130 / 580
第6章 異国の地を旅します
第128話 王都に館に帰ってみると
しおりを挟む「おお、これは凄いね、良い景色だ。
自分で飛ぶよりも速いし、何よりも馬車が快適でいいね。」
馬車の窓から外を眺めてアガサさんが感嘆の声を上げました。
今は、王都に向けてヴァイスの引く馬車で大空を飛翔しているところです。
「アガサお婆ちゃんも自分で空を飛ぶの?」
「そうだよ、私もアリィシャちゃんの年の頃に母さんから空を飛ぶ魔法を習ったものだ。
だいたい、あんな辺鄙な所に住んでたら、空でも飛ばんことには買い物もできないだろう。」
「そうなんだ~。
わたしもやっとロッテお姉ちゃんと一緒に屋根の高さまで飛べるようになったんだ。
今は、それ以上高く飛んだらダメって。」
「そうだろうって。
私も大空を飛んで良いと言われたのは十歳を超えた頃だった。
空を飛ぶのは心躍るが、落ちたら死んでしまうからねえ。
十分に修練してからでないと高くは飛ばせられないね。」
「うん、わかっている。ロッテお姉ちゃんにもそう言われているから。
それに、今はこうしてヴァイスの引く馬車で大空をとべるから、それで十分。」
「アリィシャちゃんは物分かりが良くて偉いねえ。
まあ、ただ、アリィシャちゃんがヴァイスに乗れるから十分という気持ちはわかるね。
一度この馬車に乗っちまうと自分で飛ぶのが億劫になるよ。」
空を飛ぶ魔法の話に花を咲かせていましたが、ヴァイスの引く馬車に乗る方が良いと言う事で落ち着いたようです。
今の二人の会話をヴァイスに聞かせてあげたいです。
最近、私達がちょくちょく蒸気機関車の話をするものですから、嫉妬して何かと張り合っていましたので。
きっと、とても機嫌を良くすることでしょう。
「で、ロッテお嬢ちゃん、王都までどの位で着くんだい。」
「ヴァイスにはゆっくり飛んでもらっているので、六時間くらいでしょうか。
昨日、五十マイルを一時間半ほど飛びましたので、王都までは約二百マイルですからそんなものかと。
ヴァイスが本気を出すと凄いのですよ、二百マイルを二時間ほどで飛んでしまいます。
ただ、それだと早すぎてナビゲーターが現在地を見失うのです。」
「ゆっくり飛んで、王都まで六時間だって?
それは蒸気機関車なんかよりはるかに速いね。
早くて、乗り心地も良い、加えて景色も良いとなれば、他のモノには乗れなくなるね。
人前で使えないのが残念だね。」
「ええ、ですから今日も人目に付かないようにサクラソウの丘の裏から館の庭に回り込みます。
疎林があるので、視線を遮ってくれるのです。」
結局、途中で昼食とお花摘み休憩を取ったので、王都の館に着いたのは夕暮れ時になりました。
七時間くらいかかったことになります。仕方ないではないですか、自然が呼んでいるのですから…。
**********
「へ~、これがロッテお嬢ちゃんの館かい…。
凄い豪邸だね、まるで宮殿じゃないか。
さすが、一国の王様だねえ。」
馬車から降りたアガサさんが館を見上げて言いました。
宮殿は言い過ぎですが、驚くのも無理がない広い庭を備えた大きな館です。
なにより、ステラちゃんが精魂込めてメンテナンスしてくれていたので、とても保存状態が良いのです。
「築百年以上の建物だそうですが、ステラちゃんが維持していたのでとても新しく見えるのです。
古びて見えないので、なおさら立派に見えるのだと思います。
さあ、どうぞ。中に入ってください。」
私がアガサさんを館の中にいざなうと、
「よう、帰ったのかい。
お帰り、ロッテちゃん。
どうだった、この国の旅は?」
私の帰りに気付いたブラウニーの代表、例の風来坊のブラウニーがフヨフヨと出迎えに飛んできました。
この子も名前がないと不便ですね、考えておきましょう。
「ただいま。
ええ、とっても楽しい旅だったわ。
お留守番してもらって有り難うね。」
「良いってことよ。
わたしらブラウニーにとって家の世話は習性みたいなものさ。
ステラちゃん、久しぶりに見た外の世界はどうだった。」
留守番の労をねぎらう私に答えた風来坊のブラウニーは、今度はステラちゃんに声を掛けました。
「百年の時の流れって凄いですね。
風景が一変していてとても驚いた…、たまには外の様子を見に出かけるのも良いですね。」
「そうかい、そいつは良かった。
