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第6章 異国の地を旅します
第110話 一人暮らしは負担が大きかったようです
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こうして、アガサさんがリーナの許に来ることとなりました。
しかし、さっきココが気になることを言っていましたね。
「アガサさん、何処か具合が悪いのですか?
さっき、ココちゃんがアガサさんの体が弱ってきていると言っていましたが。」
「いや、ココが大袈裟に気にしているだけだよ。
歳だよ、歳、もう歳のせいで足腰が痛むようになっているだけだよ。」
私の問い掛けにアガサさんは笑いながら答えますが。
「そんなことないよ!
御ばば、最近畑に出るのもしんどそうじゃない。」
どうやら、アガサさんは足腰が痛むようですね。
ここは、アクアちゃんに出張ってもらいましょうか。
「アクアちゃん、ちょっと良いかな。」
「はい、何でしょうか?」
他の精霊達とお菓子を食べていた水の精霊アクアちゃんが静々とテーブルの上を歩いてきました。
「アガサさんの体調が少し良くないようなのだけど見てもらえるかな。」
私がお願いするとアクアちゃんは「承知しました。」と返答しジッとアガサさんを見つめます。
しばらく、アガサさんを凝視した後、
「特にお病気のようではないみたいです。
ですが、大分疲労が溜まっているようでございますね。
やはり、このような場所での一人暮らしは体にご負担が大きいのではございませんか。
私が『癒し』を施しておきますので、具合の悪いところは治ると思います。」
そういうと、アクアちゃんが生み出した仄かに青い光がアガサさんの体を包みました。
「なんだい、この光は…。
柔らかく体に染み込んでいくような不思議な感じだね。
なんか、体の中から温かくなるような、そんな…。」
アガサさんは言葉で説明できないような感覚に、心地良さそうに目を細めました。
ほどなくして、アクアちゃんの作り出した光がアガサさんの体に吸い込まれるようにして消えたあと。
「おや、体が軽くなったよ。
足腰の痛みが嘘のように無くなっているわ。
それに、肩の痛みも取れているよ、なんか若い頃に戻ったような気分だよ。」
アガサさんは椅子から立ち上がると数回体を曲げ伸ばしし、驚きの声を上げます。
そして、
「アクアちゃんと言ったかい、有難うね。
もう歳だから仕方がないと諦めていたんだ、本当に助かるよ。
これなら、リーナお嬢ちゃんのとこで、もう一働きも二働きも出来そうだよ。」
アガサさんは相好を崩してアクアちゃんに感謝の言葉をかけました。
「私の相棒のココもとても頼りになるけど、ロッテの契約している精霊は輪をかけて凄いね。
これはもう奇跡と言われる類のものだよ。
こんなの聖教の連中に知られたら放っておいてくれないだろう。」
ええ、アクアちゃんは本当に凄いのです。
でも、分野が違うだけでココちゃんだって十分奇跡と言える力を振るうのですよ。
もしかして、アガサさんは見ていないのかしら。一日で種から大根を作るとか…。
「ええ、ですから、先手を打って聖教の総本山で奇跡を披露してきました。
大聖堂に祈りに訪れた体の不自由な方々をまとめて治癒させたのです。
私達は姿を隠して、あたかも聖教の神の使いが奇跡を起こしたかのように演出してきました。
聖教に恩を売って共存を図っているのです。」
聖教としては自分達の支配下にない者が奇跡のような力を振るうと困るのです。
自分達が行使できないような奇跡の力を、信仰が異なる者が振るえるとなると自分たちに対する信仰が揺るぎます。
この場合、聖教がとりうる手立ては二つ、自分達に取り込んでしまうか、異端として排除してしまうか。
どちらも困るので、奇跡を聖教の手柄にしてあげて、自分は息をひそめていることにしているのです。
「なんだい、若いのになかなか強かなんだね。
まあ、さっき聞いた話ではあんたのご先祖も強かに迫害を乗り切ってきたようだし、血かね。」
アガサさんはそう言って呆れ半分に感心していました。
**********
「でも、あんたら、若いのに凄い行動力だね。
工場を見るためにこんな遠い国までわざわざやってくるなんて、十五の娘のする事とは思えないよ。
しかも、二人とも王族だろう。
こう言ったらなんだけど、工場なんて王族の姫様が見るような奇麗な場所ではないよ。」
アガサさんは工場の視察など誰か配下の者を使ってさせるものではないかと言います。
たしかに、国なり、領地なりの正式な事業としてするならそうなのでしょう。
でも、まだ私達の思い付きで動いている段階ですし、そもそもリーナに至っては領地にいることになっています。
「実は、私、自分の領地から出ていないことになっているのです。
王族が国外に出かけるとなると色々と手続きが大変で…。」
「ああ、どういう事だい?」
アガサさんはリーナの言葉が理解できないようです。
リーナは転移魔法の事を言って良いのか判断できず、私の方を見ました。
「リーナは昨日、領地を出てこの国にやって来たんです。
アガサさんにも知っておいて頂いた方が良いと思うので話しておきます。
実は、私は転移の魔法というものが使えるのです。
それを使えば、瞬時にアルムハイムの館とこの国に購入した館の間を行き来できます。
アガサさんがリーナの領地へ行く時も転移の魔法を使うことになります。
で、リーナは領地の者にアルビオン王国へ行くとは言っておらず、私の所に泊まりに行くと言ってあるのです。
ですから、リーナがアルビオン王国に来ていると知っている者は領地にはいないのです。
そもそも、アルビオン王国へ視察に行こうというのは私の思い付きで、リーナの領地の正式な事業と言う訳ではないのですから。」
「呆れた、一国のお姫様がお忍びでこんな遠くまで来たのかい。
しかし転移の魔法というのは凄いもんだね。
アルム山脈の麓からこの国まであっという間に来られるのかい。
私の一族に残されている魔法にはそんなすごい魔法はなかったよ。」
「ええ、そのおかげで、わずかな期間を不在にするだけでこうして視察に来ることができます。
まだ、領地として正式に取り組むかどうか決まっていないことなので、配下の者を遣わす訳にもいかなかったものですから。
まずは自分の目で見て、私の領地でもこの国のような工場を作ることが出来るかどうかを探りたかったのです。」
アガサさんはリーナの行動に呆れていましたが、リーナの言葉を聞いて考えを改めたようです。
「さっき言っていた、領民の教育と並ぶもう一つの柱、雇用の場の創出ってやつだね。
あんた、良い領主になるよ。
若いのに領民のためにわざわざここまで出向いてくるとは見上げたもんだ。
それなら、この国の最新の工場を見てよく考えれば良い。
隅々まで、良く見てきな、良い事ばかりでないことが分かるから。
それをどうやって良いとこ取りするかを考えるんだね。」
アガサさんは何か問題点をご存じのようです。
それを自分の目で見て確かめろと言うのですね。
**********
そして、翌朝。
「では、工場を視察した後、こちらに迎えに上がります。
それまでに、荷造りをしておいてくださいね。
その日のうちにアルムハイムにある私の館に荷物は送ってしまいます。
アガサさんは私達と一緒に王都の館まで馬車で行きますので。」
私は昨晩打ち合わせしたことをアガサさんに念押しをしました。
「ああ、わかっているよ。
転移の魔法でその日のうちにロッテの館まで荷物を送ってくれるのだろう。
しかし、本当に凄い魔法だね。
この家の荷物を全部アルム山脈の麓にあるロッテの館まで送ってしまうと言うのだから。
天馬に乗って王都まで空を飛ぶなんて楽しみだね。
年甲斐もなくワクワクするよ。
荷造りして待っているから、気を付けて行ってくるんだよ。」
そう言って手を振るアガサさんに見送られて、私達はアポイントをとった工場のあるモンテスターの町に向かったのです。
しかし、さっきココが気になることを言っていましたね。
「アガサさん、何処か具合が悪いのですか?
さっき、ココちゃんがアガサさんの体が弱ってきていると言っていましたが。」
「いや、ココが大袈裟に気にしているだけだよ。
歳だよ、歳、もう歳のせいで足腰が痛むようになっているだけだよ。」
私の問い掛けにアガサさんは笑いながら答えますが。
「そんなことないよ!
御ばば、最近畑に出るのもしんどそうじゃない。」
どうやら、アガサさんは足腰が痛むようですね。
ここは、アクアちゃんに出張ってもらいましょうか。
「アクアちゃん、ちょっと良いかな。」
「はい、何でしょうか?」
他の精霊達とお菓子を食べていた水の精霊アクアちゃんが静々とテーブルの上を歩いてきました。
「アガサさんの体調が少し良くないようなのだけど見てもらえるかな。」
私がお願いするとアクアちゃんは「承知しました。」と返答しジッとアガサさんを見つめます。
しばらく、アガサさんを凝視した後、
「特にお病気のようではないみたいです。
ですが、大分疲労が溜まっているようでございますね。
やはり、このような場所での一人暮らしは体にご負担が大きいのではございませんか。
私が『癒し』を施しておきますので、具合の悪いところは治ると思います。」
そういうと、アクアちゃんが生み出した仄かに青い光がアガサさんの体を包みました。
「なんだい、この光は…。
柔らかく体に染み込んでいくような不思議な感じだね。
なんか、体の中から温かくなるような、そんな…。」
アガサさんは言葉で説明できないような感覚に、心地良さそうに目を細めました。
ほどなくして、アクアちゃんの作り出した光がアガサさんの体に吸い込まれるようにして消えたあと。
「おや、体が軽くなったよ。
足腰の痛みが嘘のように無くなっているわ。
それに、肩の痛みも取れているよ、なんか若い頃に戻ったような気分だよ。」
アガサさんは椅子から立ち上がると数回体を曲げ伸ばしし、驚きの声を上げます。
そして、
「アクアちゃんと言ったかい、有難うね。
もう歳だから仕方がないと諦めていたんだ、本当に助かるよ。
これなら、リーナお嬢ちゃんのとこで、もう一働きも二働きも出来そうだよ。」
アガサさんは相好を崩してアクアちゃんに感謝の言葉をかけました。
「私の相棒のココもとても頼りになるけど、ロッテの契約している精霊は輪をかけて凄いね。
これはもう奇跡と言われる類のものだよ。
