上 下
166 / 580
第7章 できることから始めましょう

第164話 なんと温泉付きの宿舎です

しおりを挟む
 工房開設の目途も立ったことだし、シューネフルトの町にあの二人と十人の見習いが住む家を用意しようかと考えていた時のことです。
 
 私の後ろに控えていた侍女のカーラが言ったのです。

「あの二人が住む場所は、工房の敷地の中に建てた方が良いと思います。
 あの二人のことですし、作業に没頭したら工房内に寝泊まりしてしまいます。
 きっと、シューネフルトの町までは帰らないと思いますよ。」

 カーラの指摘はもっともですね。
 あの機械バカ共ならやりかねないです。
 工房の機械設置作業の際に寝食を忘れて作業に没頭したあげく、こと切れるように倒れ伏していたのですから。
 
 私はカーラの提案を採用し、工房の敷地内にそこで働く人達の住居を建てることにしました。
 オークレフトさんとジョンさんの住居、それに見習い十人の分も必要ですね。

 それと、アレも作らないといけないでしょうね。

 ここは、またあの子達の協力を仰ぎますか。
 そう考えていると、カーラからまた別の提案が出されます。

「あの人達に自分の生活の管理が出来るとは思えません。
 また、空腹で倒れるのが目に見えるようです。
 それに、住む部屋の掃除もしないでしょう。
 誰か世話をする人が必要だと思います。
 その役を私がやりたいと思います。」

「あら、私の専属侍女が不満だったのかしら?
 男共の世話は大変よ。」

「いいえ、シャルロッテ様の侍女をさせて頂くのに不満はございません。
 こんなに良くして頂いて不満など持とうものならバチがあたります。
 ただ、この家のことはブラウニー達があらかたやってくれます。
 シャルロッテ様のお世話もベルタさんが嬉々としてなされるものですから。
 率直に言って私のやることが無いのです。 
 幸い、村暮らしで悪ガキ共のあしらいは慣れています。
 見習いもまとめて面倒を見るのに私が適任ではないかと。」

 たしかに、おじいさま同様、私のことを溺愛するベルタさんにカーラの仕事が取られている気がします。
 カーラが自発的にやりたいと言うのであれば、ここは任せてみましょうか。

「じゃあ、お願いしようかしら。
 でしたら、カーラの住む場所も作らないといけませんね。」

 こうして、カーラは私の専属侍女から工房のお世話係にシフトすることになりました。


     **********


 そして、十日ほど時間が過ぎて…。
 工房の敷地の隅、今、私達の前にあるのは、大小のログハウス(丸太小屋)です。
 もちろん、植物の精霊ドリーちゃんにお願いして建ててもらいました。

 二件並んで建つ小さなログハウスの横に建つ大きなログハウスが一件。
 そして、少しは離れた場所に建つ、小さなログハウス二件を併せたような大きさの、中ぐらいのログハウス。

 小さなログハウスは、オークレフトさんとジョンさんが住む家です。
 それぞれ、ワンルームにベッドと机が設えてあります。

 大きなログハウスは、見習い工の寄宿舎、広い一つの部屋にベッドが十台並んでいます。
 また、大きなログハウスの中は仕切られて、厨房と食堂のスペースがあります。

 そして、中ぐらいのログハウスが、紅一点のカーラの住居です。
 居住スペースはジョンさん達と同じなのですが、浴室が付けられた分だけ大きいのです。

 そう、この住居スペースには浴場を作ったのですが、男女一緒と言う訳には行きません。
 そのため、カーラの住居には専用の浴室を作ったのです。


「これが、アクアちゃんが言っていた温泉というものですか?
 地の底から自然にお湯が湧いてくるって不思議ですね。」

「ええ、これがよろしいでしょう。
 これなら、年中お湯が湧きだしているので、何時でも体を清めることができますわ。」

 私の呟きに答えるように水の精霊アクアちゃんが言いました。

 私達が今立っているのは、ジョンさん達の住居と見習い工の寄宿舎の間に設けた殿方用の浴場です。
 浴場がないと、彼らはまた生ゴミのような臭いをさせるかもしれません。
 とは言え、お湯を沸かすのも大変です。男共に任せてたらきっと入浴しなくなるでしょう。