留守中の屋敷の管理は完璧にしておいたから安心しな。
バラ園は最高のコンディションさ、後で見て来れば良い。
この屋敷もわたしらの数が増えたことだし、交替で外の空気を吸いに行くことにしよう。
わたしゃ、この国の中を見て歩くのが楽しみなのさ。
ステラちゃんもたまには気分転換に出かければ良いさ。」
風来坊のブラウニーは楽し気に答えたステラちゃんに満足げに頷き、気風良くそう言いました。
何と言うか、姉後肌なんですね…。
すると、
「ロッテお嬢ちゃんと一緒にいると驚かされることばかりだね。
私はブラウニーがこんなにフレンドリーだなんて知らなかったわ。
こんにちは、ブラウニーさん。
私はアガサ、これからロッテお嬢ちゃんのお世話になることになったの。
肩の上にいるココ共々よろしくね。」
私とブラウニーたちの会話を聞いていたアガサさんが、風来坊のブラウニーの人懐っこさに驚きつつ挨拶の声を掛けます。
そうですよね、ブラウニーって、あまり人前に姿を現さない印象がありますよね。
「人が増えて賑やかになるのは大歓迎だ。
植物の精霊が一緒なんだね、精霊が懐く人間に悪い奴はいないから安心だね。
アガサさんに、ココちゃんだね、こちらこそよろしく頼むよ。」
風来坊のブラウニーはそう言って、カカカと笑いました。
え~と、この子は特別だと思います…。私もこんなに気風の良いブラウニーは初めて見ましたもの。
他の子はみんな、もっとシャイな感じです。
**********
さて、ブラウニーとの話も済んで、リビングルームに腰を落ち着けた私は当面の予定をアガサさんに説明します。
「私達は、この後、蒸気船の視察を行いますので、一週間程度はこの国に留まる予定です。
その間、アガサさんにはこの館で休息していただいても結構ですし、アルムハイムの館で休息して頂いても構いません。
もちろん、お疲れでなければ、私達と一緒に視察に加わって頂いても結構です。」
私は、この館からアルムハイムの館まで転移魔法ですぐに行くことができることや明け方ハーブ畑の世話をするために短時間アルムハイムへ戻ることも話しました。
また、蒸気船の視察以外の予定も説明しておきます。
雇い入れたオークレフトさんの合流を待たねばならないことやミリアム首相にお礼を兼ねて挨拶に行かないとならないことなどですね。
「そうだね、明日の明け方はアルムハイムの館へ一緒させてもらえるかい。
私もそのハーブ畑の世話を手伝うよ。
それと、首相閣下への挨拶は別として、ロッテお嬢ちゃんと一緒に行動させてもらおうかね。
ボウッとして休んでいるより、そっちの方が楽しそうだ。」
そうですか、ではしばらく一緒に行動してもらいましょうか。
0
お気に入りに追加
325
あなたにおすすめの小説
【完結】6歳の王子は無自覚に兄を断罪する
土広真丘
ファンタジー
ノーザッツ王国の末の王子アーサーにはある悩みがあった。
異母兄のゴードン王子が婚約者にひどい対応をしているのだ。
その婚約者は、アーサーにも優しいマリーお姉様だった。
心を痛めながら、アーサーは「作文」を書く。
※全2話。R15は念のため。ふんわりした世界観です。
前半はひらがなばかりで、読みにくいかもしれません。
主人公の年齢的に恋愛ではないかなと思ってファンタジーにしました。
小説家になろうに投稿したものを加筆修正しました。
強制力がなくなった世界に残されたものは
りりん
ファンタジー
一人の令嬢が処刑によってこの世を去った
令嬢を虐げていた者達、処刑に狂喜乱舞した者達、そして最愛の娘であったはずの令嬢を冷たく切り捨てた家族達
世界の強制力が解けたその瞬間、その世界はどうなるのか
その世界を狂わせたものは
ドアマットヒロインはごめん被るので、元凶を蹴落とすことにした
月白ヤトヒコ
ファンタジー
お母様が亡くなった。
それから程なくして――――
お父様が屋敷に見知らぬ母子を連れて来た。
「はじめまして! あなたが、あたしのおねえちゃんになるの?」
にっこりとわたくしを見やるその瞳と髪は、お父様とそっくりな色をしている。
「わ~、おねえちゃんキレイなブローチしてるのね! いいなぁ」
そう、新しい妹? が、言った瞬間・・・
頭の中を、凄まじい情報が巡った。
これ、なんでも奪って行く異母妹と家族に虐げられるドアマット主人公の話じゃね?
ドアマットヒロイン……物語の主人公としての、奪われる人生の、最初の一手。
だから、わたしは・・・よし、とりあえず馬鹿なことを言い出したこのアホをぶん殴っておこう。
ドアマットヒロインはごめん被るので、これからビシバシ躾けてやるか。
ついでに、「政略に使うための駒として娘を必要とし、そのついでに母親を、娘の世話係としてただで扱き使える女として連れて来たものかと」
そう言って、ヒロインのクズ親父と異母妹の母親との間に亀裂を入れることにする。
フハハハハハハハ! これで、異母妹の母親とこの男が仲良くわたしを虐げることはないだろう。ドアマットフラグを一つ折ってやったわっ!
うん? ドアマットヒロインを拾って溺愛するヒーローはどうなったかって?
そんなの知らん。
設定はふわっと。
あなた方はよく「平民のくせに」とおっしゃいますが…誰がいつ平民だと言ったのですか?
水姫
ファンタジー
頭の足りない王子とその婚約者はよく「これだから平民は…」「平民のくせに…」とおっしゃられるのですが…
私が平民だとどこで知ったのですか?
晴れて国外追放にされたので魅了を解除してあげてから出て行きました [完]
ラララキヲ
ファンタジー
卒業式にて婚約者の王子に婚約破棄され義妹を殺そうとしたとして国外追放にされた公爵令嬢のリネットは一人残された国境にて微笑む。
「さようなら、私が産まれた国。
私を自由にしてくれたお礼に『魅了』が今後この国には効かないようにしてあげるね」
リネットが居なくなった国でリネットを追い出した者たちは国王の前に頭を垂れる──
◇婚約破棄の“後”の話です。
◇転生チート。
◇ふんわり世界観。ゆるふわ設定。
◇なろうにも上げてます。
◇人によっては最後「胸糞」らしいです。ごめんね;^^
◇なので感想欄閉じます(笑)
冷遇妻に家を売り払われていた男の裁判
七辻ゆゆ
ファンタジー
婚姻後すぐに妻を放置した男が二年ぶりに帰ると、家はなくなっていた。
「では開廷いたします」
家には10億の価値があったと主張し、妻に離縁と損害賠償を求める男。妻の口からは二年の事実が語られていく。
【完結】そして、誰もいなくなった
杜野秋人
ファンタジー
「そなたは私の妻として、侯爵夫人として相応しくない!よって婚約を破棄する!」
愛する令嬢を傍らに声高にそう叫ぶ婚約者イグナシオに伯爵家令嬢セリアは誤解だと訴えるが、イグナシオは聞く耳を持たない。それどころか明らかに犯してもいない罪を挙げられ糾弾され、彼女は思わず彼に手を伸ばして取り縋ろうとした。
「触るな!」
だがその手をイグナシオは大きく振り払った。振り払われよろめいたセリアは、受け身も取れないまま仰向けに倒れ、頭を打って昏倒した。
「突き飛ばしたぞ」
「彼が手を上げた」
「誰か衛兵を呼べ!」
騒然となるパーティー会場。すぐさま会場警護の騎士たちに取り囲まれ、彼は「違うんだ、話を聞いてくれ!」と叫びながら愛人の令嬢とともに連行されていった。
そして倒れたセリアもすぐさま人が集められ運び出されていった。
そして誰もいなくなった。
彼女と彼と愛人と、果たして誰が悪かったのか。
これはとある悲しい、婚約破棄の物語である。
◆小説家になろう様でも公開しています。話数の関係上あちらの方が進みが早いです。
3/27、なろう版完結。あちらは全8話です。
3/30、小説家になろうヒューマンドラマランキング日間1位になりました!
4/1、完結しました。全14話。
チート幼女とSSSランク冒険者
紅 蓮也
ファンタジー
【更新休止中】
三十歳の誕生日に通り魔に刺され人生を終えた小鳥遊葵が
過去にも失敗しまくりの神様から異世界転生を頼まれる。
神様は自分が長々と語っていたからなのに、ある程度は魔法が使える体にしとく、無限収納もあげるといい、時間があまり無いからさっさと転生しちゃおっかと言いだし、転生のため光に包まれ意識が無くなる直前、神様から不安を感じさせる言葉が聞こえたが、どうする事もできない私はそのまま転生された。
目を開けると日本人の男女の顔があった。
転生から四年がたったある日、神様が現れ、異世界じゃなくて地球に転生させちゃったと・・・
他の人を新たに異世界に転生させるのは無理だからと本来行くはずだった異世界に転移することに・・・
転移するとそこは森の中でした。見たこともない魔獣に襲われているところを冒険者に助けられる。
そして転移により家族がいない葵は、冒険者になり助けてくれた冒険者たちと冒険したり、しなかったりする物語
※この作品は小説家になろう様、カクヨム様、ノベルバ様、エブリスタ様でも掲載しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる