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第6章 異国の地を旅します
第128話 王都に館に帰ってみると
しおりを挟む「おお、これは凄いね、良い景色だ。
自分で飛ぶよりも速いし、何よりも馬車が快適でいいね。」
馬車の窓から外を眺めてアガサさんが感嘆の声を上げました。
今は、王都に向けてヴァイスの引く馬車で大空を飛翔しているところです。
「アガサお婆ちゃんも自分で空を飛ぶの?」
「そうだよ、私もアリィシャちゃんの年の頃に母さんから空を飛ぶ魔法を習ったものだ。
だいたい、あんな辺鄙な所に住んでたら、空でも飛ばんことには買い物もできないだろう。」
「そうなんだ~。
わたしもやっとロッテお姉ちゃんと一緒に屋根の高さまで飛べるようになったんだ。
今は、それ以上高く飛んだらダメって。」
「そうだろうって。
私も大空を飛んで良いと言われたのは十歳を超えた頃だった。
空を飛ぶのは心躍るが、落ちたら死んでしまうからねえ。
十分に修練してからでないと高くは飛ばせられないね。」
「うん、わかっている。ロッテお姉ちゃんにもそう言われているから。
それに、今はこうしてヴァイスの引く馬車で大空をとべるから、それで十分。」
「アリィシャちゃんは物分かりが良くて偉いねえ。
まあ、ただ、アリィシャちゃんがヴァイスに乗れるから十分という気持ちはわかるね。
一度この馬車に乗っちまうと自分で飛ぶのが億劫になるよ。」
空を飛ぶ魔法の話に花を咲かせていましたが、ヴァイスの引く馬車に乗る方が良いと言う事で落ち着いたようです。
今の二人の会話をヴァイスに聞かせてあげたいです。
最近、私達がちょくちょく蒸気機関車の話をするものですから、嫉妬して何かと張り合っていましたので。
きっと、とても機嫌を良くすることでしょう。
「で、ロッテお嬢ちゃん、王都までどの位で着くんだい。」
「ヴァイスにはゆっくり飛んでもらっているので、六時間くらいでしょうか。
昨日、五十マイルを一時間半ほど飛びましたので、王都までは約二百マイルですからそんなものかと。
ヴァイスが本気を出すと凄いのですよ、二百マイルを二時間ほどで飛んでしまいます。
ただ、それだと早すぎてナビゲーターが現在地を見失うのです。」
「ゆっくり飛んで、王都まで六時間だって?
それは蒸気機関車なんかよりはるかに速いね。
早くて、乗り心地も良い、加えて景色も良いとなれば、他のモノには乗れなくなるね。
人前で使えないのが残念だね。」
「ええ、ですから今日も人目に付かないようにサクラソウの丘の裏から館の庭に回り込みます。
疎林があるので、視線を遮ってくれるのです。」
結局、途中で昼食とお花摘み休憩を取ったので、王都の館に着いたのは夕暮れ時になりました。
七時間くらいかかったことになります。仕方ないではないですか、自然が呼んでいるのですから…。
**********
「へ~、これがロッテお嬢ちゃんの館かい…。
凄い豪邸だね、まるで宮殿じゃないか。
さすが、一国の王様だねえ。」
馬車から降りたアガサさんが館を見上げて言いました。
宮殿は言い過ぎですが、驚くのも無理がない広い庭を備えた大きな館です。
なにより、ステラちゃんが精魂込めてメンテナンスしてくれていたので、とても保存状態が良いのです。
「築百年以上の建物だそうですが、ステラちゃんが維持していたのでとても新しく見えるのです。
古びて見えないので、なおさら立派に見えるのだと思います。
さあ、どうぞ。中に入ってください。」
私がアガサさんを館の中にいざなうと、
「よう、帰ったのかい。
お帰り、ロッテちゃん。
どうだった、この国の旅は?」
私の帰りに気付いたブラウニーの代表、例の風来坊のブラウニーがフヨフヨと出迎えに飛んできました。
この子も名前がないと不便ですね、考えておきましょう。
「ただいま。
ええ、とっても楽しい旅だったわ。
お留守番してもらって有り難うね。」
「良いってことよ。
わたしらブラウニーにとって家の世話は習性みたいなものさ。
ステラちゃん、久しぶりに見た外の世界はどうだった。」
留守番の労をねぎらう私に答えた風来坊のブラウニーは、今度はステラちゃんに声を掛けました。
「百年の時の流れって凄いですね。
風景が一変していてとても驚いた…、たまには外の様子を見に出かけるのも良いですね。」
「そうかい、そいつは良かった。
留守中の屋敷の管理は完璧にしておいたから安心しな。
バラ園は最高のコンディションさ、後で見て来れば良い。
この屋敷もわたしらの数が増えたことだし、交替で外の空気を吸いに行くことにしよう。
わたしゃ、この国の中を見て歩くのが楽しみなのさ。
ステラちゃんもたまには気分転換に出かければ良いさ。」
風来坊のブラウニーは楽し気に答えたステラちゃんに満足げに頷き、気風良くそう言いました。
何と言うか、姉後肌なんですね…。
すると、
「ロッテお嬢ちゃんと一緒にいると驚かされることばかりだね。
私はブラウニーがこんなにフレンドリーだなんて知らなかったわ。
こんにちは、ブラウニーさん。
私はアガサ、これからロッテお嬢ちゃんのお世話になることになったの。
肩の上にいるココ共々よろしくね。」
私とブラウニーたちの会話を聞いていたアガサさんが、風来坊のブラウニーの人懐っこさに驚きつつ挨拶の声を掛けます。
そうですよね、ブラウニーって、あまり人前に姿を現さない印象がありますよね。
「人が増えて賑やかになるのは大歓迎だ。
植物の精霊が一緒なんだね、精霊が懐く人間に悪い奴はいないから安心だね。
アガサさんに、ココちゃんだね、こちらこそよろしく頼むよ。」
風来坊のブラウニーはそう言って、カカカと笑いました。
え~と、この子は特別だと思います…。私もこんなに気風の良いブラウニーは初めて見ましたもの。
他の子はみんな、もっとシャイな感じです。
**********
さて、ブラウニーとの話も済んで、リビングルームに腰を落ち着けた私は当面の予定をアガサさんに説明します。
「私達は、この後、蒸気船の視察を行いますので、一週間程度はこの国に留まる予定です。
その間、アガサさんにはこの館で休息していただいても結構ですし、アルムハイムの館で休息して頂いても構いません。
もちろん、お疲れでなければ、私達と一緒に視察に加わって頂いても結構です。」
私は、この館からアルムハイムの館まで転移魔法ですぐに行くことができることや明け方ハーブ畑の世話をするために短時間アルムハイムへ戻ることも話しました。
また、蒸気船の視察以外の予定も説明しておきます。
雇い入れたオークレフトさんの合流を待たねばならないことやミリアム首相にお礼を兼ねて挨拶に行かないとならないことなどですね。
「そうだね、明日の明け方はアルムハイムの館へ一緒させてもらえるかい。
私もそのハーブ畑の世話を手伝うよ。
それと、首相閣下への挨拶は別として、ロッテお嬢ちゃんと一緒に行動させてもらおうかね。
ボウッとして休んでいるより、そっちの方が楽しそうだ。」
そうですか、ではしばらく一緒に行動してもらいましょうか。
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