 頭を悩ませていた私にアクアちゃんが知恵を貸してくれたのです。
 工房の敷地の地下深くに、お湯の水脈があるからそこから引いてしまおうと。

 是非もなく、私はその話に飛びつきました。
 一年中枯れることなく湧き出すお湯、薪がいらないのも有り難いです。

 アクアちゃんの言った通り、目の前のにある大きな浴槽にはいっぱいのお湯が張られています。
 ゆうに十人以上は入れる浴槽を自然に満たしてくれるのですからとても有り難いです。

 もちろん、カーラの住居にある浴室のお湯もこの温泉というものです。

「このお湯、お肌に良い成分が含まれていますの。
 お肌が、ツルツル、スベスベになりますのよ。」

 アクアちゃんの言葉にカーラは嬉しそうです。
 屋内なので悪ガキ共に覗かれる心配も無くて良いですね。


    **********


 そして、工房で働く人達の住居が完成したこの日、工房は十人の少年を見習いとして迎えることになりました。
 年齢は十四、五歳で、いずれも貧しい農家の二男、三男です。
 今年傭兵として村を出て行く予定にしていた子供ばかりだそうです。

 今回も、リーナ自らが村々を回って見習い工の募集をしたそうです。
 一つ一つの村で、命の危険に晒される傭兵に行かなくても働く場があると説明をして回ったそうです。 

 私が採用された少年たちを眺めていると、一人の少年のボヤキ声が聞こえました。

「あーあ、俺は傭兵に行って、一山当ててやろうと思っていたになぁー。
 金持ちになって、いい女を両腕で抱えるのが夢だったのに。
 お袋が危ないマネはしないで、堅実に生きろなんて言うんだぜ。
 こんな、時化た工房で見習いをしろだなんて、やってられるかよ。」

 ああ、確かにカーラが言うように、一筋縄ではいきそうもない悪ガキがいますね。
 親の心、子知らずとはよく言ったものです。
 子供に死んで欲しくないから、この工房を勧めたというのに…。

 傭兵で一山あてられるのは、千人に一人もいないのですよ。

 でも、十四、五の少年の夢が『いい女を両腕で抱える』ことですか、小さいですね。
 もっと、大きな夢を持って欲しいものです。 
 
 こんな悪ガキ共を、あの機械バカ二人で御せるのか不安になりましたが…。
 こうして、見習い工も迎えて工房は動き出したのです。


     *********

*予定が変更になりました。
 明日以降も投稿を続けますので、よろしくお願い致します。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】6歳の王子は無自覚に兄を断罪する

土広真丘
ファンタジー
ノーザッツ王国の末の王子アーサーにはある悩みがあった。 異母兄のゴードン王子が婚約者にひどい対応をしているのだ。 その婚約者は、アーサーにも優しいマリーお姉様だった。 心を痛めながら、アーサーは「作文」を書く。 ※全2話。R15は念のため。ふんわりした世界観です。 前半はひらがなばかりで、読みにくいかもしれません。 主人公の年齢的に恋愛ではないかなと思ってファンタジーにしました。 小説家になろうに投稿したものを加筆修正しました。

晴れて国外追放にされたので魅了を解除してあげてから出て行きました [完]

ラララキヲ
ファンタジー
卒業式にて婚約者の王子に婚約破棄され義妹を殺そうとしたとして国外追放にされた公爵令嬢のリネットは一人残された国境にて微笑む。 「さようなら、私が産まれた国。  私を自由にしてくれたお礼に『魅了』が今後この国には効かないようにしてあげるね」 リネットが居なくなった国でリネットを追い出した者たちは国王の前に頭を垂れる── ◇婚約破棄の“後”の話です。 ◇転生チート。 ◇ふんわり世界観。ゆるふわ設定。 ◇なろうにも上げてます。 ◇人によっては最後「胸糞」らしいです。ごめんね;^^ ◇なので感想欄閉じます(笑)

