲得したのです。

     ********** 

「うん?
 話は、それでお終い?
 じゃあ、また何かあったら言ってね。」

 説明が終わったとみるや、セピアちゃんは再び抱えたお菓子に齧り付きました。
 本当に、片時も食べるのを止めようとしないのですね…。

 リーナの肩の上で大人しく座っているシアンちゃんが、呆れていたのは言うまでもないです。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?

アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。 泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。 16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。 マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。 あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に… もう…我慢しなくても良いですよね? この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。 前作の登場人物達も多数登場する予定です。 マーテルリアのイラストを変更致しました。

【完結】6歳の王子は無自覚に兄を断罪する

土広真丘
ファンタジー
ノーザッツ王国の末の王子アーサーにはある悩みがあった。 異母兄のゴードン王子が婚約者にひどい対応をしているのだ。 その婚約者は、アーサーにも優しいマリーお姉様だった。 心を痛めながら、アーサーは「作文」を書く。 ※全2話。R15は念のため。ふんわりした世界観です。 前半はひらがなばかりで、読みにくいかもしれません。 主人公の年齢的に恋愛ではないかなと思ってファンタジーにしました。 小説家になろうに投稿したものを加筆修正しました。

「あなたのことはもう忘れることにします。 探さないでください」〜 お飾りの妻だなんてまっぴらごめんです!

友坂 悠
恋愛
あなたのことはもう忘れることにします。 探さないでください。 そう置き手紙を残して妻セリーヌは姿を消した。 政略結婚で結ばれた公爵令嬢セリーヌと、公爵であるパトリック。 しかし婚姻の初夜で語られたのは「私は君を愛することができない」という夫パトリックの言葉。 それでも、いつかは穏やかな夫婦になれるとそう信じてきたのに。 よりにもよって妹マリアンネとの浮気現場を目撃してしまったセリーヌは。 泣き崩れ寝て転生前の記憶を夢に見た拍子に自分が生前日本人であったという意識が蘇り。 もう何もかも捨てて家出をする決意をするのです。 全てを捨てて家を出て、まったり自由に生きようと頑張るセリーヌ。 そんな彼女が新しい恋を見つけて幸せになるまでの物語。

【完結】言いたいことがあるなら言ってみろ、と言われたので遠慮なく言ってみた

杜野秋人
ファンタジー
社交シーズン最後の大晩餐会と舞踏会。そのさなか、第三王子が突然、婚約者である伯爵家令嬢に婚約破棄を突き付けた。 なんでも、伯爵家令嬢が婚約者の地位を笠に着て、第三王子の寵愛する子爵家令嬢を虐めていたというのだ。 婚約者は否定するも、他にも次々と証言や証人が出てきて黙り込み俯いてしまう。 勝ち誇った王子は、最後にこう宣言した。 「そなたにも言い分はあろう。私は寛大だから弁明の機会をくれてやる。言いたいことがあるなら言ってみろ」 その一言が、自らの破滅を呼ぶことになるなど、この時彼はまだ気付いていなかった⸺! ◆例によって設定ナシの即興作品です。なので主人公の伯爵家令嬢以外に固有名詞はありません。頭カラッポにしてゆるっとお楽しみ下さい。 婚約破棄ものですが恋愛はありません。もちろん元サヤもナシです。 ◆全6話、約15000字程度でサラッと読めます。1日1話ずつ更新。 ◆この物語はアルファポリスのほか、小説家になろうでも公開します。 ◆9/29、HOTランキング入り!お読み頂きありがとうございます! 10/1、HOTランキング最高6位、人気ランキング11位、ファンタジーランキング1位!24h.pt瞬間最大11万4000pt!いずれも自己ベスト!ありがとうございます!

晴れて国外追放にされたので魅了を解除してあげてから出て行きました [完]

ラララキヲ
ファンタジー
卒業式にて婚約者の王子に婚約破棄され義妹を殺そうとしたとして国外追放にされた公爵令嬢のリネットは一人残された国境にて微笑む。 「さようなら、私が産まれた国。  私を自由にしてくれたお礼に『魅了』が今後この国には効かないようにしてあげるね」 リネットが居なくなった国でリネットを追い出した者たちは国王の前に頭を垂れる── ◇婚約破棄の“後”の話です。 ◇転生チート。 ◇ふんわり世界観。ゆるふわ設定。 ◇なろうにも上げてます。 ◇人によっては最後「胸糞」らしいです。ごめんね;^^ ◇なので感想欄閉じます(笑)

冷遇妻に家を売り払われていた男の裁判

七辻ゆゆ
ファンタジー
婚姻後すぐに妻を放置した男が二年ぶりに帰ると、家はなくなっていた。 「では開廷いたします」 家には10億の価値があったと主張し、妻に離縁と損害賠償を求める男。妻の口からは二年の事実が語られていく。

婚約破棄されたら魔法が解けました

かな
恋愛
「クロエ・ベネット。お前との婚約は破棄する。」 それは学園の卒業パーティーでの出来事だった。……やっぱり、ダメだったんだ。周りがザワザワと騒ぎ出す中、ただ1人『クロエ・ベネット』だけは冷静に事実を受け止めていた。乙女ゲームの世界に転生してから10年。国外追放を回避する為に、そして后妃となる為に努力し続けて来たその時間が無駄になった瞬間だった。そんな彼女に追い打ちをかけるかのように、王太子であるエドワード・ホワイトは聖女を新たな婚約者とすることを発表した。その後はトントン拍子にことが運び、冤罪をかけられ、ゲームのシナリオ通り国外追放になった。そして、魔物に襲われて死ぬ。……そんな運命を辿るはずだった。 「こんなことなら、転生なんてしたくなかった。元の世界に戻りたい……」 あろうことか、最後の願いとしてそう思った瞬間に、全身が光り出したのだ。そして気がつくと、なんと前世の姿に戻っていた!しかもそれを第二王子であるアルベルトに見られていて……。 「……まさかこんなことになるなんてね。……それでどうする?あの2人復讐でもしちゃう?今の君なら、それができるよ。」 死を覚悟した絶望から転生特典を得た主人公の大逆転溺愛ラブストーリー! ※最初の5話は毎日18時に投稿、それ以降は毎週土曜日の18時に投稿する予定です

天使な息子にこの命捧げます

古里@3巻電子書籍化『王子に婚約破棄され
ファンタジー
HOTランキング第6位獲得作品 ジャンヌは愛する夫に急死されて、生まれて間もない息子と二人で残されてしまった。夫の死を悲しむ間もな無く、伯母達に日々虐められるが、腕の中の天使な息子のお陰でなんとか耐えられている。その上侯爵家を巡る跡継ぎ争いに巻き込まれてしまう。商人の後妻にされそうになったり、伯母たちの手にかかりそうになるジャンヌ。それをなんとか切り抜けて、0歳の息子を果たして侯爵家の跡継ぎに出来るのか? 見た目はおしとやかな淑女というか未亡人妻。でも実際は…… その顔を見た途端、顔を引きつらせる者もちらほらいて…… 結果は読んでのお楽しみです。ぜひともお楽しみ下さい。

処理中です...