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第5章 渡りに船と言いますが…

第93話 おじいさまは心配性?

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 昼食後、大使館に用意された部屋に戻って来た私はカーラに言いつけました。

「カーラ、私はこれから今日のことをおじいさまに報告に行ってきます。
 カーラはここに残って、誰かが部屋に訪ねてきたら、私は疲れて眠っていると答えるのです。
 私からは起こすなと指示されているとして、用件は後日に改めてもらうように伝えてください。」

 魔法を使って帝都まで行きますが、大使館の方には知られたくありません。
 カーラを残していけば、その辺は上手くやるでしょう。
 その辺はヘレーナさんに如才なく躾けられています。

 そうして私はアルムハイムの館を経由して帝都の皇宮に転移したのです。

 帝都の皇宮、私の母の部屋に着いて呼び鈴を鳴らしてハタと気付きました。
 しまった、私付きの侍女のベルタさんは私の館に滞在しているのだったと。

 心配してしましたが、そこは皇宮、如才なく他の侍女が迎えに来てくれます。
 私がおじいさまに面会したい旨を伝えるとすぐに取り次いでもらえました。
 
 しばらくして、廊下をバタバタとせわしなく歩く音が聞こえてきました。
 そして、ノックもなく扉がひられ、…。

「ロッテや、良くぞ参った。
 久しいな。
 中々顔を見せてくれんと、寂しかったぞ。」

 扉が開かれるや否や、おじいさまの声が部屋に響きました。

 いえ、一月ほど前にあったばかりですし、だいたい初めてお会いしたのが二ヶ月前ではないですか。
 それに私はアルビオン王国にいることになっています。
 本来ならば、私はここにいるはずがないのですが。

「ごきげんよう。おじいさま。
 歓迎してくださるのは嬉しいのですが、まずは用件を片付けませんと。」

「おうそうじゃった。
 その様子だと無事にアルビオン王国には着いたようであるな。
 して、もう親書は首相の許に届けたのであるか?」

「はい、届けたには届けたのですが…。
 親書を手渡すにあたって、私の一存で個人的に手土産をお渡ししたのですがよろしかったでしょうか?」

「ふむ?手土産とな?
 いや別に、先方を不愉快にするようなモノで無ければ手土産を持参するくらい一向にかまわんが?
 なんだ、そなたの領地特産のハーブの精油でも持って行ったか?
 あれは帝都の貴族の間でも評判が良いからのう。」

「いえ、戦列艦と呼ばれるクラスの軍艦一隻とその乗員、それと提督を一名です。」

「はっ?」

 何を言っているのか分からないという顔つきになったおじいさまに私は戦列艦を手に入れた経緯を説明しました。

「なんと、そなたを慰み者にしようと船を襲撃してきたとな。
 可愛い孫の純潔を奪おうとするなんてけしからん奴だ。
 慰み者にする若い女を手に入れるために、作戦行動中に民間船を襲撃するだと?
 そんなならず者のような軍隊など許しておけん、我が軍を差し向けて成敗してくれようぞ。」

 いえ、おじいさま、弱兵のこの国がセルベチアに勝ち目がないからアルビオン王国に助けを求めたのでしょう。
 ヘッポコの軍隊を送り込んでも返り討ちにされるのが目に見えていますよ。
 第一、内陸国のおじいさまの国は海軍など持っていないでしょうに。

「おじいさま、落ち着いてください。
 私は無事でしたし、セルベチアの艦隊は粗方私が沈めてしまいました。
 アクデニス海艦隊はほぼ壊滅状態で、アクデニス海の制海権を維持するのが難しいみたいですよ。 
 第一、それが良い手土産になったのです。」

 親書を手渡した時点ではミリアム首相が帝国との同盟締結に消極的な姿勢を見せていたことを、私はおじいさまに告げました。
 その理由が議会の承認を得るのが難しいだろうとの推測にあることも含めて。

 それが、私の手土産一つでひっくり返ったのですから、襲撃されたのは天からマナが降ってきたようなものです。
 私は、私達を襲撃したセルベチアの艦隊がアルビオン王国に奇襲攻撃を掛けるために行動していたことを話しました。
 そして、提督の証言からセルベチアがアルビオン王国に戦意を抱いていることが明確になったこと、それによって首相が議会を説得し易くなったことをおじいさまに説明したのです。

「それで、アルビオン王国のミリアム首相は同盟締結に前向きに取り組むと約束してくれたのか。
 ロッテや、そなた、大手柄であるぞ。
 これは身内の処理ではなく、きちんとした褒賞にせねばならぬな。」

 おじいさまはアクデニス海艦隊の母港に諜報関係の人を調査に送るそうです。
 その損害状況に応じて帝国政府から私に正式な褒賞がいただけるようです。
 今回はセルベチア軍の侵攻を阻んだ時より褒賞が大きくなるだろうから期待していろと言われました。
 アルビオン王国の王都に土地建物を買う資金がそれで賄えそうですね。これは儲けました。

「しかし、困ったことになったな。
 ロッテの能力がアルビオン王国の知る所になってしまったか…。」

 今までの上機嫌な表情とは打って変わって、おじいさまの顔つきに陰りが生じました。

「やはり、私の魔法が知られてしまうのは拙かったですか。
 魔女の存在が脅威とみなされ、いらぬ警戒を持たれてしまいますか?」

「そんなことでない。
 ロッテのような美しい娘が特異な能力を持つと知れたら、ぜひ嫁にという話が出てきてしまうではないか。
 可愛い孫をアルビオン王国などにさらわれたくはないわ。
 まさか、ミリアム首相にロッテと年周りの近い息子はおらんだろうな。」

 何という、親バカ、いえこの場合は爺バカと言うのでしょうか…。
 おじいさまは何故に私をこんなに溺愛するでしょうか、先日会ったばかりだというのに。

 でも確かに、脅威となり得る存在なら取り込んでしまえという発想は為政者であれば考えそうですね。
 ミリアム首相関しては、私がアルムハイムを離れるつもりはないと伝えてあるので、その心配はなさそうですが。

 祖母様も母も結婚しなかったのは、魔女の力を一族に取り込んで利用しようという勢力を警戒しての事かも知れませんね。

 話の最後におじいさまがポツリと言いました。

「しかし、争いを好まないロッテには申し訳ないことをしたな。
 艦隊を一つ壊滅させるなんて仕事をさせてしまって。」

「いいえ、おじいさま。
 確かに、私達は代々争いを好まず、戦うために魔法を使う事は忌避しています。
 しかし、先日のセルベチア軍の侵攻阻止みたいに、争いを未然に防ぐために魔法を使うのは躊躇いません。
 今回だって、艦隊の目的が戦争を仕掛けるためと聞いたので殲滅を躊躇わなかったのです。」

 確かに、私の一族は争いを好まず、魔法で人を傷つけることを忌避しています。
 今回は軍艦同士の衝突でケガをした人は出たと思いますが、おそらく死者は出ていないはずです。
 軍艦が衝突してから沈むまでに大分時間がかかったし、次々と救助されていましたから。 
 開戦により多くの人が死傷することを未然に防いだと考えれば許容範囲かと私は思ってるのです。

 それに、前回に至ってはセルベチア軍に死者はおろか負傷者も一人も出ていないですからね。

 私がそう告げるとおじいさまはホッとしたような表情を見せてくれました。
 こうして、おじいさまに対する報告を終えた私は次の目的地に飛んだのです。


 *天からマナが降ってきた(manna from heaven)=棚からぼたもち
 
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