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第5章 渡りに船と言いますが…
第76話 相互理解は大切です
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さて、入浴から戻って来た二人、どう見ても良く似た姉妹です。
特にシャル君は、美しい金髪に卵型の整った輪郭、その小さな顔にはきれいな線を描く鼻梁とやや垂れ目の大きな目が配され、どこから見ても文句なしの美少女です。
この子が男の子だなんて今でも信じられません。
「シャルちゃんが男の子だったなんて思いもしませんでした。
その姿はセルベチア共和国からの追手の目を欺くためですか?」
目の前に座る二人に私は率直に尋ねました。
「シャルが妹だと偽っていたことはお詫び申し上げます。
おっしゃる通り、セルベチア共和国の追手から逃れるためでもあるのですが。
実はシャルは幼少の時から女の子として育てられてきたのです。
セルベチアにある一種の迷信なのですが…。」
フランシーヌさんの話によると、シャル君は生まれつき体が弱く、頻繫に発熱したりお腹を壊したりしていたそうです。
セルベチアにある土着の迷信に、体の弱い男の子は女の子として育てると無事に育つというものがあるとのことです。
なんでも、その迷信では病魔が女の子は見逃してくれるのだそうです。
迷信と分かっていても縋るくらいシャル君は体が弱かったようで、ずっと女の子として育てられてきたとのことです。
「まあ、そうでしたの。
それで、私はこれから宮廷に赴き然るべき人にお二人のことを相談しようかと考えています。
申し訳ないけど、お二人のもう少し詳しい身の上を聞かせてもらえますか?」
「わかりました、私は先程名乗った通りです。
ベルホン王家に繋がるカンティ公爵家の長女で、現在、十三歳です。
母は王家から嫁いできました。革命で弑された国王の妹です。
そして、祖母はその先代の王妃で、マリア・ルイーズ・ド・ベルホンと申します。
祖母は帝国から嫁いできたのです。
横におります弟の名はシャルル=ルイ・ド・ベルホン=カンティです。
現在十歳で革命の半年ほど前に生まれております。
革命当時の王位継承権は第九位でした。
そして現在、仮に王制を取り戻せたとすると王位継承権は第一位になります。」
シャル君の王位継承権はそんなに高いのですか。
フランシーヌさんがセルベチア共和国の動きを警戒するのも納得です。
セルベチア共和国としては、そんな火種になりそうな人物を野放しにしておく訳にはいかないでしょう。
それにしても、フランシーヌさんはあの胸で十三歳ですか…、もう少し年上かと思っていました。
いえ、羨ましくなどありませんよ。女の価値は胸ではありませんから……。
「そのくらい分かれば良いでしょう。
私はこれから宮廷に行っておじいさまにお二人の処遇について相談してまいります。
お二人の処遇が決まるまでは余り目立たない方が良いかと思いますので、それまではここに滞在して頂きます。
おそらく、ここより安全な場所はないと思いますので。」
「そのおじいさまとはいったい?
私達の存在が多くの方に知られてしまうのは困ります。
出来れば皇室の方に直接ご相談頂ければ有り難いのですが。」
フランシーヌさんの心配はもっともです。
帝国とセルベチアは過去から犬猿の仲、セルベチア王室の生き残りに同情的とは限らないのです。
むしろ、最初の私のようにセルベチアとの火種になるなら放り出そうと考える人の方が多いでしょう。
「安心してください。
おじいさまと言うのは、現帝国皇帝のフランツおじいさまです。」
「皇帝って…、シャルロッテさん、あなた、皇帝のお孫さんですの?
じゃあ、シャルロッテさんも皇族なのですか?
ご助力を頂戴している身で立ち入ったことを伺うのは失礼だと思い尋ねなかったのですが。
なぜ、中立国の姫が、帝国の皇族の方の館で我が家のように寛いでいらっしゃるのですか?」
ほう、さすが公爵家のご令嬢、わずか十三歳でも近隣の王家の家名はご存じでしたか。
私がこれから宮廷に行くと、近所に出かけるかのように言ったこともあるのでしょう。
ここを帝都か、その近くかと勘違いしているみたいです。
確かに、帝都辺りの皇族の館で中立国の姫が寛いでいたらあまり良くないかも知れませんね。
「う~ん、おじいさまの血は引いているけど、皇族ではありませんね。
庶子?とでも言えば良いのですかね?
