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第7章 できることから始めましょう
第148話 宝物庫がいっぱいと言われました
しおりを挟むその時、私は、ハーブ畑の手入れを済ませ、庭の木陰に置いたテーブルでお茶を飲んでいました。
そこにブラウニー隊の代表、アインちゃんがやって来て言いました。
「ロッテちゃん、宝物庫の中が大変なことになってるの。
もう宝物庫の中がいっぱいであふれそう。
なんか、とても宝物とは思えない様なモノがたくさんあるのだけど…。
ガラクタ?」
そういえば、セルベチア軍からちょろまかしたものを、取り敢えず宝物庫へ転送してしまいました。
全然、分別もせずに…。
「ごめんなさいね、整理するのが大変だったでしょう。
セルベチア軍からちょろまかした物資を適当に宝物庫に転送してしまったの。」
アインちゃんが、ガラクタと呼んだのはきっと鉄や銅のインゴットのことでしょう。
アインちゃんの感性では、宝物というのは金銀や宝石、美術品といったものを指すのだと思います。
何の役にも立たない鉄や銅の塊はガラクタにしか見えず、宝物庫にそぐわないと思っているのでしょうね。
そういえば、あれもあったか…。
「ちょうど良いわ。
アガサさん、セルベチア軍の司令部で面白いモノを見つけました。
ちょっと見て頂けませんか。」
私は、ハーブ畑を手伝ってもらい一緒にお茶をしていたアガサさんを伴って、館に隣接する宝物庫に向かいます。
薄暗い宝物庫に魔法で光を灯し中の様子を窺います。
ビックリしました。
宝物庫の中には鉄のインゴットがびっしりと天井近くまで積み上げられています。
これ、今崩れてきたら、私、間違いなく死にますね。
早急に何処かへ移す必要があるようです。
身の危険を感じつつ宝物庫の中を見回すと、目的のモノを見つけました。
宝物庫の隅、何とか確保したスペースに立てかけてある大きな木の板です。
私はそれを魔法で浮かべてアガサさんの待つ宝物庫の外に持って行きました。
「これ、司令部の会議で作戦を確認するために使っていたようなのですが。
この白い棒みたいなモノでハッキリとした線が書けるのです。
しかも、布で軽く擦るときれいに消せます。
これを子供に読み書き計算を教えるのに使えないかなと思って、失敬してきたのですが。
どう思いますか。」
私は、黒く塗られた大きな板を宝物庫の壁に立てかけて、実際に文字を書いて見せます。
「おや、これは黒板かい。
これと同じものをアルビオンの大学では講義に使っているね。
幾何学とか、言葉で言ってもピンと来ないものを書いて説明できるから便利なんだ。
そうだね、これは使えると思うよ。」
アガサさんは、チョークと呼んだ白い棒を手に取り、私と同じように黒板に線を引きながら言いました。
実際に大学で利用しているモノであれば使い勝手は良さそうですね。
平らな板を調達して表面に黒い塗料を塗るだけですので、量産するのに費用もあまりかからないで済みそうです。
アガサさんの話では、チョークも石灰岩から安価に作れるそうです。
石炭と違って石灰であればこの辺でも簡単に掘り出せそうです。
**********
さて、黒板は取り敢えず館の中の物置部屋に移すとして、問題は膨大な量の鉄と銅ですか。
館の中の物置部屋だと床が抜けますね。そもそも、この量をしまうのは不可能です。
膨大な量の鉄を前に、どうしたものかと途方に暮れていると。
「なになに~、その鉄をしまっておく場所が無いの~?
それなら、馬に預けるといいよ~!
あの馬、幾つも洞窟を持っているから、まだ余裕で預かってくれるよ~!」
目の前にポンと現れた風の精霊ブリーゼちゃんが言いました。
正直、あのエロ馬に物を頼むのは気乗りしないのですが…。
何か頼むたびに、貞操の危機が強まる気がするのは気のせいでしょうか?
いえ、気のせいであって欲しいと切に願います…。
「馬~!ちょっと来て~!」
「あっ、こら。」
私がヴァイスに頼むことを戸惑っていると、人の返事も聞かずにブリーゼちゃんがヴァイスを呼んでしまいます。
「なんだ、風の。我をそんなに気軽に呼ぶではない。
我を呼びつけて良いのは、主だけであるぞ。」
しばらくして、ブツクサと苦情を漏らしながらヴァイスが現れます。
ブリーゼちゃんとヴァイスは旧知の間柄らしく、毎度文句を言いつつもこうして律義にやって来ます。
ホント、仲が良いんですね。
「ね~!馬!
馬の洞窟ってまだ余裕があるよね~?
ロッテが鉄をしまっておく場所に困ってるんだ~。」
私の希望も確認しないで、ブリーゼちゃんは勝手にヴァイスに鉄の保管の話を始めてしまいました。
黙ってブリーゼちゃんの話を聞いていたヴァイスが私に向かって言います
「鉄を預かるくらい容易いことだ。
幾らでも預かることはやぶさかではないぞ。
しかしだな、我は先日、薪を預かった時の褒美をもらっておらんぞ。
そろそろ、褒美が欲しいものだ。随分と馬車も引いたことだしな。」
ほら、言わんこっちゃない…。
このエロ馬、早く背中に跨れと言わんばかりに背中を振っています。それが褒美の催促なのですね…。
「ちょうど良い。
主は我の住む森を訪れたことが無かろう。
自分の領地なのだから、見ておくことも領主の務めだぞ。
先に鉄を送っておく、鉄がどのようにしまわれているかも確認した方が良かろう。
鉄を送ったら、我が森を案内して進ぜようではないか。」
何がちょうど良いですか…。
もっともらしいことを言って、私を背に乗せたいだけではないですか。
とは言え、他に鉄を保管する場所に当てがないのも事実です。
ヴァイスは私を背に乗せて悦に入るだけで、私に不埒な真似をする訳ではありません。
私が多少不愉快な思いを我慢すれば良いだけなのです。
仕方ないかなと思っていると…。
「馬!たまには良いこと言うじゃない~!
そうだよね~!裏山の森は絶対に見ておく方が良いと思うよね~!」
いきなり、ブリーゼちゃんがヴァイスの提案に賛同しました。
何がそんなにおススメなのか知りませんが、ノリノリです。
ブリーゼちゃんにハシゴを外されてしまいました…。
ブリーゼちゃんがそんなに乗り気では断るという選択肢が無いではないですか。
こうして、私はヴァイスの住む森を訪ねることになりました。
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