72 / 580
第5章 渡りに船と言いますが…
第71話 言葉が通じないのは何かと不便です
しおりを挟む私は異教徒の国の海賊に取り囲まれて海賊船に乗り移りました。私が連れ去られるのをゲーテ船長は不安げに見つめています。
海賊船の甲板には如何にも海賊という風体の、柄の悪い連中が三十人ほどたむろしていました。
その中の一人、ひげを蓄えた偉そうな男が私を連れてきた連中に何か声をかけると、私の周りで歓声が上がりました。
どうやら、目の前に現れた偉そうな男が海賊船の船長で、私達の船に乗り込んで制圧した人達に褒美の話でもあったようです。
言葉が解らないというのは本当に不便ですね。
「なに?ロッテ、こいつらが何言っているかわからないの~?」
突然、頭の中にブリーゼちゃんの声が響きました。
「へっ?」
咄嗟のことに私は言葉にならない声を発してしまいました。
「ロッテのことをすごい上玉だって、王に献上すれば褒美をたんまり貰えるって。
ロッテを連れてた連中に分け前増やすって言っているよ~。」
なんと、ブリーゼちゃんは異教徒の言葉が解るようです。見かけによらないとはこのことですね。
今度、時間のある時にでも教えてもらおうかしら。
「見かけによらないって、それは失礼じゃないかな~、ロッテ。
風はどこへでも行けるんだよ~、隣の大陸の言葉くらい解るよ~。
それより、良いの?」
「えっ、なに?」
「こいつら、ロッテ気が乗ってきた船のお宝を頂戴するって言っているよ~。
金目の物を運び出せって…。」
どうやら、私の身柄だけでは海賊たちは満足しなかったようです。
仕方がないですね、荒事が起こる前にとっとと片付けてしまいますか。
**********
私はここで一つの実験を試みました。
『武器を海に捨てろ!』
私が突然大きな声を上げたことから、五十人ほど集まっている海賊達の注目が集まりました。
やはり、ダメかと思い、次の手を打とうとしたときのことです。
目の前で偉そうにしている船長らしき男が腰に下げていた短剣を外して海に放り投げました。
続いて、懐に忍ばせていたマスケットの短銃も取り出して海へ投げ捨てたのです。
そして、それと同じ行動するものが五人ほど続きました。
なるほど、魔力乗せた力ある言葉は万能ではないようです。言葉を解さないものには効かないようですね。
先ほど実験といったのは、この魔法が私の使う言葉を理解できない者にも効くのかどうかを試したのです。
今まで、この魔法を使った相手は帝国語かセルベチア語を解する人達だけでした。
今まで私はこの二ヶ国を使い分けて魔法を使っていたのです。
先程は帝国語で魔力を込めた言葉を発しました、この中で六人は帝国語が解る人のようです。
逆に言うと帝国語を解さない人にはこの魔法は効果がないということのようです。
取り合ず、六人だけでも無力化しておきましょう。
『眠れ!』
私の言葉に船長をはじめとする先程武器を投げ捨てた六人が、糸が切れた操り人形のように力なく甲板に倒れました。
海賊たちも私の発した言葉に原因があると察したようで、近くにいた者達が私を拘束しようと動きました。
「シャインちゃん、お願い!」
「はい、お任せくださいませ。」
私が声を発すると同時に、傍らに現れた光の精霊シャインちゃんが眩い光を四方に発しました。
「「「「目が!目が!」」」」
周囲に悲鳴が上がりました。
不意に目が焼き付くような眩い光を目にした周囲の海賊たちが目を抑えて蹲ります。
まだ、これで終わりではないですよ。
「ブリーゼちゃん、お願いして良いかな?」
「まかせて~、おいたをする悪い子にはおしおきよ~!」
ブリーゼちゃんはノリノリでとっても楽しそうです。
しかし、そんなブリーゼちゃんのお気楽なな言葉とは裏腹にとんでもない突風が私を中心に吹き荒れました。
人が面白いように巻き上げられました。そして一人、また一人と海面に落下し水柱を立てます。
ここまでは、計画通りです。
船に戻ってから賊が貴賓室に押し掛けるまでの間に、シャインちゃん、ブリーゼちゃんと打ち合わせをしておいたのです。
むしろ、この手段が本命です。最初の魔力を込めた言葉は本当に、他言語を話す人に通じるかの、実験に過ぎなかったのです。