私もほんの十日ほど前まで自分が皇帝の孫だなんて知りませんでした。
リーナはここの隣の領地の領主なのですよ、中立国とか政治的な事は関係ない近所づきあいです。
ここは、帝都からも、リーナの国の王都からも遠く離れた場所なのですよ。」
「はあ?」
「そこの窓から外を見てご覧なさい。」
事情が呑み込めないフランシーヌさんに私は窓の方を指さして告げました。
今はまだ四月上旬、日の光を受けて白銀に輝くアルム山脈の峰々が窓の外に連なっています。
「何処、ここ…。」
フランシーヌさんは窓辺の景色を見て絶句しています。
「ここは、あなたの母国セルベチアとアルム山脈を挟んだ反対側にある私の国アルムハイム伯国。
そして、私が当代のアルムハイム伯です。」
「すごい…、あの海の上から一瞬でこんな内陸部まで移動していたのですか。
シャルロッテさんの使う魔法というのは想像を絶するものなのですね。」
フランシーヌさんは目に映るアルム山脈の景色をみて、私が使った転移魔法のすごさを再認識したようです。
「ええ、その転移魔法を使ってこれから帝都までお二人の処遇について相談しに行って参ります。
私が不在の間は、先程の侍女カーラがお二人のお世話をさせて頂きますので、何かあったら気軽に言ってください。」
そこまで言って、私は一つ忘れていることに気が付きました。
私は別のテーブルで絵本を読んでいたアリィシャちゃんを呼びました。
「紹介するのを忘れていたわね。
この子は私が保護しているアリィシャちゃんと言います。
私の妹だと思って接してくださいね。」
アリィシャちゃんはこの大陸では下に見られがちな異民族の子です。使用人と間違われたら困ります。
「アリィシャと申します。よろしくお願いします。」
そう言って行儀正しく二人に頭を下げるアリィシャちゃんに、フランシーヌさん達も好感を抱いたようです。
「私はフランシーヌ、隣にいるのは弟のシャルルです。
しばらくお世話になりますのでよろしくね、アリィシャちゃん。」
フランシーヌさんは相好を崩してアリィシャちゃんに挨拶を返していました。
では、おじいさまに相談に行くこととしましょうか。
*お読み頂き有難うございます。
本日20時にも続きを1話投稿しますので引き続きお読み頂けたら幸いです。
特にシャル君は、美しい金髪に卵型の整った輪郭、その小さな顔にはきれいな線を描く鼻梁とやや垂れ目の大きな目が配され、どこから見ても文句なしの美少女です。
この子が男の子だなんて今でも信じられません。
「シャルちゃんが男の子だったなんて思いもしませんでした。
その姿はセルベチア共和国からの追手の目を欺くためですか?」
目の前に座る二人に私は率直に尋ねました。
「シャルが妹だと偽っていたことはお詫び申し上げます。
おっしゃる通り、セルベチア共和国の追手から逃れるためでもあるのですが。
実はシャルは幼少の時から女の子として育てられてきたのです。
セルベチアにある一種の迷信なのですが…。」
フランシーヌさんの話によると、シャル君は生まれつき体が弱く、頻繫に発熱したりお腹を壊したりしていたそうです。
セルベチアにある土着の迷信に、体の弱い男の子は女の子として育てると無事に育つというものがあるとのことです。
なんでも、その迷信では病魔が女の子は見逃してくれるのだそうです。
迷信と分かっていても縋るくらいシャル君は体が弱かったようで、ずっと女の子として育てられてきたとのことです。
「まあ、そうでしたの。
それで、私はこれから宮廷に赴き然るべき人にお二人のことを相談しようかと考えています。
申し訳ないけど、お二人のもう少し詳しい身の上を聞かせてもらえますか?」
「わかりました、私は先程名乗った通りです。
ベルホン王家に繋がるカンティ公爵家の長女で、現在、十三歳です。
母は王家から嫁いできました。革命で弑された国王の妹です。
そして、祖母はその先代の王妃で、マリア・ルイーズ・ド・ベルホンと申します。
祖母は帝国から嫁いできたのです。
横におります弟の名はシャルル=ルイ・ド・ベルホン=カンティです。
現在十歳で革命の半年ほど前に生まれております。
革命当時の王位継承権は第九位でした。
そして現在、仮に王制を取り戻せたとすると王位継承権は第一位になります。」
シャル君の王位継承権はそんなに高いのですか。
フランシーヌさんがセルベチア共和国の動きを警戒するのも納得です。
セルベチア共和国としては、そんな火種になりそうな人物を野放しにしておく訳にはいかないでしょう。
それにしても、フランシーヌさんはあの胸で十三歳ですか…、もう少し年上かと思っていました。
いえ、羨ましくなどありませんよ。女の価値は胸ではありませんから……。
「そのくらい分かれば良いでしょう。
私はこれから宮廷に行っておじいさまにお二人の処遇について相談してまいります。
お二人の処遇が決まるまでは余り目立たない方が良いかと思いますので、それまではここに滞在して頂きます。
おそらく、ここより安全な場所はないと思いますので。」
「そのおじいさまとはいったい?
