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第7章 できることから始めましょう

第158話 今度は建物を建てる?

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*本日、お昼に1話投稿しています。まだお読みでない方は、お手数ではございますが1話戻ってお読みください。

     **********

 さて、バタバタと慌ただしく動き回っている間に六月も半ばとなり、陽射しが夏のものに変わってきました。
 カモミールの開花期もそろそろ終わりという事で、今日は朝から最後の花摘みです。

 アルビオン王国から戻るとちょうどカモミールの花の最盛期でした。
 連日、アガサさんやベルタさんにも手伝ってもらい、四苦八苦で花の収穫をするハメになったのです。

「今まで、畑仕事などしたことがありませんでしたが、朝から外で体を動かすのは気持ち良いですね。
 アンネリーゼ姫様からも、ハーブ畑の手入れの話はよく聞かされたものです。
 姫様は本当にこのハーブ畑を大切にしておられたようで、いつも楽し気に話をされていました。」

 などと言いながら、ベルタさんは母を懐かしむようにせっせと花を摘んでいました。

 そんな、カモミールの収穫も今日で一段落しそうです。
 私達はモミールの花を詰めた麻袋を抱えて、精油の抽出小屋へと入っていきました。

「おはよう!ロッテ!
 今日もすごくたくさん収穫したね!
 じゃあ、私も頑張っちゃおう!」

 このところ毎日お願いしているので、植物の精霊ドリーちゃんはこうして小屋の中で待っていてくれます。

「おはよう、ドリーちゃん。
 今日もお願いしますね。」

「まかせといて!」

 私が小屋の作業台に精油を詰める薬瓶を並べながらドリーちゃんにお願いすると快い返事が返ってきました。

「じゃあ、早速やっちゃおう。
 私の可愛い、カモミールちゃん、素敵な香りをそのままに、あなたの精油をくださいな!」

 ドリーちゃんがカモミールの花に話しかけるように呟きながら、術を行使します。
 摘み取った大量のカモミールの花が淡い光に包まれること数分、作業台の上の薬瓶を香しい精油で満たされていきます。

「はい、終わり!」

 全ての薬瓶が満たされた頃にドリーちゃんが完了を告げ、淡い光も消えました。

「ドリーちゃん、有り難う。本当に助かったわ。
 おかげで、今年もアルムハイム産の名に恥じない良質の精油がたくさんできたわ。
 カモミールの精油作りはこれでお終い、あとは花が減るから乾燥ハーブにでもするわ。」

「どういたしまして!
 役に立てたなら良かったわ。また何時でも言ってね。」

 私とドリーちゃんがそんな会話を交わしていると。

「おはよう、ロッテちゃん、ドリーちゃん。」

 朝の挨拶と共に小屋に入ってきたのは、ブラウニー隊の代表のアインちゃんでした。


       **********


「ロッテちゃん、薪小屋のアレ、そろそろどかしてもらえないかな。
 とっても、邪魔なの…。」

 控えめで少し気弱なアインちゃんが最後は声を小さくしながら、苦情を言いました。
 ああ、オークレフトさんが持ち込んだ大量の機械ですね。

 冬が終わって夏に向かう今の時期は備蓄している薪が減るので、スペースに空きが出ます。
 あの方が持ち込んだ機械の置き場に困ったので、とりあえずそのスペースに収めたのですが。

 薪の利用は何も冬の暖炉に使うだけではありません。
 ブラウニー達の活躍の場、厨房では毎日使うのです。

 当然、体の小さなブラウニー達が抱えて運べるはずがなく、術でフワフワ浮かせて運ぶのですが。
 あの薪小屋を埋め尽くしている機械が、術を行使する上でとても邪魔なのだそうです。
 
 余り自己主張をしないアインちゃんが言うのですから、よほど邪魔になっているのでしょう。
 大変申し訳ないことをしてしまいましたね。

「ごめんね、アインちゃん。
 この前も言われたので早く退かしたいのですけど。
 肝心の移す場所がまだ確保できていないのよ。」

 そう、実はアルビオン王国から戻って早々にアインちゃんから言われていたのです。
 気にかけてはいたのですが、工房用地として購入した土地はまだ更地です。
 現在、工房の建屋を立ててくれる大工さんを探している最中で、建屋が出来るのは大分先です。
 機械を露天に放置することも出来ずに困っていたのです。

 申し訳ないなと思いつつも、アインちゃんに事情を話していると。

「なあに、建物が欲しいの?
 私出来るよ!建ててあげようか?」

「へっ?」

 いきなり、ドリーちゃんがそんなことを言い出しました。
 建物を建てるの?この子が…?


     **********


 ともあれ、ドリーちゃんが自信たっぷりに言うので、リビングで寛いでいるオークレフトさんのもとにやって来ました。

「薪小屋に置いてあるオークレフトさんの機械ね。
 ブラウニー達が作業するのに酷く邪魔になっているみたいなの。
 それで、ドリーちゃんが建物を建ててくれると言っているのだけど。」

 私が話しかけるとオークレフトさんは目を輝かせて、傍らに置いたカバンを漁り始めました。
 そして、紙束を取り出すと。

「それはとっても有り難いです。
 今の時期は、なかなか大工さんが見つからないで困っていたのです。」

 そう言ってオークレフトさんはテーブルに図面を広げると、こんな建物が欲しいと言います。
 それをジッと見つめたドリーちゃんが言いました。

「こんなの無理!」

 あっ、やっぱり…。植物の精霊ドリーちゃんに建築など難しいと思っていたのです。

「やっぱり、精霊さんに建物を建てるのは難しいですか…。」

 オークレフトさんが落胆の色を見せました。この方、精霊にどれだけの力を期待していたのでしょうか…。
 すると、ドリーちゃんは珍しく腹立たし気な表情を見せて抗議しました。

「馬鹿にしないで!
 建物を建てるのが難しい訳じゃないの!
 こんな、寸法通りになんかできる訳ないでしょう。
 見ればわかるでしょう、この体でどうやって正確な長さを測れって言うのよ。
 私にできるのは、だいたいこんな形の、このくらいの大きさの建物というアバウトなモノよ。」

 どうやら、出来ないと言うのは建物そのものではないようですね。
 オークレフトさんが示したものの様な図面に基づいた正確な寸法の建物は出来ないという事のようです。
 更に、人に決まり事により書かれた設計図を精霊に理解しろと言うのも無理な話だそうです。

 ドリーちゃんの話では、出来るのはいわゆるログハウスだそうです。
 寸法がアバウトだからと言って造りがアバウトな訳ではないとドリーちゃんは言います。
 個々の木材はきっちり組み合わさって、建物が傾いでいたり、隙間風が入ってくるようなことはないそうです。
 そこは植物なら自由に扱えるドリーちゃんにとってはお手の物だそうです。

「ちょっとやそっとでは壊れない頑丈な建物を造れるわよ!」

 ドリーちゃんの話では、その昔、精霊と共にあった人々の村は植物の精霊に家を建ててもらっていたそうです。
 丈夫さについては折り紙付きのようです。

 ここは、やる気になっているドリーちゃんの好意に甘えるのが得策でしょう。
 何時までも薪小屋を機械で占領するのも、ブラウニー隊のみんなに申し訳ないですし。

「オークレフトさん、ここはドリーちゃんにお願いすることにしましょう。
 今回建てる建物は倉庫として使っても良いと思うわ。
 工房は大工さんを探して、図面通りのモノを建てる形にしても良いわ。」

 私はそう決めて、オークレフトさんに伝えたのです。

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