こんなの聖教の連中に知られたら放っておいてくれないだろう。」
ええ、アクアちゃんは本当に凄いのです。
でも、分野が違うだけでココちゃんだって十分奇跡と言える力を振るうのですよ。
もしかして、アガサさんは見ていないのかしら。一日で種から大根を作るとか…。
「ええ、ですから、先手を打って聖教の総本山で奇跡を披露してきました。
大聖堂に祈りに訪れた体の不自由な方々をまとめて治癒させたのです。
私達は姿を隠して、あたかも聖教の神の使いが奇跡を起こしたかのように演出してきました。
聖教に恩を売って共存を図っているのです。」
聖教としては自分達の支配下にない者が奇跡のような力を振るうと困るのです。
自分達が行使できないような奇跡の力を、信仰が異なる者が振るえるとなると自分たちに対する信仰が揺るぎます。
この場合、聖教がとりうる手立ては二つ、自分達に取り込んでしまうか、異端として排除してしまうか。
どちらも困るので、奇跡を聖教の手柄にしてあげて、自分は息をひそめていることにしているのです。
「なんだい、若いのになかなか強かなんだね。
まあ、さっき聞いた話ではあんたのご先祖も強かに迫害を乗り切ってきたようだし、血かね。」
アガサさんはそう言って呆れ半分に感心していました。
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「でも、あんたら、若いのに凄い行動力だね。
工場を見るためにこんな遠い国までわざわざやってくるなんて、十五の娘のする事とは思えないよ。
しかも、二人とも王族だろう。
こう言ったらなんだけど、工場なんて王族の姫様が見るような奇麗な場所ではないよ。」
アガサさんは工場の視察など誰か配下の者を使ってさせるものではないかと言います。
たしかに、国なり、領地なりの正式な事業としてするならそうなのでしょう。
でも、まだ私達の思い付きで動いている段階ですし、そもそもリーナに至っては領地にいることになっています。
「実は、私、自分の領地から出ていないことになっているのです。
王族が国外に出かけるとなると色々と手続きが大変で…。」
「ああ、どういう事だい?」
アガサさんはリーナの言葉が理解できないようです。
リーナは転移魔法の事を言って良いのか判断できず、私の方を見ました。
「リーナは昨日、領地を出てこの国にやって来たんです。
アガサさんにも知っておいて頂いた方が良いと思うので話しておきます。
実は、私は転移の魔法というものが使えるのです。
それを使えば、瞬時にアルムハイムの館とこの国に購入した館の間を行き来できます。
アガサさんがリーナの領地へ行く時も転移の魔法を使うことになります。
で、リーナは領地の者にアルビオン王国へ行くとは言っておらず、私の所に泊まりに行くと言ってあるのです。
ですから、リーナがアルビオン王国に来ていると知っている者は領地にはいないのです。
そもそも、アルビオン王国へ視察に行こうというのは私の思い付きで、リーナの領地の正式な事業と言う訳ではないのですから。」
「呆れた、一国のお姫様がお忍びでこんな遠くまで来たのかい。
しかし転移の魔法というのは凄いもんだね。
アルム山脈の麓からこの国まであっという間に来られるのかい。
私の一族に残されている魔法にはそんなすごい魔法はなかったよ。」
「ええ、そのおかげで、わずかな期間を不在にするだけでこうして視察に来ることができます。
まだ、領地として正式に取り組むかどうか決まっていないことなので、配下の者を遣わす訳にもいかなかったものですから。
まずは自分の目で見て、私の領地でもこの国のような工場を作ることが出来るかどうかを探りたかったのです。」
アガサさんはリーナの行動に呆れていましたが、リーナの言葉を聞いて考えを改めたようです。
「さっき言っていた、領民の教育と並ぶもう一つの柱、雇用の場の創出ってやつだね。
あんた、良い領主になるよ。
若いのに領民のためにわざわざここまで出向いてくるとは見上げたもんだ。
それなら、この国の最新の工場を見てよく考えれば良い。
隅々まで、良く見てきな、良い事ばかりでないことが分かるから。
それをどうやって良いとこ取りするかを考えるんだね。」
アガサさんは何か問題点をご存じのようです。
それを自分の目で見て確かめろと言うのですね。
**********
そして、翌朝。
「では、工場を視察した後、こちらに迎えに上がります。
それまでに、荷造りをしておいてくださいね。
その日のうちにアルムハイムにある私の館に荷物は送ってしまいます。
アガサさんは私達と一緒に王都の館まで馬車で行きますので。」
私は昨晩打ち合わせしたことをアガサさんに念押しをしました。
「ああ、わかっているよ。
転移の魔法でその日のうちにロッテの館まで荷物を送ってくれるのだろう。
しかし、本当に凄い魔法だね。
この家の荷物を全部アルム山脈の麓にあるロッテの館まで送ってしまうと言うのだから。
天馬に乗って王都まで空を飛ぶなんて楽しみだね。
年甲斐もなくワクワクするよ。
荷造りして待っているから、気を付けて行ってくるんだよ。」
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