私達の存在が多くの方に知られてしまうのは困ります。
出来れば皇室の方に直接ご相談頂ければ有り難いのですが。」
フランシーヌさんの心配はもっともです。
帝国とセルベチアは過去から犬猿の仲、セルベチア王室の生き残りに同情的とは限らないのです。
むしろ、最初の私のようにセルベチアとの火種になるなら放り出そうと考える人の方が多いでしょう。
「安心してください。
おじいさまと言うのは、現帝国皇帝のフランツおじいさまです。」
「皇帝って…、シャルロッテさん、あなた、皇帝のお孫さんですの?
じゃあ、シャルロッテさんも皇族なのですか?
ご助力を頂戴している身で立ち入ったことを伺うのは失礼だと思い尋ねなかったのですが。
なぜ、中立国の姫が、帝国の皇族の方の館で我が家のように寛いでいらっしゃるのですか?」
ほう、さすが公爵家のご令嬢、わずか十三歳でも近隣の王家の家名はご存じでしたか。
私がこれから宮廷に行くと、近所に出かけるかのように言ったこともあるのでしょう。
ここを帝都か、その近くかと勘違いしているみたいです。
確かに、帝都辺りの皇族の館で中立国の姫が寛いでいたらあまり良くないかも知れませんね。
「う~ん、おじいさまの血は引いているけど、皇族ではありませんね。
庶子?とでも言えば良いのですかね?
私もほんの十日ほど前まで自分が皇帝の孫だなんて知りませんでした。
リーナはここの隣の領地の領主なのですよ、中立国とか政治的な事は関係ない近所づきあいです。
ここは、帝都からも、リーナの国の王都からも遠く離れた場所なのですよ。」
「はあ?」
「そこの窓から外を見てご覧なさい。」
事情が呑み込めないフランシーヌさんに私は窓の方を指さして告げました。
今はまだ四月上旬、日の光を受けて白銀に輝くアルム山脈の峰々が窓の外に連なっています。
「何処、ここ…。」
フランシーヌさんは窓辺の景色を見て絶句しています。
「ここは、あなたの母国セルベチアとアルム山脈を挟んだ反対側にある私の国アルムハイム伯国。
そして、私が当代のアルムハイム伯です。」
「すごい…、あの海の上から一瞬でこんな内陸部まで移動していたのですか。
シャルロッテさんの使う魔法というのは想像を絶するものなのですね。」
フランシーヌさんは目に映るアルム山脈の景色をみて、私が使った転移魔法のすごさを再認識したようです。
「ええ、その転移魔法を使ってこれから帝都までお二人の処遇について相談しに行って参ります。
私が不在の間は、先程の侍女カーラがお二人のお世話をさせて頂きますので、何かあったら気軽に言ってください。」
そこまで言って、私は一つ忘れていることに気が付きました。
私は別のテーブルで絵本を読んでいたアリィシャちゃんを呼びました。
「紹介するのを忘れていたわね。
この子は私が保護しているアリィシャちゃんと言います。
私の妹だと思って接してくださいね。」
アリィシャちゃんはこの大陸では下に見られがちな異民族の子です。使用人と間違われたら困ります。
「アリィシャと申します。よろしくお願いします。」
そう言って行儀正しく二人に頭を下げるアリィシャちゃんに、フランシーヌさん達も好感を抱いたようです。
「私はフランシーヌ、隣にいるのは弟のシャルルです。
しばらくお世話になりますのでよろしくね、アリィシャちゃん。」
フランシーヌさんは相好を崩してアリィシャちゃんに挨拶を返していました。
では、おじいさまに相談に行くこととしましょうか。
*お読み頂き有難うございます。
本日20時にも続きを1話投稿しますので引き続きお読み頂けたら幸いです。
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