突風が収まると甲板に残された海賊は十人もいませんでした。
その全員が、船の縁や船室の入り口、果てはマストに打ち付けられて気を失っています。
幸い、打ちどころが悪くて亡くなった方はいないようでホッとしました。
悪党でも、殺してしまうと後味が悪いですからね。
「ノミーちゃん、ちょっといいかな?」
「はい、喜んで!」
私は元気良く現れた大地の精霊ノミーちゃんに、盗賊達が甲板に落とした短剣を細いひも状に伸ばしてもらいました。
金属加工が得意なノミーちゃんにはお手の物で、刃がついたまま次々に細いひも状のモノが出来上がります。
「で~きた!これ、どうするの?」
「申し訳ないのだけど、それで甲板に気絶している賊どもを拘束してもらえる?
簡単には解けないように、拘束して欲しいのだけど。」
私はノミーちゃんにお願いして、刃の付いたひも状の金属で気絶している賊たちを拘束してもらいます。
私がすると手を切っちゃいますもの。
「合点承知!おまかせあれ!」
ノミーちゃんの気風の良い言葉と共に、細長い金属のひもが蛇の様に動き気絶している賊に巻き付いていきます。
そして、金属のひもはあっという間に海賊たちを身動きが取れないように拘束しました。
ご丁寧に、刃は外側を向いています。誰かが迂闊に外そうとしたら手が血だらけになることでしょう。
「ロッテ~、見てきたよ~。船の中にもう海賊はいないよ~。」
用心のため、船内に海賊が残っていないか調べに行ってもらったブリーゼちゃんが戻ってきました。
どうやら、海賊は片付いたようです。
では、お宝を頂戴しに行きましょうか。
0
お気に入りに追加
325
あなたにおすすめの小説
【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?
アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。
泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。
16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。
マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。
あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に…
もう…我慢しなくても良いですよね?
この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。
前作の登場人物達も多数登場する予定です。
マーテルリアのイラストを変更致しました。
【完結】言いたいことがあるなら言ってみろ、と言われたので遠慮なく言ってみた
杜野秋人
ファンタジー
社交シーズン最後の大晩餐会と舞踏会。そのさなか、第三王子が突然、婚約者である伯爵家令嬢に婚約破棄を突き付けた。
なんでも、伯爵家令嬢が婚約者の地位を笠に着て、第三王子の寵愛する子爵家令嬢を虐めていたというのだ。
婚約者は否定するも、他にも次々と証言や証人が出てきて黙り込み俯いてしまう。
勝ち誇った王子は、最後にこう宣言した。
「そなたにも言い分はあろう。私は寛大だから弁明の機会をくれてやる。言いたいことがあるなら言ってみろ」
その一言が、自らの破滅を呼ぶことになるなど、この時彼はまだ気付いていなかった⸺!
◆例によって設定ナシの即興作品です。なので主人公の伯爵家令嬢以外に固有名詞はありません。頭カラッポにしてゆるっとお楽しみ下さい。
婚約破棄ものですが恋愛はありません。もちろん元サヤもナシです。
◆全6話、約15000字程度でサラッと読めます。1日1話ずつ更新。
◆この物語はアルファポリスのほか、小説家になろうでも公開します。
◆9/29、HOTランキング入り!お読み頂きありがとうございます!
10/1、HOTランキング最高6位、人気ランキング11位、ファンタジーランキング1位!24h.pt瞬間最大11万4000pt!いずれも自己ベスト!ありがとうございます!
【完結】6歳の王子は無自覚に兄を断罪する
土広真丘
ファンタジー
ノーザッツ王国の末の王子アーサーにはある悩みがあった。
異母兄のゴードン王子が婚約者にひどい対応をしているのだ。
その婚約者は、アーサーにも優しいマリーお姉様だった。
心を痛めながら、アーサーは「作文」を書く。
※全2話。R15は念のため。ふんわりした世界観です。
前半はひらがなばかりで、読みにくいかもしれません。
主人公の年齢的に恋愛ではないかなと思ってファンタジーにしました。
小説家になろうに投稿したものを加筆修正しました。
冷遇妻に家を売り払われていた男の裁判
七辻ゆゆ
ファンタジー
婚姻後すぐに妻を放置した男が二年ぶりに帰ると、家はなくなっていた。
「では開廷いたします」
家には10億の価値があったと主張し、妻に離縁と損害賠償を求める男。妻の口からは二年の事実が語られていく。
天使な息子にこの命捧げます
古里@3巻電子書籍化『王子に婚約破棄され
ファンタジー
HOTランキング第6位獲得作品
ジャンヌは愛する夫に急死されて、生まれて間もない息子と二人で残されてしまった。夫の死を悲しむ間もな無く、伯母達に日々虐められるが、腕の中の天使な息子のお陰でなんとか耐えられている。その上侯爵家を巡る跡継ぎ争いに巻き込まれてしまう。商人の後妻にされそうになったり、伯母たちの手にかかりそうになるジャンヌ。それをなんとか切り抜けて、0歳の息子を果たして侯爵家の跡継ぎに出来るのか?
見た目はおしとやかな淑女というか未亡人妻。でも実際は……
その顔を見た途端、顔を引きつらせる者もちらほらいて……
結果は読んでのお楽しみです。ぜひともお楽しみ下さい。
強制力がなくなった世界に残されたものは
りりん
ファンタジー
一人の令嬢が処刑によってこの世を去った
令嬢を虐げていた者達、処刑に狂喜乱舞した者達、そして最愛の娘であったはずの令嬢を冷たく切り捨てた家族達
世界の強制力が解けたその瞬間、その世界はどうなるのか
その世界を狂わせたものは
「あなたのことはもう忘れることにします。 探さないでください」〜 お飾りの妻だなんてまっぴらごめんです!
友坂 悠
恋愛
あなたのことはもう忘れることにします。
探さないでください。
そう置き手紙を残して妻セリーヌは姿を消した。
政略結婚で結ばれた公爵令嬢セリーヌと、公爵であるパトリック。
しかし婚姻の初夜で語られたのは「私は君を愛することができない」という夫パトリックの言葉。
それでも、いつかは穏やかな夫婦になれるとそう信じてきたのに。
よりにもよって妹マリアンネとの浮気現場を目撃してしまったセリーヌは。
泣き崩れ寝て転生前の記憶を夢に見た拍子に自分が生前日本人であったという意識が蘇り。
もう何もかも捨てて家出をする決意をするのです。
全てを捨てて家を出て、まったり自由に生きようと頑張るセリーヌ。
そんな彼女が新しい恋を見つけて幸せになるまでの物語。
晴れて国外追放にされたので魅了を解除してあげてから出て行きました [完]
ラララキヲ
ファンタジー
卒業式にて婚約者の王子に婚約破棄され義妹を殺そうとしたとして国外追放にされた公爵令嬢のリネットは一人残された国境にて微笑む。
「さようなら、私が産まれた国。
私を自由にしてくれたお礼に『魅了』が今後この国には効かないようにしてあげるね」
リネットが居なくなった国でリネットを追い出した者たちは国王の前に頭を垂れる──
◇婚約破棄の“後”の話です。
◇転生チート。
◇ふんわり世界観。ゆるふわ設定。
◇なろうにも上げてます。
◇人によっては最後「胸糞」らしいです。ごめんね;^^
◇なので感想欄閉じます(笑)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる