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第9章 雪解け
第205話 リーナのお母さんに会いました
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それは、ハーブ畑をすっぽりと覆っていた雪もすっかり解けた三月下旬の事でした。
この季節になると街道の雪も解け、孤立していたアルム山麓の町や村も人の往来が再開します。
そんなある日、リーナが私のもとを訪ねてきました。
「アルトブルクへ行く?リーナの国の王都ですか?」
「ええ、昨日お父様の使者がやって来たのです。
携えてきた書簡に、王都へ来るようにとありました。
例の子供や婦人に関する就労制限の法について説明して欲しいとの事です。」
昨年、アルビオン王国を訪ねた私達は、そこで目にしました。
十歳にも満たない子供が工場で働いている姿や一日十二時間も働く人達の姿を。
リーナの目にはそれが健全な姿ではないと映ったのです。
帰国後、リーナは小さな子供の雇用や長時間労働を制限する法案を作成して、宮廷へ提出しました。
昨秋、リーナの父親である国王から、法案の説明に来るようにと呼ばれたそうです。
その時は雪の季節が間近に迫っていたことから、今春に延ばしてもらっていたのです。
「法案の説明というのはおそらく建前です。
お父様からは、私に顔を見せるようにと、以前から頻繁に便りが届いていたのです。
私がこっちに来てから一度も王都へ顔を見せないので、この件をダシに使ったのだと思います。」
ため息交じりにそう言ったリーナは、私に同行を依頼してきたのです。
私の口からアルビオン王国の事情を説明して欲しいそうです。
対外的には、リーナはアルビオン王国へは行ってはいないことになっていますから。
**********
ということで、私はリーナと共にクラーシュバルツ王国の王都アルトブルクにやって来ました。
今は王都の古い街並みを眺めながら、ヴァイスの引く馬車でゆっくりとリーナの母親が住む離宮を目指します。
このアルトブルクという町は面白い造りをしています。
川が大きく蛇行する場所に町が作られていて三方が川に囲まれているのです。
目指す離宮は半島状に川に突き出したどん詰まり、町の一番奥にあるそうです。
町に入ってしばらく馬車を走らせて辿り着いたそこは離宮の名の相応しい堂々たる建物でした。
使用人に出迎えられて離宮の中に足を踏み入れたリーナは、その使用人に尋ねます。
「今帰りました。
母上にご挨拶したいのですが、今どこにいますか。」
「リリ様でしたら、中庭の離れにいらっしゃります。」
リーナのお母さんの名前はリリさんとおっしゃるのですね。
使用人の返答を聞いたリーナは、コの字形をした離宮の中庭を目指して歩みを進めます。
正面ホールを抜けて、中庭に出るとそこには予想もしなかった風景がありました。
宮殿の中庭と言われると通常思い浮かべるのは…。
バラ園とか、噴水とか、四季折々の花壇とか、庭木で作られた迷路などもよく聞きますね。
ところが、目の前に広がったいるのは農村の風景を切り取ったような光景でした。
中庭には、赤いスレート屋根に白い漆喰の塗られた小さな木造の家が建っていました。
アルム山麓の村で良く見る造りの民家です。
その周りには、小さな野菜畑があり、ヤギが一頭放し飼いになっています。
まるで農村の一画に立っているような錯覚を覚えました。
荘厳な離宮に不釣り合いな中庭をスタスタと歩いたリーナは、小さな家の玄関の扉を開けると。
「ただいまー!母さん、いるー?」
大きな声で家の中に呼びかけたのです、まんま村娘のように。
すると、奥から出てきたのは、年の頃は十二、三歳の少女でした。
リーナに妹がいるとは聞いていません、使用人でしょうか。
ところが、この村娘のような格好をした少女。
玄関先に立っているリーナを目にとめると、こう言ったのです。
「あら、お帰り、リーナ。
本当に久しぶりね、二年振りかしら。
帰って来てくれて嬉しいわ。
お母さん、リーナがいなくてとっても寂しかったの。」
お母さん?妹じゃなくて?
**********
「まあ、まあ、リーナがお友達を連れて来るなんて初めてよ。
私は、リーナの母親で、リリと申します。
よろしくお願いしますね、シャルロッテさん。
遊びに来てくれて嬉しいわ。ゆっくりしていってね。」
ここは先程の民家のような建物の居間。
リーナのお母さんがお茶を淹れながら、私を歓迎してくれました。
その口調といい、お茶を淹れる様子といい本当に村娘のようです。
まるで少女のような外見で、リーナの母親だという事も信じられませんが。
何よりも、この雰囲気で王様の愛妾だというのですから驚きです。
国王の愛妾と言うと、贅沢三昧をしているイメージがあるのですが…。
この方、その対極にあるようです。
「こちらこそ、よろしくお願いします。
とても落ち着く部屋ですね、リリさんはいつもこの部屋にいるのですか?」
「そうでしょう。
私は農村育ちなものだから、この部屋にいるとホッとするの。
旦那様がお帰りになる時間には、離宮に戻ってキチンとした格好でお迎えするのだけど。
もう、二十年になるけど、お貴族様のような生活は慣れなくてね。
この家は旦那様に無理を言って作って頂いたのよ。」
リリさんの話では、この離宮は王様の愛妾であるリリさんに与えれたものだそうです。
王様はリリさんの事をことのほか寵愛していて、夜は殆どこの離宮で過ごされるそうです。
朝、王宮へ出かけて、執務が終わるとこの離宮へ帰ってくるのが王様の日課になっているとのこと。
リリさんが愛妾として囲われて以来、ずっとそんな状態だそうです。
王様はリリさんに望むモノは何でも与えると常々言っているとのこと。
ですが、贅沢をしたいと思わないリリさんが物を強請ったことはないそうです。
唯一の例外がこの中庭なのだそうです。
リリさんは、離宮での暮らしに馴染めなくて、王様に召された頃は塞ぎがちだったそうです。
そんなリリさんを心配した王様が言ったとのことです。
『そんなに故郷が恋しいのなら、中庭に故郷の風景を再現してあげようか。』と。
リリさんは、それなら寛ぐことが出来る家も建てて欲しいとお願いしたとのことです。
そうして実現したのがこの中庭であり、この建物なのだそうです。
以来、王様が王宮へ行っている昼間はほとんどこの中庭で過ごしているのですって。
「私も離宮を離れるまで、殆どの時間をここでお母さんと一緒に過ごしたの。
離宮にある私室を使うのは、ローザ先生がいらしている時と寝る時くらいだったわ。
そのせいかしら、我が家のはずなのに離宮にいると落ち着かないの。
お母さんとこの部屋にいる時が一番心が安らぐわ。」
そう言って笑ったリーナも、まるで村娘のように見えました。
この季節になると街道の雪も解け、孤立していたアルム山麓の町や村も人の往来が再開します。
そんなある日、リーナが私のもとを訪ねてきました。
「アルトブルクへ行く?リーナの国の王都ですか?」
「ええ、昨日お父様の使者がやって来たのです。
携えてきた書簡に、王都へ来るようにとありました。
例の子供や婦人に関する就労制限の法について説明して欲しいとの事です。」
昨年、アルビオン王国を訪ねた私達は、そこで目にしました。
十歳にも満たない子供が工場で働いている姿や一日十二時間も働く人達の姿を。
リーナの目にはそれが健全な姿ではないと映ったのです。
帰国後、リーナは小さな子供の雇用や長時間労働を制限する法案を作成して、宮廷へ提出しました。
昨秋、リーナの父親である国王から、法案の説明に来るようにと呼ばれたそうです。
その時は雪の季節が間近に迫っていたことから、今春に延ばしてもらっていたのです。
「法案の説明というのはおそらく建前です。
お父様からは、私に顔を見せるようにと、以前から頻繁に便りが届いていたのです。
私がこっちに来てから一度も王都へ顔を見せないので、この件をダシに使ったのだと思います。」
ため息交じりにそう言ったリーナは、私に同行を依頼してきたのです。
私の口からアルビオン王国の事情を説明して欲しいそうです。
対外的には、リーナはアルビオン王国へは行ってはいないことになっていますから。
**********
ということで、私はリーナと共にクラーシュバルツ王国の王都アルトブルクにやって来ました。
今は王都の古い街並みを眺めながら、ヴァイスの引く馬車でゆっくりとリーナの母親が住む離宮を目指します。
このアルトブルクという町は面白い造りをしています。
川が大きく蛇行する場所に町が作られていて三方が川に囲まれているのです。
目指す離宮は半島状に川に突き出したどん詰まり、町の一番奥にあるそうです。
町に入ってしばらく馬車を走らせて辿り着いたそこは離宮の名の相応しい堂々たる建物でした。
使用人に出迎えられて離宮の中に足を踏み入れたリーナは、その使用人に尋ねます。
「今帰りました。
母上にご挨拶したいのですが、今どこにいますか。」
「リリ様でしたら、中庭の離れにいらっしゃります。」
リーナのお母さんの名前はリリさんとおっしゃるのですね。
使用人の返答を聞いたリーナは、コの字形をした離宮の中庭を目指して歩みを進めます。
正面ホールを抜けて、中庭に出るとそこには予想もしなかった風景がありました。
宮殿の中庭と言われると通常思い浮かべるのは…。
バラ園とか、噴水とか、四季折々の花壇とか、庭木で作られた迷路などもよく聞きますね。
ところが、目の前に広がったいるのは農村の風景を切り取ったような光景でした。
中庭には、赤いスレート屋根に白い漆喰の塗られた小さな木造の家が建っていました。
アルム山麓の村で良く見る造りの民家です。
その周りには、小さな野菜畑があり、ヤギが一頭放し飼いになっています。
まるで農村の一画に立っているような錯覚を覚えました。
荘厳な離宮に不釣り合いな中庭をスタスタと歩いたリーナは、小さな家の玄関の扉を開けると。
「ただいまー!母さん、いるー?」
大きな声で家の中に呼びかけたのです、まんま村娘のように。
すると、奥から出てきたのは、年の頃は十二、三歳の少女でした。
リーナに妹がいるとは聞いていません、使用人でしょうか。
ところが、この村娘のような格好をした少女。
玄関先に立っているリーナを目にとめると、こう言ったのです。
「あら、お帰り、リーナ。
本当に久しぶりね、二年振りかしら。
帰って来てくれて嬉しいわ。
お母さん、リーナがいなくてとっても寂しかったの。」
お母さん?妹じゃなくて?
**********
「まあ、まあ、リーナがお友達を連れて来るなんて初めてよ。
私は、リーナの母親で、リリと申します。
よろしくお願いしますね、シャルロッテさん。
遊びに来てくれて嬉しいわ。ゆっくりしていってね。」
ここは先程の民家のような建物の居間。
リーナのお母さんがお茶を淹れながら、私を歓迎してくれました。
その口調といい、お茶を淹れる様子といい本当に村娘のようです。
まるで少女のような外見で、リーナの母親だという事も信じられませんが。
何よりも、この雰囲気で王様の愛妾だというのですから驚きです。
国王の愛妾と言うと、贅沢三昧をしているイメージがあるのですが…。
この方、その対極にあるようです。
「こちらこそ、よろしくお願いします。
とても落ち着く部屋ですね、リリさんはいつもこの部屋にいるのですか?」
「そうでしょう。
私は農村育ちなものだから、この部屋にいるとホッとするの。
旦那様がお帰りになる時間には、離宮に戻ってキチンとした格好でお迎えするのだけど。
もう、二十年になるけど、お貴族様のような生活は慣れなくてね。
この家は旦那様に無理を言って作って頂いたのよ。」
リリさんの話では、この離宮は王様の愛妾であるリリさんに与えれたものだそうです。
王様はリリさんの事をことのほか寵愛していて、夜は殆どこの離宮で過ごされるそうです。
朝、王宮へ出かけて、執務が終わるとこの離宮へ帰ってくるのが王様の日課になっているとのこと。
リリさんが愛妾として囲われて以来、ずっとそんな状態だそうです。
王様はリリさんに望むモノは何でも与えると常々言っているとのこと。
ですが、贅沢をしたいと思わないリリさんが物を強請ったことはないそうです。
唯一の例外がこの中庭なのだそうです。
リリさんは、離宮での暮らしに馴染めなくて、王様に召された頃は塞ぎがちだったそうです。
そんなリリさんを心配した王様が言ったとのことです。
『そんなに故郷が恋しいのなら、中庭に故郷の風景を再現してあげようか。』と。
リリさんは、それなら寛ぐことが出来る家も建てて欲しいとお願いしたとのことです。
そうして実現したのがこの中庭であり、この建物なのだそうです。
以来、王様が王宮へ行っている昼間はほとんどこの中庭で過ごしているのですって。
「私も離宮を離れるまで、殆どの時間をここでお母さんと一緒に過ごしたの。
離宮にある私室を使うのは、ローザ先生がいらしている時と寝る時くらいだったわ。
そのせいかしら、我が家のはずなのに離宮にいると落ち着かないの。
お母さんとこの部屋にいる時が一番心が安らぐわ。」
そう言って笑ったリーナも、まるで村娘のように見えました。
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