冷遇妻に家を売り払われていた男の裁判

七辻ゆゆ
ファンタジー
婚姻後すぐに妻を放置した男が二年ぶりに帰ると、家はなくなっていた。 「では開廷いたします」 家には10億の価値があったと主張し、妻に離縁と損害賠償を求める男。妻の口からは二年の事実が語られていく。

ドアマットヒロインはごめん被るので、元凶を蹴落とすことにした

月白ヤトヒコ
ファンタジー
お母様が亡くなった。 それから程なくして―――― お父様が屋敷に見知らぬ母子を連れて来た。 「はじめまして! あなたが、あたしのおねえちゃんになるの?」 にっこりとわたくしを見やるその瞳と髪は、お父様とそっくりな色をしている。 「わ~、おねえちゃんキレイなブローチしてるのね! いいなぁ」 そう、新しい妹? が、言った瞬間・・・ 頭の中を、凄まじい情報が巡った。 これ、なんでも奪って行く異母妹と家族に虐げられるドアマット主人公の話じゃね? ドアマットヒロイン……物語の主人公としての、奪われる人生の、最初の一手。 だから、わたしは・・・よし、とりあえず馬鹿なことを言い出したこのアホをぶん殴っておこう。 ドアマットヒロインはごめん被るので、これからビシバシ躾けてやるか。 ついでに、「政略に使うための駒として娘を必要とし、そのついでに母親を、娘の世話係としてただで扱き使える女として連れて来たものかと」 そう言って、ヒロインのクズ親父と異母妹の母親との間に亀裂を入れることにする。 フハハハハハハハ! これで、異母妹の母親とこの男が仲良くわたしを虐げることはないだろう。ドアマットフラグを一つ折ってやったわっ! うん? ドアマットヒロインを拾って溺愛するヒーローはどうなったかって? そんなの知らん。 設定はふわっと。

あなた方はよく「平民のくせに」とおっしゃいますが…誰がいつ平民だと言ったのですか?

水姫
ファンタジー
頭の足りない王子とその婚約者はよく「これだから平民は…」「平民のくせに…」とおっしゃられるのですが… 私が平民だとどこで知ったのですか?

「あなたのことはもう忘れることにします。 探さないでください」〜 お飾りの妻だなんてまっぴらごめんです!

友坂 悠
恋愛
あなたのことはもう忘れることにします。 探さないでください。 そう置き手紙を残して妻セリーヌは姿を消した。 政略結婚で結ばれた公爵令嬢セリーヌと、公爵であるパトリック。 しかし婚姻の初夜で語られたのは「私は君を愛することができない」という夫パトリックの言葉。 それでも、いつかは穏やかな夫婦になれるとそう信じてきたのに。 よりにもよって妹マリアンネとの浮気現場を目撃してしまったセリーヌは。 泣き崩れ寝て転生前の記憶を夢に見た拍子に自分が生前日本人であったという意識が蘇り。 もう何もかも捨てて家出をする決意をするのです。 全てを捨てて家を出て、まったり自由に生きようと頑張るセリーヌ。 そんな彼女が新しい恋を見つけて幸せになるまでの物語。

完結 お飾り正妃も都合よい側妃もお断りします!

音爽(ネソウ)
恋愛
正妃サハンナと側妃アルメス、互いに支え合い国の為に働く……なんて言うのは幻想だ。 頭の緩い正妃は遊び惚け、側妃にばかりしわ寄せがくる。 都合良く働くだけの側妃は疑問をもちはじめた、だがやがて心労が重なり不慮の事故で儚くなった。 「ああどうして私は幸せになれなかったのだろう」 断末魔に涙した彼女は……

義母に毒を盛られて前世の記憶を取り戻し覚醒しました、貴男は義妹と仲良くすればいいわ。

克全
ファンタジー
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。 11月9日「カクヨム」恋愛日間ランキング15位 11月11日「カクヨム」恋愛週間ランキング22位 11月11日「カクヨム」恋愛月間ランキング71位 11月4日「小説家になろう」恋愛異世界転生/転移恋愛日間78位

処理中です...