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第4章 アルムの冬

第56話 ある冬の日の精霊達

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*このところ毎日お昼に1話投稿しています。まだお読みでない方がいらっしゃればお手数ですが1話戻ってお読みください。

     **********

 年も改まり一月、外は雪が降り続いています。
 積雪は既に十フィートに近付き、一階の窓はすっかり雪に埋め尽くされて、昼でも部屋の中は真っ暗です。

 私はというと相変わらず、アリィシャちゃんに対する読み書き計算と魔法の指導を生活の中心として、余暇はもっぱら読書をして過ごしていました。

 そんな代わり映えのしない日々を過ごしていたら、光の精霊シャインちゃんが言ったのです。

「ロッテ、今年の冬はブリーゼの言う通り厳しい冬になりました。
 十二月から今日まで一日として太陽が出た日がありません。
 これでは、ロッテやアリィシャの健康に良くない影響を及ぼす恐れがあります。」

 シャインちゃんが教えてくれました。
 人は日光を浴びない日が続くと骨に良くない影響がでるそうなのです。
 特にアリィシャちゃんのような幼い子供が、長期間日光を浴びないと背骨が湾曲するなどの弊害が出るそうです。
 そして、こんな提案をしてくれたのです。

「今日から、冬明けまでの毎日、私が日光と同じ光をロッテたちに浴びさせて差し上げましょう。
 一日二時間も太陽光を浴びていれば、健康を害することはないでしょう。」

 その日から、アリィシャちゃんの魔法の練習が終った後の夕方二時間、日光浴の時間が日課になりました。


「ああ、気持ちが良い光、この部屋だけ春が来たみたいね。」

 リビングのソファーで寛ぎ、シャインちゃんが作り出す日の光を浴びているリーナが呟きます。
 最近、リーナはほぼ毎日夕方になると遊びに来ています。
 リーナの治めるシューネフルトの町も雪の閉ざされ、近隣の町や村との行き来が出来なくなったため、領主としての仕事も減っているそうです。

 せっかくですので、リーナの来る時間に合わせてシャインちゃんに日光浴をさせてもらうことにしました。

「うん、とっても暖かくて気持ちいいね。なんかこのままお昼寝しちゃいそう。」

 アリィシャちゃんも春の陽射しのような光を浴びて気持ち良さそうです。
 実際、私もうとうとして寝てしまいそうです。

「でも、全然知らなかったわ、日の光を長期間浴びないと骨に異常をきたすことがあるなんて。
 そうしたことを教えてくれると同時に、こうして対策を取ってくれるだなんて、シャインちゃんは本当に思いやりのある精霊なのですね。」

 リーナが私達のことを大切にしくれるシャインちゃんに感心しています。

「ええ、シャインちゃんが私達の健康を気遣って、こうして日光浴をさせてくれるのですからとても有り難いですね。」

 シャインちゃんに限らずうちの精霊達は本当に良い子ばかりで助かっています。

「この冬のこともブリーゼちゃんのおかげで助かりました。
 正直なところ領主館に勤める者でこの冬がこんなに厳冬になると予想したものはいませんでした。
 例年通りの備えでは凍死者や餓死者を出すこところだったと官吏が言っていました。」

 リーナが胸を撫で下ろしたように言いました。
 冬前のブリーゼちゃんの忠告が功を奏したようで何よりです。

「うちの精霊達は、みな思いやりのある良い子ばかりですよ。
 ほら、このイチゴもドリーちゃんが作ってくれました。
 塩漬け野菜や酢漬けのキャベツばかりでは健康によくないと言って。」

 私はテーブルに置かれたイチゴをリーナに勧めながら、ドリーちゃんの作であることを告げます。

「なんか呼んだ?」

 自分のことが話題に上ったことに気付いたドリーちゃんが姿を見せました。

「ドリーちゃんが私達の健康を気遣ってこのイチゴを作ってくれたってリーナに説明していたの。
 ドリーちゃん、いつも有難うね。」

「いいの、いいの、ロッテは大切な家族だもの。家族の健康を考えるのは当然だよ。
 それよりも、リーナ。いつもお菓子をもらっているお礼にリーナにお土産を持たせてあげる。」

 私達はドリーちゃんに先導されてキッチンに行きました。
 我が家の無駄に広いキッチンの隅っこに、ワイン樽を二つに切断して土を入れたプランターがいくつか置いてあります。
 これが、冬の間にドリーちゃんが野菜を作ってくれる畑になるのです。

「じゃあ、イチゴからいくね。
 私の可愛いイチゴちゃん、早く目を出し大きくなってくださいな!
 大きくなったら、白い花をつけましょう、そのまま赤くて甘い実をつけてちょうだいね!」

 ドリーちゃんはプランターにイチゴの種を蒔くと、毎度気の抜けるような掛け声をかけました。
 すると、プランター一面に芽生えたイチゴの苗はあっという間に大きく育ち、花をつけます。
 そして、一時間もする頃には、プランターには真っ赤なイチゴがたわわに実っていたのです。

「じゃあ、これ早く摘んじゃんて。次いくから。」

 私達はドリーちゃんにせかされて、イチゴの摘み取りをします。
 そこそこの大きさの籠いっぱいになったイチゴはどれも食べ頃で甘い香りを放っています。

「じゃあ、どんどんいくね!」

 結局、ドリーちゃんは、リーナのお土産にとキュウリとレタスを作ってくれました。
 普通ではこの時期には手に入らない生鮮野菜です。

「これどうしましょう?
 すごく嬉しいのだけど持って帰ると絶対に出所を聞かれるわよね。
 転移魔法のこととかドリーちゃんのこととかがばれちゃいそうなのですけど。」

「どうせ、領主館に住む全員の分はないのだから、へレーネさんに料理してもらって二人で食べたら良いのではないですか。
 食べきれないようであれば、私が預けているカーラやテレーゼさんを加えても良いですけど。
 あの四人は私の契約精霊のことを知っているので、ドリーちゃんが作ったと言ってしまって構わないです。
 それに、精霊がおすそ分けに持って来たと言えば納得するのではないですか。」

「そうね、精霊ちゃんなら雪など物ともせずに訪ねて来たと言っても納得してもらえそうね。
 それなら、転移魔法の件は秘密にしておけるわね。」

 私の言葉に納得しリーナがお土産を抱えて帰ろうとした時です。

「チョッと待ちなさい。それではアタシ達が何の役にも立っていないようではないですか。」

 真紅のドレスを纏ったサラちゃんが、ノミーちゃんとアクアちゃんを従えて出てきました。
 単に話題に上らなかっただけなのですが、みんな良い子と言っておきながら活躍が紹介されなかったのがサラちゃんのプライドを傷つけたようです。

「ごめんね、サラちゃん。
 サラちゃんのおかげで、朝起きるとちゃんと暖炉に火が点ってリビングやティールームが暖まっているのはわかっているのよ。
 毎日有難う、とても助かっているわ。」

「違います。それでは単なる火付け係ではないですか。
 全然アタシの偉大さが伝わりませんわ。」

 どうやら、引き合いに出した事例が悪かったようです。
 ただ、どちらかといえばサラちゃんは破壊が得意な方です。
 セルベチア共和国軍四万の兵を撃退したのはサラちゃん一人の活躍と言っても良いほどです。

 ですか、こと家のこととなると毎朝暖炉に火を点けているところしか思い浮かびません。

「いいですか、少し待っていなさい。
 アタシ達の凄いところを見せて差し上げますからね。」

 そう言って、サラちゃんはノミーちゃんとアクアちゃんを連れて何処かに行ってしまいました。


     **********


 そして、一時間後……。

「あ~、生き返る……。」

 リーナがうっとりとした声を上げます。
 わかります、こんな心地良い気分になるのは私も初めてです。

「すごい!こんなにいっぱいのお湯に入るなんて初めて!温かくて気持ちが良い!」

「ええ、本当ね。
 クラーシュバルツ王国や帝国には温泉と言って、お湯が湧き出している場所があると聞いたわ。
 そこでは、こうやってお湯に浸かって体を温めるそうよ。
 体の疲れを取る効果があると聞いたことがあるわ。」

「温泉というのは私も聞いたことはございますわ。
 王家も一つ、王都近郊に所有しているようです。
 妾腹で離宮からで出たことのなかった私は行ったことがありませんでした。
 こうして、雪が降りしきる中で熱めのお湯に浸かるのは風情があって良いですね。」

 館の裏口から出てすぐのところ、薪小屋の横にサラちゃん達が作ったのは露天の浴場でした。
 
「いかがですか、アタシ達の凄さがわかりましたか。
 ノミーが浴場を作り、アクアが張った水を、アタシが適温に沸かしたのですよ。
 褒めてくださって良いのですよ。」

 サラちゃんが薄い胸を反らして誇らしげに言いました。

「サラちゃん達、有り難う。
 このお湯、とても気持ちがいいわ。
 まるで天国にでもいるような気分よ。
 体の芯から温まって、日頃の疲れが吹き飛んでしまいそう。」

 リーナがみんなに感謝の気持ちを表します。
 ええ、こんなに気持ちの良い浴場を作ってくれたことには感謝です。
 ただ、胸を張るサラちゃんを見ていると、込み上げてくる笑いをこらえるのが大変です。

 サラちゃんの横でアクアちゃんも必死に笑いを堪えています。

 ええ、リーナは気付いていないようですが、実はアクアちゃんは温水を出すことが出来るのです。
 サラちゃんが火の熱で水から沸かす必要はなかったのです。
 それだけではありません。
 水の精霊アクアちゃんは、その気になれば地下の温泉の水脈をここに引いてこれるのです。
 クラーシュバルツ王国や帝国の各所にあるという効能のある本物の温泉を。

 三人が作ってくれた浴場のおかげで体が温まったし、疲れも取れました。
 ですから、三人にはとても感謝しています。
 もちろん、サラちゃんの機嫌を損ねるようなことは言いません。


     **********

 お読みいただき有り難うございます。

 *お願い
 9月1日から始まりましたアルファポリスの第13回ファンタジー小説大賞にこの作品をエントリーしています。
 応援してくださる方がいらっしゃいましたら、本作品に投票して頂けるととても嬉しいです。
 ぶしつけにこのようなお願いをして恐縮ですが、よろしくお願いします。
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